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2011年5月14日土曜日

書評 『ユニクロ帝国の光と影』(横田増生、文藝春秋社、2011)-ユニクロのビジネスモデルを物流という観点から見たビジネス・ノンフィクション


ユニクロのビジネスモデルを物流という観点から見たビジネス・ノンフィクション

 このようなタイトルと内容の本は「ビジネス書」としてレビューされることはあまりないだろう。

 だが、本書はすぐれた「ビジネス・ノンフィクション」である。読んで損はないというよりも、ビジンスパーソンであれば読む価値のある本だといってよい。

 なぜなら、ビジネスパーソンにとっては関心の深いポイントが網羅されているからだ。オーナー企業の本質、ドライな経営と持たざる経営の意味、サプライチェーンからみた経営、スペインのZARAと比較して知るユニクロのビジネスモデルの違いなど、強みと弱みの両面を知ることで、読んでいてアタマの整理になる内容である。

 物流業界紙の記者という経験をもっている著者の視点は、オモテからは見えないが、きわめて重要な存在である物流(ロジスティックス)を熟知していることからくる強みがある。

 著者の名を高めたビジネス・ノンフィクション『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(2005年)では、著者は現場で半年間働くという体験取材をしてアマゾンのロジスティックスの現場の意味を明らかにしている。

 だが、本書ではユニクロの店頭やバックヤードで働くという体験取材を行っていないのが、ちょっと残念な感じもしないではない。もっとも、ユニクロの場合は、アマゾンのようなネットショップというよりも実店舗が中心なので、実際に店舗にいって観察していれば、読者もある程度までは推測することはできるということだろう。

 そのかわりというわけではないだろうが、著者はユニクロの「SPA(製造小売)というビジネスモデル」において重要な意味をもつ中国工場への独自取材を敢行している。

 中国にかんしては、『中国貧困絶望工場』(2008年)の著者アレクサンドラ・ハーニーのコメントも入っているが、中国での委託製造モデルに限界が見えていることは、ユニクロ自身もとうに気がついているはずである。いまの中国の現実は、アレクサンドラ・ハーニーの本が出版された当時よりも、さらに先をいっているからだ。

 著者の取材にはユニクロ会長の柳井正氏自身も応じており、包み隠さず語っている質疑応答の内容は第8章に詳述されており実に興味深い。

 本書全体を読んで、著者の解釈に賛成するか、あるいは違和感を感じるか、ここから先は読者の判断次第である。

 質の高いビジネス・ノンフィクションとして、ぜひ読むことを薦めたい。


<初出情報>

■bk1書評「ユニクロのビジネスモデルを物流という観点から見たビジネス・ノンフィクション」投稿掲載(2011年5月1日)



目 次

序章 独自調査によってメスをいれる
第1章 鉄の統率
第2章 服を作るところから売るところまで
第3章 社長更迭劇の舞台裏
第4章 父親の桎梏
第5章 ユニクロで働くということ 国内篇
第6章 ユニクロで働くということ 中国篇
第7章 ZARAという別解
第8章 柳井正に聞く
終章 柳井を辞めさせられるのは柳井だけだ
主要参考文献
年表

*文庫化に際して 「東京地裁は“真実”と」が加えられた (2013年12月5日 記す)



著者プロフィール

横田増生(よこた・ますお)

1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め経済の水脈とも言える物流から企業を調査・評価するという技術と視点を身につけた。1999年10月にフリーランスに。2005年に発表した『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』ではアマゾンの物流センターで半年間実際に働き、ウェブ時代における労働の疎外を活写して話題になった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。





<関連サイト>

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)
・・姉妹編の「アタマの引き出し」は生きるチカラだ!に掲載


<ブログ内関連記事>

書評 『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(大宮冬洋、ぱる出版、2013)-小売業は店舗にすべてが集約されているからこそ・・・

ドラッカーは時代遅れ?-物事はときには斜めから見ることも必要

書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)





(2012年7月3日発売の拙著です)









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