「ナンバー1」を目指すのはすばらしいことです。どんな小さな分野でも一番になれば自信がつきますし、極めれば第一人者としてリスペクトされるようになります。
ここでいう「ナンバー2」とは、その意味ではありません。二番手に甘んじろといっているわけではけっしてありません。
トップがいればそのつぎのポジションにつく者がいる。それを営利であれ、非営利であれ、「組織の「ナンバー2」といいます。参謀や補佐役、右腕とよばれることもあります。
戦国時代の軍師や政治の世界はさておき、経営の世界でいえば、なんといってもホンダの藤沢武夫氏(故人)が最高の「ナンバー2」といっていいでしょう。むかしから尊敬してやまない人です。
ホンダの創業経営者の一人ですが、本田宗一郎という天才エンジニアにほれ込み、その能力を完全に「引き出し」てあげたいという思いから、あえて「ナンバー2」のポジションを25年間まっとうしたすばらしい経営者。
聞き書きを一冊にした 『経営に終わりはない』(文春文庫、1998 初版 1986) は、ぜったいに読むべきビジネス書として筆頭にあげたいもの。
その以前に出版された 『松明(たいまつ)は自分で持て』(PHP、2009 初版 1974)と内容はかなりかぶりますが、どちらか一冊はかならず読んでおきたいものです。
とくに創業期においては、「ナンバー1」は突出した能力やとんがったものがあれば、多少の欠点はあってもかまわないのですが、かならず優秀な「ナンバー2」をもっていることが必要です。そういう存在がいれば、なんども訪れる難局はかならず乗り切れるものです。
藤沢武夫氏は、技術以外の財務や販売など経営にかかわることはすべて引き受けて、「ナンバー2」に徹し切った経営者です。本人も述懐しているように、経営者としては本田宗一郎よりもうえであったのにかかわらず、あえて「ナンバー2」に徹したところがすごいのです。抑制力、あるいは自己コントロールのできる人だったのでしょう。
わたし自身も「ナンバー2」を約7年間やりました。野球でいえばピッチャーではなくキャッチャーのポジションに近いかもしれないなと思いました。華やかではないものの、きわめて重要なポジションです。そういえば、野村克也監督もキャッチャーでしたね。
多くの日本企業で、意識的に「ナンバー2」のポジションをつくってほしいいものだとつよく思います。
とはいっても、人間には相性というものがありますので、なかなかにしてむずかしいものがありますが。わたしも、うまくいっていない例はさんざん見てきました。
wikipedia には以下のようなエピソードがありますので紹介しておきましょう。
舞台や音楽鑑賞を趣味とした藤沢に対し、本田はゴルフなどの行動的な趣味を持っていた事から、不仲説が浮上したことがあった。しかし当人たちは、互いが当時住んでいた地名の「下落合」(本田)、「六本木」(藤沢)と呼びあうなど良好な関係だった。「いつも手をつないで一緒にいるのを仲良しとは呼ばない。私達は離れていても、今この瞬間、相手が何を考え、どうするかが、手に取るように分かる。」とも語っている。
「いつも手をつないで一緒にいるのを仲良しとは呼ばない・・」。耳を傾けるべきではないでしょうか。
藤沢武夫氏自身は、創業から最初の2年間ほどは徹底的に話こんでいたが、そのあとはほとんど一緒にいることはなくても問題なかったと語っています。徹底的に権限移譲を進め、経営上の大きな問題が起こったときには経営者が全面にでるわけです。
まずはぜひ『経営に終わりはない』 か 『松明(たいまつ)は自分で持て』 のいずれか一冊には目を通していただきたいと思う次第です。
『経営に終わりはない』 目 次
1 生命をあずかる仕事
2 思いがけぬ危機
3 本業以外に手を出すな
4 万物流転の法則
5 経営者の心構え
6 模索と学習の日々
7 たいまつは自分で持て
8 海のむこうへ
9 頭の切り替え
10 本田かぶれ
『松明(たいまつ)は自分で持て』 目 次
第1章 本田宗一郎との出会い
第2章 スーパーカブ誕生そして世界へ
第3章 学んだこと、思うこと
藤沢 武夫(ふじさわ・たけお)
1910年~1988年。実業家。東京市出身(本籍は父の出身地である茨城県結城市)。本田宗一郎と共に本田技研工業(ホンダ)を世界的な大企業に育て上げた。wikipeia情報による。
<関連サイト>
本田宗一郎氏、"野人哲学" を大いに語る "社長交代" もたついてはみっともねェ (日経ビジネス編集部、2014年9月3日)
・・1973年9月3日号の記事の再録
<ブログ内関連記事>
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・・ホンダ第三代目社長経験者による技術開発を中心とした「創発」メカニズムの解明
(2014年8月21日、11月3日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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