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2012年7月30日月曜日

書評 『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』(堀場 厚、講談社、2011)-堀場製作所の社長が語る「京都企業」の秘密


『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』というタイトルに、具体的な経営手法についての答えを期待する人も少なくないでしょう。

だがこの本は、あえてそういった「目に見える」手法については語っていません。

なぜ京都に生まれたハイテク企業には高業績企業が多いのか? 著者は、その理由を、「目に見えない資産」に注目することを強調しています。

「見えない資産」とは、経営用語でいえば「見える資産」の反対語ですが、バランスシート(=貸借対照表)には出てこない資産という狭い意味を指しているのではありません。

「見えない資産」の代表といえばブランドが思い浮かびますが、ブランドは顧客のアタマのなかに作りあげられた信頼や信用が集積したもの。それをつくりだすのは、会社にかかわる一人一人の従業員であり、広い意味でステークホールダーとなるわけです。

「京都企業」のエッセンスを徹底的に取り込んだ堀場製作所もまた、その代表的な一つといっていいでしょう。

「京都企業」といっても、京セラ、任天堂、ワコールのような一般消費財を扱った会社は比較的知られていますが、島津製作所、オムロン、村田製作所、ローム、日本電産といった B2B(=法人向けビジネス)に特化したハイテク企業がグローバルな存在感を示していることは意外と知られていないかもしれません。

京都という土地に根ざした企業が、グローバルという環境のなかでも大いに存在感をしめしているのはなぜでしょうか?

本書の著者は、堀場製作所の二代目経営者ですが、計測器の分野では同じく京都にある島津製作所と並んで高業績の研究開発型ハイテク企業です。しかも、同じ計測器分野であっても、両者の製品はバッティングしていません。ここが重要なポイントです。

本書では何度も繰り返し強調されていますが、京都という狭い土地には、伝統工芸から時代の最先端をいくハイテク企業まで、所狭しと集中しています。

そういう狭い地域で共存共栄していくためには、お互いの領域を侵犯することなく、自らの強みに特化して、市場は海外もふくめた京都以外に求めざるを得ないからなのです。

経営学者なら産業集積を意味する「クラスター論」で説明するでしょうが、現役の経営者で、生まれながらの京都人の著者は、みずからの豊富な体験も織り交ぜた、きわめて具体的なものです。

とかく、目先の利益や成功に芽を取られがちな現代日本人ですが、千年の古都で生き抜いてきた「京都企業」に学ぶべきものはひじょうに多いと思います。

変えてはいけない理念はかたくなに守りつつ、変えるべき側面は大胆に変えてきたことによって生き延びてきた京都の老舗や、熾烈な競争環境のなかを生き抜いてきた京都企業。

本書は、その一例として読んでみるとよいでしょう。





目 次

はじめに 世界大不況のなか京都企業の業績がV字回復した理由
序章 バブル崩壊で京都の企業は
第1章 不況時こそ京都式経営
第2章 見えない資産の価値
第3章 「人財」の育て方
第4章 京都式バランス経営の秘密
第5章 京都式がまだまだ飛躍する理由
あとがき 東日本大震災を経て日本人の声望が高まった理由


著者プロフィール

堀場 厚(ほりば・あつし)
1948年、京都府に生まれる。堀場製作所社長。1971年、甲南大学理学部応用物理学科卒業。1975年、アメリカ・カリフォルニア大学工学部電気工学科卒業。1977年、カリフォルニア大学大学院工学部電子工学科修了。1972年、堀場製作所に入社。専務などを経て、1992年、代表取締役社長。フランス発のブランドをグローバルに展開してきた実績や、日仏両国の技術・人財を融合させる経営、試薬生産拠点の拡張による雇用創出などが評価され、フランス政府より、1998年に「国家功労章」を、2010年に「レジオン・ドヌール勲章」を受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

<書評への付記>

わたしがもっとも好きな経営理念は、堀場製作所の「おもしろ、おかしく」です。
英語では、Joy & Fun となっているそうですが、この経営理念は海外企業からも高く評価されているそうですね。

この件については、ぜひ著者の父で創業者でもある堀場雅夫氏の『イヤならやめろ!-社員と会社の新しい関係-』(日本経済新聞社、1995)を読んでいただきたいと思います。わたしの愛読書dす。

「京都企業」をモデル化した経営書のは、『京様式経営 モジュール化戦略-「ネットワーク外部性」活用の革新モデル-』(末松千尋、日本経済新聞社、2002)があります。ご関心のある方は、ぜひ読んでいただきたいと思います。


<ブログ内関連記事>

書評 『梅棹忠夫 語る』(小山修三 聞き手、日経プレミアシリーズ、2010)-本質論をズバリ語った「梅棹忠夫による梅棹忠夫入門」
・・京都が生み出した「知的巨人」と京都の知的風土について

アムンセンが南極に到達してから100年-西堀榮三郎博士が説くアムンセンとスコットの運命を分けたチームワークとリーダーシップの違い
・・京都人・西堀栄三郎のプラグマティズム

書評 『知的生産な生き方-京大・鎌田流 ロールモデルを求めて-』(鎌田浩毅、東洋経済新報社、2009)

書評 『「できません」と云うな-オムロン創業者 立石一真-』(湯谷昇羊、新潮文庫、2011 単行本初版 2008)-技術によって社会を変革するといういうことはどういうことか?
・・熊本出身者が京都で起業した世界企業オムロン

『週刊ダイヤモンド』の「特集 稲盛経営解剖」(2013年6月22日号)-これは要保存版の濃い内容の特集
・・鹿児島出身者が京都で起業した世界企業京セラ

神田・神保町の古書店街もまた日本が世界に誇る「クラスター」(集積地帯)である!





(2012年7月3日発売の拙著です)






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