この本は、「アウェイ」でビジネスをすることの意味を、いやというほどわからせてくれる希有な本です。
国内でも新規創業がかならずしも100%成功するわけではないことは、みなさんもよく理解できることと思います。日本国内はサッカーの比喩をつかえば「ホーム」ですが、海外はたとえタイのような「親日国」であっても「アウェイ」であることには変わりません。
中堅中小企業にとっての海外進出は、「アウェイでの第二創業」であるということをアタマのなかに刻みつけてほしいものです。つまり難易度はきわめて高いということなのです。
グローバル化やグローバリゼーションということがよく言われますが、実務家にとっては禁句です。なぜなら、国によって法律が違うから。文化が違うから。グローバル化されても、国境というものは厳然と存在するわけです。
「日本の常識は世界の非常識」というのは往年の評論家・竹村健一氏の名言ですが、日本という「ホーム」の常識は「アウェイ」では通用しないと思って間違いありません。
もちろん人間のつくった法律ですから基本的に共通するものもありますが、そもそもアジアにおいては近代化が日本よりも遅く開始されたのであり、法治主義が徹底しているわけでもありません。
リスクがあるからこそリターンはある。アジアには日本では期待できないチャンスがまだまだ多いのは事実です。だからこそ、リスクは「想定内」にしておいて、できるだけ小さくするように設計するに限るわけです。
本書は入門書ではないので読者は限定されますが、この分野にかかわりのある人、関心のある人にとっては必読でしょう。
出版社サイトに詳細な目次があるので紹介させていただきます。すくなくともこの目次だけでもじっくり読んでみてください。タイの事例が多いのは、日本企業にとっての進出が中国よりも早く、それだけ問題事例も多いということです。
はじめに-本書は「入門書」ではない
序章 景気減速で高まる事業リスク なぜ今リスク面からアジアを語るのか
第一部 マクロ経済からとらえたアジア・ビジネスの局面
第一章 人口ボーナスの光と影
第一節 人口ボーナスの定義と内容
第二節 人口ボーナス期の意味
第三節 いつ終わる?アジア諸国の人口ボーナス期
第四節 チャイナ・ショックの予感
第二章 金融政策リスクとどう向き合うか
第一節 円高の原因と現状
第二節 金融政策リスクの今後―日銀法改正問題とアジア・ビジネス
第二部 痛い目に遭わないための実務上の注意点
第一章 アジアにおける日系企業の法務リスクを考える
第二章 アジアにはびこる悪質日本人コンサルタント
第三章 アジア諸国における不動産投資のリスク
第四章 真のローカル・エキスパティーズ
第五章 アセアン投資ファンドへの期待
第三部 エキスパートが語る 罠を見抜く知識と戦法
第一章 アジアのクレジット・ビジネスとリスク対策
定石1 世界の現状とアジア進出の必然
定石2 無限の市場で現地企業となる覚悟
定石3 自ら情報を確認すること
定石4 外国人とのコミュニケーションの重要性
定石5 偏狭なナショナリズムで冷静さを失うな
定石6 外国では、日本および日本人の存在はわれわれが思うほど日本は外国に知られていない
実践1 現地に飛ぼう
実践2 形式と実行
実践3 交渉相手はアジアでは「個」、日本では「会社」
実践4 交渉には必ずカウンターの武器を持て
実践5 「協調・融和型」の日本企業、「対立」をいとわない海外企業
実践6 利益の帰属
実践7 中国人と華人
実践8 個人の関係とビジネス取引の峻別
実践9 アジアにおける信用とは
実践10 法律~その前提としての法治国家を知る
実践11 どのように現地法人を経営したか
第二章 M&Aの現場から見えてくるアジア―リスクへの心構えとアプローチ方法
リスク編1 “常識を疑う”ことが大事:中国での「政府の許認可」の例
リスク編2 本当にあった怖い話:インドネシアの「ビザ」
リスク編3 微笑みの裏側?:華人をも自家薬籠中のものとするタイ人の凄み
リスク編4 牙をむく“温厚な紳士”:マレーシア・ブミプトラ政策のもたらす光と影
アプローチ編 大中華圏内のキャッチボール:現代エリート華僑たちの生態
要点 アジアで活躍するための日本人の要件
第三章 苦渋12事例に学ぶタイ・ビジネス
教訓1 タコ壺駐在員
教訓2 「ちょっと知り合いになった」というのが最も危ない
教訓3 日本人を安易に信用するな、日本人にこそ注意しろ
教訓4 わからない契約書にはサインするな。そして日本人には注意しろ。
教訓5 日本の大手電機・自動車メーカーの下請けいじめはタイでも同じ
教訓6 オーナー経営者の一人相撲経営によるシロウト実務
教訓7 うかつに信用した仲間が…
教訓8 能力も経験もないドラ息子にやらせたら、ただ騙されただけ
教訓9 タイでは労働者は厚く保護されている
教訓10 高潔で有能な社長でも、「想定外」の事態に直面することがある
教訓11 管理体制の不備
教訓12 詐欺、不正、ぼったくり。悪質日本人コンサルタントにご注意を
第四章 進出準備段階における検討事項~日本でできないことはアジアでもできない
第一節 何のためのアジア進出か
第二節 アジア進出に際しての事業計画の必要性
第三節 現地法人経営のあり方
第五章 企業法務組織論の観点からリスクを探る
第一節 法務機能の目指す姿
第二節 法務リスク管理とは
第三節 法務リスク管理に関する本社と現地法人との関係
第四節 法務リスク管理体制をどうやって構築するか?
第五節 これからどうする?実務的なステップ
第六節 法務リスク管理へのアプローチ
第四部 勝利の方程式を求めて
第一章 勝利の方程式の構成要素
第二章 「勝利の方程式」のケース・スタディ(1)
第三章 「勝利の方程式」のケース・スタディ(2)
あとがき-きちんとやれば「勝ちやすい時代」を生きる
<関連サイト>
『誰も語らなかったアジアの見えないリスク』(出版社サイト)
http://pub.nikkan.co.jp/books/detail/00002458
<ブログ内関連記事>
書評 『中国の次のアジア(日経BPムック)』(日経ビジネス=編集、日経ビジネス、2012)-アジアの中心は東南アジア、南アジアへシフトしていく
書評 『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法-「アジアのやり方」を徹底的に理解し確固たる戦略をもって進出せよ-』(森辺一樹、中経出版、2012)-海外進出は「アウェイでの戦い」である
アジア進出に際しては「失敗事例」を押さえたうえで「成功方法」を考えよう-『なぜ中小企業の中国・アジア進出はうまくいかないのか?』 と 『アジアで成功する企業家の知恵』を読む
書評 『中国ビジネスの崩壊-未曾有のチャイナリスクに襲われる日本企業-』(青木直人、宝島社、2012)-はじめて海外進出する中堅中小企業は東南アジアを目指せ!
「脱・中国」に舵を切るときが来た!-『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!』(三橋貴明、ワック、2010)はすでに2年間に出版されている
書評 『空洞化のウソ-日本企業の「現地化」戦略-』(松島大輔、講談社現代新書、2012)-いわば「迂回ルート」による国富論。マクロ的にはただしい議論だが個別企業にとっては異なる対応が必要だ
書評 『地獄へようこそ-タイ刑務所/2700日の恐怖-』(コリン・マーティン、一木久生訳、作品社、2008)-無実の罪で投獄された白人ビジネスマンが手記につづるタイの刑務所の恐るべき実態
書評 『グローバル・ジハード』(松本光弘、講談社、2008)-対テロリズム実務参考書であり、「ネットワーク組織論」としても読み応えあり
(2014年1月18日、5月22日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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