マネージャーという名称の有無にはかかわらず、ポジションとして部下のうえに立つ人は、部下を適切にコントロールすることによって成果をあげることが求められます。もちろん、組織人ではなくてもプロジェクトチームの長であれば同じことです。
帯には、「放任か、スパルタ、どちらが正解・・・・?」と書かれていますが、もちろんこれはレトリカル・クエスチョンですね。答えはそのどちらでもありません。もうそろそろ、こういう設問じたいするのは止めましょう。
『MBA流 チームが勝手に結果を出す仕組み-リーダーはたった3つの武器があればいい-』(若林計志、PHPビジネス新書、2013)は、その意味では、マネジメントの世界ではあたらしい考えにもとづいた、プロフェッショナル・マネージャーのための「人を動かす方法論」といえるでしょう。
著者は、オンラインMBAプログラムの総責任者とつとめた人ですが、「マネジメント・コントロール」という授業がもっとも人気のある講座であったと本書のなかで語っています。マネジメント・コントロールというのは、わたしがアメリカのビジネススクールで学んだ1990年前後にはまだなかった概念です。それだけ、あたらしくて効果のある内容なのでしょう。
マネジメントとコントロール、そしてシステムという、いっけん似たような、でもまったく異なる意味をもつコトバが連なったマネジメント・コントロール・システム(MCS)ですが、大きくわけて以下の3つの構成要素から成り立っています。
① 行動コントロール(Action Control)
② 結果コントロール(Result Control)
③ 環境コントロール(Personnel & Cultural Control)
誰がやっても同じ結果が出せるような「行動コントロール」、これはマニュアルによる管理などが該当します。教え込む必要があるものです。最低限の仕事に手順やルールは教え込んでできるよになってもらわないといけません。
目標となる成果や結果を設定し、やり方は個人個人にまかせるのが「結果コントロール」。これはある程度まで自分をコントロールできるレベルの人に適用さfれるものですね。
しかし、そのいずれにおいても大事なのが「環境コントロール」。日本語では「環境」となっていますが、英語では分解して Personnel(人にかんするもの)と Cultural(文化)にかんするもの、つまりは組織風土や、経営理念、責任権限など経営そのものにかかわる各種ルールによるコントロールのことをさしています。
マネージャーは、まずは「行動コントロール」型の指導によって部下にやり方を教え込み、自信をつけさせることが大事ですね。結果でコントロールするのはその次の段階と考えなくてはいけません。
戦略は策定しただけでは絵に描いた餅で終わってしまうことが多いもの。戦略は実行されてこそ成果につながります。そして、その担い手はマネージャーですね。
だからこそ、マネージャーが組織の中核として部下を適切にコントロールすることが求められるわけですし、そのための方法論がきわめてスッキリした形になっていると、自分で理解してツールとして使いこなすことも容易になるわけです。
本書は構成じたいがきわめてロジカルに設計されていますので、そのままアタマから読んでいってもいいですし、ある程度まで経験をつんだマネージャーであれば、第1章と第2章を読んだうえで、第6章で3つのコントロールの組み合わせ方を押さえ、必要ならそれぞれのコントロール方法についての詳細を読むという読み方もいいかもしれません。もちろん実践編も忘れずに。
いまの時代の日本企業のマネージャーが置かれている状況を熟知したうえで書かれた実用書ですので、多くの人に参考になる良書といってよいでしょう。
できればマネジャーやマネージャー候補の人はもちろん、マネージャーをつかう立場にある経営者が読めば、マネージャー指導のうえで得るものの多い本だと思います。
P.S. この書評は、R+(レビュープラス)さまより献本をいただいて執筆したものです。
目 次
はじめに
第1部 人を動かす3つの力
第1章 自由かスパルタか 永遠のテーマに終止符を打つ
第2章 なぜ今、マネジメントコントロールが必要か
第3章 行動コントロール
第4章 結果コントロール
第5章 環境コントロール
第6章 プロフェッショナルマネージャーの仕事
第2部 実践編
第7章 成功企業に学ぶマネジメントコントロール
おわりに 自分自身をコントロールする
著者プロフィール
若林計志(わかばやし・かずし)
米・オルブライト大学卒。政策シンクタンク(ワシントンDC)のインターンを経て、日本紛争予防センターで国際地域紛争にかかわる。その後、株式会社ビジネス・ブレークスルーで、海外オンラインMBAプログラム(豪ボンド大学大学院とのパートナープログラム/Bond‐BBT MBA)の設立、大前研一教授の「経営戦略」のティーチングアシスタントなどを担当。2001年から10年以上に渡り、同MBAプログラムの総責任者を務めた後、株式会社フローワンを設立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
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『モチベーション3.0』(ダニエル・ピンク、大前研一訳、講談社、2010) は、「やる気=ドライブ」に着目した、「内発的動機付け」に基づく、21世紀の先進国型モチベーションのあり方を探求する本
(2012年7月3日発売の拙著です)
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