『がんばると迷惑な人』(太田肇、新潮新書、2014)は、昨年(2014年)末に出版されたばかりの本です。
帯には、「合理的手抜きが成果をあげる!」とある。「手抜き」というといっけんネガティブなニュアンスを感じるかもしれませんが、それが「合理的」であるならばポジティブな響きをもってきます。「合理的手抜き」とは、要は「がんばり過ぎない」ということです。
日本人は、とかく「がんばり過ぎる」傾向があります。「がんばる」こと自体はよいことであり、けっして悪いことではないわけですが、とはいえ、たとえがんばっても間違った方向に突き進んでしまったのであれば、それはかえって残念な結果をもたらしてしまいますね。「がんばり」も量より質ということになります。もちろん一定量以上の「がんばり」は必要不可欠ですが。
著者が「がんばり過ぎない」モデルとしてあげているのは、「番組製作」や「建築」の世界。あるいは「商店街のイベント」です。
その心はなにかといえば、専門を異にする異質な人材が、共通のゴールに向けてまとまるチームということにあります。参加するメンバーはそれぞれ専門をもった自営業者やフリーランスが多い世界で、著者は、あるべきチームワークの姿がそこにある、としています。この指摘にはおおいに賛成です。
わたし的に言い換えれば、これらはみなプロジェクト型の仕事ということになります。プロジェクトとは始まりがあって終わりがある仕事のこと。期間限定の仕事ということですね。
プロジェクト開始前にチームが結成され、キックオフとともに仕事が始まり、プロジェクト完了とともにチームは解散する。そこで必要とされるのは、専門に応じたプロジェクトへの貢献と、プロジェクト・マネジメント能力です。
建設業の現場はハードウェア、番組製作の現場はソフトウェアという違いはありますが、いずれも「モノづくり」の現場であり、プロジェクトの成果物はカタチとして最終消費者から評価されることになることは共通しています。責任者からの評価もさることながら、最終的に自分たちの仕事の評価者が誰かということがわかっているわけです。
この本は学者が書いているので、ちょっとピントがずれているのではないかな(?)と思うことも若干はありますが、大学の研究者もまた自営業者的存在である(!)という著者の発言には納得です。その意味では説得力があるといっていいでしょう。
出版社の宣伝コピーにあるほど「画期的」とは思いませんが、なぜ「がんばって」もうまくいかないか悩んでいるビジネスパーソンにとっては、モチベーションを高める人事表彰制度や部下の承認欲求に応える管理術など「考えるヒント」がいっぱい詰まっている入っている本であるといってよいでしょう。
きょうも一日、頑張ろう! ただし、正しい方向性で。しかも、頑張り過ぎることなく。
目 次
第1章 なぜ「がんばり」が通用しなくなったのか?
第2章 「がんばる」と、なぜ迷惑になるのか?
第3章 がんばらないで成果を出す方法とは?
第4章 これからのチームワークは、どうあるべきか?
著者プロフィール
太田肇(おおた・はじめ)
1954(昭和29)年、兵庫県生まれ。同志社大学政策学部教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。経済学博士。滋賀大学教授などを経て、現職。専門は個人を尊重する組織の研究。『個人尊重の組織論』『承認欲求』『公務員革命』『「見せかけの勤勉」の正体』など、著作多数。講演やメディアでの登場も多い。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
早死したくないなら「仕事に本気にならない」こと 養老孟司×隈研吾 日本人はどう死ぬべきか? 第5回(日経ビジネスオンライン、2015年1月9日)
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(2015年3月10日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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