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2017年10月21日土曜日

書評 『ソニー歴代トップのスピーチライターが教える 人を動かすスピーチの法則』(佐々木繁範、日経BP社、2017)-スピーチはテクニックだけじゃない!


友人の佐々木繁範さんから、3冊目となる新著をいただきました。タイトルは『ソニー歴代トップのスピーチライターが教える 人を動かすスピーチの法則』(日経BP社)

タイトルにもあるように、佐々木さんはソニーで創業経営者の盛田昭夫会長と出井伸之社長(ともに当時)のスピーチライターをつとめた人。経営トップのスピーチ原稿づくりを担当していただけでなく、ソニーに転職する前は興銀の金融マンだったという異色の経歴の持ち主。本書でも、ご自身の失敗談を含めたエピソードが随所で「自己開示」されてます。

株式会社ロジック・アンド・エモーションというユニークな社名の代表ですが、「人を動かすスピーチ」はロジック(論理、ロゴス)だけでなく、むしろエモーション(感情、パトス)の要素が大事だという主張を体現したものといっていいでしょう。

それに加えて、「信頼」(エートス)と「非言語」(ノンバーバル・コミュニケーション)の重要性が説かれています。本書の分量からいっても、ロジックにかんする説明が1/4で、残りの感情などの要素の説明が3/4を占めていることからも、それがわかります。

結局のところ、人の心をつかみ人を動かすのは、プレゼンも含めて、小手先のテクニックではなくスピーチする人の人間性そのものなんだなあ、とあらためて気づかせてくれます。

仕事は一人でできるものではありません。人を動かしてこそ、ですね。そのために必要なことが盛り込まれた良書です。ぜひみなさんにもお薦めします!





目 次

序章 人を動かすスピーチの秘訣
第1章 メッセージを明確にする
第2章 主張には理由を添える
第3章 構造をシンプルにする
第4章 ストーリーを織り込む
第5章 心情と情景をありありと語る
第6章 自己開示する
第7章 相手に共感する
第8章 相手のために尽くす
第9章 本心を語る
第10章 言ったことは実行する
第11章 身体のメッセージを意識する
第12章 心をポジティブな感情で満たす


著者プロフィール
佐々木繁範(ささき・しげのり)株式会社ロジックアンドエモーション代表取締役。CEOスピーチコンサルタント/エグゼクティブコーチ。1963年福岡県北九州市生まれ。同志社大学経済学部卒業後、日本興業銀行に入行。90年にソニー株式会社に入社。盛田昭夫会長の財界活動をサポートした後、ハーバード・ケネディスクールに留学し、公共経営学修士号を取得。97年に帰国し、出井伸之社長の戦略スタッフ兼スピーチライターを務める。事業部門事業戦略部長、グローバル戦略部長を経験した後、事業会社にて現場変革リーダーを務め、2009年に独立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<ブログ内関連記事>

書評 『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書-感動をつくる7つのプロセス-』(佐々木繁範、ダイヤモンド社、2012)-よいスピーチは事前の準備がカギ!
・・著者の処女作

『伝え方が9割』(佐々木圭一、ダイヤモンド社、2013)-コトバのチカラだけで人を動かすには

書評 『小泉進次郎の話す力』(佐藤綾子、幻冬舎、2010)-トップに立つ人、人前でしゃべる必要のある人は必読。聞く人をその気にさせる技術とは?

どんな話であれ「自分」を全面的に出したほうが、人はその話に耳を傾けるものだ ・・SUCCESS の法則というプレゼンの基本について。話の中身は自分を全面的に出す。これに話すテクニックが加われば、鬼に金棒だろう。私も日々精進の毎日である。

「人生に成功したければ、言葉を勉強したまえ」 (片岡義男)

書評 『言葉でたたかう技術-日本的美質と雄弁力-』(加藤恭子、文藝春秋社、2010)-自らの豊富な滞米体験をもとに説くアリストテレス流「雄弁術」のすすめ
・・「言論による説得には三つの種類がある。第一は語り手の性格に依存し、第二は聞き手の心をうごかすことに、第三は証明または証明らしくみせる言論そのものに依存する」(アリストテレス、池田美恵訳)




(2017年5月18日発売の新著です)


(2012年7月3日発売の拙著です)






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2012年5月10日木曜日

書評 『40歳からの記憶術-想起力で差をつける-(ディスカヴァー携書)』(和田秀樹、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2012)-アウトプット重視のインプットを!


40過ぎたら詰め込みよりもアウトプット重視でいこう-「勉強」をすすめない「勉強本」

「21世紀は知識社会化する」と言われて久しいものがりありますね。

たしかに「知識」が多いに越したことはないのですが、多ければいいというわけでもありません。40歳過ぎたら、あたらしい知識を詰め込むよりも、想起してアウトプットせよ、というのが本書の趣旨です。

知識をインプットすることは必要だが、それだけでは不十分なのですね。知識をインプットしてもアウトプットしなければ、アタマのなかの「引き出し」に知識や情報が定着することはないからです。「引き出し」の中身を取り出しながら整理しないと、「使える知識」とはならないのです。

そのために最も効果的なのが、人に話したり、文章に書いたりすることです。

じっさいに話したり書いたりすることで、アタマのなかが整理されるだけでなく、アタマのなかにある「知識のネットワーク」が再編成されるのです。インプットとアウトプットの往復運動があってこそ、量質ともに中身の濃い「引き出し」ができあがることになるのです。

これまでずっと「勉強法」の本を書いてきた和田秀樹氏が宗旨替えしたのかと思って手にとったのですが、本人もまた40歳を過ぎて年をとるにつれて、知識を詰め込むことの無意味さを悟ったのでしょうか。

著者は「思い出せないのは、忘れたこととイコールではない」という前提に立話をしていますが、これはわたしも賛成です。年をとると記憶力が落ちたり忘れやすくなるのではなく、思い出せなくなるに過ぎないのです。だからこそ、積極的に思い出すという想起を心がけていれば、記憶は再活性化するわけですね。

40歳を過ぎた人はもちろんのこと、40歳以前の人もまた、本書に書かれた内容は実践する意味があるといってよいでしょう。





目 次

はじめに
第1章 記憶のメカニズム 記銘力より想起力
第2章 想起力を高める方法
第3章 想起力が二十一世紀の頭のよさを決定する
エピローグ 想起力で人生を豊かにする
あとがき

著者プロフィール

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪市生まれ。1985年、東京大学医学部卒業。東京大学付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。日本人として初めて、アメリカでもっとも人気のある精神分析学派である自己心理学の国際年鑑に論文を掲載するなど海外での評価も高い(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

アウトプットが重要なことは、わたし自身、ひじょうに実感していることである。ブログを書く、ツイートするだけでなく、日常生活でもクチに出して語ることは、アタマの整理になっているからである。

これを意識的にやろうというのが本書の趣旨だ。一度は意識的に考えて取り組んでみるとよい。それが生活習慣になってしまえば、意識することもなくなるだろう。

記憶にかんする脳科学にかんしては、研究者によって主張する内容が大きく異なり、記憶の記銘(インプット)と保持はさておき、想起(思い出す)については、いまだによくわかってないのである。

40歳過ぎると自分が知らない分野であらたな知識を記憶するのが面倒になってくる。これはわたし自身、とくに語学にかんしては実感しているが、そもそもビジネスパーソンに限らずふつうの人間にとっては覚える必要のない、どうでもよい知識が世の中には多すぎる

記憶術の大家をテレビでも見るとスゴイとは思うものの、そういった人が書いた本が、ふつうの人間にはまったく無用なのはそのためである。ビジネスパーソンに限らず、フツーの人は意味のない数字やコトバをムリに記憶する必要はない。

とくにビジネススパーソンにとっては、成果を出すということはアウトプットそのものだ。そのための資料作成や報告書作成、プレゼンテーションやスピーチなど、ビジネス生活そのものが日々アウトプットの連続である。

アウトプットのためのインプットというと、なんだか功利的な響きがなくもないが、日本マクドナルド創業者の藤田田(ふじた・でん)のように、「雑学」もふくめたインプットを精力的におこなってほしいものだ。

思わず人に話したくなるようなネタを仕入れること、これもまたアウトプットを意識したインプットの例である。


<ブログ内関連記事>










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2012年4月24日火曜日

書評 『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書-感動をつくる7つのプロセス-』(佐々木繁範、ダイヤモンド社、2012)-よいスピーチは事前の準備がカギ!


実践的なスピーチの教科書。よいスピーチは事前の準備がカギである!

『スピーチの教科書』、ずばり直球勝負のタイトル。

内容はまさに「スピーチの教科書」、定本として長く使われるでしょう。

オーソドックスな構成でありながら、取り上げられたスピーチの事例も、スティーブ・ジョブズの卒業スピーチと『ハリー・ポッター』の作者ローリングの卒業スピーチ、そしてブータン国王が日本の国会で行ったスピーチなど興味深い。たいへん読みやすく、すぐ実践につかえる内容のビジネス書になっています。

福澤諭吉が『学問のすゝめ』のなかで「スピイチ」あるいは「演説」としてスピーチを日本に紹介して以来、すでに百数十年がたっていますが、スピーチは日本人にとってはまだまだ難しい課題であるようです。

ビジネスの世界ではプレゼンの重要性について語られることは多いのですが、リーダーとして行わねばならないのはスピーチのほうがはるかに多いのではないでしょうか?

スピーチといっても組織のなかで行うものもあれば、組織の外で行うものもあります。3分程度のごく短いものもあれば、90分近くの長いものもあります。著者はソニーの創業者盛田昭夫氏や出井前会長の下でスピーチライターをしていたプロフェッショナルです。

なによりも、本書じたいがスピーチの構造に基づいて作製されています。それは、オープニング(導入)、ボディ(本体)、クロージング(締め)の三段階構造のこと。

これまでもスピーチのオープニングについては「つかみ」の重要性として語られることも多かったのですが、重要なのは、なんといても本体としてのボディ。このボディをいかに構築し、聴衆に共感をもって聞いてもらうかがスピーチのカギであり、そのボディを構成し、原稿として書き上げるための方法論がくわしく解説されています。

クロージングが重要なのは営業活動でも同じですが、聞いたあとも余韻として残るスピーチは「締め」が重要ですね。本書でも徹底分析されていますが、ジョブズのスタンフォード大学の卒業式スピーチで有名になった「Stay hungry, stay foolish !」(ハングリーであれ、バカであれ!)という締めのフレーズ。これは、ジョブズ自身が考えたオリジナルではないのにかかわらず、すでにジョブズの遺訓として長く語り伝えられていくことでしょう。

オープニング・ボディ・クロージングというスピーチの三段階構造は、スピーチにかぎらず、まとまった内容の話をしたり書いたりする際にも重要です。ちょっとした文章を書いたり、ブログの文章を書く際にも応用できるものです。日本の国語教育で強調されてきた起承転結はこのい際、アタマのなかから完全に消し去ってしまいましょう。ビジネスのスピーチには起承転結は不要です。「転」抜きの起承結でよいのです。

情報収集や知識を獲得するインプットはもちろん大事ですが、ビジネスパーソンには、なによりも書いたりしゃべったりするアウトプットが重要です。そして、しゃべるためには論理的に書くことが大事だという、きわめてオーソドックスでかつ真っ当な主張に基づいた「教科書」になっています。

ビジネスパーソンに限らず、ぜひテキストとしてつかってほしい一冊として推奨します。


<初出情報>

■bk1書評「実践的なスピーチの教科書。よいスピーチは事前の準備がカギである!」投稿掲載(2012年4月23日)
■amazon書評「実践的なスピーチの教科書。よいスピーチは事前の準備がカギである!」投稿掲載(2012年4月23日)





目 次

プロローグ スティーブ・ジョブズのスピーチは、なぜ人々の心を打つのか
Part 1.  スピーチの核をつくる
-1章 相手を知る-どんな場で、聴衆は何を期待しているか
-2章 メッセージを絞る-最も伝えたいことを明確にする
Part 2. 話を効果的に組み立てる
-3章 全体構成とボディ-伝わりやすい構造、順番を考える
-4章 オープニング-導入部で聴衆の注意を引きつける
-5章 クロージング-記憶に残る終わりかた
Part 3.  原稿づくり、リハーサル、そして本番!
-1章 リハーサル-原稿づくりから前日の準備まで
デリバリー-壇上での立ち振る舞いから質疑応答まで)
エピローグ スピーチライターの仕事

著者プロフィール

佐々木繁範(ささき・しげのり)

1963年福岡県北九州市生まれ。1987年に同志社大学経済学部を卒業後、日本興業銀行に入行。1990年にソニー株式会社に入社。盛田昭夫会長の直属スタッフとして企業外交を補佐、その間にスピーチ・ライティングを学ぶ。1995年から97年までハーバード・ケネディ・スクールに留学、公共経営学修士号を取得。帰国後、2001年まで出井伸之社長の戦略スタッフ兼スピーチ・ライターを務める。ソニーでは計100本以上のスピーチ・サポートを手がけるとともに、IT戦略会議の議長補佐として、IT国家戦略の策定にも携わる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

スピーチが難しいのは、聞く側からみれば耳から入る話はシークエンシャルであることだ。シークエンシャルとは、時間的に連続しており、テープのように巻き戻しができない不可逆的な構造をもっているということである。

もちろん、スピーチの最中で、聴衆(オーディエンス)の反応をみながら軌道修正することはあるので、まったくインタラクティブではないとは言い切れない。しかし、基本はボディの構成と内容がしっかりと構築されていないと、軌道修正やアドリブは難しいということである。テレビのお笑い番組も、じつは放送台本が作製されて、綿密に構成されているのと同じである。

本書でとくに強調されているのが、スピーチは入念に準備せよという点である。スピーチ原稿をフルテキストまで書くことが望ましいとある。自分で苦しみながら考えて書いた原稿があれば、おのずとアタマのなかに入っているので本番では原稿に頼らずにしゃべることができるし、準備した原稿はいざというときに頼りになるだけでなく、精神的にもお守りにもなるというのは大いに納得だ。

そういう意味で、本書はスピーチだけでなく、文章を書く際にも役にたつ本だと思う次第。

お笑いのたとえではないが、「つかみ」と「落ち」は不可欠。そしてもちろん話の中身(ボディ)は言うまでもなく重要!

なお、本書の著者・佐々木繁範さんとは、出版後に一度お会いして、わたしとは同じ世代で、同じような経歴と価値観の持ち主であることを確認させていただきました。


<関連サイト>

【書籍拝見】スティーブ・ジョブズのスピーチは、なぜ人々の心を打つのか 『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』第1回 (ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー 2013年12月25日)
『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』第2回 (2013年12月26日)
『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』第3回 (2013年12月27日)


 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号
http://courrier.jp/contents/courrier108.html

佐々木繁範氏が、2020年のオリンピック招致における高円宮妃久子さまのスピーチについて専門家の立場から解説しているので、目を通していただければ幸いだ。書評 『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書-感動をつくる7つのプロセス-』(佐々木繁範、ダイヤモンド社、2012)-よいスピーチは事前の準備がカギ! も参照。



<ブログ内関連記事>

書評 『私が「白熱教室」で学んだこと-ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで-』(石角友愛、阪急コミュニケーションズ、2012)-「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそ重要だ!

福澤諭吉の『学問のすゝめ』は、いまから140年前に出版された「自己啓発書」の大ベストセラーだ!

書評 『小泉進次郎の話す力』(佐藤綾子、幻冬舎、2010)




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2011年3月4日金曜日

映画 『英国王のスピーチ』(The King's Speech) を見て思う、人の上に立つ人の責任と重圧、そしてありのままの現実を受け入れる勇気


   
 ことしのアカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞など 4冠に輝いた映画 『英国王のスピーチ』(The King's Speech)。日本公開初日の2011年2月26日に見てきたので紹介しておきたい。ぜひ見てほしい映画です。

●監督:トム・フーパー
●脚本:デヴィッド・サイドラー
●主演:コリン・ファース(・・ジョージ六世)
 ヘレナ・ボナム=カーター(・・エリザベス妃)
 ジェフリー・ラッシュ(・・ライオネル・ローグ)
●製作:英国、オーストラリア
●上映時間:111分

 英国王ジョージ六世は、実は吃音症(どもり)だった。これは実に衝撃的な事実である。一国の国王が、しかも大英帝国(!)の皇帝を兼ねていたジョージ六世、さらに現エリザベス二世女王の父親にあたる。まったく過ぎ去った過去とも言いきれない、近過去の物語なのだ。

 この事実は本来なら、英語でいう skeleton in the cupboard のままだったはずであろう。日本語でいえば「家族の秘密」。サマセット・モームの小説のタイトルにもなっている。Cakes and Ale: Or the Skeleton in the Cupboard(お菓子とビール)。
 
 エリザベス女王が即位したのは1952年、ものごころついてからずっとエリザベス女王である私のような世代の人間にとっては、ジョージ六世といっても歴史上の人物に過ぎない。英国はさておき、日本の歴史の教科書に登場するような人物ではない。

 英国の英語を Queen's English ということに疑問をもったこともないし、なんとってもイアン・フレミング原作の「007シリーズ」には『女王陛下の007』という作品もある。

 ジョージ六世だが、過去の人とはいえ、英国史においてはきわめて大きな存在であったようだ。

 この映画で扱われるのは、1925年から1934年に即位するまでの約10年間。第一次世界大戦から復興しつつあった矢先の欧州大陸では、ドイツのヒトラーが台頭し再び戦争の危険が高まっていた。大陸国ではない英国にとっても、それは対岸の火事ではなかったのだ。

 ジョージ六世には兄がいた。父王ジョージ五世の死去にともない、兄が王位継承しエドワード八世として即位する。しかし、歴史上有名なシンプソン夫人との「王冠を賭けた恋」によってエドワード八世は退位、予期せぬことに王位につかざることを余儀なくされたのだ。


人のうえに立つ人は、パブリック・スピーチが求められる。英国をはじめとする西洋世界においては、とくにコトバ、それも発話されたコトバのもつ重要性がきわめて高い

 人のうえに立つひとはスピーチをしなければならない。しかも、一国の国王である。いや、その当時の英国はまだ大英帝国(British Empire)の盟主であった。英国王は大英帝国の皇帝も兼ねていたのだ。

 英国の全国民だけでなく、7つの海にまたがっていた大英帝国のすべての臣民(subject)にむけてメッセージを発しなくてはならないのである。しかも、その当時のニューメディアであるラジオを通じて。

 その責任たるや、平民(common people)である私のような人間には想像のしようもない。

 「君臨すれども統治せず」というのが、王政復古以降の英国国王のポジションにかんする立憲君主制(constitutional monarchy)の原則である。

 実際の政治は、選挙に選出された政権党の代表が首相となって行うが、国家元首として君臨するのは国王である。国王は国民統合のシンボルとして、とくに大きな艱難に直面したときの求心力としての機能が強く求められる。

 とくに大衆時代となってからは、ラジオというその当時のニュー・メディアの発達とともに、国王を中心とする王室もいやおうにかかわらず対応していかなくてはならないのであった。新聞、ラジオ、テレビ、そしてインターネット。現在の英国王室は、YouTube に The Royal Channel という自らのチャンネルをもつに至っている。

 「地位が人をつくる」という。これは国王もまた同じだ。フランク・シナトラが歌う『Love Is a Many-Splendored Thing』(日本語タイトルは『慕情』) には、The golden crown that makes a man a king. (人をして王にする黄金の王冠)というフレーズがあるが、まさにそのとおりなのだ。

 果たしてジョージ六世として即位した新国王は、国民に語りかけるスピーチを無事に終えることができたのか?

 これは映画を見てからのお楽しみということにしておこう。


(つづきは http://e-satoken.blogspot.com/2011/02/27the-kings-speech.html にて)





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