10年後の予測など完全には当たるものではないが、方向性としてはその通りだろう。そんな感想を抱かせてくれる内容の好著。
一言で要約すれば、「人にかかわる仕事で技能集約、あるいは知識集約型の仕事が今後も生き残る」といってよいでしょう。コンピュータという「機械(マシン)との競争」を回避することができる分野で、かつ日本語を母語とする日本人が日本で生き残ることのできる領域は、結局はそこにしかないと思われます。
先日のことですが、海外留学経験もある有識者と会話をしていたとき、「これからはグローバル対応しないと日本人は生き残れないのに、最近の男の子ときたら外国に行こうとしない・・・」という、愚痴ともつかぬ問いかけがありました。
それに対してわたしが答えたのは、「2040年になっても日本の人口はまだ1億人を越えているのですよ。そのときでも、おそらく日本人の7割は英語を日常言語にすることなどないでしょう。植民地にでもならないかぎり、その状況は100年たっても変わらないと思いますよ(笑)」。
つまりグローバル経済がいかに進展しようと、日本市場はあくまでもローカル市場としての性格は変化しないということです。日本に暮らす日本人の大半は今後も英語ではなく日本語で日々の生活を送るであろうということ。
これは日系企業の海外進出を考えてみればわかることです。
日系企業は現地では「外資系」(!)ですが、ローカル従業員はローカル言語をしゃべる人たち。日本語を使用言語にするというのはコスト的にみて現実的ではありません。
これを逆に日本にあてはめてみれば、たとえ資本が外資系になろうとも、ローカル日本人(!)の言語は日本語です。日本市場でビジネスをやろうと思えば日本語の運用能力のレベルが高くないと相手にしてもらえない、というわけですね。
そんな会話をしたあと、近所の本屋で目に飛び込んできたのが平積みにされていたこの本。 『10年後に食える仕事 食えない仕事』(渡邉正裕、東洋経済新報社、2012)。わたしが回答したことを、より詳細なレベルで語った本でした。
もちろん、10年後の予測など完全には当たるものではありませんが、人にかかわる仕事で技能集約、あるいは知識集約型の仕事が今後も生き残るわけです。
(『10年後に食える仕事 食えない仕事』に所収のマトリックス)
たとえば営業でも、いわゆるソルジャー型営業は日本人である必要はないが、コンサルティングセールスなど高度な日本語能力が必要とされる仕事は生き残る。お客さんは日本語でコミュニケーションをとるローカルの日本人ですから。
ですから、「恐れるに足らず、しかし準備を怠ることなく」というマインドが必要ですね。
いわゆるアベノミクスによって円安基調となっていますが、今後も円安が定着するようであれば、外資に買収される日本企業もも増えてくると思います。
その場合でも、買収する側はあくまでも「資本の論理」に基づいていますから、想定している収益があがればそれ以外のことにまで介入してくることはないでしょう。外資といえども社員全員に英語をしゃべろなどとアホな要求をすることはあり得ません。
ただし、その場合でも、マネージャーは英語でレポーティングする必要がでてくるので、英語能力がないと社内では生き残れない可能性はでてくるでしょうね。
ですから、著者のいう「グローカル」というカテゴリーが今後は目指すべきフィールドとなるわけです。日本人としての強みを正確に把握したうえで、それなりの英語能力があれば生き抜いていくことはできるということになります。
出版されて1年以上たってますが、6章の政策提言の内容ははさておき、方向性はそのとおりだと思います。まだ読んでない人は、突っ込み入れながら読んでみるといいでしょう。
目 次
はじめに-正しい航海図を持とう
1章:いま、何が起きつつあるのか
新卒採用のグローバル化
サービス業の海外移転
事業再編にともなう中高年クビ切り
2章:「日本人メリット」で食える仕事の条件
独自カルチャー依存
チームワーク&サービス
チームワーク力
サービス力
信用&コミュニケーション
ハイレベルな日本語
国による参入規制
ヒトの流入規制
3章:各エリアの職業とその特徴
「重力の世界」-重力のように収斂されるエリア
「無国籍ジャングル」-世界中の人がライバル
「ジャパンプレミアム」-日本人らしさで生き抜く
「グローカル」-日本市場のプロとして
4章:判定チャート-10年後、あなたの仕事はどうなるのか?
【Q1】公務員・議員だ(国による決定的な参入規制がある)
【Q2】日本語ネイティブでないと成果が出ない職業だ
【Q3】日本の伝統的なカルチャーを扱う職業だ
【Q4】日本独自の商慣習、雇用慣行がカギを握る職業だ
【Q5】日本的なチームワーク、サービス精神が強みとなる職業だ
【Q6】高度な技術の組織的蓄積がある
【Q7】同じ日本人としての信用と相互理解が決定的に不可欠な職業だ
【Q8】職務遂行に高度な知識や資格が必要だ
【Q9】知識集約的で生来の才能と無限に挑戦する努力が不可欠な職業
【Q10】IT技術により世界中どこでも場所を選ばずできる職業になった
【Q11】一次・二次産業で高い技術力は必要なく時間の制約もない職業だ
5章:10年後の生き残りかた
エンジニア系
セールス系
バックオフィス系
6章:10年後の「日本人の雇用」
(1) 「無国籍ジャングル人材」の優遇
(2) 経済的規制の撤廃
(3) “負の雇用貢献税”で雇用を国内化する
(4) 単純労働者はギリギリまで受け入れない
(5) 「負の所得税」による再配分
(6) 政治のリーダーシップで雇用を守る
おわりに-「頼れるのは自分だけ」の社会で
著者プロフィール
渡邉正裕(わたなべ・まさひろ)
1972年東京生まれ。独立系ニュースサイト MyNewsJapan のオーナー兼編集長、自らもジャーナリストとして雇用・労働問題を中心に『企業ミシュラン』シリーズの執筆を続ける。慶應義塾大学(SFC)卒、日本経済新聞記者、日本IBMのコンサルタントを経て、ジャーナリズムに特化したインターネット新聞社を創業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
株式会社MyNewsJapan 代表取締役 渡邉正裕さん(インタビュー記事)
日本でも、中間層の仕事がなくなる? 『ワーク・シフト』著者、リンダ・グラットン氏に聞く 渡邉 正裕 :My News Japan編集長
エリート以外の99%はコミュニティが仕事場藤原和博(その1)
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書評 『日本企業が欲しがる「グローバル人材」の必須スキル』(内永ゆか子、朝日新聞出版社、2011)-あくまでも「個」をベースに考えるとことが英語よりも大事
書評 『採用基準-地頭より論理的思考力より大切なもの-』(伊賀泰代、ダイヤモンド社、2012)-日本人に必要なものはリーダーシップの実践能力だ
(2012年7月3日発売の拙著です)
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