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2011年5月30日月曜日

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第5回放送-プレゼンは「つかみ」と「ストーリー」、そして限られた時間でアイデアをカタチにする


 NHK・Eテレの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。

 すでに授業は第5回目、全8回の授業の「後半」最初の授業となります。いよいよ「最終課題」にむけて進んでいきます。

 最終課題は、「コーヒーの新しい飲み方」。すでにグループ分けが前回なされていますので、最終回にむけて、授業と平行して自分たちのチカラで課題解決はグループワークとして行います。授業はそのために必要なスキルを伝授することになります。

 まずはいつもどおり、ウォームアップから。ウォームアップじたいがチームビルディングになっています。毎回趣向を変えながら、アシスタントの主導で、メンバー全員を巻き込みながら、カラダを動かして肩のチカラを抜いていく。カラダがほぐれれば、アタマの回転と柔軟性はスタンバイ。

 今回(5月29日)のテーマは「30分で新製品を作る」。公式サイトの説明は以下のとおりです。

 どんなに良いアイデアがあっても、それを上手く説明出来なければ採用されません。
 プレゼンテーションの基本は、ストーリーを語ることです。ビジネスでの売り込みも子供にいうことを聞かせるときも給料を上げてもらうのにも、説得力のあるストーリーを組み立てることがポイントです。相手の心をつかむプレゼンテクニックを、スタンフォードのイノベーション大会の優秀作品を題材に学んでいきます。 
 もうひとつ大切なのが、締切というプレッシャーの中でいかに創造性を発揮するかということ。学生に「30分間で魅力的なグリーティングカードを作る」というテーマを与えます。時間と道具が限られている中で、奇抜な発想が次々に飛び出します。

 今回のテーマは、以下の 2つになります。

(1) 相手の心をつかむプレゼンテクニック =ストーリーを語ること
(2) 限られた時間というプレッシャーの中で、いかに創造性を発揮するかを体感すること

 では、それぞれについて見ておきましょう。


相手の心をつかむプレゼンテクニック =ストーリーを語ること

 まず (1) 相手の心をつかむプレゼンテクニック =ストーリーを語ること については、「スタンフォードのイノベーション大会」の優秀作品を題材に。ビデオ・プレゼンテーションを3本みながら、それぞれについて何がポイントかを考える形で授業が進みます。

 その前に、シーリグ教授からレクチャーがあったのは、「ストーリー」と「つかみ」の重要性

 いろんな文章の書き出しの一行を紹介しながら、「つかみ」の重要性を学生に納得させます。有名な文学作品に限らず、はじめの一行でその後を読むかどうかが決まってしまう。心理学的に十分に納得できる話です。最初の3分よりも短い一行。

 「つかみ」のキモは、アタマではなくココロに訴えること。感情に直接訴えかけること。予想外のオドロキを与えて、その後を引き続き聞きたい、見たいという気持ちにさせるモチベーションを与えること。

 日本なら、テレビのバラエティ番組を題材にしたほうが面白いかもしれませんね。芸人たちの見事な「つかみ」の事例はゴロゴロしています。

 「つかみ」で聴衆のココロをつかんだら、あとは「ストーリー」展開によって、プレゼンの最後まで聴衆の気持ちを引きつける。

 モノやサービスを買ってもらうには、その気になってもらわなければならないのですが、人の気持ちを動かすには無味乾燥のプレゼンでは面白くもなんともない。そのためには「ストーリー」でやることが重要。アップルのスティーブ・ジョブズのプレゼンなどその最たるものでしょう。

 これは、とくに日本人にとっては大きな課題かもしれませんね。まだまだロジカルシンキング段階の日本のプレゼン、見本はテレビにゴロゴロしているのですから、「つかみ」と「ストーリー」を意識して、シーリグ教授のいうようにひたすら練習するしかありませんね。


限られた時間というプレッシャーの中で、いかに創造性を発揮するか

 後者の (2) 限られた時間というプレッシャーの中で、いかに創造性を発揮するかを体感すること については、デッドラインまでに仕事をやりとげるという形で、ビジネスパーソンであれば「当たり前」になっているハズですが、学生の段階ではまだそうではないようですね。

 ただちょっと違うのは、「明日のアサイチまで ASAP で」というデッドライン設定方式ではなく、「いまから30分以内」というのがミソですね。

 一人でやっているわけではないグループワークでは、とくに今回の授業のように、学年も専攻もまったく異なる学生がチームを組んでグループワークをやるのは、ミーティングの時間調整だけでも大変ですから、非常に実際的なスキルとなることがわかります。

 課題は、「30分間で魅力的なグリーティングカードを作る」。4月22日の「アース・デイ」(Earth Day)用に「4枚セットのグリティングカード」をつくるという課題は、エコを意識する現代の学生にはうってつけの課題かもしれませんが、それでもアイデア出しから試作品作成、それから 30秒のプレゼンも考えるというのは非常に大きなプレッシャー、学生でなくても、なかなか過酷なものがあります。

 限られた持ち時間のなかで、いかに方向性を決め、アイデアを具体的なカタチにまでもっていくか。これは非常に面白いワークですね。

 その心は、課題 (1) の3本目のビデオの教訓である "fail early, fail fast" ですね。「失敗するのは早ければ早いほうがいい、しかも速ければ速いほど」といったところでしょうか。

 シーリグ教授が、この授業で初回から何度も強調しているように、最初から完璧を求めるのではなく、試作段階はスピードが勝負。ダメならすぐ廃棄し、またあらたな試作品をつくることが重要です。

 そしてここでも重要なのが、開発のための「ストーリー」を先につくること。「ストーリー」があれば、試作品もつくりやすい。

 企業でもこれができていないことが多いという指摘は、耳に痛いものがありますね。ヘタに時間とカネがあるとうまくいかないという教訓と受け取っておきましょう。

  ............................................................
 
 第1回からずっと一貫してますが、学生たちに課題をあたえて、創造的にものを考えさせる演習のあと、レクチャーでポイントを解説する授業のすすめかたは、きわめてプラクティカルで、アタマにすっと入ってきます。

 なんといっても、自分で考えて試行錯誤する経験を経たあとは、何が重要なのか理解しやすいものですね。


 放送予定は以下のとおりです。いよいよ、全8回の授業の後半に入っていきます。

5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「30分で新製品を作る」
6月5日 (日)第6回 「トランプで創造性を学ぶ」
6月12日(日)第7回 「真っ赤なウソを見破る(仮)」
6月19日(日)第8回 「新しいコーヒー体験(仮)」

 創造性をいかに発揮して、斬新なアイデアを具体的なカタチにするかという課題の解決。

 学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組です。あと3回になってしまいましたが、日曜日の午後6時が楽しみですね!



<関連サイト>

「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)

自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)



<ブログ内関連記事>

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 全8回 が始まりました

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第2回放送-「問題解決」の前に「問題発見」! 急がば回れ!

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第3回放送-「ブレインストーミングには悪いアイデアはない!」

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第4回放送- 「6色ハット」 は個人レベルの思考パターンと仕事スタイルを 「見える化」 する




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2011年5月26日木曜日

「ブレない軸」 (きょうのコトバ)



 言動が首尾一貫している人のことをさして、あの人は「ブレない軸」をもっているといった表現をすることがあります。

 もちろん、人間はコマとは違って、じっさいに「軸」をもっているわけではありません。物理的にもっているあるのは「背骨」であり、そしてアタマとココロのなかにある「判断軸」ですね。

 ブレない、シッカリした軸が自分のなかにあれば、どんなことが起ころうとも判断に迷うことはない。そのための生き方としての「原理原則」や「基本方針」といったものですね。

 このように「ブレない軸」という表現はアナロジー(類比、類推)ですが、わたしがこの重要性に気が付いたのは、大学時代に合気道をやっていたからです。とくに合気道では、コトバだけでなく、目に見える形で軸を中心にした「円運動」が強調されています。日本舞踊に似ているという評さえあるほどです。

 これは合気道だけでなく、柔道・剣道だけでなく、空手でもその他の武道にも共通しています。

 武道に限らず、野球でもサッカーでも、テニスでもスケートでも、なにかスポーツをやっていた人はわかると思いますが、運動というのは基本的に 「軸」 を中心にした 「回転運動」 なのですね。

 ですから、「軸」がしっかりしていないと、カラダの最適なバランスがとれないので、ムダな動きになってしまうのです。軸がシッカリしていて、肩にチカラが入っていない状態が、運動としてはベストなわけです。スポーツでの会心のパフォーマンスには、ムダがなく見て美しいのはそのためでもありますね。

 軸がシッカリしていて、肩にチカラが入っていない状態がベストであるということにかんしては、人間の生き方としても同じですね。とくに人の上に立つ人の立ち居振る舞いにそれが現れます。

 モバゲーなど携帯電話のゲーム会社 DeNA の創業社長の南場智子氏が6月末での代表取締役退任を発表しました。

 「病気療養中の家族の看病を優先するため、代表取締役の責務を果たすことが困難」というのが退任の理由です。人生における 「軸」 が明快な経営者の、明快でいさぎよい意志決定ですね。

 ワーク・ライフ・バランスというコトバが流行ってから久しいですが、代表取締役の仕事は、全身全霊をかけて取り組まなければとてもつとまるようなものではありません。配偶者の看病に時間がとられると、それだけ事業経営に割く時間が減ってしまうのは、人間の持ち時間が一日24時間である以上、仕方がないことです。

 もちろん、事業経営も家族もともに大事なものであるとはいえ、家族の看病を最優先する選択を行ったということは、人生における「軸」が明確であるためでしょう。

 事業経営にかんしても、いちおうは一区切りつけるところまでやり遂げた、という判断があったこともあたことでしょう。

 ワーク・ライフ・バランスというコトバは、なにかワークとライフを二項対立的にとらえた印象がありますが、実際のところ、仕事(ワーク)は人生において重要ですが、人生(ライフ)の一部であるに過ぎません。

 ブレない「軸」を発見し、それがほんとうに自分のものとなるまでは、数々の失敗と試行錯誤は避けてとおることできません。とくに若いうちは大いに失敗して、その結果、自分が見えてくるというのが最高でしょう。

 とはいえ、「ブレがない=融通がきかない」、になってはいけませんし、思ったより難しい課題ではありますね。俗に「男40過ぎたら自分の顔に責任をもて」などとも言いますが、これは自分のなかのブレない「軸」が、顔に出てしまうということでしょう。もちろん男女問わず心なければなりませんね。

 個人の生き方としてはもちろん、組織のあり方としても「ブレない軸」をキチンともちたいものですね。



<ブログ内関連記事>

浅田真央の「悔し涙」について-Be a good Loser ! (2010年3月11日 執筆投稿)
・・軸の重要性、メンタルの重要性、ライバルの重要性

コトダマ(きょうのコトバ)-言霊には良い面もあれば悪い面もある

(2014年2月5日 情報追加)





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2011年5月25日水曜日

「ストライサンド効果」 (きょうのコトバ)-「意図せざる結果」の存在には十分に注意を!


 ネットの世界では「ストライサンド効果」(Streisand Effect)と呼ばれる現象があります。

 インターネット上に公開された情報を、個人や企業が封じ込めようとすればするほど、かえってその情報が拡散してしまうという、「行為の意図せざる結果」がもたらされてしまう現象のことをさしたものです。

 「ストライサンド」とは、米国を代表するエンターテイナー、ハリウッド女優で歌手であるバーブラ・ストラインド(Barbra Streisand)の名前からきたものです。

 wikipedia(英語版)の記述によれば、ネット上に掲載された米カリフォルニア州の高級住宅街マリブにある自分の豪邸がうつっている写真を、プライバシー保護の観点から削除を求めて、2003年に起こした裁判からきています。

 ストライサンドが提訴したことが明らかになると、かえって世の中の注目を集めることになってしまい、その翌月にはなんと42万人(!)がその写真を見るためにサイトを訪れたそうです。

 もともとその写真は、カリフォルニアの海岸を空中撮影した12,000枚の写真の一枚。海岸浸食状況を記録するためのプロジェクトの一環で、一般公開されていたものでした。結局、ストライサンドはこの裁判では敗訴になったようです。

 世の中には、このように「行為の意図せざる結果」が多く観察されます。

 禁止すればするほど、かえって知りたくなる、やってみたくなる。
 否定すればするほど、かえって真相を隠しているのではと疑うようになる。
 推奨すればするほど、かえってあやしいではないかと邪推するようになる。

 現在、「3-11」以後の日本でもっとも大きな問題である「原発事故」についても、すでに翌日の2011年3月12日にはメルトダウン(炉心溶融)していたのにかかわらず、二ヶ月もたってからはじめてその事実を認める発表がなされました。

 メルトダウンしていたことは、いまになってから「事実」として認めたわけですが、「原発事故」の当初、国民に不安を与えないために政府関係者が「大丈夫だ、大丈夫だ」と何度も繰り返していました。しかし、そう言えば言うほど、国民の側では疑心暗鬼が強まり、不安感や不信感が増していくという負のループ。 

 まさに「行為の意図せざる結果」ですね。

 国民を安心させるために情報を封じ込めよう、封じ込めようとすればするほど、かえって歪んだ形で情報が拡散していく。さらには、「風評被害」という形で実損害も増大していく。

 企業活動においても、事実は封じ込めずに、悪い情報もふくめて正確に発表し、いちはやく謝罪した方が、短期的には損失になっても、中長期的には信頼感を増すことにつながります。一時的に、企業の評判(レピュテーション)が下がるかもしれませんが、すぐに元に戻るはずです。

 ネットに限らず、リアルの社会においても、自分にとっていっけん都合の悪い情報も隠さずきちんとディスクローズしたほうがプラスになることが多いのです。このように首尾一貫した言動を行うことが、じつはもっとも大事なことなのです。





P.S. 余談ですが、わたしはむかしからのバーブラ・ストライサンドのファンです。もっとも有名な作品は『追憶』(The Way We Were)。わたしがもっとも好きな作品は『愛のイェントル』。この作品は、主演・監督・プロデュース・歌唱まですべて自演自作。この映画については、本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987) に書いておきました。バーブラは、じつにマルチタレントなエンターテイナーですね。




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禁無断転載!




end

2011年5月23日月曜日

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第4回放送- 「6色ハット」 は個人レベルの思考パターンと仕事スタイルを 「見える化」 する


 NHK・ETVの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。

 すでに授業は第4回目、全8回の授業の前半最後の授業となります。

 まずはいつもどおり、ウォームアップから。ウォームアップじたいがチームビルディングになっています。メンバー全員を巻き込みながら、カラダを動かして肩のチカラを抜いていく。カラダがほぐれれば、アタマの回転と柔軟性はスタンバイ。

 今回(5月22日)のテーマは「6色の考える帽子」。公式サイトの説明は以下のとおりです。

 個人の創造性を、チームの創造性へと展開するノウハウを学びます。
 「小さな家族経営のお店が大型チェーン店と競合するには、どうしたらいいか」を題材に「6つの考える帽子」の練習を行います。白い帽子をかぶった人は情報、赤い帽子をかぶった人は感情、黄色い帽子をかぶった人はメリット、黒い帽子をかぶった人はデメリット、緑色の帽子をかぶった人は斬新なアイデア、青い帽子をかぶった人は全体のまとめ、とそれぞれ考え方の役割を分担するやりかたです。
 学生たちは、これらの帽子をかぶった気になって思考モードを切り替えていきます。

 「6色の考える帽子」とは「6 Thinking Hats」のこと。エドワード・デ・ボノ博士による「創造性開発メソッド」ですね。わたしには、なんだか懐かしく感じられました。現在でもつかわれているのか、と。

 ちなみにデ・ボノ博士は、1933年にマルタ島に生まれた創造性開発の研究家で実践家です。日本では、『6色ハット』と題して、「英語道」で有名な松本道弘氏が1986年にダイヤモンド社から翻訳出版しています。。くわしくは wikipedia の Edward de Bono の項目を参照してください(・・おそらく、日本では知る人も少なくなったからでしょうか、wiki には日本語による説明はありません)。

 まずは、事前におこなわれた診断テスト結果に基づいて、授業に参加する学生のそれぞれが、帽子につけるリボンの色で仕分けされます。これは思考にあたって、何が重視されるかをみる性格テストのようなものですね。

 色は、グリーン、ホワイト、ブルー、イエロー、レッド、ブラックの 6色。ほんとうは、この色にあわせた帽子も用意できればベストでしょうが、さすがにそこまではできないので、ピンク色の三角帽子(・・なんだかチベットの高僧の帽子のようですが)にリボンをつけるという形で代替していました。

 それぞれの色は、以下のような個人レベルでみた「思考パターン」や「仕事のスタイル」を表現しています。

●グリーン:創造性でリードする アイデアを創り出す
●ホワイト:事実を重視 データ好き
●ブルー:プロセス重視、段取りが好き
●イエロー:和を重んじる 楽観的
●レッド:感情で人を動かす 情熱的
●ブラック:ダメだし屋 問題点を指摘

 スタンフォードで起業を勉強しようという学生ですが、意外と「イエロー」が多いのは少しオドロキでした。理工系の学生が中心なので、「ホワイト」が多いのではと思ったのですが、かならずしもそうではないようです。起業しようというマインドセットの持ち主は、常識とは少しちがうのでしょうか?

 さすがに「ブラック」は少なかったですが、シーリグ教授は、スタンフォード大学の教官には「ブルー」のタイプが多いと言ってましたが、経営コンサルタントは「ホワイト」と「ブルー」に分類されるのかもしれません。

 このように、個人レベルの思考パターンを「6色ハット」で目に見える形にすることは、近年の流行りコトバでいえば、「見える化」あるいは「可視化」ですね!

 ところで、今回のシーリグ教授のファッションは「グリーン」のセーター姿。本人も言及していましたが、これもまた「見える化」という演出ですね。

 カラーコーディネートの理論もふまえた「6色ハット」、その意味を考える一端として、今年は節電のためクールビズが前倒しになっていますが、女性であれば勝負服、男性であれば勝負ネクタイが「レッド」ということも思い出してみるといいでしょう。

 次回の第5回からは、後半に入って「最終課題」に取り組むことになりますので、最終課題に取り組むチームとして固定化されることになります。4人1組のチームには、それぞれ可能なかぎり、リボンの色の異なるメンバーが組み合わされています。


「6色ハット」をつかった演習

 今回の演習は2つ。まずは「6色ハット」の色ごとに思考パターンを変えてみるという演習。4人1組で「小さな家族経営のお店が大型チェーン店と競合するには、どうしたらいいか」というテーマで、グループ・ディスカッションが行われます。

 この演習のポイントは、「6色の異なる帽子」をかぶって見ることで「発想の転換」を行うということ。

 色の順番は、ホワイト ⇒ グリーン ⇒ イエロー ⇒ ブラック ⇒ レッド ⇒ ブルー になります。そのあと、それぞれが「自分がいちばん嫌いな色」で議論、そして最後に「自分がいちばん好きな色」で議論する。

 このあと学生からさまざまな「気づき」が述べられていましたが、あえて書かなくても、今回の趣旨を考えれば、だいたいのところが推測できると思います。

 要は、それぞれ個人レベルの「思考パターン」と「仕事のスタイル」を活かした、異質のメンバーの組み合わせが創造性を発揮する、ということになります。これはアタマで考えているだけでなく、このような演習をつうじて体感するのが納得する早道だといっていいでしょう。

 学生の発言にもありましたが、ホワイト ⇒ グリーン ⇒ イエロー ⇒ ブラック ⇒ レッド ⇒ ブルーという順番は思考の流れとして面白いですね。

 まずは、ファクト(事実)ベースでデータを分析し(=ホワイト)、アイデアを創り出し(=グリーン)、共感する(=イエロー)議論を行ったあと、いったん冷静に問題点を探し出して(=ブラック)から、感情に訴える議論を行い(=レッド)、最後はプロセスを重視した整理を行う(=ブルー)。

 なんだか、日本でいう「起承転結」のような感じもしますね。


最終課題は、「コーヒーの新しい飲み方」
 
 つぎの演習は、最終課題にむけての課題の発表です。

 最終課題は、「コーヒーの新しい飲み方」

 課題は、まずはコーヒーを飲むという経験は何であるか調べつくすこと。ラディカルで常識破りのアイデアを出し、試作品をつくって実際のユーザーに試飲してもらうこと。新しい飲み方を、2分間のビデオでプレゼンテーションすること。

 このための方法論として重要なのが、第2回の授業ででてきた、「Emphathize」(共感)-「Define」(定義)-「Ideate」(考察)-「Prototype」(試作)-「Test」(検証)のサイクルですね。

 このサイクルをアタマにいれたうえで、ゲストとしてよばれた4人のコーヒー好きの人たちに、グループごとに、ゲスト一人について10分間のインタビューを行って、「コーヒーを飲むという経験は何であるか」についての情報収集を行います。グループごとにゲスト3人について合計30分。

 このあと、シーリグ教授から、「コーヒーを飲むという経験は何であるか」については、時間をかけて徹底的に「観察」し、アイデアをつくっていくようにという指示がさされました。とくに、ヘビーユーザーの話を聞くように、と。

 まずは、複数のユーザーの話を「共感」をもって聞くことから始める。これはマーケティングに限らず、問題解決の出発点ですね。これがあってこそ、「問題発見」ができるわけなのです。


シーリグ教授へのインタビューより

 スタンフォード大学の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)で教えているシーリグ教授ですが、一問一答のインタビューでは、もともと人間の脳に関心があって、神経科学で博士号を取得した研究者であることが語られていました。

 スタンフォード大学の教官紹介のウェブサイトをみると、彼女の経歴は以下のようになっています。スタンフォード大学のメディカルスクール(医科大学院)で神経科学(Neuroscience)で博士号を取得後、ブーズ・アレン(Booz, Allen, and Hamilton)ではマネジメント・コンサルタントとして、コンパック(Compaq Computer Corporation)ではマルチメディア・プロデューサーとして働いた経験があるほか、ブックブラウザー(BookBrowser)というマルチメディア会社の創業者でもある。

 神経科学のバックグラウンドがあって、ハイテク業界でマネジメント・コンサルタントの経験があって、自分自身も起業というイノベーションの実践者でもある。こういう経歴が、創造性開発の授業を行う原動力になっているわけですね。

 また、インタビューで強調されていたのは、サイエンスで強調される「発見」と、起業の場で要求される「発明」は同じではない!ということ。「発見」だけでなく、「発明」も大事だと強調するのは、まさに発明(invention)とは創造(create)そのものだからでしょう。おおざっぱにいえば、サイエンスは発見、テクノロジーは発明となるでしょうか。

 シーリグ教授が自分の学生時代のことを回想して、むかしは創造性についてはほとんど重視されていなかったことが語られていました。日本だけではなく、米国でもそうだったのですね。米国だからという創造性が重視されているというわけではないのです。
 
      ................................................

 第1回からずっと一貫してますが、学生たちに課題をあたえて、創造的にものを考えさせる演習のあと、レクチャーでポイントを解説する授業のすすめかたは、きわめてプラクティカルで、アタマにすっと入ってきます。

 なんといっても、自分で考えて試行錯誤する経験を経たあとは、何が重要なのか理解しやすいものですね。


 放送予定は以下のとおりです。いよいよ、全8回の授業の後半に入っていきます。

5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「30分で新製品を作る」
6月5日 (日)第6回 「パズルのピースが足りないとき(仮)」
6月12日(日)第7回 「真っ赤なウソを見破る(仮)」
6月19日(日)第8回 「新しいコーヒー体験(仮)」

 学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組ですね。毎週日曜日の午後6時が楽しみですね!



<関連サイト>

「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)

自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)





<ブログ内関連記事>

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 全8回 が始まりました

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第2回放送-「問題解決」の前に「問題発見」! 急がば回れ!

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第3回放送-「ブレインストーミングには悪いアイデアはない!」




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2011年5月20日金曜日

シェリル・サンドバーグという 「ナンバー2」 としての生き方-今週の Bloomberg BusinessWeek (ビジネスウィーク) のカバーストーリーから



今週の Bloomberg BusinessWeek(ビジネスウィーク)のカバーストーリー(特集記事)は、Why Facebook Needs Sheryl Sandberg (なぜフェイスブックはシェリル・サンドバーグを必要とするのか?) というタイトルです。

シェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)は、「ナンバー2」としてキャリアを積んでいるプロの経営者。経済学者で財務長官とハーバード大学学長を歴任した、ローレンス・サマーズの秘蔵っ子です。

Wikipedia(英語版)の記述によれば、1969年生まれの現在41歳、二人の子持ち。グーグルでは、グローバル・オンラインセールス部門のバイスプレジデントを務め、グーグルのフィランスロピー部門の立ち上げにもかかわっています。グーグルにスカウトされる以前は、米財務省のスタッフ長として勤務した経験をもっています。

今回、フェイスブックの創業経営者であるマーク・ザッカーバーグに口説き落とされて、グーグルからフェイスブックに移籍した経緯については、『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010) にも描かれていました。現在は、フェイスブックの COO(=Chief Operating Officer)として、実務部門のトップとして、CEO(=Chief Executive Officer)であるザッカーバーグのしたで「ナンバー2」の役割を果たしています。

彼女は、グーグルもそうでしたが、若い天才的なハイテク・ベンチャー経営者の下で、大人の知恵でもって経営を回してきた人です。

自分より年上だが経験を積んだ人を経営者として招き、元気があるが未熟なベンチャーに、規律と方向性を植え込んでもらう。この記事にもありますが、米国では今後のトレンドになっていくかもしれません。

またシェリル・サンドバーグのような生き方は、ある意味では経営のプロとしての 「ナンバー2」としての生き方のモデルとなるかもしれません。なお、「ナンバー2」は、英語では second-in-command (副司令官)という表現が使われています。

グーグルとフェイスブックという、IT世界で急速に成り上がってつばぜり合いを演じている巨人の背後にこの人あり、といったところでしょうか。いろんな面からみても、面白い存在ですね。







<関連サイト>

フェイスブックを支えるNo.2、サンドバーグ氏の素顔-急成長のカギを握る絶妙のパートナーシップ
(日経ビジネスオンライン 2012年2月8日 BusinessWeek記事の日本語訳

Why Facebook Needs Sheryl Sandberg (なぜフェイスブックはシェリル・サンドバーグを必要とするのか?)

Wikipedia(英語版)の Sheryl Sandberg にかんする記述

Bloomberg BusinessWeek-知らないうちに BusinessWeek は Bloomberg の傘下に入っていた・・・
・・姉妹編「アタマの引き出し」は生きるチカラだ!に掲載

Sheryl Sandberg on the future of privacy(The Economist Video) (2011年11月30日 追加)

シェリル・サンドバーグ:何故女性のリーダーは少ないのか(Sheryl Sandberg: Why we have too few women leaders)(2012年10月2日 追加)・・ものすごい共感をよんでいるTEDのプレゼンテーション

来日中、FacebookのCOOが語る「女性の社会進出に必要な3つのこと」(ビジネス・メディア 
誠 2013年7月3日)

NHKクローズアップ現代 一歩前へ踏み出そう ~シェリル・サンドバーグさんのメッセージ~(2013年7月9日)

Sheryl Sandberg: So we leaned in ... now what? (16:56 minutes · Filmed Dec 2013 · Posted Jan 2014 · TEDWomen 2013 音声英語・日本語字幕なし)



<ブログ内関連記事>

書評 『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)

書評 『フェイスブック 若き天才の野望-5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた-』(デビッド・カークパトリック、滑川海彦 / 高橋信夫訳、日経BP社、2011)




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2011年5月19日木曜日

書評 『フェイスブック 若き天才の野望-5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた-』(デビッド・カークパトリック、滑川海彦 / 高橋信夫訳、日経BP社、2011)


フェイスブックの創始者に密着取材した本書で、その短いが濃い歴史と基本思想を知る

 今年(2011年)のはじめに映画『ソーシャル・ネットワーク』が公開されたこと、中東・北アフリカのいわゆる「民主化革命」でフェイスブックが大きな役割を果たしたという報道によって、日本でもようやくフェイスブックの普及に火がついてきたようだ。

 だが、日本では先行するミクシィなど、匿名可能な SNS が圧倒的に強い状況であり、日本以外の諸外国とは状況が大きく異っている。この状況はまだまだ続いている。

 本書は、フェイスブックの創始者マーク・ザッカーバークから全面的な信頼を得ることになった、はるか年長の米国人ベテラン・ジャーナリストが、この本の執筆に賭け、背水の陣を布いて、すべてを打ち込んで完成したものである。

 本書の前半は映画にも描かれた草創期から発展期までの短いが凝縮された歴史後半は、フェイスブックの発展を時系列で追いながら、フェイスブックがもつ大きな意味についての考察も行われる。原題が Facebook Effect(フェースブック効果) ということの意味が、後半を読むことで理解できることになる。

 映画『ソーシャル・ネットワーク』はあくまでもエンターテインメント作品と割り切るべきであろう。映画の原作はザッカーバーグ自身の意に反した、本書に描かれたものとは反対側の立場によるものである。映画を先に見てから、本書に描かれた内容と比較しながら読んでみると、その違いがわかって面白い。

 重要なことは、フェイスブックとグーグルとの根本思想の違いだろう。

 画像や動画まですべての情報を一元的に集約し、検索によって情報流通することを意図しているグーグルの思想に対して、人と人との「つながり」(人間関係)のなかで情報が流通することを意図しているのがフェイスブックの思想である。検索が万能の時代は終わり、友人関係をつうじた「つながり」のなかの情報流通が優位性を占めるようになってきたのは、フェイスブックをはじめとする SNS の急速な発展によるものである。

 これは実際にフェイスブックをやってみながら読むと、その意味が体感できる。あくまでも無機質な検索がグーグルであれば、実名主義であるがゆえに人の息づかいまで感じることのできるのがフェイスブックである。

 本書は、フェイスブックの短いが凝縮された歴史をたどりながら、フェイスブックがもつきわめて大きなチカラについて考えるための必読書であるといっていいだろう。

 やや長めの本だが、最後まで読み切る価値がある。フェイスブック関連本では、実用書以外では、本書を読むことを強く薦めたい。



<初出情報>

■bk1書評「フェイスブックの創始者に密着取材した本書で、その短いが濃い歴史と基本思想を知る」投稿掲載(2011年3月9日)
■amazon書評「フェイスブックの創始者に密着取材した本書で、その短いが濃い歴史と基本思想を知る」投稿掲載(2011年3月9日)





目 次

プロローグ
第1章 すべての始まり
第2章 パロアルト
第3章 フェイスブック以前
第4章 2004年、秋
第5章 投資家
第6章 本物の企業へ
第7章 2005年、秋
第8章 CEOの試練
第9章 2006年
第10章 プライバシー
第11章 プラットフォーム
第12章 150億ドル
第13章 金を稼ぐ
第14章 フェイスブックと世界
第15章 世界の仕組みを変える
第16章 フェイスブックの進化
第17章 未来へ
あとがき
謝辞
本書の取材について
訳者あとがき 滑川海彦
解説 小林弘人
参考書籍
参考文献


著者プロフィール

デビッド・カークパトリック(David Kirkpatrick)

フォーチュン誌で長年にわたりインターネットおよびテクノロジー担当編集主任を務める。同誌では、アップル、IBM、インテル、マイクロソフト、サンをはじめとする数多くのテクノロジー企業に関する特集記事を執筆した。2001年に「フォーチュン・ブレーンストーム会議」を創設し、また最近では、人間のあらゆる活動のための技術革新をテーマに「テコノミー会議」を立ち上げた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

滑川海彦(なめかわ・うみひこ)

千葉県生まれ。東京大学法学部卒。東京都庁勤務を経てフリー。IT分野の評論と翻訳を手がける。ITニュースブログ「TechCrunch Japan」翻訳チーム(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

高橋信夫(たかはし・のぶお)

東京都生まれ。学習院大学理学部卒。コンピューター会社勤務を経て、2006年から翻訳、執筆業。「TechCrunch Japan」翻訳チーム。東京農業大学非常勤講師。仮説実験授業研究会会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



*さらに詳しい内容は、http://e-satoken.blogspot.com/2011/04/bp2011.html を参照。このブログの姉妹編「アタマの引き出し」は生きるチカラだ! に、<書評への付記>と<関連サイト>をアップしてあります。




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2011年5月17日火曜日

「カンボジア投資セミナー」 (国際機関日本アセアンセンター)が、2011年6月2日(木)に開催 (入場無料)


    
 みなさん、カンボジアと聞くといまだに自衛隊派遣による PKO活動 という連想をもたれてませんか?

 わたしも都合2回カンボジアにいってますが、PKO終了後の1995年当時と比べると、2008年に国際機関アセアンセンターのミションの一員として再訪したときは、まるで別の国のようになっていたことに驚いたものです。上掲の写真は、ベトナム側から陸路でカンボジアに入国した際のイミグレーションの建物。

 一言でいえば、首都プノンペンにはもう戦乱の傷跡は見いだしにくいだけでなく、高層ビルの建設ラッシュ(!)で、経済は活況を呈しているという印象につきるものでありました。繊維産業や製靴産業、その他とくに不動産には、近隣諸国から華人資本が投下されています。

 プノンペン郊外の工業団地やコンテナ積み出し港のあるシハヌークヴィル(旧 コンポンソム)も訪問しましたが、有望な直接投資先としてカンボジアを検討することも意味があると思うに至りました。
 
 とはいえ、実際に進出するとなると、さまざまな問題があるのは当然のことですね。

 「カンボジア投資セミナー」が、2011年6月2日(木)に開催されます。カンボジアに現地進出を考えておられる方は、ぜひ最新の「投資情報」を知る機会として活用されることを推奨いたします。

 以下に、国際機関日本アセアンセンターによるセミナーの紹介文を転載いたします。


◇◇------------------------◇◇
「カンボジア投資セミナー」のご案内
◇◇------------------------◇◇

日本アセアンセンター、国際協力機構(JICA)、日本貿易振興機構(JETRO)は、カンボジア開発評議会(CDC)と共催で「カンボジア投資セミナー」を開催いたします。本セミナーでは、カンボジアよりソク・チェンダCDC事務局長を招聘し、最新の政治経済状況及び投資環境についてご紹介する他、現地の日本人専門家や進出日本企業の方による投資・ビジネス環境及び事業経験についてのご講演を予定しています。
また本セミナーの翌日には、カンボジアへの進出をご検討中の企業を対象に、JICA専門家他による個別相談会を開催いたします。

日 時  2011年6月2日(木)13:30-16:00 (受付開始13:00)
場 所  ザ・プリンス・パークタワー東京  ボールルーム
     東京都港区芝公園4-8-1 TEL 03-5400-1111 (代)
     http://www.princehotels.co.jp/parktower/access/index.html
通 訳  日英同時通訳付き
参加費  無料


詳細・お申込みはこちらです。
http://www.asean.or.jp/ja/invest/about/eventinfo/2011/2011-05.html

問い合わせ先
国際機関日本アセアンセンター 投資部 TEL:03-5402-8006

皆様のご参加を心よりお待ちしております。

◇◇--------------------------◇◇


 ご興味のある方は、直接お申し込みください。




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2011年5月16日月曜日

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第3回放送-「ブレインストーミングには悪いアイデアはない!」



 NHK・ETVの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。

 まずは教室への「チェックイン」。助手が「どんな一日だった?」とたずね回ります。
 そのあとすぐにウォームアップによるチームビルディング。メンバー全員を巻き込みながら、カラダを動かして肩のチカラを抜いていく。カラダがほぐれれば、アタマの回転と柔軟性はスタンバイ。

 5月15日(日)の第3回「最悪の家族旅行を考える」。公式サイトの説明は以下のとおりです。

 創造性とは何かを具体例から考えていきます。
 創造性の鍵は、常識や思い込みに挑戦することにあります。演習として出題されるのは、最悪の家族旅行を考えること。その最悪の家族旅行を改良し、最高の家族旅行に仕立て直すのです。
 学生たちは、最悪とも言うべき極端なアイデアの中にこそ、常識を覆す創造の種が内包されていることを身を持って実感していきます。

 第3回放送では、これまでのおさらいを簡単にしたあと、ふたたび第1回の「ブレーンストーミング」に戻ります。そのためでしょうか、シーリグ教授のファッションは第1回と同じですね。みなさん気が付きましたか?

 第1回放送のブレーンストーミングでは、「マインドマップ」という思考の整理法が紹介されました、日本で一般的に使われる「KJ法」は、どちらかというとボトムアップ・アプローチですが、「マインドマップ」はキーワードから放射状に思考を発展させていくトップダウン・アプローチですね。それぞれに長所・短所がありあります。

 今回の放送では、ブレーンストーミングででてきたアイデアをどう評価して発展させるか、これが非常に大事なポイントなのです。革新的なアイデアを得るには、正攻法だけでは不十分ということなのです。

 では、どう考えるか?

 それが今回のテーマ「最悪の家族旅行を考える」をめぐる演習です。

 そのココロは、最高よりも最悪のほうがアイデアがでやすい、ひらめきやすい。これはある意味では「思考の転換」なわけですね。人間の思考というのは面白いですね。

 「最悪の家族旅行を考える」という課題、今回もまた演習の方法論としても、興味深いものがあります。

 3~4人でグループをつくって、ホワイトボードの前でまずは、「最高の家族旅行を考える」という課題を、マインドマップの手法を使いながらブレーンストーミングさせます。そして、「いちばん最高だと思う家族旅行」にタイトルをつけさせ、黄緑色の紙に書かせてホワイトボードに貼り付けさせる。所要時間は7分間。ここで、タイトルは文章ではないという注意が入ります。

 つぎに、同じグループで「最悪の家族旅行を考える」という課題で同じことを行います。今度はオレンジの紙にタイトルを書かせます。所要時間は7分間。

 このあと、まずグループごとにキャプテンを決めて、「最高の家族旅行」の発表をさせますが、そのあと黄緑の色の紙をこなごなに破って捨てさせます。かなりシンボリックな行為ですね! こういう演出が重要です。

 そして、隣のグループに促して、「最悪の家族旅行」の紙を取らせます。ここから先の課題は、今回の趣旨である「最悪の家族旅行」を「最高の家族旅行」につくりかえる」という創造性が要求されるプロセスです。所要時間は10分間とちょっと長めにとられています。

 グループごとに1分間の CM としてプレゼンさせるというのも演劇的手法で面白いですね。即興で演じる学生たちには、思わず笑ってしまいました。わたしも米国留学中に、同じくカリフォルニア州にある UC Berkeley で同じようなことをやったなあと思い出しました。

 この演習のポイントは、「違うメガネ」をかけて見ることで「発想の転換」を行うということ。いっけん最悪と見えるアイデアを殺すことなく、最高のアイデアにつくりかえる。とくにこの点は、とかくアイデア・キラーの多い日本では心しなくてはならないポイントですね。方法論として面白い。

 このあと、さらに課題演習が行われます。ファストフード店をとりあげて、その「常識」を項目としてリストアップさせ、そのぞれぞれの項目について「誇張」と「反対」を書き出させ、「誇張」の項目と「反対」の項目からキーワードをひとつづつ選ばせて、そのキーワードを含んだ新しいコンセプトのレストランをつくらせるというもの。これまた創造性が要求される演習です。

 このあとシーリグ教授のレクチャーで、「発想の転換」の重要さについて、学生に例をあげさせながら、本日のポイントがファシリテーション方式でまとめられます。このなかででてきた、サーカス業界におけるシルク・ド・ソレイユの例は、まさに「最悪を最高に変え」た典型といっていいでしょう。

 レクチャーで強調されたのは、発見=創造ではない!ということ。創造とは、アイデアを組み立てるプロセスなのだということ。ブレーンストーミングにでてくるアイデアには悪いものなどないのですね。アイデアを殺してはいけない!

 シーリグ教授が自分の学生時代のことを回想して、むかしは創造性についてはほとんど重視されていなかったことが語られていました。日本だけではなく、米国でもそうだったのですね。米国だからという創造性が重視されているというわけではないのです。

 創造性重視は「The Wind of Freedom Blows」(自由の風が吹く)という、理工系中心で実学の府であるスタンフォード大学には、とくに校風として定着しているのもしれません。
 
 第1回も第2回もそうでしたが、学生たちに課題をあたえて、創造的にものを考えさせる演習のあと、レクチャーでポイントを解説する授業のすすめかたは、きわめてプラクティカルで、アタマにすっと入ってきます。

 なんといっても、自分で考えて試行錯誤する経験を経たあとは、何が重要なのか理解しやすいものですね。

 学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組ですね。

 放送予定は以下のとおりです。

5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「プレゼンはアートだ」
6月5日 (日)第6回 「パズルのピースが足りないとき」
6月12日(日)第7回 「真っ赤なウソを見破る」
6月19日(日)第8回 「新しいコーヒー体験」

 毎週日曜日の午後6時が楽しみですね!



<関連サイト>

「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)

自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)



<ブログ内関連記事>

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 全8回 が始まりました

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第2回放送-「問題解決」の前に「問題発見」! 急がば回れ!




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2011年5月14日土曜日

書評 『ユニクロ帝国の光と影』(横田増生、文藝春秋社、2011)-ユニクロのビジネスモデルを物流という観点から見たビジネス・ノンフィクション


ユニクロのビジネスモデルを物流という観点から見たビジネス・ノンフィクション

 このようなタイトルと内容の本は「ビジネス書」としてレビューされることはあまりないだろう。

 だが、本書はすぐれた「ビジネス・ノンフィクション」である。読んで損はないというよりも、ビジンスパーソンであれば読む価値のある本だといってよい。

 なぜなら、ビジネスパーソンにとっては関心の深いポイントが網羅されているからだ。オーナー企業の本質、ドライな経営と持たざる経営の意味、サプライチェーンからみた経営、スペインのZARAと比較して知るユニクロのビジネスモデルの違いなど、強みと弱みの両面を知ることで、読んでいてアタマの整理になる内容である。

 物流業界紙の記者という経験をもっている著者の視点は、オモテからは見えないが、きわめて重要な存在である物流(ロジスティックス)を熟知していることからくる強みがある。

 著者の名を高めたビジネス・ノンフィクション『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(2005年)では、著者は現場で半年間働くという体験取材をしてアマゾンのロジスティックスの現場の意味を明らかにしている。

 だが、本書ではユニクロの店頭やバックヤードで働くという体験取材を行っていないのが、ちょっと残念な感じもしないではない。もっとも、ユニクロの場合は、アマゾンのようなネットショップというよりも実店舗が中心なので、実際に店舗にいって観察していれば、読者もある程度までは推測することはできるということだろう。

 そのかわりというわけではないだろうが、著者はユニクロの「SPA(製造小売)というビジネスモデル」において重要な意味をもつ中国工場への独自取材を敢行している。

 中国にかんしては、『中国貧困絶望工場』(2008年)の著者アレクサンドラ・ハーニーのコメントも入っているが、中国での委託製造モデルに限界が見えていることは、ユニクロ自身もとうに気がついているはずである。いまの中国の現実は、アレクサンドラ・ハーニーの本が出版された当時よりも、さらに先をいっているからだ。

 著者の取材にはユニクロ会長の柳井正氏自身も応じており、包み隠さず語っている質疑応答の内容は第8章に詳述されており実に興味深い。

 本書全体を読んで、著者の解釈に賛成するか、あるいは違和感を感じるか、ここから先は読者の判断次第である。

 質の高いビジネス・ノンフィクションとして、ぜひ読むことを薦めたい。


<初出情報>

■bk1書評「ユニクロのビジネスモデルを物流という観点から見たビジネス・ノンフィクション」投稿掲載(2011年5月1日)



目 次

序章 独自調査によってメスをいれる
第1章 鉄の統率
第2章 服を作るところから売るところまで
第3章 社長更迭劇の舞台裏
第4章 父親の桎梏
第5章 ユニクロで働くということ 国内篇
第6章 ユニクロで働くということ 中国篇
第7章 ZARAという別解
第8章 柳井正に聞く
終章 柳井を辞めさせられるのは柳井だけだ
主要参考文献
年表

*文庫化に際して 「東京地裁は“真実”と」が加えられた (2013年12月5日 記す)



著者プロフィール

横田増生(よこた・ますお)

1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め経済の水脈とも言える物流から企業を調査・評価するという技術と視点を身につけた。1999年10月にフリーランスに。2005年に発表した『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』ではアマゾンの物流センターで半年間実際に働き、ウェブ時代における労働の疎外を活写して話題になった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。





<関連サイト>

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)
・・姉妹編の「アタマの引き出し」は生きるチカラだ!に掲載


<ブログ内関連記事>

書評 『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(大宮冬洋、ぱる出版、2013)-小売業は店舗にすべてが集約されているからこそ・・・

ドラッカーは時代遅れ?-物事はときには斜めから見ることも必要

書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)





(2012年7月3日発売の拙著です)









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禁無断転載!




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2011年5月11日水曜日

ドラッカーは時代遅れ?-物事はときには斜めから見ることも必要


 「ドラッカー・ブーム」というものがあります。これは出版元であるダイヤモンド社が仕掛けたものですが、今回もこのブームもまた、じつにうまく当たったといっていいでしょう。企画の勝利といってもいいですね。

 今回は、装丁を立派にした全集のような体裁で出版して、まさに「古典」というイメージを全面に出す一方、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海、ダイヤモンド社、2010)、通称『もしドラ』などという、奇想天外な設定の小説も同時にぶつけて、思わぬ(・・いや想定内の?)成功を収めました。

 『もしドラ』の著者の岩崎夏海氏はもともと、作詞家でプロデューサーの秋元康氏の下で、AKB48のプロデュースにかかわっていたらしいですね。AKB48も『もしドラ』も、ヒット商品を作り出す方法論にもとづいた作品なわけなのです。

 ドラッカーそのものは別にして、企画の成功のストーリーとしては実に興味深いものがありますね。

 わたしは前回の「ドラッカー・ブーム」のときに、ドラッカーとは本格的に出会いました。1996年頃ですから、いまから 15年前のことです。

 それまで訳者がバラバラだったドラッカーの著作を、長年ドラッカーを読み込んできた、経団連広報部にいた「上田惇生氏による個人訳で統一」、実に読みやすい日本語になって、「ドラッカー選書」というシリーズのソフトカバー廉価版として出版されました。ただし、訳語については、integrity の訳語など賛成しかねるものもなくはありませんが。

 わたしはこのエディションで、ほぼすべてを持っています(・・上掲写真)。ただし、すべてを読み込んだわけでは、もちろんありません。

 日本でこれだけドラッカーが受け入れられているのは、ドラッカーの経営思想もさることながら、この思想を普及するために、多くの人たちがかかわってきたことも大きいでしょう。

 ドラッカーの生前には、日本の経営者との交流も多く、わたしなどもリアルタイムでそういった対談など読んでいたものでした。第二次大戦後の高度成長期の日本的経営の形成にドラッカーが与えた影響はきわめて大きなものがあったといっても言い過ぎではないと思います。

 ドラッカー自身、無類の浮世絵収集家であったということも、大きいかもしれません。

 ただ、ドラッカーにかんしては、ややシニカルな見方もあることは知っておいて損はないと思います。たとえばこのようなものがあります。


『もしドラ』を肴に語り合ったホリエモンと編集者の対話が面白い

 雑誌 BRUTUS (ブルータス) 2011年 1/15号 「特集 本-2011年、「世の中」を考える175冊。」で、ホリエモンこと堀江貴文(作家・実業家)と宇野常寛(批評家・編集者)が、『もしドラ』を俎上に乗せて、次のようなことを語り合っています。

宇野 『もしドラ』の中心読者と思われる30代サラリーマン男性は、出版業異界ではよく「ビジネス書しか読まない」と揶揄(やゆ)されます・・(略)・・
堀江 でもドラッカーの『マネジメント』なんて、普通ならわざわざ読まないよね。この表紙、とりあえず「萌えキャラ」が売れているから描いておくか、みたいなことないですか?

 『もしドラ』はドラマとしてはよくできていますが、女子高校生がドラッカーの『マネジメント』を読むなんて想定はあまりにも奇想天外という感想をもっている私には、この二人の発言、とくに堀江貴文氏の率直な反応には同感です。

 また、対談の最後では、ふたたびこのように語り合っています。

宇野 最初に言ったとおり、ドラッカーブーム自体はある程度、サラリーマンのヒーリングの側面が大きかったわけですからね。
堀江 ドラッカーなんて20世紀型社会のマネジメント手法だから、いい加減もういいんじゃないの?と僕は思ってしまいますけどね。
・・(中略)・・
堀江 勝手にみんなが自律してやってくれる。僕は、逆にマネジメントなんかしなくてもいい組織が理想なんです。個人が活躍し、また小集団がコラボして、という時代がもう来てるんだと思いますよ。

 「マネジメントなんかしなくてもいい組織が理想」とは、非常にいいことを言っているなと感心します。私はこの二人の言うこと、とくに堀江貴文氏のこの発言には全面的に賛同します。

 ただし、まだまだ理想という段階でしょう。そこまで自立しており、自律して動けるビジネスパーソンはまだまだ少ないのでは?

 先日、最高裁が上告を却下しましたので、「マネジメントなんかしなくてもいい組織」の実践ができなくなったのは、本人にとってはまことにもって不本意なことでしょう。


「ドラッカー・ブーム」について

 ドラッカー好きの経営者といえば、ユニクロの柳井会長をあげる必要があるでしょう。愛読書はドラッカ-で、折りに触れて何度も何度も読み返しては、あらたな気づきを得ているとのことです。

 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)という共著で、大前研一氏は、この柳井氏のドラッカー発言について、かつて講演会でともにしたことが何度もあるといい敬意を表しつつも、1980年以降なぜ米国でドラッカーが読まれなくなったかについて、貴重なコメントを行っています。引用しておきましょう。

ただし、ドラッカー哲学は1980年代に入ると、アメリカの経営トレンドのなかでは次第に人気がなくなりました。なぜなら、実際の経営者は彼が定義する優れた経営者像からはほど遠く、それでいてアップルのスティーブ・ジョブスやマイクロソフトのビル・ゲイツら、ドラッカーの法則に当てはまらない "自由奔放" な経営者が続々と登場したからです。・・(中略)・・ところが賢明なドラッカーはそれをいち早く察知して、経営哲学でお説教するスタイルからイノベーションに方向転換し・・・(後略) (P.106)

 これは、わたしの実体験の裏付けになっています。わたしはちょうど 1990年から2年間、米国の大学院で M.B.A.(経営学修士号)コースにいましたが、その2年のあいだ、ドラッカーの「ド」の字も聞いたことがありませんでした。

 ドラッカー経営思想が米国ではよりも、ここ日本においてこそ定着した理由が、この発言からもうかがうことができると思います。

 つまり、日本では多くの経営者がドラッカー思想を理解し、実践したからこそ、1970年代から80年代にかけての日本がアメリカを打ち負かすまでの勢いをもったのですね。

 いわゆる「日本的経営」の形成に、ドラッカー経営学が与えた思想的な意味合いが大きかったということです。

 ドラッカーはマネジメントという概念をはじめて体系化した古典として読まれていくでしょうが、現実世界では日本的経営もすでに過去のものとなり、ドラッカーも古典となっていったわけです。

 わたしは、ドラッカーについては「経営学者」もさることながら、むしろ非営利組織の経営や、知識社会の考察といった「社会生態学者」としての業績にもっと注目が集まるべきだと考えています。その面でのドラッカーの功績はきわめて大きなものがありますので。





<ブログ内関連記事>

雑誌 BRUTUS (ブルータス) 2011年 1/15号 「特集 本-2011年、「世の中」を考える175冊。」 を読む

書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)
レビュー 『これを見ればドラッカーが60分で分かるDVD』(アップリンク、2010)

書評 『知の巨人ドラッカー自伝』(ピーター・F.ドラッカー、牧野 洋訳・解説、日経ビジネス人文庫、2009 単行本初版 2005)

書評 『馬の世界史』(本村凌二、中公文庫、2013、講談社現代新書 2001)-ユーラシア大陸を馬で東西に駆け巡る壮大な人類史
・・「英国ではイタリアの馬術書の影響が深まるにつれて management(マネジメント)というコトバが生まれたという事実だ。英語の management はイタリア語の maneggiare から派生したそうだが、もともとはラテン語の manus(手)に由来するという。management とは馬を手で扱うことを意味したのだそうだ。経営は馬の世話から始まったのだ!」

(2014年5月11日 情報追加)






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2011年5月9日月曜日

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第2回放送-「問題解決」の前に「問題発見」! 急がば回れ!


 NHK・ETVの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。

 ウォームアップによるチームビルディングそのものが米国流。肩のチカラを抜いてカラダをほぐし、アタマの回転と柔軟性を確保することから始まります。

 5月8日(日)の第2回放送は「名札をめぐる冒険」。公式サイトの説明は以下のとおりです。

 思考の枠組みを再設定する訓練を行います。まず、身の回りのあらゆるもので、ここが不便だ、ここがこうなったらいいのにという改善の余地があるものを挙げ、それをどうすれば実現出来るかを考えてみます。
 その演習として、「名札」の改善を行います。「名札」をもっと良く出来ないか? 学生たちが、新しい形の名札を考えてみます。一歩進んで、名札はそもそも何のためにあるか。要するに自己紹介ツールです。となると、別に名札は札とクリップである必要はなくて、全く別のデバイスで置き換えられるのでは? 斬新なアイデアが飛び出します。

 第2回放送で、「起業家育成コース」らしさが一気に高まってきました。さすが、工学系が中心の総合大学、アメリカ流の「実学」に学ぶものは多い!

 課題を5つ行う演習も方法論として興味深いものがあります。

 二人一組になって、「開発者」と「顧客」の役割をお互い演じる。第1回放送で習った問題整理の手法をつかって、紙のうえで「一人ブレーンストーミング」を行ったうえで、アイデアを具体的なカタチにするために、教室に用意された材料をつかって「試作品」をつくってみる。その際に、技術的な制約はいっさい考慮に入れない。

 見ていると、「マインドマップ」も日本に紹介されているものとは違って、お絵かきにはなっていませんね。非常にシンプルな思考整理の技法として使われていることがわかります。これは映像ならではの発見。

 このプロセスで重要なのは、「問題の定義」。そもそも何が問題なのか、表面上の問題にとらわれずに、この段階を深掘りしておかないと、ピントはずれの解決策がでてしまうわけです。非常に重要なポイント!

 わたしなら、「問題発見」と「問題特定化」という表現を使いたいところです。

 とかく「問題解決」ばかりが重視されがちなのは日本だけではないようです。「問題解決」の前に「問題発見」ということ。「急がば回れ!」ということでしょうか。

 学生たちに課題をあたえて、カラダを使ってモノをつくらせるという演習のあと、レクチャーでポイントを解説する授業のすすめかたは、きわめてプラクティカルで、アタマにすっと入ってきます。

 なんといっても、自分で考えて試行錯誤する経験を経たあとは、何が重要なのか理解しやすいものですね。

 「設計のプロセス」として、「Emphathize」(共感)-「Define」(定義)-「Ideate」(考察)-「Prototype」(試作)-「Test」(検証)のサイクルが重要であることが説明されました。

 「Prototype」(試作)-「Test」(検証)あたりは、PDCA の Do ⇒ Check ⇒ Action と基本的に」同じ流れですね。「Prototype」(試作)⇔「Test」(検証)は、フィードバックのプロセスと捉えるべきですね。

 シーリグ教授が面白いことを指摘していました。「試作品」に時間とカネをかけすぎないこと! 試作段階で完成品を求めないこと! 思い入れを入れすぎないこと! 企業でよくみられる問題だというのは、耳の痛い指摘かもしれません。

 要は試作段階では、顧客の対話をつうじてフィードバックを働かせるということが重要。顧客との対話をつうじて問題を発見し、問題を定義することからすべてがはじまるわけです。

 問題発見(=問題の定義)からはじまる、アイデアを形にするための授業、きわめて実践的でしす。

 学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組ですね。

 放送予定は以下のとおりです。

5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「プレゼンはアートだ」
6月5日 (日)第6回 「パズルのピースが足りないとき」
6月12日(日)第7回 「真っ赤なウソを見破る」
6月19日(日)第8回 「新しいコーヒー体験」

 毎週日曜日の午後6時が楽しみですね!



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「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)

自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)

PDCA (きょうのコトバ)




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2011年5月7日土曜日

NHKのアニメ 『もしドラ』 最終回(5月6日)後に全10回のおさらい-ミッションの重要性と「顧客」は誰か?


 昨夜、NHKのアニメ「もしドラ」の最終回みましたか?

 さて、昨日(5月6日)の放送は、「みなみは高校野球に感動した」というタイトル。

 クライマックスとなる「決勝戦」、ほぼ100%「青春ドラマ」になってましたね。青春ドラマですから、あまり難しいことは考えずに、「感動」に浸るのもまたいいでしょう。さすがに10回もつづけて視聴していると、アタマのなかで「♪夢ノート~」ではじまる主題歌が鳴り響くようになっています(笑)。

 ドラッカーの『マネジメント』に導かれて「やるべきことをやってきた」野球部は、見事に「結果」を出しました。物語の世界、なんといってもハッピーエンドはいいものですね!

 これまでの放送内容を、わたしがつけたサブタイトルをもとに振り返っておきましょう。

第1回放送:ゴール設定の重要性、真摯(しんし)さというマネージャーの資質・・
第2回放送:「組織変革」 と 「インターナル・マーケティング」のドラマ
第3回放送:マネジメントは「ヒト」を中心に!..人的資源と目標管理
第4回放送:イノベーションとはあたらしい価値をもたらす変化のこと
第5回放送:イノベーションという仮説はデータで検証する
第6回放送:「戦略実行」 のカギは 「ヒト」 という経営資源
第7回放送:成果を出すためのプロセスがマネジメント
第8回放送:セルフマネジメントと個人と組織の問題
第9回放送:マネジメントと個人のモチベーション

 とはいえ、甲子園出場を「ゴール」に設定してきた野球部、目的を達成してしまったいま、これからいったいどのような「ゴール」を再設定し、どのような戦いを甲子園で展開していくのでしょうか? 

 キャプテンはインタビュアーの質問に対して、この問いに対して直接に解答はせず、「見る人がしてほしいような野球をやる」といってましたね。

 顧客にマーケティングし、高校野球界にイノベーションをもたらすことを野球部のミッションにしているからこそ、次のゴール設定がに言及しなくて、このような発言をすることができたということができるかもしれません。

 ここで、ミッションの重要性が浮上します。使命感あるいは使命。ここでいっているのは組織としての野球部の使命です。

 このミッションは明文化したものではないにせよ、また理解の度合いがメンバーの間で濃淡の差があるにせよ、ミッションが明確で共有されていれば、組織にはブレがないのです。

 組織にブレがなければ、戦略実行に際してもブレがなくなると同時に、臨機応変の戦術対応も可能となってくるのです。最終回にはセーフティバンドで出塁するシーンがありましたよね。バンドであっても、「ノーバンド、ノーボール」戦略には反していないのです。

 ところで、ふたたび「顧客」というコトバがでてきましたが、ここでいう「顧客」とはいったい誰を指しているのでしょうか?

 正直なところ、わたしからみると、このドラマはこの点が「ツメが甘い」という感じをもたざるをえません。「顧客」が誰を指しているのかはっきりしていないので、どうしても話がまた振り出しに戻ってしまいます。

 外部の顧客にむけてのマーケティングなのか、内部の顧客、すなわ構成メンバーにむけてのインターナル・マーケティングなのか? 

 外部の顧客であれば、野球部を応援してくれる人たちなのか、選手の友人たちや父兄たちなのか、高校のある地域の人たちなのか、高校野球界全体なのか・・・。ステークホールダーという考えを導入すると、顧客が誰かという答えが明確になってくるでしょう。

 いずれにせよ、「顧客の範囲」を明確にしておかないとピンぼけしてしまいます。まずは、すでに明確となっている「顕在顧客」が誰か、まだ明確になっていないがポテンシャルである「潜在顧客」はだれか、この範囲(スコープ)を明確にしておくことも重要です。「~のために」の「~」は誰かといいかえてもいいでしょう。

 「顧客の定義」が明確にならないと、いくら努力しても間違った方向にマーケティグし、ピントはずれのイノベーションをしてしまう危険さえあります。それでは結果がでるどころかチームは空中分解、「何のために」とい本質論からはずれてしまいます。

 高校生がここまで突き詰めてしまうと、ちょっと引いてしまうかもしれませんが・・(笑)。あくまでもドラマですから、それはそれでよしとしておきましょう。

 ドラッカーの『マネジメント』に導かれた野球部のマネジメント革新は成功しましたが、実際にみなさんが自分のいる組織で応用していくためには、重要なコンセプトをひとつひとつ確認して、定義を行っておくことが不可欠です。

 「顧客創造」と、そのためのマーケティングとイノベーション。これがドラッカー経営学のエッセンスですが、「顧客」とは誰をさしているのかの定義、これを抜きにしては、ほんとうのマネジメントはできない、ということは肝に銘じておいてほしいものです。

 おそらく、このアニメはこれから何度も再放送されることになると思いますし、またいろんな機会でディスカッションの材料として取り上げられることもあると思います。

 生きるうえで「素直さ」は大事なことですが、このドラマをみて「感動した!」で終わりにしてしまうのではなく、どんなことであれ疑問をもって、自分のアタマで考え抜いてほしいと、わたしは期待しています。

 もちろん、100人いれば 100通りのものの見方があります。ここに書いたのは、あくまでもわたしのものの見方です。大事なことは、自分がかかわっている組織で「マネジメント」の考えを応用しながら、実践と理論の往復運動をつねに行うこと

 ドラッカーがいうように、「マネジメントは現代人の教養」となるべきものだからです。

 マネジメントを「常識」として受取り、ドラッカーの名前をださなくても実践ができるようになったとき、そのときはじめて「マネジメント」を勉強した甲斐(かい)があったといっていいのではないでしょうか。

 ともに研鑽(けんさん)を積んでいきましょう!

(終わり)






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NHKのアニメ 『もしドラ』 の第9回放送(5月5日)のおさらい-マネジメントと個人のモチベーション


レビュー 『これを見ればドラッカーが60分で分かるDVD』(アップリンク、2010)

書評 『知の巨人ドラッカー自伝』(ピーター・F.ドラッカー、牧野 洋訳・解説、日経ビジネス人文庫、2009 単行本初版 2005)


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2011年5月6日金曜日

NHKのアニメ 『もしドラ』 の第9回放送(5月5日)のおさらい-マネジメントと個人のモチベーション


 昨夜、NHKのアニメ「もしドラ」の第9回放送みましたか?

 さて、昨日(5月5日)の放送は、「みなみは大切なものをなくした」というタイトル。

 クライマックスとなる「決勝戦」を前にして、かなり「青春ドラマ」濃度が濃くなってきました(^^)

 でも、「マネジメント」の観点から、コメントをしておかなくてはいけませんね。 

 決勝戦まで勝ち抜いてこれたのは、奇跡ではなくて、「やるべきことをやったからこそここまできた」という認識が、みなみとじろちゃんのあいだで確認されます。

 ドラッカーの『マネジメント』に書かれていたセオリーどおりにやってきたからこそ。もちろん、そのままストレートに野球部に応用するにはムリがありますが、試行錯誤しながらも、何をどう実行してきたかについては、第1回放送から第8回までの内容を確認していただければ理解していただけることでしょう。

 ところが、いよいよ甲子園出場ができるどうかが決着する決勝戦の前夜に、主人公であるみなみのモチベーションの源泉であった ゆうき が不治の病で亡くなってしまいます。

 物語は、トントン拍子で進行しないで、必ず起承転結の「転」がある。これは、『マネジメント』とは直接関係ありませんが、日本では「物語」作成においては不可欠の作法ですね。経営も、人生もそうですが・・・。

 ここで再び想起されるのは、「結果とプロセスはどちらが重要か?」という問いです。

 「第7回放送のおさらい」を振り返ってみましょう。みなみは、「プロセスよりも結果が重要だ」と、結論だけをクチにしました。

 問いに対する答えの内容もさることながら、なぜそうなのかについて、ドラッカーの『マネジメント』という外部の権威をもちだして説明しただけであり、自分自身の内側からでてきたコトバではない、相手をココロから納得させたのではなく、コトバで押し切っただけだ・・・。そういう後悔というか、反省がみなみにはあったのではないか、そのように受け取っておくべきかもしれません。

 コトバは武器であるが凶器にもなる。「マネジメント」におけるコトバの意味、これもじっくりと考えておきたいものですね。マネジメントはヒトを使って、ヒトを動かすことによって、目的を達成するためのプロセスなのですから。

 ヒトは、コトバと態度によって、モチベート(動機付け)される生き物です。そしてまたコトバを使って反省し、ものを考えることができるのも人間ならではのこと。

 そして決勝戦の直前のこの期に及んで、みなみが直面するのは、「何のために頑張ってきたのか?」、「自分は何のためにいまここにいるのか?」という、大目的をめぐる「そもそも論」です。「~のために」頑張ってきた、その「~」の存在がいなくなってしまったいま、喪失感とともに感じる無意味感。
 
 「そもそも論」は、個人のモチベーションにかかわる根源的な問いですから、そんな簡単に答えがでるような性格ではありません。問いの重さから思わず逃げてしまうみなみですが、ムリヤリ決勝戦という「現場」に引き戻されます。時間をかけてでも、考え続ける必要があるのが「そもそも論」です。大いに悩むべし!

 その答えは見つかるのでしょうか? そのキッカケでも見つかるのでしょうか?

 次回(5月5日)の放送はいよいよ最終回、「みなみは高校野球に感動した」というタイトルです。

 『マネジメント』にしたがって「やるべきことをやってきた」野球部は、「結果」を出せるかどうか? いよいよクライマックスです。今夜の第10回最終回は見逃せませんね。






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2011年5月5日木曜日

NHKのアニメ 『もしドラ』 の第8回放送(5月4日)のおさらい-セルフマネジメントと個人と組織の問題


 昨夜、NHKのアニメ「もしドラ」の第8回放送みましたか?

 さて、昨日(5月4日)の放送は、「みなみはマネジメントのあるべき姿を考えた」というタイトル。

 いよいよ準決勝。「マネジメント」をテーマにしたドラマよりも、青春ドラマとしての色彩のほうが濃くなってきました。ついついメモを取る手を休めて見入ってしまいますが、重要なテーマがいくつか提示されていますので、書き留めておきましょう。
 
 まずは個人レベルのセルフマネジメントについて。日課の重要性。練習後の自主トレを日課にしている星出君の話。

 自主トレが「生活習慣」となると、歯磨きをしないと気持ち悪いのと同様に、自主トレを一日でも休むと気持ち悪くなってくるものですね。

 そして、試合に臨んで自覚する自らの使命(ミッション)、あるいは存在意義(レゾンデートル)。自分は何のために野球をやってきたのか、ここで逃げたら一生後悔するという意識。あえてキャプテンの座を返上して、一選手に徹してきた意味を再確認し、勝負の場に臨みます。

 失敗することの意味。ショートを守っている選手の話。

 「過つは人の性」ではありませんが、エラーをすることじたいは人間である以上、完全にゼロにすることは不可能です。失敗を怖れていては前に進まない。しかし同じ失敗を二回したのでは進歩も成長もない

 すでに起こったことは、事実として受け止めなくてはならないわけですね。その上でどういう行動をとるかが大事です。過去から教訓を得ることは重要ですが、つねに現在と未来をみて行動していかないといけませんね。

 ここまでは個人の問題でした。

 組織として考えなければならないのは、失敗した個人の処遇、個人の失敗経験を、どう組織として捉えるかというテーマです。
 
 昨日の放送のなかでは、エラーを続けた精神力の弱い選手を使い続けるかどうかという、二者択一の選択問題でした。

 このテーマについて、野球部のマネージャーのミーティングで議論が行われます。一通り意見をいわせたあと、監督は多数決の結果ではなく、みなみの意見を取り入れて、決勝戦にもその選手を使うことを決断します。

 なぜ監督はこの決断を下したのでしょうか? 果たしてこの意志決定は正しかったのでしょうか?

 「マネジメントのあるべき姿」とは、いったいどんなものなのでしょうか?

 少なくとも、人的資源が限られているベンチャーや中小企業においては、多少の失敗には目をつむってっても使い続けることになるでしょう。その選択しかないというのが、わたしの経験上の見解です。

 ただし条件があります。組織のバリュー(価値観)に反した行動をとって失敗したのではないこと。たとえすぐれたパフォーマンスを出せる人であっても、チームの和を乱したり、行動原則に反した行動をとる人間には、辞めてやめてもらうことすらあります。

 もちろん、置かれている状況によって、異なる結論がでることもあるでしょう。たとえ使い続けるという決断をしても、当の本人が期待に応えられずに、さらなる挫折を深めてしまうかもしれません。

 これは、けっして簡単に確定した答えのでることのない、永遠に考え続けるべき問題ですね。

 みなさんも、監督の立場になったつもりで、「マネジメントのあるべき姿」について、いろいろ考えてみましょう。

 次回(5月5日)の放送は、「みなみは大切なものをなくした」というタイトルです。

 ドラマもいよいよクライマックスに近づいてきました。今夜の第9回放送が楽しみですね。






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2011年5月4日水曜日

NHKのアニメ 『もしドラ』 の第7回放送(5月3日)のおさらい-成果を出すためのプロセスがマネジメント


 昨夜、NHKのアニメ「もしドラ」の第7回放送みましたか?

 さて、昨日(5月3日)の放送は、「みなみは成果について考えた」というタイトル。

 いよいよ甲子園にむけての予選に突入です。日本の高校野球はトーナメント方式なので、勝ち進まなければその先に進むことができません。ですから、一戦一戦が真剣勝負の連続。この段階で、「仮設検証」などと悠長なことは言ってられません。

 監督が打ち出した戦略は「ノーバンド、ノーボール」、この戦略にはいっさいブレはなし。それに加えて、積極的に攻める野球で高得点を狙ってコールドゲームに持ち込む作戦。まあ、実際は、こんなにとんとん拍子で進撃することはさすがにないと思いますが(笑)。

 ピッチャーの浅野君が、ノーアウト・走者三人状態に追い込まれて、プレッシャーの重圧でぐらついてくるシーンがありましたね。

 しかし、スタンドからの応援の甲斐もあって、「ノーバンド、ノーボール」の戦略を貫いて、ストライクで勝負を続けます。戦術面では臨機応変の対応は必要でも、基本戦略はブレてはならないという教訓が、ここから導き出せるでしょう。

 病院に ゆうき を尋ねた みなみ が、「成果」というものについて論争するシーンがありました。成果が大事か、それとも努力というプロセスが大事かという論争。

 ゆうきが、成果よりもプロセスが大事だと言うのに対し、みなみは、ドラッカーの『マネジメント』を引き合いに出しながら、努力も大事だが結果を出すことが大事で、成果のために働くことこそが重要、過去よりも未来に向けての・・こそが重要なのだと、あえて主張します。

 ドラッカーには『創造する経営者』という日本語タイトルの本があって、原題は Managing for Results というタイトルです。直訳すれば「結果を出すためにマネジメントすること」

 プロセスが重要でないとはけっして言いません。ですが、それはあくまでも結果を出すためにプロセスが重要なのであって、プロセスそのものが重要なのではないことに気がつかねばならない。

 「一生懸命やったのに~」という泣き言(?)はよく耳にしますが、結果を出すためのプロセスが間違っていたのでは、いくら努力してもムダになってしまいます。あくまでも結果を出すことを目的にしないといけないのです。

 ただし、結果が出せないときもありますよね。その時は、十分な反省のうえ、取り組み方を練り直さないといけません。これは PDCA のサイクルですね。プラン⇒ドゥー⇒チェック⇒アクション。計画⇒実行⇒チェック⇒アクション。

 ただ、誤解がないように言っておきますが、成果を出すためのプロセスがマネジメントだといっても、成果主義とはイコールではありません。お間違いなく!

 次回(5月4日)の放送では、「みなみはマネジメントのあるべき姿を考えた」というタイトルです。マネジメントのあるべき姿とは、いったいどんなものなのでしょう?

 今夜の第8回放送が楽しみですね。








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2011年5月3日火曜日

NHKのアニメ 『もしドラ』 の第6回放送(5月2日)のおさらい-「戦略実行」 のカギは 「ヒト」 という経営資源


 昨夜、NHKのアニメ「もしドラ」の第6回放送みましたか?

 さて、昨日(5月2日)の放送は、「みなみは戦略と現状について考えた」というタイトル。

 「戦略」とは何かという説明が、放送のなかではまったくされていませんでしたので、いちおう簡単な定義をしておきましょう。

 戦略とは、ある特定の目標を達成するために、(経営)資源を総合的に運用すること。

 こんなところでしょうか。厳密にいうと、「戦略」と「戦術」は異なりますが、この番組ではそこまで区別することもなさそうですね。あえて区分すれば、「戦略」は大きな方針「戦術」はより細かいレベルにかんする対策と考えておきましょう。

 「戦略」については、すでに前回の第5回放送で、監督が打ち出した「ノーバンド、ノーボール作戦」がそれに該当しますね。「作戦」という名前が入っていますが、これは従来の常識を打ち破る「新機軸」(イノベーション)であり、きわめて戦略的なものであるということができます。

 「戦略」の定義にある「特定の目標」とは、いうまでもなくこのドラマでは、甲子園に出ること!

 ただ重要なのは、戦略は2つにわけて考えなければならないということです。このドラマでは、そこまで厳密に区分していませんが、戦略は「戦略立案」と「戦略実行」の2つにわけることが重要です。

 「戦略立案」は、すでに監督が行い、その有効性についての仮説検証も前回の放送で行われました。

 「戦略実行」、じつはこれが思ったより難しいのですね。

 たとえすぐれた戦略を立案しても、戦略を実行するのは最大の「資源」は「ヒト」です。経営資源であるヒト・モノ・カネのうち、もっとも重要なのがヒト。このドラマでは、野球部員ということになります。

 しかも、野球はチームスポーツで、厳密なルールが決まっていますので、レギュラーメンバーの人選を行い、絞り込む必要がでてくる。これはまさに「人事」の役割です。

 集まりすぎた新入部員候補を絞り込むために主人公のみなみは一対一の面談を行い、何がチームに貢献できるのか、何が志望動機なのかを、一人一人に聞いたうえで、32人の候補を12人に絞り込みました。

 ただし、新入部員が即戦力になるわけではない。すでにレギュラーになっているメンバーから、スターティングメンバー(スタメン)を選ばなければなりません。

 スタメンの選出理由は詳細にはわかりませんでしたが、この選出プロセスはきわめて重要で、かつきわめて難しい。甲子園に出る!という目的から外れてはいけないからです。

 人選は公平な観点から行っています。公平な観点から行い、選出されなかったメンバーの納得を十分に得るものでなければ、チームの結束どころか、分解さえ招いてしまう。

 「戦略実行」の要(かなめ)が、実行の担い手である担当者の人選に大きくかかっていることがよく理解できる内容でした。

 さて、この人選が実際にただしく機能するかどうか?

 次回(5月3日)の放送では、「みなみは成果について考えた 」というタイトルで、その成否が問われることになるのでしょう。

 今夜の第7回放送が楽しみですね。






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2011年5月2日月曜日

「自然エネルギー財団」設立に際して示した、ソフトバンク孫正義氏の 「使命」、「ビジョン」、「バリュー」・・・


 先週、ソフトバンク創業者で会長の孫正義氏が、またあらたなミッションに乗り出しました。

 4月22日、ソフトバンク本社で行われた「自由報道協会」主催の会見で、孫さんは、原子力にかわる「自然エネルギー開発」のために財団つくりのため、私財から 10億円を投じることを発表しました。

 「生まれてきた使命を果たす」ソフトバンク・孫正義氏"自然エネルギー財団"設立 という記事から、その概要を引用しておきましょう。

2011年をエネルギー政策転換の年と位置付け、個人としての寄付10億円で自然エネルギー財団を設立いたします。10億で足りないことはわかっていますが、これはスタートの原資として、世界100名のトップ科学者との意見交換の場を作る。議論のきっかけを作るための財団。シンクタンクのようなもの。自然エネルギー発電にはいろいろある。どれがいいのかはこれから勉強して行く。太陽光発電だが、電気使用のピークは日中。電力の消費量が最も多いときに太陽は出ている。そこに当ててはどうか? 太陽光発電を否定する意見の多くは、曇りや雨のとき、発電出来ないというもの。しかし、天気の悪いときには、火力発電を使えばいい。バッファとして考えている・・(以下略)・・

 先日も、大震災と大津波の被災者のために 100億円の私財と今後の報酬のすべてを提供すると発表して大きな話題をさらった孫さんですが、今回の「新エネルギー財団」構想と私財からの 10億円の資金提供もまた、日本と世界に向けての大きな一歩となることは間違いないでしょう。

 わたしは、趣旨には全面的に賛同します。「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類の歴史にとっては大きな一歩だ」という、はじめて月面に着陸した、アポロ11号のアームストロング船長のコトバも思い出します。

 引き続き、質疑応答の内容の一部を引用しておきましょう。

Q:孫さんの正義感とはどういった言葉の定義?
A:ソフトバンクの長期的な理念は「情報革命で人々を幸せに」それに向けて情報革命を一直線にやってきた。今、日本の人が一番不幸せだとおもっているのが原発問題ではないか。
 究極の選択として、「情報革命」「人々の幸せ」どちらを追い求めるかを選べと言われたら、平時であれば両方追い求める。国難の時に、情報革命だけ追っていればいいのか。それで生まれてきた使命を果たせるのか、正義はあるのか。毎日悩んでいる。お前に政府は動かせるのか、力を過信しているのではと言われる。だけど、できるかできんかわからんけど、やらないかんことがある

 現時点では脱原発は非現実であるとしても、将来的には自然エネルギーで代替させようとというビジョン、これくらいの「大風呂敷」を広げて構想をぶちあげなければ、何も変化しないといっても言い過ぎではないでしょう。日本人が大好きな「改善」ではけっして対応できないのです。

 おそらく、いわゆるエネルギー問題の「専門家」の多くは、非現実的だといて切って捨てるか、無視するかのいずれかでしょう。ですが、「意思あるところ道あり」、現時点ではコスト的な面から非現実的とみえる新エネルギーも、本腰入れて取り組めばまったく実現可能性がないと、いったい誰にいえるのでしょうか?

 もちろん、本人は現時点では否定していますが、エネルギー投資がビジネス的にみても意味あるものであることは、ながく IT業界に身を置いている経営者であれば当然というべきですね。

 膨大な数のサーバー稼働させているグーグルが、早い段階から電力問題解決のために本腰をいれて取り組んでいることはよく知られていることです。この点については、わたしも、書評 『グーグルのグリーン戦略』(新井宏征、インプレスR&D、2010)に書きましたのでご参照いただけると幸いです。

 ビジネスパーソンが、自らのビジネスにまったく縁がなくはない分野で、社会貢献のための投資を行うこと、これはけっして非難すべきことではありません。早い段階での新エネルギー開発のロードマップを示すことができれば、世論も大きく変わっていくことでしょう。

 自らのミッション(使命感・使命・任務)を明確にし、生き様をバリュー(価値観)として態度で示し、壮大な構想をビジョン(将来像)として示して見せる

 営利事業と非営利事業の垣根が低くなり、すべての事業がソーシャル・ビジネスへと収斂(しゅれん)し、進化していく現在、当事者にはいろいろと思惑もあるでしょうが、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を明確にしてこと臨むことが、今後ますます重要になるだけでなく、むしろ Must になるといっても言い過ぎではないでしょう。

 「新エネルギー財団」の活動は、今後も要注目です。


<関連サイト>

「生まれてきた使命を果たす」ソフトバンク・孫正義氏"自然エネルギー財団"設立
・・会見動画とプレゼン資料つき。

エネルギー政策の転換に向けて(2011年4月22日 ソフトバンク株式会社 代表取締役社長 孫正義)・・プレゼン資料

孫正義氏、脱原発財団へ私財10億円(漫画新聞 2011年4月27日)

書評 『グーグルのグリーン戦略』(新井宏征、インプレスR&D、2010)

スリーマイル島「原発事故」から 32年のきょう(2011年3月28日)、『原子炉時限爆弾-大地震におびえる日本列島-』(広瀬隆、ダイヤモンド社、2010) を読む




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