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2013年11月15日金曜日

書評『道なき道を行け』(藤田浩之、小学館、2013)― アメリカで「仁義と理念」で研究開発型製造業を経営する骨太の経営者からの熱いメッセージ



こんな「骨太の日本人」がいたとはまったく知りませんでした。なんと、大統領の「一般教書演説」に日本人では初めて招待され、2013年春には商務省評議員に選出ている日本人。

その人の名は藤田浩之氏。アメリカのクリーブランドでハイテク製造業を起業し、現地で雇用をつくりだし、輸出企業としてアメリカの製造業復活に貢献している47歳の物理学者で企業経営者です。

その会社の名は QED(クオリティ・エレクトロダイナミクス)、物理学で博士号を取得した藤田氏は量子電磁力学の QED(クオンタム・エレクトロダイナミクス)から取ったそうです。事業内容は、電磁気を利用して身体の画像診断を行うMRI(核磁気共鳴画像法)のキーデバイスを製造販売する研究開発型企業

『道なき道を行け』(藤田浩之、小学館、2013)のことは、JBプレスのインタビュー記事ではじめて知りました。「オバマ大統領に米国の未来を託された日本人 東大に2度落ち早稲田をやめたことでチャンスをつかむ」はぜひ読んでみてください。

藤田氏もまた京セラの創業者・稲盛和夫氏の「稲盛哲学」の実践者です。アメリカでもアメリカ流のMBA経営ではなく、稲盛哲学に基づいた理念経営を実践しています。

多民族国家のアメリカでも、日本発の稲盛流の理念経営が十分に通用することを自ら実践して示しているわけです。

藤田氏は、経営は「仁義と理念」でするものだと本書のなかで語っています。古臭く感じる「仁義」ですが、このキーワードは渡米して20年以上たつ藤田氏にとっては、ゆるぎない信念を生み出す源泉のようです。人の道を外してはならない、ということですね。

カネ儲けのための起業ではなく、人のために役に立ちたいという思いからの起業だということは、本書で何度も強調しています。アメリカでは当たり前のカネ儲けが目的の起業には大いに違和感を感じるのだ、と。

藤田氏は、博士号取得後に勤務した研究開発型企業が世界的大企業の GE に買収された結果、GEで働いたという経験をもっています。

極限までビジネスパーソンとしての「スケールアップ」を求められるGEで働いた経験は、みずからの成長のうえできわめて貴重なものがあったと語る一方で、重要な技術が一企業内に囲い込まれてしまうのは産業全体のためによくないという思いが起業の動機であったと語っています。

価値観重視の経営によって世界中でモデルとされることの多い GE ですが、すばらしい価値観であても、かならずしも内部の人間がすべて愚直に実践しているわけではないことを藤田氏は見抜いています。

「コミュニケーション重視!」とクチにしながら、個室にこもってしまう言行不一致のマネージャーが登場しますが、GEですら実際は大企業病の症状を示しているわけですね。このことが「他山の石」として著者の胸に刻み込まれて箇所は、ひじょうにつよい印象を受けます。

「価値観重視の経営」としてアメリカの GE流 と日本の稲盛流の二つを熟知する藤田氏の発言には耳を傾ける価値があります。日米の共通点、相違点について考える材料を与えてくれるからです。

その「稲盛哲学」もそのまま鵜呑みにするのではなく、藤田氏は自分なりに咀嚼したものを実践しているとのことです。基本原理という「軸」がブレていなければ、現実に合わせて応用するのは当然といえば当然です。

「自分のアタマで考え、自分で行動する」という「自律人」そのものですね。稲盛氏自身も材料工学のバックグラウンドをもったエンジニアですから、アメリカの大学で物理学で博士号を取得した科学者でもある藤田氏には共通するものも多いのでしょう。

アメリカ人のメンターとの交流から学んだ地域貢献、社会貢献の話も、読者として大いに学ぶべきものがあると感じます。人はなんのために生かされているのか、なんのための事業経営なのか、経営者はつねに考えていなければならないからです。

本書は、基本的に若い日本人に向けて書かれた熱いメッセージですが、アメリカにおける企業経営、とくにハイテク製造業の経営について知ることのできる本として読むこともできます。そこから学ぶことのできるヒントも多くあります。

カバーには Pathfinder という英語が記されてますが、パスファインダーとは直訳すれば「道を探す人」。まさに「道を切り拓く人」としての使命感に満ち満ちた藤田氏の生きざまは、若い人ではなくとも大いにインスパイアされるものがあると思います。

経営者のみならず、一人でも多くのビジネスパーソンに読んでいただきたい本です。


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目 次
序章 一般教書演説への招待状
第1章 ずれたドット
第2章 アメリカ生活
第3章 QED誕生
第4章 社員の意識改革
第5章 二人のメンター
第6章 私のアメリカ、私のクリーブランド
第7章 日本よ、日本人よ
終章 生まれてきた証

著者プロフィール

藤田浩之(ふじた・ひろゆき)
1966年、奈良県生まれ。1998年、米国ケース・ウエスタン・リザーブ大学(CWRU)物理学博士課程修了。物理学博士。GEを退社後、2006年、医療機器開発製造会社クオリティー・エレクトロダイナミクス(QED)を設立、社長兼最高経営責任者。現在、非常勤でCWRU物理学部教授、医学部放射線学科教授、オーストラリアのクイーンズランド大学情報技術電気工学部教授を兼任。主な受賞に、2009年、フォーブス「米国で最も有望な新興企業20社」(11位にランクイン)、2010年、アーネスト・ヤング起業家大賞、2011年、米国政府から研究技術助成金を受け事業を大きく成長させた企業に贈られるチベット国家賞などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)。

<関連サイト>

「オバマ大統領に米国の未来を託された日本人 東大に2度落ち早稲田をやめたことでチャンスをつかむ」 (JBプレス 2013年11月17日)

・・「米国という国家は、数々の課題を抱えながらも、試練を乗り越え、人類の進歩のために、常に試行錯誤を繰り返してきた巨大な〝実験国家〟である──。 これは、渡米して37年、米国社会の様々な矛盾や差別に翻弄されつつも生き抜いてきた私が導き出した一つの結論である。(・・・中略・・・) 
誤解を恐れず、批判を覚悟であえて言えば、私はこうした大きな変化を、将来における「米国の変革の可能性」として前向きに捉えている。なぜなら、従来の良識派には到底できなかった「壁」を、トランプ氏はあっさりと打ち破ったからである。さらに視点を変えれば、良識ある人々には決して壊せなかった既存のシステムを、常識がない、あるいは常識が通用しないトランプ氏が打ち壊すことで、トランプ氏以降に続く、まだ見ぬ将来のリーダーが、米国をゼロから再出発(リ・ビルド)させる可能性も考えられるからだ。
そうした意味で、現在の破壊的な局面は、「人類の進歩のためにより良い解答を導き出す」という米国に課された使命を果たし、「古き良き米国」に代わる「新しい米国」に生まれ変わるための準備期間だと捉えることもできるのではないか。もちろん、楽観的な見方に過ぎないとの批判は覚悟の上である。ただ、こうした考え方に至った背景には、私自身、米国という国家が日本人の常識やモノサシでは決して測ることができない、規格外の国家であることを実感してきたからだ。」

(情報追加 2026年1月30日)


<ブログ内関連記事>

Where there's a Will, there's a Way. 意思あるところ道あり

書評 『俺のイタリアン、俺のフレンチ-ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方-』(坂本孝、商業界、2013)-ビジネスモデル×哲学(理念)を参入障壁にブルーオーシャンをつくりだす
・・「稲盛哲学」の実践者による新ビジネス成功までの軌跡

書評 『全員で稼ぐ組織-JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書-』(森田直行、日経BP、2014)-世界に広がり始めた「日本発の経営管理システム」を仕組みを確立した本人が解説
・・稲盛哲学と経営管理の仕組みが合体した「アメーバ経営」とは?

『週刊ダイヤモンド』の「特集 稲盛経営解剖」(2013年6月22日号)-これは要保存版の濃い内容の特集

書評 『稲盛和夫流・意識改革 心は変えられる-自分、人、会社-全員で成し遂げた「JAL再生」40のフィロソフィー』(原 英次郎、ダイヤモンド社、2013)-メンバーの一人ひとりが「当事者意識」を持つことができれば組織は変わる

グンゼ株式会社の創業者・波多野鶴吉について-キリスト教の理念によって創業したソーシャル・ビジネスがその原点にあった!

原点としての 「HPウェイ」 -創業者の理念は度重なる経営者の交代でも生き続けているのだろうか?

TIME誌の特集記事 「メイド・イン・USA」(2013年4月11日)-アメリカでは製造業が復活してきた

(2014年6月12日 情報追加)


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2013年5月10日金曜日

TIME誌の特集記事 「メイド・イン・USA」(2013年4月11日)-アメリカでは製造業が復活してきた


すでに1カ月前になってしまいますが、米国の TIME誌の 2013年4月11日号のカバーストーリー(特集記事)が、"Made in the USA" でした。遅ればせながら昨日しりました。

記事によれば、2008年のリーマンショックから3年間で製造業に従事する人口がなんと 50万人(!)も増加しているとのこと。

基本的に「シェールガス革命」の恩恵でエネルギーコストが下がったことが背景にあるようです。具体的にいえば、中国で生産して米国に輸送するよりコストより、米国内で製造したほうがトータルコストが低くなる(!)という図式ですね。

原発事故で天然ガスの輸入が増え、しかも円安のため輸入コスト上昇、ひいては電力料金アップにつながっている日本とは大違いです。

だが、これはかならずしも単純に製造業人口が増加したと解釈すべきではない、と記事にはあります。

単純労働ではなく、コンピューターという「機械との競争」と共存が現在の製造業の現場であり、教育で技能を身につける必要が生じていることに注意を促しています。

日本のものづくりをどうするかという議論がずっと続いていますが、アメリカの状況をどう解釈するか。いろいろ考える必要がありますね。

とりあえず情報だけでも知っておくべきでしょう。


<関連サイト>

Made in the USA(TIME Magazine)
http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,2140793,00.html?pcd=teaser

How ‘Made in the USA’ is Making a Comeback (TIME Magazine)
http://business.time.com/2013/04/11/how-made-in-the-usa-is-making-a-comeback/?iid=obnetwork

Made in America, Again(TIME Magazine)
http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,2140773,00.html?iid=obinsite

Is U.S. Manufacturing Really Back ? (TIME Magazine)
http://business.time.com/2012/01/23/is-manufacturing-really-back/

米モノ作り復活、意外な立役者たち 産業のすそ野で広がる改革の実態 (日経ビジネスオンライン2014年1月21日)



<ブログ内関連記事>

書評 『日本式モノづくりの敗戦-なぜ米中企業に勝てなくなったのか-』(野口悠紀雄、東洋経済新報社、2012)-産業転換期の日本が今後どう生きていくべきかについて考えるために

書評 『製造業が日本を滅ぼす-貿易赤字時代を生き抜く経済学-』(野口悠紀雄、ダイヤモンド社、2012)-円高とエネルギーコスト上昇がつづくかぎり製造業がとるべき方向は明らかだ

書評 『ものつくり敗戦-「匠の呪縛」が日本を衰退させる-』(木村英紀、日経プレミアシリーズ、2009)-日本の未来を真剣に考えているすべての人に一読をすすめたい「冷静な診断書」。問題は製造業だけではない!

書評 『グローバル製造業の未来-ビジネスの未来②-』(カジ・グリジニック/コンラッド・ウィンクラー/ジェフリー・ロスフェダー、ブーズ・アンド・カンパニー訳、日本経済新聞出版社、2009)-欧米の製造業は製造機能を新興国の製造業に依託して協調する方向へ

書評 『空洞化のウソ-日本企業の「現地化」戦略-』(松島大輔、講談社現代新書、2012)-いわば「迂回ルート」による国富論。マクロ的にはただしい議論だが個別企業にとっては異なる対応が必要だ

書評 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)-「オープン・アーキテクチャー」時代に生き残るためには
・・「垂直分裂」というコトバが定着したものかどうかはわからないが、きわめて重要な概念である。この考え方が成り立つには、「ものつくり」において、設計上の「オープン・アーキテクチャー」という考え方が前提となる。 「オープン・アーキテクチャー」(Open Architecture)とは、「クローズドな製品アーキテクチャー」の反対概念で、外部に開かれた設計構造のことであり、代表的な例が PC である。(自動車は垂直統合型ゆえクローズドになりやすいが電気自動車はモジュール型)







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