明けましておめでとうございます。ことしもよろしくお願いします。
と書きましたが、すでに本日は2015年1月9日(金)。もうすでにお正月も終わってますね。まだ「お正月気分」が消えない人はいませんか? そんな人は、この本でも読んでみるといいでしょう。
『夢、死ね!-若者を殺す「自己実現」という嘘-』(中川淳一郎、星海社新書、2014)。著者は、広告代理店の世界では業界ナンバー2の博報堂を4年で辞めた、フリーのネットニュース編集者。
内容はこのタイトルに尽きるといっていいでしょう。
仕事は「ほめられたい」といったポジティブなものよりも、「怒られるのがイヤ」だからするものだというのは、かなり本質的なポイントを突いていると思います。
部下は上司から怒られるのがイヤ、営業担当者はクライアントから怒られるのがイヤ・・・。まったくその通りだな、と納得。別の言い方をすれば「後ろ指を指されない」こと。なんといっても、顧客からクレームがつくことは避けたいと思うのは人間の自然な感情でしょう。これは組織を離れたフリーランスでも同じことですね。
まともに組織人として働いた経験のあるオトナなら、大いにうなづける内容だと思います。なんといっても内容は面白い。ただし、著者は「個」を殺せとは一言もいってません。「組織」とは、「会社」とはそんなものだ、と言っているだけです。冷めた認識といってよいでしょう。
「夢」とか「自己実現」などという空疎なコトバをクチにするのはやめること。まったく同感です。仕事で「夢」をもつこと自体を否定するわけではありませんが、非現実的な「夢」は考え物です。
仕事は「プレイ」であると考えれば、ワーク・ライフ・アンバランスでいいという考えも同感します。
臨床心理学者の河合隼雄氏も、「自己実現」なんて、ほとんどの人ができないことだ、とつねづね語っていました。マズローがつかって有名になったコトバですが、マズロー自身もおなじようにいってます。日本では自己実現というコトバは安易に使い過ぎなのです。
「夢」は「夢」のまままでは実現しない、「目標」に落とし込まなくては実現するはずがないというのは、ある意味ではまっとうな主張です。
また突出した人物になってしまえば、組織で働くことほど楽しいものはないというのも同感です。
えげつないタイトルで、中身も身も蓋もない内容だと思われるかもしれません。まったくその通りだといっていいでしょう。ポジティブ系ではなく、ネガティブ系のような印象もありますが、タテマエではなくホンネのみで語った内容は、つまらない自己啓発書よりはるかにに面白い。
読んで損はないと思いますよ。経験あるオトナが若者に読ませて目を覚まさせてあげるべき本だといっていいかもしれません。
目 次
はじめに
第1章 【夢、死ね】
第2章 【あまりにトホホな仕事の現場】
第3章 【個人を潰して事なかれ主義に走る、 絶望的な仕事の現場】
第4章 【仕事はかくも尊く、人生を左右する】
著者プロフィール
中川 淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
ライター、編集者、PRプランナー 1973年生まれ。東京都立川市出身。一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、当時主流だったネット礼賛主義を真っ向から否定しベストセラーとなった『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)などがある。割りと頻繁に物議を醸す、歯に衣着せぬ物言いに定評がある。口癖は「うんこ食ってろ!」。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
早死したくないなら「仕事に本気にならない」こと 養老孟司×隈研吾 日本人はどう死ぬべきか? 第5回(日経ビジネスオンライン、2015年1月9日)
<ブログ内関連記事>
キング牧師の "I have a dream"(わたしには夢がある)から50年-ビジョンをコトバで語るということ
・・政治的指導者や経営者には夢は必要だろうが、あまり非現実でも現実的すぎてもビジョンとしては不適切だ
「ワークライフバランス」について正確に理解すべきこと。ワークはライフの対立概念ではない!?
書評 『仕事ができる人の心得』(小山昇、阪急コミュニケーションズ、2001)-空理空論がいっさいない、著者の実践から生まれた「実践経営語録」
PDCA (きょうのコトバ)
書評 『会社で心を病むということ』(松崎一葉、新潮文庫、2010 単行本初版 2007)-社員のメンタルヘルス状態が改善すれば生産性も向上する。急がば回れ!
書評 『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(大宮冬洋、ぱる出版、2013)-小売業は店舗にすべてが集約されているからこそ・・・
「自分の庭を耕やせ」と 18世紀フランスの啓蒙思想家ヴォルテールは言った-『カンディード』 を読む
・・「理屈をこねずに働こう。人生を耐えられるものにする手立ては、これしかありません」、「それぞれが自分の才能を発揮しはじめた・・役に立たない者はいなかった」。じつに説得力のある仕事とチームワークのあり方についてのセリフ
コンラッド『闇の奥』(Heart of Darkness)より、「仕事」について・・・そして「地獄の黙示録」、旧「ベルギー領コンゴ」(ザイール)
・・「ただ僕にはね、仕事のなかにあるもの--つまり、自分というものを発見するチャンスだな、それが好きなんだよ」(『闇の奥』の主人公のセリフ)
書評 『河合隼雄-心理療法家の誕生-』(大塚信一、トランスビュー、2009)-メイキング・オブ・河合隼雄、そして新しい時代の「岩波文化人」たち・・・
(2012年7月3日発売の拙著です)
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