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2015年7月1日水曜日

書評 『セッター思考-人と人をつなぐ技術を磨く-』(竹下佳江、PHP新書、2015)-バレーボールの「セッター」というポジションが生み出すあらたなリーダー像


    
「なでしこ」がワールドカップ2015で快進撃中ですが、女子サッカーではなく女子バレーボールの話題で。
  
『セッター思考-人と人をつなぐ技術を磨く-』(竹下佳江、PHP新書、2015)という本が新刊書として出版されています。日本女子バレーボール復活(!)の原動力の一人となった「世界最小で最強のセッター」で日本代表チームの元キャプテンによるもの。
   
世界的にみれば190cm台がはザラにいる世界で、159cm という身長はじつに小さいといわざるをえません。だがその環境のなか、身長が低いというハンディキャップがあるからこそアタマを使い、猛練習のずえ勝ち取ってきた日本代表チームのセッターというポジション

アタッカーにトスをあげるセッターは、いわば「つなぎ目」の役割アタッカーのような華やかさはありませんが、チームの司令塔的存在です。そのセッターも世界的だけでなく、日本でも高身長の選手が多いのです。
  
女子バレーボールというと、50年前の東京オリンピックでは「オレについてこい」という大松監督のスパルタ主義で「東洋の魔女」たちが世界の頂点に立ったのでありましたが、21世紀の現在、もはやそんなスタイルでは「誰もついてこない」ことは言うまでもありません。

そうでなくても、「オレがオレが」(・・女子選手の場合はオレではないでしょうが)という意識が強いのがアスリートというもの。それはチームスポーツであってもポジション争いがかかわる以上、当然といえば当然でしょう。

しかし、バレーボールの試合はチームでやるものであって、個人競技のように個人の力だけでできるものではありません。「個」の集まりである「チーム」全体の息があって、はじめて最大のパワーが発揮できるものです。そのためにはコミュニケーションを活発化させ、つねに観察を怠らないことがリーダーには求められます。

この本では、とくに女子選手のマネジメントについて体験から多くのことが語られていますが、男子についても、かなりの程度あてはまるのではないかな、と思います。男子だって人間である以上、ほんとは繊細なのですから。このことに気づくかどうかが、最高のパフォーマンスを発揮できるチームづくりのために必要なのではないでしょうか。

高校卒業後は大学に進学せず実業団に所属し、その後は日本でのプロ契約第一号となった著者が語る「セッター思考」は、あたらしい時代のリーダー像であり、リーダーシップの一つのモデルとなることでしょう。 

随所にビジネスでの応用の可能性について言及していることもあり、ビジネス書として読んでも面白いのではないでしょうか。もちろん、チームづくりに応用できるかどうかは、読者次第ではありますが。






<ブログ内関連記事>

書評 『女子社員マネジメントの教科書-スタッフ・部下のやる気と自立を促す45の処方箋-』(田島弓子、ダイヤモンド社、2012)-価値観の異なる人材をいかに戦力化するか
・・ダイバーシティとは「価値観の異なる」人の集まり

書評 『なでしこ力(ぢから)-さあ、一緒に世界一になろう!-』(佐々木則夫、講談社、2011)-「上から目線」でも「下から目線」でもない「横から目線」の重要性

書評 『ビジネススキル・イノベーション-時間×思考×直感 67のパワフルな技術-』(横田尚哉、プレジデント社、2012)-ビジネススキルは流行を追っかけるのではなく、本質をおさえてイノベートせよ! 
・・個人スキルのなかには、チームをマネジメントするスキルも含まれる





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2014年5月15日木曜日

書評 『世界の経営学者はいま何を考えているのか-知られざるビジネスの知のフロンティア-』(入山章栄、英治出版、2012)-「社会科学」としての「経営学」の有効性と限界を知った上でマネジメント書を読む


出版当時、アメリカのビジネススクールでアシスタント・プロフェッサー(准教授)の職にあった著者が書いた本です。著者は現在は日本に戻っています。

積ん読状態だったこの本は、買ってから一年以上たてからやっと読みましたが、思ってた以上にこの本は面白い。ただし、読者によって面白さの意味は違うと思います。

わたしはまず、「ドラッカーなんて誰も読まない!?  ポーターはもう通用しない!?」という帯のキャッチコピーにまず引きつけられました。


■ドラッカーに言及する「経営学者」が英語圏にはいない理由

というのも、すでにこのブログでも、2011年5月11日水曜日付けの記事で ドラッカーは時代遅れ?-物事はときには斜めから見ることも必要 と題して書いてます(・・本書が出版された2012年11月の一年半以上前です!)。ここにエビデンス(証拠)として提示致します。

わたしはちょうど 1990年から2年間、米国の大学院で M.B.A.(経営学修士号)コースにいましたが、その2年のあいだ、ドラッカーの「ド」の字も聞いたことがありませんでした。

その理由は、現実のビジネスにおいても時代遅れになっているからという側面が大きいから。大前研一氏の発言を引いてありますのでご参照いただきたいと思います。

ドラッカーは「マネジメント」という概念をつくった先駆者の一人ですが、本人はあくまでも自分のことを「社会生態学者」と規定しており、「経営学者」とは名乗っていませんでした。その本質においてドラッカーは「思想家」というべきでしょう。

『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP社、1995)で有名なジム・コリンズはドラッカーの後継者であることを自他ともに認めていますが、現在では大学の世界からは完全に足を洗って著述家になっています。

本書の記述によれば、ドラッカーに言及する人はアメリカの「経営学者」にはまったくいないのです。ドラッカーは「思想家」としては現在でも重要ですが、最先端の経営にはもはや応用不可能である、といってもいいでしょう。

いわゆる「日本的経営」の形成に、ドラッカー経営学が与えた思想的な意味合いが大きかったことは否定できません。むしろ大いに意味があったというべきでしょう。ドラッカー経営思想が米国よりも、ここ日本においてこそ定着したことは否定できない事実です。ドラッカー自身も浮世絵の収集家でしたので、日本訪問が楽しみだったようです。

ドラッカーはマネジメントという概念をはじめて体系化した古典として読まれていくでしょうが、「経営学者にとっての経営学ではない」(!)という認識は、知っていてけっして損ではないはずです。ドラッカー命の方々も、いずらに反発するのは無意味だといえましょう。


扱うテーマはあまりにも広すぎるのだが・・・

本書がカバーする範囲が広いのは、著者がいう「世界の経営学」においては最先端の研究テーマからトピックを網羅的に取り上げているからです。

日本人読者にも関心の高いと思われる競争戦略、イノベーション、組織学習、ソーシャル・ネットワーク、M&A、グローバル経営、国際起業、リアル・オプション、コーポレートベンチャー投資などのトピックスを取り上げ、英語の学術論文の裏付けのある議論を行っています。

わたし的には、やや総花的に過ぎるかなという印象をもちますが、最先端の研究テーマが何であるかを知るには、ちょうどいいかもしれません。もっと深掘りしてほしいテーマもありますし、全体の構成としては「理論編」と「テーマ別トピックス」に分離したほうがよかったのではないかとも思いますが。

基本的には、経営の現場では「常識」として語られている話題です。それを実証研究によって裏付けをするというのが「経営学」の役割であるということが本書を読むと理解できます。

とはいえ、「経営学」という学問は、あくまでも「跡付け」に過ぎない、という印象をぬぐい去ることができません。それがわたしの正直な感想です。「裏付け」はあくまでも「跡付け」という形でしかありえないのであり、ビジネスの「現場」とはスピード感がまったく違います。

ただし、ビジネスの現場においては試行錯誤(・・いわゆる Leaning by Doing: 失敗と成功体験から学ぶ) が可能ですが、ビジネスパーソンには過った前提に基づいた思い込みや予見といったものがつきまとうことも否定できません。そのため、意志決定を過ることが後を絶たないのも事実。

かならずしも因果関係は明らかではなくても、事象と事象のあいだに相関関係があれば実行してしてしまうというのが経営の実践の場での行動ですが、ビッグデータ時代はこれがさらに加速しています。

その意味では、経験の浅いビジネスパーソンにとっては本書は有用な読み物であるといっていいでしょう。すでにビジネスとマネジメントを現場で実践している人にとっては、「まあ、そんなもんか」と受け取る程度でよいのではないか、と思うわけです。トピックとしては知的関心をそそるものもありますが。

おなじ経営学者が書いた論文であっても、一般ビジネスパーソン向けに経営雑誌に発表される「雑誌論文」と、専門誌に査読を経て投稿される「学術論文」とは違うということです。

後者の「学術論文」は、一般のビジンスパーソンが読むことはあまりないので、「学術論文」として取り上げられたテーマを知ることができるという点に本書の意義があります。


「経営学」は「社会科学」である-ベースは経済学・心理学・社会学

本書で強調されているのは、「経営学」は「社会科学」であるということです。

ただし、英語圏でいう「社会科学」(ソーシャル・サイエンス)は、日本でいう「社会科学」とは異なり、あくまでも「科学」であり、統計学をもちいた実証研究が中心で、理論志向の強い「学問」であるということです。

経営コンサルタントや経営評論家やジャーナリストがビジネス書と経営書で書いたり、テレビや講演でしゃべっている内容と違うのもあたりまえなのです。「経営学」はあくまでも「学問研究」であるというのはそういうことです。

本書を読むうえで気をつけなくてはいけないのは、タイトルにもなっている「世界の経営学」とは、英文論文の世界で展開されている「経営学」だということです。日本語で執筆された論文のなかで展開されている「日本の経営学」ではないということです。後者は、いわばローカルな世界ということですが、日本人が英文で発表した論文は「世界の経営学」というカテゴリーのなかに分類されることになります。

わかりやすくするために、やや図式的に描いてますが、ローカルな「日本の経営学」が事例研究を中心とした記述的なものが多いのに対し、グローバルな「世界の経営学」は統計分析で実証したエビデンス・ベースのものが多いということになります。すくなくとも事例研究中心のアプローチは「世界の経営学」では主流ではないということのようですね。

先にも書きましたが、わたしがアメリカのMBAコースで学んだ1990年初頭においても、英語圏でいう「経営学」とは基本的にそういうものでした。授業ではHBS(ハーバード・ビジネススクール)作成のケース(=事例研究)が使用されていましたが、テキストのほかに大量に読まされる論文は、まさに本書で取り上げられているようなものばかりでありました。

経営学のディシプリン(・・専門学科)は、① 経済学、② 心理学、③ 社会学 の3つのいずれかあると本書には書かれています。経営学にはそれ自身の理論体系はないのです。実践の学である以上、それは当然というべきかもしれません。実践としての政治と学問としての政治学の関係も似たようなものでしょう。

会計学や貿易論など実務をベースにした「商学」が長い歴史をもっているのに対して、「経営学」はあたらしい学問であるということです。社会学じたい、まだまだ歴史のあたらしい学問ですが、経営学はそれに劣らずあたらしいということです。

著者も「第6章 「両利きの経営」」で指摘していますが、経済学、心理学、社会学という3つのディシプリン以外の周辺諸科学にも目を向けるべきだと思います。「深さ×幅の広さ」が大事なことは、拙著 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』で述べていることと同じです。

ビジネスパーソンにもっとも必要なものは、狭くて深い「専門知識」と広くて浅い「雑学」。これが、ビジネスマンとして25年以上やってきた私の実感です。「専門知識」と「雑学」のふたつが両輪になってこそ、ビジネスだけでなく人生もまた豊かになるのです。

これは、拙著の「まえがき」の最初の一文です。「学問としての経営学」でいえば、「専門」とは3つのディシプリンのいずれかであり、「雑学」とは「専門」以外の森羅万象となるわけです。後者の「雑学」の幅の広さがテーマ選定にあたってモノをいうことは言うまでもありません。


本書で指摘されている理論的側面について

わたしが面白いと思ったテーマは以下の3つです。すなわち、「トランザクション・メモリー」と「見せかけの因果関係」、それから「経営理論とは何か」というテーマです。

読む人によって、興味の対象が異なるでしょうが、多くの人と同様に「トランザクション・メモリー」はひじょうに面白い議論だと思います。

「トランザクション・メモリー」は、第5章で取り上げられていますが、組織に「記憶」があるという文言はオカルト的ではないか(?)といいう印象をもちます。なぜなら、「記憶」はあくまでも個体のものであり、個人個人の「記憶」が集合的になっているということに過ぎません。

組織は生物学のアナロジー(比喩)で語ることはできますが、組織じたいには意志はない。そう見えるだけの話であって、あたかも組織に意志があるように見るのはオカルト的で危険な発想でしょう。あくまでもアナロジーと捉えるべきです。組織そのものにはDNAなどありません。社会学や社会心理学の立場からはあり得ない話です。

1980年代後半には、ビジネス界ではすでに「ノウハウ(know-how)よりもノウフー(know-who)だ」と言われていたことであり、「情報を知っている誰か(who)を知っていること」が重要だという発想そのものには、とくに新規性はないのです。いまどきの若い読者はそんなことはまったく知らないでしょうが。

これにくらべると、第6章で取り上げられている「見せかけの因果関係」のほうが、はるかに重要な問題です。ここでは詳しい説明は省略しますが、「内生性」(endogeneity)についての議論はきわめて重要です。ただし、英語圏では常識となっている、ヒュームの因果関係の議論についての言及がまったくないのは不思議に思いますが。

そして、第15章で取り上げられている「経営理論とはなにか?」という議論は、ビジネスには直接関係ないかもしれませんが、経営学も含めた「社会科学」の「理論」の意味を考えるうえで不可欠な議論です。ここでは、かの有名な哲学者カール・ポパーの「反証可能性」の議論が紹介されています。

このほか、概念レベルの理論と実証は別物であること、経済学の数学とは異なる「自然言語」を使用する経営学の意味、論理学と科学哲学をベースにしたトレーニングの必要など、著者の意見にはまったく賛成です。

経営学という学問が自然科学と異なるのは、経営現象はつねに現実の方が理論に先行するという点。学問が可能なのは、現実を理論的に位置づけることに限定されるのです。

後付けの学問である「経営学」の有効性と限界を知った上で、本書を読むことは意味あることです。ビジネス書ではなく、たまにはこういったマネジメント書を読んでアタマを整理するする必要があるのはそのためなのです。






目 次

この本を手にされた方へ

PARTⅠ これが世界の経営学
 第1章 経営学についての三つの勘違い
 第2章 経営学は居酒屋トークと何が違うのか
 第3章 なぜ経営学には教科書がないのか

PARTⅡ 世界の経営学の知のフロンティア
 第4章 ポーターの戦略だけでは、もう通用しない
 第5章 組織の記憶力を高めるにはどうすればよいのか
 第6章 「見せかけの経営効果」にだまされないためには
 第7章 イノベーションに求められる「両利きの経営」とは
 第8章 経営学の三つの「ソーシャル」とは何か(1)
 第9章 経営学の三つの「ソーシャル」とは何か(2)
 第10章 日本人は本当に集団主義なのか、それはビジネスにはプラスなのか
 第11章 アントレプレナーシップ活動が国際化しつつあるのはなぜか
 第12章 不確実性の時代に事業計画はどう立てるべきか
 第13章 なぜ経営者は買収額を払い過ぎてしまうのか
 第14章 事業会社のベンチャー投資に求められることは何か
 第15章 リソース・ベースト・ビューは経営理論といえるのか

PARTⅢ 経営学に未来はあるか
 第16章 経営学は本当に役に立つのか
 第17章 それでも経営学は進化しつづける

この本を読んでくださった方へ


著者プロフィール

入山章栄(いりやま・あきえ)
1996年慶應義塾大学経済学部卒業。1998年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2003年に同社を退社し、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年よりニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーに就任し、現在に至る。専門は経営戦略論および国際経営論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

勉強もスポーツも、基礎から学ぶとつまらない 最先端を理解した気分になることが成長の糧に(気鋭の経営学者がいま伝えたいこと 第1回) (入山章栄×琴坂将広、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー、2014年8月29日)

「ぶっちゃけ、経済学は経営学を下に見ている」 なぜ経営学と経済学の議論は噛み合わないのか(気鋭の経営学者がいま伝えたいこと 第2回)  (入山章栄×琴坂将広、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー、2014年9月1日)

現代版「ナッシュ均衡」は発掘できるのか 評価軸の明確化で生まれる可能性とリスク(気鋭の経営学者がいま伝えたいこと 第3回) (入山章栄×琴坂将広、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー、2014年9月3日)

日本の経営学が海外に劣っているわけではない 良し悪しではなく、それぞれの違いを理解する (気鋭の経営学者がいま伝えたいこと 最終回)  (入山章栄×琴坂将広、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー、2014年9月 日)



<ブログ内関連記事>

書評 『ヤバい経営学-世界のビジネスで行われている不都合な真実-』(フリーク・ヴァーミューレン、本木隆一郎/山形佳史訳、東洋経済新報社、2013)-これがビジネス世界の「現実」というものだ

「君臨する企業の法則:日本への教訓-マイケル・クスマノ MITスローンスクール教授)講演会のお知らせ(2012年1月17日:無料 事前予約

人生の選択肢を考えるために、マックス・ウェーバーの『職業としての学問』と『職業としての政治』は、できれば社会人になる前に読んでおきたい名著
・・「実践」としての政治と「学問」としての政治学は、まったく別物である

ドラッカーは時代遅れ?-物事はときには斜めから見ることも必要

『「経済人」の終わり』(ドラッカー、原著 1939)は、「近代」の行き詰まりが生み出した「全体主義の起源」を「社会生態学」の立場から分析した社会科学の古典
・・ドラッカーは「思想家」として読むべきなのだ

レビュー 『これを見ればドラッカーが60分で分かるDVD』(アップリンク、2010)-ドラッカー自身の肉声による思想と全体像

月刊誌 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号の 「特集 そして、「理系」が世界を支配する。」は必読!-数学を中心とした「文理融合」の時代なのだ
・・因果関係よりも相関関係を重視するのが統計学の世界

書評 『1億人のための統計解析-エクセルを最強の武器にする-』(西内啓、日経BP社、2014)-ビジネスパーソンなら誰もが使えるはずのエクセルでデータ分析が可能となる

(2015年12月27日 情報追加)



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2014年2月24日月曜日

書評 『ヤバい経営学-世界のビジネスで行われている不都合な真実-』(フリーク・ヴァーミューレン、本木隆一郎/山形佳史訳、東洋経済新報社、2013)-これがビジネス世界の「現実」というものだ



『ヤバい経営学-世界のビジネスで行われている不都合な真実-』(フリーク・ヴァーミューレン、東洋経済新報社、2013)は、ビジネスやマネジメント世界の住人、あるいはその世界に関心がなければ面白くもなんともない本でしょうが、その世界にいると 「これはじつに面白い!」 といった内容の本です。 

英語タイトルは Business Exposed : The Naked Truth about What Really Goes on in the World of Business (2010)、つまり真相解明の暴露もの、といった感じでしょうか。著者はオランダ出身でロンドン・ビジネススクールのMBAコースで組織論とアントレナーシップを教えている準教授。

いろんな経営理論がつぎからつぎへと生まれ、ウイルスのように伝染したのち、あっという間に消えていくのがビジネス世界ですが、そういった流行りものの理論に対して胡散臭いと感じたり、ほんとうは違うんじゃないの?とうすうすと感じている人は、読み進めるうちに納得の連続になることでしょう。

みずからの直観を豊富な学術論文のエッセンスで跡付けているのが本書の特色。事例はどうしても英国と米国を中心にした英語圏のものが多いですが、著者がオランダ人であることもあってオランダ企業も多数取り上げられています。

この本で展開される議論のキモは、ビジネスやマネジメントの世界における「因果関係」についての注意を喚起している点でしょうか。

原因と結果の関係というものは、かならずしも一対一の関係ではないし、時間的なスパンをどうとるかでまったく異なる結論がでてくるもの。原因と結果が逆転して語られていることもじつに多い。

たんなる相関関係にすぎないものを因果関係だと思い込んでいる人がじつに多いという嘆かわしい現実は、ビジネス世界においても同じということですね。

短期的にはすぐ効果のでる経営施策であっても、副作用というものは時間がたってから顕在化するもの。たとえば、リストラという名の人員削減は長い目でみて効果ないだけでなく有害であることが経営学の学術研究で明らかになっていることが紹介されていますが、日本人なら十分に納得のいくことでしょう。

企業経営をサステイナブル(=持続的)に行っていくためには、流行りの経営理論に飛びつくのは考えものだということですね。

ビジネスの世界に長くいると、本書に書かれている内容はまったくそのとおりだと思います。はっきりいってしまえば、「常識」といってもいいような話ばかりです。とはいえ、アタマでっかちの人たちには納得がいかないかもしれませんが・・・

結局のところ、ヒトによって成り立っているのがビジネス。根本のところでは、英語圏であれ日本であれ、本質的には変わらないことを実感させてくれる内容でもあります。

ただし、当然のことながら「これをやればかならず効果がでる!」なんて処方箋はこの本には書かれていません。

翻訳もよくこなれているので、それほどムリなく読めると思います。




目 次

日本の読者の皆さんへ
Introduction モンキーストーリー
Chaper 1 今、経営で起きていること
Chaper 2 成功の罠(とそこからの脱出方法)
Chaper 3 登りつめたい衝動
Chaper 4 英雄と悪党
Chaper 5 仲間意識と影響力
Chaper 6 経営にまつわる神話
Chaper 7 暗闇の中での歩き方
Chaper 8 目に見えるものと目に見えないもの
Epilogue 裸の王様
訳者あとがき
参考文献

著者プロフィール


フリーク・ヴァーミューレン(Freek Vermeulen)

ロンドン・ビジネススクール准教授。オランダ・ユトレヒト大学で組織論、ティルブルフ大学で経営管理の博士号を取得。専門は戦略論とアントレプレナーシップで、主にMBAとエグゼクティブMBAプログラムで教鞭をとっている。東芝、BP、フィアット、IBM、KPMG、ノバルティス、ボーダフォンなど、大企業の経営層のアドバイザーを務めるとともに、一般紙・専門誌への寄稿多数。Academy of Management Journalの最優秀論文賞を受賞、現在は同誌を含めた経営ジャーナル4誌の編集委員を務める。ロンドン・ビジネススクールでは、ベストティーチャー賞と最優秀授業賞を受賞。『フィナンシャル・タイムズ』紙上で「ライジングスター」と称される。本書は英語・日本語の他に中・韓・露・蘭の4カ国語でも出版されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

訳者プロフィール
本木隆一郎(もとき・りゅういちろう)
神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。大日本印刷の経営企画部にて子会社の再建や競合企業のM&Aに携わる。その後、IBMビジネスコンサルティングサービスにて、主に銀行、証券、海運のコンサルティングに従事。ロンドン・ビジネススクール修了(MBA)。現在、外資系ヘルスケア企業に勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

訳者プロフィール
山形佳史(やまがた・よしふみ)
東京都生まれ。一橋大学商学部卒業。日本IBMで大企業向けシステム構築・運用プロジェクトに携わる。その後、IBMビジネスコンサルティングサービスで、幅広い業界におけるオペレーション、IT戦略にかかわるコンサルティングプロジェクトに従事。ロンドン・ビジネススクール修了(MBA)。現在、コンサルティング会社に勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<ブログ内関連情報>

経営学関連

書評 『経営管理』(野中郁次郎、日経文庫、1985)-日本の経営学を世界レベルにした経営学者・野中郁次郎の知られざるロングセラーの名著

書評 『経営の教科書-社長が押さえておくべき30の基礎科目-』(新 将命、ダイヤモンド社、2009)-経営者が書いた「経営の教科書」

書評 『仕事ができる人の心得』(小山昇、阪急コミュニケーションズ、2001)-空理空論がいっさいない、著者の実践から生まれた「実践経営語録」

M.B.A.(経営学修士)は「打ち出の小槌」でも「魔法の杖」でもない。そのココロは?

アジアでは MBA がモノを言う!-これもまた「日本の常識は世界の非常識」

レンセラー工科大学(RPI : Rensselaer Polytechnic Institute)を卒業して20年 ・・わたしはこの大学のMBAコース(MOT)を卒業


オランダ関連

書評 『植物工場ビジネス-低コスト型なら個人でもできる-』(池田英男、日本経済新聞出版社、2010)
・・・オランダの先進植物工場モデル

書評 『チューリップ・バブル-人間を狂わせた花の物語』(マイク・ダッシュ、明石三世訳、文春文庫、2000)-バブルは過ぎ去った過去の物語ではない!
・・17世紀オランダの「バブル経済」

書評 『ニシンが築いた国オランダ-海の技術史を読む-』(田口一夫、成山堂書店、2002)-風土と技術の観点から「海洋国家オランダ」成立のメカニズムを探求

「フェルメールからのラブレター展」にいってみた(東京・渋谷 Bunkamuraミュージアム)-17世紀オランダは世界経済の一つの中心となり文字を書くのが流行だった
・・フェルメールとスピノザをつなぐものは光学レンズであった









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2013年12月5日木曜日

書評 『星野リゾートの事件簿-なぜ、お客様はもう一度来てくれたのか?-』(中沢康彦、日経トップリーダー編、日経BP社、2009)-「現場」がみずから考え実行する組織はどうやったらつくれるのか


星野リゾートもまた「自律分散型組織」の実践例。「現場」に権限委譲して、「現場」のチカラを最大限に引き出す経営スタイルを行っています。

もともとは家業であった中小の旅館業であったがゆえに、人の採用が難しい、採用しても定着しない、大卒を採用して育ててもいずれ辞めてしまうといった、人材にかかわる問題を社長の星野佳路氏は抱えていたとのこと。

だからこそ、トップダウンのスタイルの限界に気づいて経営スタイルを転換、思い切って「現場」に大幅に権限委譲して、「任せて見守る」経営スタイルに転換した結果、現在に至ったということのようです。

「現場が考えて現場で決めて動ける組織」に変え、多様な働き方ができるように対応、しかもその制度が持続可能なものとなるような工夫の数々。「現場」が考え実行する組織はどうやったらできるのか、そのヒントがナマの形でちりばめられた本。

解決策はつねに現場にある、経営の役割は方針を決めて、あとは現場にまかせること。自律性ある従業員による組織は、一方では高度なマネジメント能力と裏合わせでないとうまくいかないのです。しかし、自律性ある従業員による組織は、一方では高度なマネジメント能力の裏づけがないとうまくいかないことが、わかる人にはわかるのでしょう。

この本は、「現場」のスタッフたちが顧客満足度(CS)を向上させるために自分たちで考え、自分たちで話し合い、自分たちで決めたことを自分たちで実行するなかで発生した具体的な「事件」を、従業員視線と経営者視線の両面を、等距離の立場で第三者である記者が書いたものです。

TVなどのマスコミで有名な星野リゾートですが、あらためて活字の形で考えながら読むと、さまざまな「気づき」を得ることができるでしょう。

サービス業に従事する人のあいだではすでにバイブル的な本ですが、実践の記録である本書は、旅館業やホテル業、そしてサービス業だけでなく、サービス経済化が進むすべての業界で応用可能なものをもっています。読者が自分の現場に則して、どこまで「気づき」を得ることができるかにかかっているといっていいでしょう。

たとえば、いかに「慣性の法則」にとらわれたベテラン従業員を意識変革に促すか、企業理念の原理主義者である「新人」のもつ意味現場の「気づき」をうながす質問力のあり方、ファシリテーター型のリーダーシップとは、イノベーティブな組織であるために不可欠なフラットな人間関係などなど。

経営者の星野氏自身も「解説」という形で寄稿していますが、基本的に「当事者」ではない第三者である記者が従業員の活動と経営者の活動を等距離で見ていますので、読者が得る「気づき」は経営者が書いた経営書よりも多いかもしれません。

「当事者」ではない第三者というスタンスはコンサルタントなどとも共通するものがありますが、組織のなかにいるとなかなか気づきにくいものです。

経営者にとっても、現場のスタッフにとっても、それぞれの立場で読んで得るものの多い本です。まだ読んでない方は、ぜひ読むことをおすすめします。



目 次

はじめに
頂上駅の雲海 アルファリゾート・トマム(北海道占冠村)
踊る超名門旅館 古牧温泉 青森屋(青森県三沢市)
新入社員のブチ切れメール アルツ磐梯(福島県磐梯町)
一枚のもりそば 村民食堂(長野県軽井沢町)
地下室のプロフェッショナル 星のや 軽井沢(長野県軽井沢町)
先代社長の遺産 ホテル ブレストンコート(長野県軽井沢町)
地ビールの復活 ヤッホー・ブルーイング(長野県軽井沢町)
常識との決別 リゾナーレ(山梨県北杜市)
スキー場なきスキーリゾート リゾナーレ(山梨県北杜市)
激論する未経験スタッフ アンジン(静岡県伊東市)
名おかみの決断 蓬莱(静岡県熱海市)
あとがきにかえて 社員が辞めない会社になる
解説 事件が会社を強くする 星野佳路 星野リゾート社長




著者プロフィール

中沢康彦(なかざわ・やすひこ)
1966年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。新聞社記者を経て日経BP社に入社。「日経ビジネス」記者などを経て、現在、「日経トップリーダー」副編集長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの



・・活力あふれる企業風土の背景には、現場のリーダーシップと経営のリーダーシップを融合させた、チームスポーツ型の組織運営がある。

「あ、失敗しちゃった」という人が現場で信頼されるワケ 第4回 星野佳路・星野リゾート社長(中) (日経ビジネスオンライン 2013年11月6日)
・・「人間関係がフラットじゃないと、コミュニケーションはうまくいきません。」(星野氏)  この短いコトバこそキモのキモ。

フラットな組織にするためのヒントは以下の発言に。

「大学の新卒組というのは、社会人の経験がないから、良い意味でも悪い意味でも超フラットなんです。サークルの延長線上で会社に入ってきますから。彼らを地方の再生現場に送ると、まず衝突します。「星野リゾートなんだから、こういうことをするのが当然じゃないですか」と言い出す。その衝突の中から、フラットになるきっかけみたいなものが出てくる。
 そうすると、古くからいる人たちも、フラットにコミュニケーションしている人たちを見て、「上下関係を気にしなくても全然平気なんだ」「何も問題は起きないんだ」ということが分かって、だんだんまねをするという現象が起きてくる。そのうち、「言わなきゃ損だ」ということになる。それがうちの現場がフラットになるルートのような気がします。」
・・この記事で初めて知りましたが、星野社長は大学時代は体育会アイスホッケー部の主将だったんですね。経営学者の野中郁次郎氏のいう「知的体育会系」を体現したような経営者です。

星野さんはホテルマネジメント分野では世界最高の教育機関である、アメリカのコーネル大学ホテル学科で修士号を取得されてますね。コーネル大学のキャンパスには大学が経営しているホテルがあって実践的な教育が行われているそうです。

「やめること」を決めることが、僕の最後の仕事 第4回 星野佳路・星野リゾート社長(下) (日経ビジネスオンライン 2013年11月13日)

現場スタッフ一人ひとりの「気づき」が最高のおもてなしを生み出す源泉に(前編) (日経BPネット 2014年1月27日)
・・「星野: リゾート施設を魅力的にするために、私が一番重要だと考えているのは、現場の最前線でお客様と接するスタッフです。いくら経営陣に素晴らしい人材がいても、お客様の要望や期待と直接向き合うのは現場のスタッフです。スタッフ一人ひとりの対応が、お客様による星野リゾート全体の評価となります。現場スタッフがその場その場で下した意思決定の質が、星野リゾート全体の業績を大きく左右することになります

星野リゾートの経営の醍醐味は、お客様満足度とコストのバランス(後編) (日経BPネット 2014年2月3日)
・・「星野: いえいえ、フラットな文化と規律の厳しさは関係ありません。うちの場合は、フラットであることが規律なんです。規律というのは「みんなでやろう」と決めたことをきちんと守ることです。星野リゾートの場合は、「フラットな文化になろう」と決めているので、これを守ることが規律なのです」


<ブログ内関連記事>

「専門家」は何も分かっていない?-いかにして 「当事者」 は 「専門家」 を使いこなすべきか

書評 『個を動かす-新浪剛史 ローソン作り直しの10年-』(池田信太郎、日経BP社、2012)-「個」が重要な時代に取り組んだ「組織変革」の軌跡

書評 『爆速経営-新生ヤフーの500日-』(蛯谷 敏、日経BP社、2013)-現在進行中の「組織変革」ドキュメント第1章とその前夜の舞台裏

書評 『経営管理』(野中郁次郎、日経文庫、1985)-日本の経営学を世界レベルにした経営学者・野中郁次郎の知られざるロングセラーの名著
・・「知的体育会系」というのは野中教授のネーミング

アムンセンが南極に到達してから100年-西堀榮三郎博士が説くアムンセンとスコットの運命を分けたチームワークとリーダーシップの違い
・・自律型人材によるチームワークとリーダーシップ

書評 『オーケストラの経営学』(大木裕子、東洋経済新報社、2008)-ビジネス以外の異分野のプロフェッショナル集団からいかに「学ぶ」かについて考えてみる
・・「(フラットな組織である)オーケストラにおいては、個々の演奏者が、いかに他の演奏者とのハーモニーをつくり出すことができるかということであり、別の表現をつかえば、いかにチームワークを作りあげるかということになる。「もともと日本には、教会の響きのなかで賛美歌を歌いながらハーモニー(調和・和声)を創っていくという習慣がない。そのため、お互いの音を聴き合ってハーモニーを創っていくという意識が、どうしても低くなっているようにみえる」(P.157~158)」 日本と西欧との大きな違い。

書評 『アマン伝説-創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命-』(山口由美、文藝春秋、2013)-植民地解体後の東南アジアで生まれた「アマン」と「アジアン・リゾート」というライフスタイルとは?

(2014年3月19日、12月28日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です 電子書籍版も発売中!)





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2013年5月15日水曜日

書評 『俺のイタリアン、俺のフレンチ-ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方-』(坂本孝、商業界、2013)-ビジネスモデル×哲学(理念)を参入障壁にブルーオーシャンをつくりだす



『俺のイタリアン、俺のフレンチ-ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方-』(坂本孝、商業界、2013)は、ブックオフ創業者のあらたな挑戦についてみずから語った本です。

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」。雑誌やテレビ番組でも取り上げられている、いまもっとも注目を集めている「行列の絶えない飲食店」ですね。東京・銀座に集中出店している立食形式の店舗ですが、行列に並ぶのがキライなわたしは、残念ながらまだ行ったことはありませんが。

どうやったら「ぶっちぎりの競争優位性」を築くことができるか、ビジネスにかかわっていれば、誰もが関心あると思います。そのテーマについて具体的に語っている本です。

ビジネスモデルは、三ツ星クラスの店で腕を振るってきたプロの料理人をスカウトし、「原価率」を極限まで上げ、低価格だが回転数で勝負するというもの。「安くてうまい」が客を喜ばせリピート客とし、好循環をつくりあげる。

原価率を上げれば利幅が下がりますが、回転数を上げれば上げるほど利益はでる。経営のセオリーにきわめて忠実であります。スーパーマーケットのビジネスモデルを異業種である飲食業に導入した点に坂本氏の事業の天才ぶりがあらわれています。

じつに大胆な策です。シミュレーション結果をみればアタマでは理解できても、なかなか実行に踏み切れるものではないでしょう。

そしてその中核にあるのは、プロにはプロとしての仕事に専念してもらう環境をつくりだし、料理人が報われる仕組みをつくりたいというもの。

まさに、「仕組みで勝って人で圧勝する」(P.164)という坂本社長のコトバにあるように、人を中心にすえた経営ですね! 「ビジネスモデル × 哲学(理念)」で、ブルーオーシャンで参入障壁をつくりだすということになるでしょうか。

坂本孝氏の話は、ずいぶん以前になりますが、ブックオフが成長期に入って注目されていた頃に、プライベートな勉強会で話を聞いたことがあります。

中古ピアノ販売で成功されたことを話されていたことを覚えていますが、ギラギラしたところのまったくない、どちらかといって謙虚な印象を受けました。その秘密が稲盛フィロソフィーの体現者であったからだということが、この初の著者を読んではじめてわかりました。

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」の仕組みはなかなか真似できるものではありませんが(・・だからこそ「参入障壁」となっているわけですね!)、いろいろ学ぶことの多い本だと思います。マネジメントチームのあり方や、新規出店と人材育成の関係なども含めて、読む人によってさまざまでしょう。

間違いなく読んで損はない一冊です。





目 次

はじめに
第1章 希代の繁盛店「俺のイタリアン」誕生
第2章 2勝10敗の事業家人生
第3章 ブックオフがNo.1企業になれた理由
第4章 稲盛和夫氏の教えと、私の学び
第5章 「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」は進化する
第6章 「物心両面の幸福を追求する」決意表明
第7章 業界トップとなり、革新し続ける
おわりに

著者プロフィール

坂本孝(さかもと・たかし)
1940年5月生まれ、山梨県甲府市出身。オーディオ販売や中古ピアノ販売などいくつかの事業を経て、1990年5月、「ブックオフ」を創業(1991年8月、ブックオフコーポレーション株式会社を設立)。16年間で1000店舗まで拡大し、書籍業界の流通に革命をもたらした。2009年11月、VALUE CREATE株式会社を設立し、飲食業に参入。2011年9月、東京・新橋に「俺のイタリアン」をオープン。大繁盛店となり、その後、同様のコンセプトで「俺のフレンチ」や、和食バージョンを展開(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>
 
VALUE CREATE株式会社 公式サイト (俺のイタリアン、俺のフレンチその他)

商業界 書籍販売サイト


<ブログ内関連記事>

書評 『社長は少しバカがいい。-乱世を生き抜くリーダー鉄則-』(鈴木喬、WAVE出版、2013)-「名物社長」が語る経営論

書評 『経営の教科書-社長が押さえておくべき30の基礎科目-』(新 将命、ダイヤモンド社、2009)

書評 『全員で稼ぐ組織-JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書-』(森田直行、日経BP、2014)-世界に広がり始めた「日本発の経営管理システム」を仕組みを確立した本人が解説
・・稲盛哲学と経営管理の仕組みが合体した「アメーバ経営」とは?

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2013年4月1日月曜日

書評 『社長は少しバカがいい。-乱世を生き抜くリーダー鉄則-』(鈴木喬、WAVE出版、2013)-「名物社長」が語る経営論


『社長は少しバカがいい。』。なんとなくふざけた印象だが、すごく気になるタイトルだなあと感じてスルーしていたのですが、先週 「ダイヤモンド・オンライン」のインタビュー記事で、わが母校の大先輩(!)であることを知って、きゅうきょ注文して読んでみることにしたという次第。

著者は、消臭剤のエステーの会長。500人企業で500億円の売り上げをあげる一部上場企業。自らはチーフ・イノベーターと名乗っておられます。

昭和10年(1935年)生まれで戦中派の著者は、根っからの商売人の家系に生まれ育った人ですが、「いつも危機」だったといってます。敗戦後の大混乱などにくらべたら、比較するにもあたらない、と。長く生きてきた人のいうことには耳を傾けるべきですね。

危機的な状況に陥った際に、いかなる方法でそれを切り抜けてきたかが、著者自らが指揮した数々の事例で語られているので説得力があります。

大胆な発言と行動力で会社を引っ張ってきた著者も、ほんとうのところ小心者でセッカチだと正直に述べられております。

英語に play the fool という表現がありますが、日本語に直訳すれば、「バカを演じる」。この fool というのは道化のことでもありますが、「バカを演じるには」にはかなりの知性が必要でありますね。

バカを演じることのできるスゴさこそ、この本から読みとるべきしょう。ほんとうは数学が得意で、統計学のプロだそうです。保険会社でアクチュアリー(保険数理士)の資格を取得したというのだからスゴい。

その一方で、そろばん玉だけでは人はついてこない、と言い切る著者の、社員や顧客の巻き込み方、大いに学ぶべきものがあります。

経営書を読むヒマがあったら歴史書を読めというのも納得です。そしてマキャヴェッリの『君主論』が愛読書の一つというのも並みの社長ではない。リアリズムに徹すべし、と。

騙されたと思って読んでみてください。笑えます。勉強になります。

文句なしに面白い本です。元気の出る本です。あまりにも面白いので、ついつい何度も爆笑してしまいます。電車のなかで読むのは避けたほうがいいかもしれません。






目 次

はじめに
第1章 社長は社長をやれ。
 ① 社長は、高く「旗」を掲げろ。
 ② 社長はバカになって、「本気」を伝えろ。
 ③ あえて角番に立って、クソ度胸を出せ。
 ④ 経営は歴史に学べ。
 ⑤ 社長は大ボラを吹け。
 ⑥ 「運」と「勘」と「度胸」を磨け。
第2章 社長はカッコつけるな。
 ⑦ 社長は、奇麗事を言うな。
 ⑧ 暴走できるくらいの権力をもて。
 ⑨ まず、怖れられろ。慕われるのは、その後だ。
 ⑩ 社長は、常に「最悪」を考えろ
第3章 社長は「人間」を知り尽くせ。
 ⑪ 社長は「常識」をひっくり返せ。
 ⑫ 社長は「営業のプロ」であれ。
 ⑬ 数字から「現実」をつかみ出せ。
 ⑭ 働き一両、考え五両、見切り千両。
 ⑮ 反省はするな、よく寝ろ。
 ⑯ 会社には「シンボル」が必要だ。
第4章 社長は心意気をもて。
 ⑰ バカでなくて大将が務まるか。
 ⑱ 社長は群れるな、逆を行け。
 ⑲ いつでも、顔を高い所に向ける。
 ⑳ 変わり続けなければ、生き残れない。
あとがき


著者プロフィール

鈴木喬(すずき・たかし)
1935年(昭和10年)、東京で日用品の卸をしていた鈴木千蔵の四男として生まれる。戦争にかり出された兄たちにかわり、小学生のころから家業を手伝う。東京大空襲で店を焼かれ、焼け野原のなか父のゼロからの再出発も支えた。
東京都立新宿高等学校を経て、1959年一橋大学商学部を卒業。すでに、父と長兄がエステー化学(現エステー)を設立していたが、「兄貴にこき使われてはかなわない」と日本生命に入社。40代で法人営業部門を立ち上げ、年間契約高2兆円を超える「トップ営業マン」として活躍した。
1985年にエステーに出向。企画部長や営業本部首都圏営業統括部長などを経て、1998年に社長に就任。バブル期に膨らんだ「負の遺産」を大リストラするとともに、新商品開発を年間1点に限定。失敗の許されない状況で、全社の反対を押し切って発売した「消臭ポット」を大ヒットさせる。その後、「消臭力」「脱臭炭」などヒットを連発。生活雑貨業界にイノベーションを起こすとともに、社員数500人の「世界のニッチトップ企業」として、P&Gをはじめとするグローバル企業と戦う企業へと成長させた。
2005年には創業以来最高の純利益18億円を達成、売上高も社長就任時から20%増やした。07年に社長を退任し会長に就任するも、リーマン・ショック後の危機を打開するため09年に社長に復帰、現在に至る。徹底したお客様志向の商品開発、CM等の企業コミュニケーションなど、イノベーティブな企業経営が注目を集めている。
週末に軽井沢にある別荘の近くでスポーツバイクに乗って汗を流すのが息抜き。座右の銘は「運と勘と度胸」。座右の書はマキャベリの『君主論』。(出版社サイトより)



<関連サイト>

エステー・鈴木喬会長【上】我がヒット商品の発想法を語ろう好奇心、妄想、ノーメモがアイデアの沈殿物を生む (ダイヤモンドオンライン 2013年3月29日)
エステー・鈴木喬会長【中】我がヒット商品の発想法を語ろう好奇心、妄想、ノーメモがアイデアの沈殿物を生む (ダイヤモンドオンライン 2013年4月5日)


エステー株式会社 鈴木喬-私は「壊し屋」かも知れません。 (賢者.TV 2012年4月)
・・以下のプロフィールが掲載されているので引用しておきます。


氏名 鈴木 喬
会社名 エステー株式会社
出身地 東京都
出身校 一橋大学商学部
出生年 1935年
こだわり 負けることは大嫌い
趣味 自転車、スキー、水泳
特技 数学、統計学
休日の過ごし方 お店まわり
座右の銘 「運と勘と度胸」
心に残る本 『君主論』マキアヴェッリ、『戦略の本質』野中郁次郎・戸部良一他
尊敬できる人 勝海舟
現在の仕事の魅力と苦労 世界の名だたる会社と競争している緊張感が魅力です。
日本を背負う若者へのメッセージ 仕事をしている上では「命までは取られない」ので、 思い切ってチャレンジして欲しいと思います。


<ブログ内関連記事>

書評 『「できません」と云うな-オムロン創業者 立石一真-』(湯谷昇羊、新潮文庫、2011 単行本初版 2008)-技術によって社会を変革するといういうことはどういうことか?

書評 『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』(堀場 厚、講談社、2011)-堀場製作所の社長が語る「京都企業」の秘密

「専門家」は何も分かっていない?-いかにして 「当事者」 は 「専門家」 を使いこなすべきか




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2012年12月1日土曜日

書評 『オーケストラの経営学』(大木裕子、東洋経済新報社、2008)-ビジネス以外の異分野のプロフェッショナル集団からいかに「学ぶ」かについて考えてみる



オーケストラの元団員の経営学者が書いた『オーケストラの経営学』。そのものずばりのタイトルと内容の一冊である。

著者のプロフィールは以下のとおりである。

東京藝術大学音楽学部器楽科卒業後、ヴィオラ奏者として東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団に入団し、数々のコンサートにて演奏を行う。演奏活動を通じ組織・ビジネスとしてのオーケストラの魅力に惹かれ、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科に入学。オーケストラのマネジメントなどを研究し、MBA、博士(学術)を取得。

まさに異色の経歴をもった経営学者だが、本書の特徴は経営学者が「外側からの視点」で観察したものだけでなく、オーケストラ団員としての経験をもとに「内側からの視点」も兼ね備えていることにある。


オーケストラそのものと裏方である団体にとってのマネジメントは意味が異なる

著者はあまり明確に区分していないのだが、オーケストラを考えるにあたっては、演奏の主体であるオーケストラは文化であって、オーケストラ活動そのものが収益を生み出すことを目的にした事業ではないということが重要だ。これはオペラやバレエなどその他の舞台芸術もまた同じである。

したがって、いわば裏方としてオーケストラの運営を支えている団体のマネジメントと、演奏家の集団であるオーケストラのマネジメントそのものはわけて考える必要がある。

前者においてはカネ、すなわち収益構造と財務構造が問題になるのであり、後者においてはヒト、すなわち最高の演奏を実現するための演奏家集団のマネジメントが最重要になる。

もちろん演奏家の集団であるオーケストラのマネジメントにおいても、予算の制約という絶対条件のもとで行われる。誰を指揮者として呼ぶか、ソリストとして呼ぶかは予算の範囲内となるためだからだ。

オーケストラを運営する団体のマネジメントにおいては、チケット収入だけでは運営が不可能なため、欧州では国家財政による負担の割合が高く、米国では民間による寄付の割合が高いという。

そのため米国では寄付をつのるためにマーケティングが早くから導入されているのだが、日本は欧州型でも米国型でもない中途半端な状態であるらしい。つまりマネジメント的にはどうもあいまいなままになっているようなのだ。したがって、日本のオーケストラが置かれている状況は、けっして経済的にラクなわけではない。

では、演奏家集団のマネジメントについてはどうか。

著者によれば、オーケストラは、指揮者を頂点にはしているが階層構造をもつ組織ではない。指揮者、ソリスト、コンサートマスター、首席奏者といったプレイヤーたちで構成されるが、指揮者以外はすべて何かの楽器のプレイヤーであり、フラットな組織構造をもっているという。

つまり、オーケストラはフラットな構造をもつ、プロフェッショナル組織なのである。しかも、それじたいが収益を生み出すことを目的とした事業ではないのである。

オーケストラに求められるのは、基本的に聴衆(=顧客)をいかに満足させるかにある。顧客満足は、顧客が演奏に満足するかどうかで決まるものであり、それは演奏者がどこまで満足のいく演奏をできるかにかかっている。その結果として、おカネはついてくるということだ。

オーケストラにおいては、個々の演奏者が、いかに他の演奏者とのハーモニーをつくり出すことができるかということであり、別の表現をつかえば、いかにチームワークを作りあげるかということになる。

もともと日本には、教会の響きのなかで賛美歌を歌いながらハーモニー(調和・和声)を創っていくという習慣がない。そのため、お互いの音を聴き合ってハーモニーを創っていくという意識が、どうしても低くなっているようにみえる」(P.157~158)

この点が、もしかすると日本のオーケストラと本場の欧州のオーケストラとの違いの根底にあるのだろう。その意味では、オーケストラは完全に日本の文化とはなったとは言い難いのかもしれない。

本書では、プロフェッショナル集団としてのオーケストラについては、きわめて多額の投資に対してリターンがあまりにも小さいという指摘以外に、団員の報酬と評価制度にかんする記述が薄いのが残念だ。

プロスポーツであれば、個々のプレイにかんして事細かに評価項目が定められており、プレイヤーの評価はそれに基づいて定量的に行わている。オーケストラの場合ははたしてそのような評価基準はどうなっているのだろうか? 

この点にかんしても、欧州と米国、そして日本との比較を知りたいところだ。それは本書の不満点である。


「知識集約」型時代のプロフェッショナル集団のマネジメント

時代はますます「労働集約型」から「知識集約型」に向かっている。「知識集約」時代のプロフェッショナル集団のマネジメントが、これからの日本企業には求められている。

プロフェッショナルの集団をどうマネジメントしていくかという点について、異分野から学ぶ意味はそこにあるといっていいだろう。

オーケストラの事例は、企業経営にとっては直接に役に立つものではないが、これからの「個人と組織」の関係、あたらしいスタイルのマネジメントを考えるうえで参考になる面もある。






目 次

開幕挨拶
第1楽章 「のだめ効果」はあったのか-業界の特徴と規模
第2楽章 「音大生」の投資対効果-オーケストラの人々
第3楽章 なぜ赤字なのに存続するのか—オーケストラの会計学
第4楽章 オーケストラの経営戦略-外部マネジメント
第5楽章 指揮者のリーダーシップ-小澤征爾かカラヤンか
第6楽章 世界的音楽家はいるのに日本に世界的オケがないわけ-内部マネジメント
終幕挨拶

著者プロフィール  

大木裕子(おおき・ゆうこ)
京都産業大学経営学部准教授。京都産業大学大学院マネジメント研究科准教授。東京藝術大学音楽学部器楽科卒業後、ヴィオラ奏者として東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団に入団し、数々のコンサートにて演奏を行う。演奏活動を通じ組織・ビジネスとしてのオーケストラの魅力に惹かれ、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科に入学。オーケストラのマネジメントなどを研究し、MBA、博士(学術)を取得。昭和音楽大学音楽学部専任講師、京都産業大学経営学部専任講師を経て現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
書評 『国家と音楽-伊澤修二がめざした日本近代-』(奥中康人、春秋社、2008)-近代国家の「国民」をつくるため西洋音楽が全面的に導入されたという事実
・・日本人を近代産業に適した近代的身体に改造することが明治時代初期の課題であった。幕末の鉄砲隊はリズムに合わせて発砲するためのドラマー(=鼓手)を必要とした

日体大の『集団行動』は、「自律型個人」と「自律型組織」のインタラクティブな関係を教えてくれる好例

(2014年3月19日 項目新設)




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2012年9月4日火曜日

書評  『女子社員マネジメントの教科書-スタッフ・部下のやる気と自立を促す45の処方箋-』(田島弓子、ダイヤモンド社、2012)-価値観の異なる人材をいかに戦力化するか



人事管理の世界に「ダイバーシティ」というコトバがあります。

ダイバーシティ(diversity)とは、文字通りの意味は「多様性」ということですが、マネジメント用語では、異なるバックグラウンドをもった多様な人材をマネジメントするという意味になります。

日本においては、これはなによりも女性ビジネスパーソンの活用となります。

なぜなら、人口減少傾向にある日本では、女性といういまだ十分に活用されていない人材を活用することは、外国人の活用よりも重要性がはるかに高いからです。

思ったように人が採用できない中堅中小企業では、まさに喫緊(きっきん)の課題だといえましょう。

著者は外資系でキャリアをつみ、最後はマイクロソフトの日本法人で営業部長をつとめた人です。

本書は、著者が部下として、また上司として女性を育成してきた経験をもとに書かれた、きわめて実践的な内容の一冊です。

外資系企業は、かつては日本では思ったように採用活動ができなかったことから、かなり以前から積極的に女性を採用し実績を出してきたことは比較的よく知られていることだと思います。

そんな外資系企業でも、まだまだ男性中心社会で苦労も多かったのだとか。しかも、自分が女性であっても、女性の部下を育成することはチャレンジであったとのこと。そんな著者が書いた「教科書」ですから、ひじょうに説得力があります。

わたし自身も、前職の中小企業時代は全社員の2/3が女性という職場を、ナンバー2の取締役として女性の戦力化につとめてきた経験があるので、ひじょうに興味深く、いちいちうなづいて「共感」しながら読み進めることができました。

ここでカッコ書きにした「共感」。これこそまさにキーワードです。女性が男性よりもすぐれているのは、まさにこの点なのです。そして「観察」。女性の観察力が、一般に男性よりも高いことは、みなさんも実感されていることだと思います。職場でマイノリティ(少数派)であることが、さらに観察力を強化していることもあります。

タイトルも内容も、基本的に「女性ビジネスパーソンの育成」という観点から書かれたものですが、一貫している大きなテーマは「価値観の異なる人材をいかに戦力化するか」というものです。

ですから「草食系」と揶揄されることの多い若い世代の男子はもちろん、価値観の異なる外国人社員のマネジメントまで視野に入れることが可能になってきます。

かつての高度成長期のモーレツ社員によく似た中国人やインド人とはまったく異なり、東南アジアの現地法人で働く従業員も、ある意味では「草食系の日本人」とは似たような存在であると、わたしは自分の体験からそう考えています。

キーワードは、ダイバーシティとインクルージョン。ダイバーシティは先にも説明したように「多様性」。インクルージョン(inclusion)とは、巻き込むこと。多様性のある人材をチームとして巻き込んで結果を出していくことこそ、これからのマネジメントに求められている課題なのです。

制度をいじる前にマネージャーが取り組むべき課題があると指摘して、具体的な方法まで書かれたこの「教科書」は、マネージャーのみなさんや経営者のみなさんにはぜひおすすめいたします。






目 次

はじめに 今いるメンバーで成果を最大化するために
Step 1 上司の「5大お悩み」と部下たちの本音
Step 2 自立したビジネスパーソンに変わる5つの意識改革
Step 3 これだけは言ってはいけない8つの言葉&伝えるべき8つの言葉
Step 4 やる気を育てる上司になるための5か条と具体策
Step 5 戦力最大化のネクストステップマネジャーとして育てるために
おわりに きたるべきダイバーシティ&インクルージョン時代に向けて

著者プロフィール
  
田島弓子(たじま・ゆみこ)    
ブラマンテ株式会社代表取締役。成蹊大学文学部卒。日本人材マネジメント協会会員。IT業界専門の展示会主催会社などにてマーケティングマネジャーを務めた後、1999年にマイクロソフト日本法人に転職。約8年間の在籍中、Windows2000、Windows XP、Windows Vista など Windows の営業およびマーケティングに一貫して従事。当時、営業・マーケティング部門では数少ない女性の営業部長を務める。在籍中、個人および自身が部長を務めた営業グループでプレジデント・アワードを2回受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。




<関連サイト>


女子社員マネジメントの教科書 第1回何を考えているかわからない!?女子社員という「謎」の生き物 http://diamond.jp/articles/-/23540


女性が得意なのが「共感」力と「観察」力であることが本書で指摘されていますが、後者の「観察」力の鍛え方については、拙著 『人生を変えるアタマの引き出し』の第2章をご参照いただきたい。



<ブログ内関連記事>

書評 『ビジネススキル・イノベーション-時間×思考×直感 67のパワフルな技術-』(横田尚哉、プレジデント社、2012)-ビジネススキルは流行を追っかけるのではなく、本質をおさえてイノベートせよ!
・・個人スキルのなかには、チームをマネジメントするスキルも含まれる

「インテグリティ」(integrity)について考える-「ダブルスタンダード」の反対語として
・・上に立つひとは首尾一貫した言動は絶対に行わなければなりません





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2012年4月26日木曜日

書評 『マザー・テレサCEO-驚くべきリーダーシップの原則-』(ルーマ・ボース & ルー・ファウスト、近藤邦雄訳、集英社、2012)-ミッション・ビジョン・バリューが重要だ!

あたらしい修道会を立ち上げ、国際的な組織に育て上げたマザー・テレサのマネジメント手法とは?

マザー・テレサについては、あらためて説明するまでもないと思います。バルカン半島の小村に生まれ、インドのカルカッタ(コルコタ)で貧しい人たちのための奉仕活動に一生を捧げたカトリックの修道女です。

一方、マザー・テレサには、「貧しい人びとのなかのもっとも貧しい人びとに仕える」(to serve the poorest of the poor)というミッションを掲げた「神の愛の宣教者会」(ミッショナリー・オブ・チャリティー)を、カトリック教会の内部で新規に立ち上げ、国際的な組織に育て上げたという「企業内起業家としての側面」もあります。

それが本書のタイトルにもあるマザー・テレサCEO(最高執行責任者)ということが意味するものです。

マザー・テレサの一生は、ミッション遂行のためには万難を排して献身した人生であり、けっして平坦な道ではなかったのでした。

本書は、若き日にマザー・テレサのもとで奉仕活動を行った起業家の著者が、ビジネス上のメンターとともに書き上げた、リーダーシップのあり方の原則にかんするビジネス書です。

しかし、あたらしい事業を立ち上げ、国際的な組織に育て上げるという外面的な「成功」についてのみ語った内容ではありません。

組織のリーダーとして毎日のように直面するさまざまな課題といかに正面から向き合い、ひとつひとつ解決していったかについてのマザー・テレサ実践について、読者と一緒に考えようという姿勢に貫かれた内容になっています。

マザー・テレサのマネジメントは、著者たちによって「リーダーシップの八原則」としてまとめられています(目次を参照)。

その多くは、カトリックの修道女として生きてきたマザー・テレサならではのものですが、「原則2 天使に会うためなら悪魔とも取引しろ」、「原則4 疑うことを恐れるな」のように、あのマザー・テレサがそうだったのか(!)と驚くような原則も含まれています。いずれも起業家や経営リーダーならかならずぶつかる難問の数々。そこで語られるのはミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の重要性です。

マザー・テレサの八原則について、通り一遍の教科書的な理解に終わらせないためにも、ぜひ実際に読んで、自分のアタマで考えてみることをすすめたいと思います。できればディスカッションの材料として、一緒に考えてみることもいいでしょう。そのために必要なのは、マザー・テレサになったつもりでイマジネーションを働かせてみることです。

企業経営にかかわっているリーダーはもちろん、ありとあらゆる組織のリーダーにはぜひ読んでほしい本として推薦します。


<初出情報>

■bk1書評「あたらしい修道会を立ち上げ、国際的な組織に育て上げたマザー・テレサのマネジメント手法とは?」投稿掲載(2012年4月25日)
■amazon書評「あたらしい修道会を立ち上げ、国際的な組織に育て上げたマザー・テレサのマネジメント手法とは?」投稿掲載(2012年4月25日)





目 次


序章 マザー・テレサの原則
マザー・テレサの生涯
第1章 簡潔なビジョンを力強く伝えろ
第2章 天使に会うためなら悪魔とも取引しろ
第3章 がまん強くチャンスを待て
第4章 疑うことを恐れるな
第5章 規律を楽しめ
第6章 相手が理解できる言葉でコミュニケーションしろ
第7章 底辺にも目配りしろ
第8章 沈黙の力を使え
おわりに あなたが聖人になる必要はない

著者プロフィール

ルーマ・ボース(Ruma Bose)
起業家、投資家、アドバイザー。『マザー・テレサCEO』出版時は、ホメオパシー関連商品やビタミ
ン剤を販売するスプレーオロジー社の社長兼共同CEO。1992~93年、インドのカルカッタ(現コルカタ)で「神の愛の宣教者会」のボランティアとして、マザー・テレサと奉仕活動を行う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

ルー・ファウスト(Lou Faust)
実業界で30年以上の経験をもつビジネスマン、アドバイザー。そのうち10年をソロモン・ブラザーズに勤務し、ウォール街や東京で過ごす。マネージング・ディレクターなどを務めた。『マザー・テレサCEO』出版時はエッジ・キャピタル・パートナーズLLCの共同創業者、共同経営者。大きく成長しようとする企業に経営戦略のアドバイスを行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<原書タイトル>

Mother Teresa, CEO  Unexpected Principles for Practical Leadership, 2011

原書には索引(インデックス)がついている。最初から原書で読んだほうがいいかもしれない。ただし、日本語版よりは値段が高いが・・




<書評への付記>

「汚く稼いで綺麗に使え!」。このフレーズは、ビジネス書作家・神田正典の本にはよく引用されているが、じっさいに日本に宣教で来ていたカトリック修道会の司祭のコトバである。

しかし、この考えはきわめて重要だ。

マザー・テレサの場合は、稼いだのではなく寄付についてだが、「かならずしもキレイではないカネ」も受け入れたという。ただし、汚いカネを美名に変換する「売名行為」というロンダリングに使用されないように、見返りはいっさい拒否したという。

ミッションにブレがなければ、「悪魔と取引」することもいとわないという姿勢、これはマザーテレサに限らず、カトリック教会の長い歴史のなかで培われた智恵であるといってよいかもしれない。

このようなモラル・ジレンマは、まさに「ハーバー白熱教室」のサンデル教授によるディスカッション・テーマをほうふつとさせるが、マザー・テレサの場合もまた同様の問題に直面していたということだ。だが、これをクリアしたのは彼女一人の決断ではないと思う。伝統のチカラもあずかっているはずだ。

マザー・テレサが立ち上げた「神の愛の宣教会」(Missionary Of Charity)は、カトリック教会内のあたらしい修道会である。だから「企業内起業」(イントラプルナーシップ)といってよいのである。始まりはベンチャーであったのだ。この件については、ブログに書いた記事「アッシジのフランチェスコ (4) マザーテレサとインド」を参照していただきたい。マザー・テレサの生涯は映画化されているので、それを見るのがいちばんだろう。

なお、序文を寄せているビジネス書作家・本田直之氏も、訳文のなかでも、「マネージメント」となっているが、これはいただけない。動詞は「マネージ」と伸ばしてもいいが、名詞になったら「マネジメント」である。

間延びしていたマネージメントではなく、アクセントは文頭の「マ」に置いたマネジメントである。原則の5にもあるように、規律あるきびきびした姿勢こそ、修道院でしつけられたマザー・テレサの生活習慣に基づいた教えである。くれぐれも間違いなきよう!

著者たちがまとめた「マザー・テレサの八原則」は以下のとおりである。

1. 簡潔なビジョンを力強く伝えろ(Dream it simple, say it strong)

2. 天使に会うためなら悪魔とも取引しろ(To get to the Angels, deal with the Devil)

3. がまん強くチャンスを待て(Wait ! Then pick your moment)

4. 疑うことを恐れるな(Embrace the power of doubt)

5. 規律を楽しめ(Discover the joy of discipline)

6. 相手が理解できる言葉でコミュニケーションしろ(Communicate in a language people understand)

7. 底辺にも目配りしろ(Pay attention to the janitor)

8. 沈黙の力を使え(Use the power of silence)

*Janitor とは門番という意味。お掃除のおばさんや用務員さんなども含まれる。



<ブログ内関連記事>

アッシジのフランチェスコ (4) マザーテレサとインド

クレド(Credo)とは

「祈り、かつ働け」(ora et labora)

書評 『修道院の断食-あなたの人生を豊かにする神秘の7日間-』(ベルンハルト・ミュラー著、ペーター・ゼーヴァルト編、島田道子訳、創元社、2011)

映画 『シスタースマイル ドミニクの歌』 Soeur Sourire を見てきた

書評 『バチカン株式会社-金融市場を動かす神の汚れた手-』(ジャンルイージ・ヌッツィ、竹下・ルッジェリ アンナ監訳、花本知子/鈴木真由美訳、柏書房、2010)






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2012年1月27日金曜日

書評 『負けない自分になるための 32のリーダーの習慣』(澤穂希、幻冬舎、2011)-現場リーダーのためのプレイイング・マネージャー論として



現場リーダーのためのプレイイング・マネージャー論

「わたしの背中をみなさい」というワンフレーズにしびれた日本人は、男女を問わず少なくないのではないかと思います。

このセリフは、むかしはもっぱら渋めの男性が使うものでしたが、いまこのセリフがいまもっとも似合うのが本書の著者である澤穂希その人であることに意義を唱える人は多くないはずです。

そんな澤選手が、自らを語ったのがこの一冊。

執筆を依頼されて迷ったと本人が書いていますが、アドバイスを受けて背中を押された末に執筆を決意したのは、「チャンスはけっして逃さない」という生き方の反映でもあるでしょうし、「まったく別の世界の人と交友関係をもつ」「周りの環境を変えたかったら、まず自分が動く」という「習慣」の実践でもあるのでしょう。

この本を読むにあたっては、サッカーについてある程度までは知っていることが望ましいですが、そうでなくても現場リーダーのあり方について書かれた本として読むこともできます。

日本代表チームのキャプテンとは、企業社会のコトバをつかえば、現場リーダーのことです。プレイイング・マネージャーといってもいいですね。現役の選手であり、かつ選手のとりまとめ役でもあるキャプテン。

日本代表チームの監督であった佐々木監督による著書『なでしこ力(ぢから)-さあ、一緒に世界一になろう!-』(佐々木則夫、講談社、2011)は、ワールドカップ優秀前に出版されたものでしたが、佐々木監督を女性の多い職場を統括するジェネラル・マネージャー(GM)にたとえれば、澤選手は女性だけの職場の現場マネージャーです。そういう観点からこの二冊を読んでみるのも面白いですね。

タイトルのなかに数字を入れるのはビジネス書の定石ですし、本書にあげられた「32のリーダーの習慣」の32に特別な意味があるわけでもないでしょう。また文言だけ取り出したら平凡な響きしかもたないかもしれません。

しかし、それらのコトバが澤選手のこれまでの苦労や活躍のエピソードをまじえて語られるとき、がぜん輝き出すから不思議ですね。さすがに何かをやり遂げて結果を出すリーダーの発言は違うな、と。

ややビジネスよりの読みに終始してしまいましたが、もちろん、この本は人間・澤穂希の手記として読むのがまっとうな読み方でしょう。読者も澤選手にならって「有言実行!」といきたいものですね。






<初出情報>

■bk1書評「現場リーダーのためのプレイイング・マネージャー論として」投稿掲載(2012年1月25日)
■amazon書評「現場リーダーのためのプレイイング・マネージャー論として」投稿掲載(2012年1月26日)

*再録にあたって、字句の一部を修正しました。

目 次

第1章 夢を実現するための10の習慣
第2章 理想のリーダーになるための6つの習慣
第3章 仲間との絆を深めるための7つの習慣
第4章 自分らしくあるための9つの習慣

著者プロフィール    

澤穂希(さわ・ほまれ)
1978年、東京都府中市生まれ。INAC神戸レオネッサ所属。女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)のキャプテン。12歳で女子のトップチーム、読売ベレーザ(当時)でデビュー。日本代表としてAマッチ出場数、ゴール数で歴代1位。2011年女子ワールドカップ・ドイツ大会では優勝に貢献、得点王とMVPを獲得(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。




<ブログ内関連記事>

書評 『なでしこ力(ぢから)-さあ、一緒に世界一になろう!-』(佐々木則夫、講談社、2011)
・・女子サッカー日本代表チームの監督・佐々木則夫氏が、ワールドカップ優勝前に書いた本。「上から目線」でも「下から目線」でもない、「横から目線」の重要さについて説いている

「NHKスペシャル「なでしこ​ジャパン 世界一への道」 (2011年7月25日) を見ながら考えたこと

女子サッカー・ワールドカップで 「なでしこジャパン」 がついに世界一に!(2011年7月18日)

「サッカー日本代表チーム」を「プロジェクト・チーム」として考えてみる






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2011年12月26日月曜日

「世襲」という 「事業承継」 はけっして容易ではない-それは「権力」をめぐる「覚悟」と「納得」と「信頼」の問題だ!




「世襲」という事業承継のあり方について

つい先日の20111年12月19日に、北朝鮮のキム・ジョンイル総書記が死去したというニュースが全世界をかけめぐりました。

日本は、とくに朝鮮半島とは有史以来、密接な関係があることもあり、国民の関心もきわめて高いものがあります。

死因は心筋梗塞だと伝えられていますが、それが正確な情報であれば、「独裁者」とはいえ、一国の命運を背負う立場にある以上、そうとうの重圧がかかっていたのではないかと推察されます。

ただ、ひとつ気になるのは、「世襲」批判がまたやかましくなるのではないか、という気がしてならないことです。

しかし、ちょっと待てよ、という気持ちになるのを感じます。

大企業のサラリーマンは「世襲」批判の急先鋒でしょう。大手マスコミもまた大企業ですから、その意味では同じですね。

ところが、大企業以外では、世襲はけっして例外的ではありません

経営というものは、それじたいが一つの専門職ですから、サラリーマンの出世スゴロクのあがりといったものではありません。部分最適の実務家にはできない、全体をみることが経営者には求められます経営者と従業員は、機能という面からみれば似て非なるものだっといっていいでしょう。

話を北朝鮮に戻しましょう。

北朝鮮は社会主義を標榜(ひょうぼう)しているのにかかわらず、一族による世襲が三代目だという批判もよく聞かれます。たしかに初代のキム・イルソン、キム・ジョンイル、キム・ジョンウンと三代にわたって男子直系相続がなされることになるわけです。しかも社会主義の旗はいまだに降ろしていない。

誤解があってはいけないので、あらかじめ申しておきますが、わたしは北朝鮮の体制を肯定しているわけではありません。また、なにかのたとえとして例にだしたわけでもありません。

ただ、国家の運営もまた一つの事業と捉えれば、事業承継という観点からひじょうに興味深いものを感じながら報道を見ているわけです。体制の違いはあれ、国家経営はある意味ではマネジメントそのものですから。

安定的に運営するためのシステムは、男子直系相続であるというのが、儒教の影響の色濃い中国や韓国・朝鮮における伝統ですね。事業経営や、社会の安定装置として「世襲」を選択してきた事実はけっして無視できません。

じっさいには、子どもは男子だけとは限りませんから、女子もまた事業の一翼を担う後継者として想定されているのが現代の傾向です。たとえばタイの華僑華人の世界でも、同族の女性経営者がきわめて多いですね。

ただ日本が、中国や韓国と違うのは、世襲でありながら、かならずしも実子にこだわらないこと。見込みのある若者を養子として取り込み相続させることで「家」システムを維持してきたことは江戸時代以来の伝統です。

日本の場合は、芸事でも「世襲」はむしろ当たり前といえます。


とはいえ、世襲による事業承継はやさしい課題ではない

とはいえ、「世襲」による事業承継は、思われているよりも、じつに難しいものがあります。ここでは企業経営に話を限定しておきましょう。

難しさは大きく分けて二つあります。事業承継する本人にとっての難しさと、それを受け入れる従業員にとっての難しさです。

経営は「覚悟」の問題です。ですから、経営を事業承継する本人にとっては覚悟の問題であり、これはある程度まで幼少期からの帝王教育によってカバーされるといっていいでしょう。あとは後天的な学習のみ。「習うより慣れよ」の世界ですね。

一方、受け入れる従業員の側からみれば、それは「納得」の問題になります。この人のリーダーシップに従って自分は幸せになれるのか、自分の家族を幸せにできるのか。これはリーダーシップというよりも、フォロワーシップの問題です。従うチカラのこと。これは意外と重要な問題です。

なぜなら、経営者と従業員のあいだには「権力」がかかわってくるからです。

事業経営には「権力」がつきまといます。組織は個人の集まりですから、人間集団のなかではかならず「権力」が発生するのです。

ただし、「権力」そのものは善でも悪でもありません。指揮命令の系統がなければ組織運営はできませんので、「権力」を行使する人と「権力」を行使される人が発生します。

「権力は行使するためにある。権力をもつ者は行使する義務がある。ただし、それは正しく行使されなければならない」。これは大学時代以来のわたしの持論ですが、体育会の主将をつとめるなかで実感し、体得したものです。

人の上にたつ人は「権力」を正しく行使することが求められ、それに従う者はそれを受け入れなければ組織は成り立たない。

そしてそのためには、組織内コミュニケーションが良好な状態になければならないのです。その要は相互の「信頼」関係です。経営者なくして従業員なし、従業員なくして経営者なし。お互いがお互いを支え合う関係にあるからですね。

株式上場している大企業では「世襲」は望ましいとはわたしも思いませんが、それ以外の中堅中小企業においては「世襲」は善でも悪でもないのです。

所有と経営の分離は近代経営の要だと経営史では教えていますが、オーナーシップがなければコミットメントの度合いも薄くなりがちなものであることは否定できません。

要は「世襲」であろうがなかろうが、正しく経営すること。カリスマは先代あるいは先々代の一代限りだと自覚しておくこと。

これが、「世襲」によってその地位につく経営者の責務であり、自分の責任範囲で自社にかかわるひとびとを幸せにすることが、大きな貢献となるのです。



<推薦書>

事業経営における「世襲」については下記の書籍を推薦します。


『世襲について-事業・経営篇-』(江坂彰=監修、日本実業出版社、2001)

目 次
序章 いま、なぜ世襲なのか-世襲は“不滅の文化”である
1章 世襲とは何か- "志" の承継で信用を未来へ
2章 世襲の強みとその必然性は-絶えざる変革こそ永続の基なり
3章 老舗企業の原点は-世紀を超えて "橋渡しの理" が
4章 世襲の難しさとは-初心を離れたとき自壊を招く
5章 継後を託す子へ親は何を-賢者は歴史に、愚者は経験に学ぶ
6章 世襲のこれからは-創業哲学の伝承は時代を超えて

著者プロフィール
江坂 彰(えさか・あきら)
経営評論家・作家。1936年、京都市生まれ。京都大学文学部卒業と同時に大手広告代理店に入社。本社マーケティング局長、名古屋支社長、関西支社長等を歴任後、作家活動に入る。





<関連サイト>

カリスマ経営者が語る事業承継の要諦~会社存続を最優先に、人間心理に精通せよ~

ファミリービジネスで気づいた日本の“偏見”-見方を変えると、異なる風景が見えてくる (御立尚資、日経ビジネスオンライン、2014年4月14日)
・・ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の日本代表による記事。日本の大企業サラリーマン諸氏は、世襲が当たり前のファミリービジネス(同族企業)として偏見をもっている人も少なくないようだが、世界的にみればそれは非常識であることが理解できるだろう

シリーズ 星野佳路と考えるファミリービジネス 

「家族経営」が日本を支えている (星野佳路、日経ビジネスオンライン、2014年2月13日)

後継者はどのように「生まれる」のか-日本交通の川鍋一朗社長との対談で考える (星野佳路、日経ビジネスオンライン、2014年2月20日)

社内の「予想以上」の状況を改革 日本交通の川鍋一朗社長との対談で考える(2) (星野佳路、日経ビジネスオンライン、2014年2月27日)
星野: ファミリービジネスを継いでいる若い経営者に聞くと、入ってからおとなしくなる人が意外なくらい多い。親の言うままにやっていては、「いつか変えてやろう」という気持ちもなくなります。後継者は最初からある程度リスクを取っても「変える気概」を持つべきです。そうでなければ、若い世代が入っても、新しいエネルギーになりません。
川鍋: 私のように3代目になると、創業者がつくったビジネスモデルの有効期限が切れているケースがあります。それだけに、ファミリーで培ったことを生かしながら、変革への強い意志を持って付加価値を追加することが必要になってきます。
星野: ファミリーで培ってきた強さに依存しているだけでは、事業を継ぐ立場として、責任を果たせません。大事なのはやはり、「自分の代で何を変えてやろうか」ということだと思います。そうした意識があれば環境をうまく生かせるし、世襲に対して、周りの納得感は高まります。変革マインドは大事だと思います。
同族経営の承継ではハードな世代交代を恐れてはいけない (星野佳路・星野リゾート代表、習慣ダイヤモンドオンライン、2015年12月28日)




<ブログ内関連記事>

書評 『跡取り娘の経営学 (NB online books)』(白河桃子、日経BP社、2008)

書評 『ホッピーで HAPPY ! -ヤンチャ娘が跡取り社長になるまで-』(石渡美奈、文春文庫、2010 単行本初版 2007)

書評 『仕事ができる人の心得』(小山昇、阪急コミュニケーションズ、2001)

書評 『挫折力-一流になれる50の思考・行動術-』(冨山和彦、PHPビジネス新書、2011)

「絶対権力は絶対に腐敗する」-リビアの独裁者カダフィ大佐の末路に思うこと

書評 『叙情と闘争-辻井喬*堤清二回顧録-』(辻井 喬、中央公論新社、2009)-経営者と詩人のあいだにある"職業と感性の同一性障害とでも指摘すべきズレ"

「人間尊重」という理念、そして「士魂商才」-"民族系" 石油会社・出光興産の創業者・出光佐三という日本人

書評 『日本の血脈』(石井妙子、文春文庫、2013)-「血脈」には明治維新以来の日本近代史が凝縮

600年ぶりのローマ法王退位と巨大組織の後継者選びについて-21世紀の「神の代理人」は激務である

書評 『富の王国 ロスチャイルド』(池内 紀、東洋経済新報社、2008)-エッセイストでドイツ文学者による『物語 ロスチャイルド家の歴史』

(2014年2月13日 情報追加)



(2022年12月23日発売の拙著です)

(2022年6月24日発売の拙著です)

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2011年12月6日火曜日

「君臨する企業の法則:日本への教訓-マイケル・クスマノ MITスローンスクール教授)講演会のお知らせ(2012年1月17日:無料 事前予約)


技術経営(MOT)にかんする無料講演会の紹介です。

ソフトウェア産業のマネジメントにくわしい米国の経営学者マイケル・クスマノMITスローンスクール教授の講演会が東京で開催されます。

内容は、近刊予定の『君臨する会社「6つの法則」:戦略のベストプラクティスを求めて』(日本経済新聞社、2012年1月刊行予定)に基づくもののようです。

開催日時は、2012年1月17日、場所は国際文化会館(麻布十番)で、聴講は無料ですが事前予約が必要です。

以下に紹介文を掲載しておきます。

◇◇--------------------------◇◇
「君臨する企業の法則:日本への教訓」
  Staying Power : Lessons for Japan

◇◇--------------------------◇◇ 
講師: マイケル ・A・クスマノ Michael A. Cusumano
(マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院教授)
日時: 2012年1月17日(火) 7:00 pm-
会費: 無料(要予約)
用語: 英語(通訳なし)
申し込み:http://www.i-house.or.jp/jp/ProgramActivities/japan_ihj/index.htm から

クスマノ氏はハーバード大学にて博士号取得。専門は、ソフトウェアや自動車産業におけるマネジメントや起業家精神で、ソフトウェア工学・企業研究の権威。ハイテク産業で世界の主要企業のコンサルタントなども務める。主な邦訳書に、『マイクロソフト・シークレット-勝ち続ける驚異の経営-』(日本経済新聞社 1996)など。近刊予定書に『君臨する会社「6つの法則」:戦略のベストプラクティスを求めて』(日本経済新聞社、2012年1月刊行予定)。デジタル・テクノロジーによる著しい変化に企業はどう対応し、いかに更なる飛躍を遂げることができるのか、長年グローバル企業の経営や慣行を研究されてきたクスマノ氏に論じていただきます。
-----------------------------

ちなみに、MITスローンスクールは、MIT(マサチューセッツ工科大学:Massachusetts Institute of Technology)の経営大学院のことで、一言で言えば MBAコースのことです。

GM(ゼネラル・モーターズ)中興の祖であったアルフレッド・スローンの寄付によって解説された大学院です。ドラッカーがスローンが経営していた時代の GM を研究してマネジメントの概念を作り上げたのは有名ですが、アルフレッド・スローン自身はドラッカーの研究成果には納得はしていなかったとか。

それはさておき、MITスローンスクールは、技術経営(Management of Technology: MOT)の分野では草分けの存在であり、そこで長年にわたって教鞭をとってきたクスマノ教授の話はぜひナマで聴いておきたいものです。

MITのサイトによれば、クスマノ教授の正式タイトルは、Sloan Management Review Distinguished Professor of Management(「スローン・マネジマント・レビュー」特別教授)で専門分野は Professor of Technological Innovation, Entrepreneurship, and Strategic Management and Engineering Systems(技術革新、起業家精神、戦略経営、エンジニアリング・システム)となっています。

近刊予定の『君臨する会社「6つの法則」:戦略のベストプラクティスを求めて』(日本経済新聞社、2012年1月刊行予定)の原著タイトルは、Staying Power: Six Enduring Principles for Managing Strategy and Innovation in an Uncertain World (Lessons From Microsoft, Apple, Intel, Google, Toyota, and More) (Clarendon Lectures in Management Studies)で、ケーススタディとして取り上げられた会社は、マイクロソフト、アップル、インテル、グーグル、トヨタその他となっています。

クスマノ教授のもともとの研究テーマはソフトウェア産業ですから米国を代表するIT企業の巨人たちは当然のことながら、自動車産業や起業家精神まで拡げているのは、MIT という環境があってのことでしょう。

通訳はつかないということですが、貴重な機会ですのでご関心のある方は事前登録をしてみてはいかがでしょうか。


<講演のベースとなる原著>

Staying Power: Six Enduring Principles for Managing Strategy and Innovation in an Uncertain World(M.Cusumano, Oxford Univ Pr, 2010) 『君臨する会社「6つの法則」:戦略のベストプラクティスを求めて』原著




P.S.
日本語訳 『君臨する企業の「6つの法則」-戦略のベストプラクティスを求めて』(マイケル・A・クスマノ、延岡健太郎=解説、鬼澤 忍訳、日本経済新聞出版社、2012) が出版されました。(2012年1月24日 追記)




<関連サイト>

米国の経営学者マイケル・クスマノMITスローンスクール教授の講演会(国際文化会館のウェブサイト)

Michael A. Cusumano Oficial Web Page (クスマノ教授の公式サイト 英語)

Michael Cusumano - MIT Sloan Faculty Directory - MIT Sloan (MITスローンスクール


<ブログ内関連記事>

書評 『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)

カリスマが去ったあとの後継者はイノベーティブな組織風土を維持できるか?-アップル社のスティーブ・ジョブズが経営の第一線から引退

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第8回放送(最終回)-最終課題のプレゼンテーションと全体のまとめ



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