物流を専門分野にするジャーナリスト横田増生氏の新作『仁義なき宅配-ヤマト vs 佐川 vs 日本郵便 vs アマゾン-』(小学館、2015)を読んだ。
この本はじつに面白い。物流(=ロジスティクス)ほどリアルビジネスにとって重要な機能であるのにかかわらず、当事者を除けば一般的な関心が低く、そのためあまり書かれることのない分野はほかにないからだ。
これまで著者が発表してきた『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』や『ユニクロ帝国の光と影』は、物流そのものではなく、ビジネスモデルのなかに物流を組み込んでいる企業であった。だが、最新刊の『仁義なき宅配』においては副題にあるとおり、業界二強のヤマトと佐川急便、そして復活してきた日本郵便に焦点をあてて深堀りしている。
この本を読むと、アマゾンを代表とする「送料無料」モデルの業者が求める過酷な競争条件が運賃低下をもたらし、そのしわ寄せが現場に集中していることが手に取るようにわかる。運賃の低価格化は、現場労働者の賃金低下をもたらすのである。宅配便のドライバーや、配送センターの仕分け作業員の現場が疲弊する理由はここにある。
このままでは「宅配便」という社会インフラが持続可能でなくなるばかりか、「送料無料」を前提にしたビジネスモデルが見直しを図られることが間違いない。
この本に書かれている実態を知れば、誰もがそう思うのではないか? 著者自身、ヤマトの「羽田クロノゲート」にアルバイトとして1ヶ月間夜勤で働いている。企業礼賛を目的とした提灯本とはまったく異なる結論が、この潜入取材から導き出されている。
ビジネスパーソンだけでなく、宅配便を利用する側の消費者にとっても、読むに値する内容であるといってよいだろう。
目 次
まえがき
第1章 迫り来る "宅配ビッグバン"
第2章 佐川「下請けドライバー」同乗ルポ
第3章 「風雲児」佐川が成り上がるまで
第4章 ヤマトはいかにして「覇者」となったか
第5章 日本郵便「逆転の独り勝ち」の真相
第6章 宅配ドライバーの過労ブルース
第7章 ヤマト「羽田クロノゲート」潜入記
終章 宅配に "送料無料" はあり得ない
あとがき
著者プロフィール
横田増生(よこた・ますお)
1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め経済の水脈とも言える物流から企業を調査・評価するという技術と視点を身につけた。1999年10月にフリーランスに。2005年に発表した『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』ではアマゾンの物流センターで半年間実際に働き、ウェブ時代における労働の疎外を活写して話題になった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
著者は語る(週刊文春) 物流業界の光と影 『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵便vsアマゾン』 (横田増生 著)
書評 『ユニクロ帝国の光と影』(横田増生、文藝春秋社、2011)-ユニクロのビジネスモデルを物流という観点から見たビジネス・ノンフィクション
書評 『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(大宮冬洋、ぱる出版、2013)-小売業は店舗にすべてが集約されているからこそ・・・
『JAL崩壊-ある客室乗務員の告白-』(日本航空・グループ2010、文春新書、2010) は、「失敗学」の観点から「反面教師」として読むべき内容の本
(2012年7月3日発売の拙著です)
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