『無印良品の「あれ」は決して安くないのになぜ飛ぶように売れるのか?』というタイトルに思わす手にとってしまうのは、「無印良品」というブランドがなぜ成功しているのか、多くの人が関心をもっているからでしょう。
じつにうまいタイトルですね。
「無印良品」は、無印=ノーブランドゆえの「安さ」から出発したのにかかわらず、現在では「無印」そのものが強力な訴求力をもったブランドになっています。MUJI というブランドで国際展開されています。
ブランドとしてきわめてパワーがあるのは、常識に反してほぼ無限に「ブランド拡張」が可能だという説明が可能です。単なるブランドであることを超えて、ライフスタイルそのものを体現した存在になっているわけです。
なによりも重要なことは、ブランドの中核に確固としたコンセプトが存在すること。「無印良品」は、徹底的に「コンセプト」にこだわることがビジネス成功のカギになっているという実例です。
「が」と「で」の違いという、たった一文字に込められたコンセプトが、きわめて大きな違いを生み出しているわけです。この点については本文を読んで確認していただきたいと思います。
帯には「コンセプトが9割!」とありますが、あながち誇張とは言い切れないものがあるのです。
■コンセプトは事業やブランドのエッセンスをコトバで表現したものである
副題にもあるように、本書のテーマは「コンセプトのつくり方」にあります。いかにインパクトのあるコンセプトをつくりあげるか。
コンセプトとはなにかについての徹底的な考察を踏まえて、コンセプトのつくりかたの実践まで、一貫してコンセプトをつくる側の立場で書かれた本になっています。きわめて実践的な内容でありながら、確固とした思想をもった実用書といっていいかもしれません。
著者は、コンセプトは概念であるが、プリンシプル(原理原則)としての側面をもっているといってます。こう捉えると、コンセプトが事業やブランドの中核にあるものだということが理解できるでしょう。
著者もいっているように、日本人は思考の枠組みとして「型」をもっています。「型」は「ルール」といっていいかもしれませんが、「型」は便利な反面、思考が固定しがちで発展性がなくなり、ときには思考停止を招いてしまうこともないとは言い切れません。
それは、「型」を習得してそれを守るだけにとどまらず、その「型」を破って離れるべきだという「守破離」の三段階のプロセスを意識していない人が多いからでしょう。
コンセプトはある意味で「型」に似ていますが、あくまでもその本質がコトバであるという点が重要です。ぎりぎりまで文章を煮詰め、ムダを削ってそぎ落としたときにあらわれてくるコトバと表現、これがコンセプトです。
著者は、コンセプトは20文字以内であるべきだといってます。長すぎず短すぎず、論理的でありながら感性的でもあるのがコンセプトとして表現されたコトバ。コトバを中心に置く思考が、ときに大きな市場をつくりだし、収益をもたらすのです。
「第5章 最高のコンセプトのつくり方」の「ステップ7 要素を抽出して組み合わせる」では、「ポルシェ」篇、「アスクル」篇、「スターバックス」篇という事例が紹介され、文章を煮詰め、ムダをそぎ落とす手順が具体的に示されています。
わたしは、この第5章はぜひ、練習問題のつもりで読みながら取り組んでみることをお薦めします。
自分で考えながら、できれば自分で作業をやってると、帯に書かれた「ヒットの秘密はコンセプトが9割!」というのも誇張とは言い切れないことを実感できるのではないかと思います。
■コンセプトはつかう人次第でもある
著者は、コンセプトを7つ機能と性質に分解しています。「4つの働きと3つの性質」です。
「力を束ね」、「在り方を決め」、「行動を指示」し「価値を最大化する」という機能と、「本質がつながってい」るが「寿命があり」、「決断に左右される」という性質。
つまり、すぐれたコンセプトにはそれ自身の働きや性質をもちながら、それを活かすも殺すも、事業やブランドにかかわる人次第だということです。これが「Part.3 使う」に書かれています。
著者は、30年以上の経験をもつブランドコンサルタントです。したがって本書は、コンセプトをつくる立場の人によって書かれたものです。
読者の大半は、つくる側の人ではないでしょうが、コンセプトがどうつくられるのかわかれば、どう使ったらいいかも深く理解するこができると思います。もちろん、つくることが必要な人、つくってもらうことを依頼する立場にある人にとっては言うまでもありません。
ビジネス書というよりも、読んでいて新書本のような印象を受ける本です。内容的には初級者むけではなく、ビジネス中級以上向けといっていいでしょう。
単なるハウツーのビジネス書には飽き足らない人に薦めたい、中身の濃い一冊です。
PS. この書評は、R+(レビュープラス)さまより献本をいただいて執筆したものです。
目 次
プロローグ 無印良品はコンセプトがすごい
消しゴムとバターチキンと家
安さでは売らない無印良品
成功の最大の要因とは
Part1. 知る
第1章 なぜ私たち日本人はコンセプトを使いこなせないのか
世界を変えるのは言葉だ
コンセプトとは意図を集約した原理・原則
「コンセプト」ではなく「型」で物事を進める日本人
とらわれてしまうという「型」の欠点
コンセプトはある日、突然変わる
日本人がつい繰り返してしまうパターン
第2章 コンセプトと失ったものを取り戻す方法
資産の棚卸と決断について
よそ者、若者、バカ者のコンセプト
無印良品のたった一文字に込められたコンセプト
突き詰めたコンセプトが持つ力
プロデューサーの視点でコンセプトをつくる
取り戻したい「とりあえずやってみよう精神」
第3章 コンセプトをつくる前に知っておくべき7つのこと
コンセプトの4つの働きと3つの性質
第1の働き 「力を束ねる」
第2の働き 「在り方を決める」
第3の働き 「行動を指示する」
第4の働き 「価値を最大化する」
第1の性質 「本質のつながっている」
第2の性質 「寿命がある」
第3の性質 「決断に左右される」
Part2. つくる
第4章 現在地を把握して、資産の棚卸をする
コンセプトの「串ダンゴ型」設計図
【現在地】 大きな時代の流れを見る
【現在地】 必要な資料や情報の入手方法
【資産】 ライバルを鏡にして自社を見る
【資産】 強みと弱みは裏表の関係だ
【資産】 お客様は決めると姿を現す
【資産】 ペルソナをつくる
【資産】 顧客の調査は「私」から始める
コンセプトの土台になる資料をつくる
第5章 最高のコンセプトのつくり方
コンセプトは「発見するもの」
コンセプトはわかりやすく明解であること
コンセプトはできるだけ短く
コンセプトのためのヒント採集会議
ステップ1 自分に良い質問を投げかける
ステップ2 ポジショニング・マップをつくる
ステップ3 価値観マップをつくる
ステップ4 自己規定する
ステップ5 コンセプトの種類を決める
ステップ6 コンセプトのストーリーを描く
ステップ7 要素を抽出して組み合わせる
「ポルシェ」篇
「アスクル」篇
「スターバックス」篇
ステップ8 概念を操作することで新しい価値を導く
ステップ9 クリエイティブ・ジャンプを起こす
論理を積み重ねてジャンプする
Part3. 使う
第6章 コンセプトの使い方
コンセプトのプレゼンは1分で行え
コンセプトに基づく目標を設定する
コンセプトが伝わる仕組みをつくる
コンセプトを自分事化する
優先順位を決め、責任を明確にする
実行して結果を確認する
知られていないコンセプトのすごい効果
これからのコンセプトの話
あとがき
著者プロフィール
江上隆夫(えがみ・たかお)
ブランド・コンサルタント/クリエイティブ・ディレクター 有限会社ココカラ 代表取締役 デキル。株式会社 取締役 長崎県五島列島の大自然の中で伸び伸びと育つも、父親の事業失敗により愛知県へ転居する。大学卒業後、プロミュージシャンを目指したが挫折。しかし、それが幸いしてコピーライターに。その後20年近く大手広告代理店でコピーライター及びクリエイティブ・ディレクターとして、さまざまな業種の広告とブランド構築にかかわり、コンセプト力を磨く。2005年独立後はブランド・コンサルタント、クリエイティブ・ディレクターとして、数億から50億、100億単位の広告制作やブランド運営にかかわっている。最近では、誰もがイノベーションを起こせるようにするスキルの開発や、地方自治体イベント・自治体首長のマニュフェストづくりに参加するなど活動の幅を広げている。主な受賞歴に朝日広告賞、日経広告賞グランプリ・優秀賞、日経金融広告賞最高賞、日本雑誌広告賞、東京コピーライターズクラブ新人賞などがある。(出版社サイトより)。
<関連サイト>
「獺祭」の開発コンセプトで参考にした 無印良品というブランド構築の舞台裏 松井忠三 良品計画会長 × 桜井博志 旭酒造社長 対談【前編】 (ダイヤモンドオンライン 2014年3月24日)
ZERO か ONE か、それが問題だ!? -新年度に出発進行!
書評 『増補改訂版 なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか-ルールメーキング論入門-』(青木高夫、ディスカヴァー携書、2013)-ルールは「つくる側」に回るべし!
「プリンシプルは何と訳してよいか知らない。原則とでもいうのか」-白洲次郎の「プリンシプル」について
聖徳太子の「十七条憲法」-憲法記念日に日本最古の憲法についてふれてみよう!
『伝え方が9割』(佐々木圭一、ダイヤモンド社、2013)-コトバのチカラだけで人を動かすには
カラダで覚えるということ-「型」の習得は創造プロセスの第一フェーズである
(2012年7月3日発売の拙著です)
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