NHK・ETVの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。
すでに授業は第4回目、全8回の授業の前半最後の授業となります。
まずはいつもどおり、ウォームアップから。ウォームアップじたいがチームビルディングになっています。メンバー全員を巻き込みながら、カラダを動かして肩のチカラを抜いていく。カラダがほぐれれば、アタマの回転と柔軟性はスタンバイ。
今回(5月22日)のテーマは「6色の考える帽子」。公式サイトの説明は以下のとおりです。
個人の創造性を、チームの創造性へと展開するノウハウを学びます。
「小さな家族経営のお店が大型チェーン店と競合するには、どうしたらいいか」を題材に「6つの考える帽子」の練習を行います。白い帽子をかぶった人は情報、赤い帽子をかぶった人は感情、黄色い帽子をかぶった人はメリット、黒い帽子をかぶった人はデメリット、緑色の帽子をかぶった人は斬新なアイデア、青い帽子をかぶった人は全体のまとめ、とそれぞれ考え方の役割を分担するやりかたです。
学生たちは、これらの帽子をかぶった気になって思考モードを切り替えていきます。
「6色の考える帽子」とは「6 Thinking Hats」のこと。エドワード・デ・ボノ博士による「創造性開発メソッド」ですね。わたしには、なんだか懐かしく感じられました。現在でもつかわれているのか、と。
ちなみにデ・ボノ博士は、1933年にマルタ島に生まれた創造性開発の研究家で実践家です。日本では、『6色ハット』と題して、「英語道」で有名な松本道弘氏が1986年にダイヤモンド社から翻訳出版しています。。くわしくは wikipedia の Edward de Bono の項目を参照してください(・・おそらく、日本では知る人も少なくなったからでしょうか、wiki には日本語による説明はありません)。
まずは、事前におこなわれた診断テスト結果に基づいて、授業に参加する学生のそれぞれが、帽子につけるリボンの色で仕分けされます。これは思考にあたって、何が重視されるかをみる性格テストのようなものですね。
色は、グリーン、ホワイト、ブルー、イエロー、レッド、ブラックの 6色。ほんとうは、この色にあわせた帽子も用意できればベストでしょうが、さすがにそこまではできないので、ピンク色の三角帽子(・・なんだかチベットの高僧の帽子のようですが)にリボンをつけるという形で代替していました。
それぞれの色は、以下のような個人レベルでみた「思考パターン」や「仕事のスタイル」を表現しています。
●グリーン:創造性でリードする アイデアを創り出す
●ホワイト:事実を重視 データ好き
●ブルー:プロセス重視、段取りが好き
●イエロー:和を重んじる 楽観的
●レッド:感情で人を動かす 情熱的
●ブラック:ダメだし屋 問題点を指摘
スタンフォードで起業を勉強しようという学生ですが、意外と「イエロー」が多いのは少しオドロキでした。理工系の学生が中心なので、「ホワイト」が多いのではと思ったのですが、かならずしもそうではないようです。起業しようというマインドセットの持ち主は、常識とは少しちがうのでしょうか?
さすがに「ブラック」は少なかったですが、シーリグ教授は、スタンフォード大学の教官には「ブルー」のタイプが多いと言ってましたが、経営コンサルタントは「ホワイト」と「ブルー」に分類されるのかもしれません。
このように、個人レベルの思考パターンを「6色ハット」で目に見える形にすることは、近年の流行りコトバでいえば、「見える化」あるいは「可視化」ですね!
ところで、今回のシーリグ教授のファッションは「グリーン」のセーター姿。本人も言及していましたが、これもまた「見える化」という演出ですね。
カラーコーディネートの理論もふまえた「6色ハット」、その意味を考える一端として、今年は節電のためクールビズが前倒しになっていますが、女性であれば勝負服、男性であれば勝負ネクタイが「レッド」ということも思い出してみるといいでしょう。
次回の第5回からは、後半に入って「最終課題」に取り組むことになりますので、最終課題に取り組むチームとして固定化されることになります。4人1組のチームには、それぞれ可能なかぎり、リボンの色の異なるメンバーが組み合わされています。
■「6色ハット」をつかった演習
今回の演習は2つ。まずは「6色ハット」の色ごとに思考パターンを変えてみるという演習。4人1組で「小さな家族経営のお店が大型チェーン店と競合するには、どうしたらいいか」というテーマで、グループ・ディスカッションが行われます。
この演習のポイントは、「6色の異なる帽子」をかぶって見ることで「発想の転換」を行うということ。
色の順番は、ホワイト ⇒ グリーン ⇒ イエロー ⇒ ブラック ⇒ レッド ⇒ ブルー になります。そのあと、それぞれが「自分がいちばん嫌いな色」で議論、そして最後に「自分がいちばん好きな色」で議論する。
このあと学生からさまざまな「気づき」が述べられていましたが、あえて書かなくても、今回の趣旨を考えれば、だいたいのところが推測できると思います。
要は、それぞれ個人レベルの「思考パターン」と「仕事のスタイル」を活かした、異質のメンバーの組み合わせが創造性を発揮する、ということになります。これはアタマで考えているだけでなく、このような演習をつうじて体感するのが納得する早道だといっていいでしょう。
学生の発言にもありましたが、ホワイト ⇒ グリーン ⇒ イエロー ⇒ ブラック ⇒ レッド ⇒ ブルーという順番は思考の流れとして面白いですね。
まずは、ファクト(事実)ベースでデータを分析し(=ホワイト)、アイデアを創り出し(=グリーン)、共感する(=イエロー)議論を行ったあと、いったん冷静に問題点を探し出して(=ブラック)から、感情に訴える議論を行い(=レッド)、最後はプロセスを重視した整理を行う(=ブルー)。
なんだか、日本でいう「起承転結」のような感じもしますね。
■最終課題は、「コーヒーの新しい飲み方」
つぎの演習は、最終課題にむけての課題の発表です。
最終課題は、「コーヒーの新しい飲み方」。
課題は、まずはコーヒーを飲むという経験は何であるか調べつくすこと。ラディカルで常識破りのアイデアを出し、試作品をつくって実際のユーザーに試飲してもらうこと。新しい飲み方を、2分間のビデオでプレゼンテーションすること。
このための方法論として重要なのが、第2回の授業ででてきた、「Emphathize」(共感)-「Define」(定義)-「Ideate」(考察)-「Prototype」(試作)-「Test」(検証)のサイクルですね。
このサイクルをアタマにいれたうえで、ゲストとしてよばれた4人のコーヒー好きの人たちに、グループごとに、ゲスト一人について10分間のインタビューを行って、「コーヒーを飲むという経験は何であるか」についての情報収集を行います。グループごとにゲスト3人について合計30分。
このあと、シーリグ教授から、「コーヒーを飲むという経験は何であるか」については、時間をかけて徹底的に「観察」し、アイデアをつくっていくようにという指示がさされました。とくに、ヘビーユーザーの話を聞くように、と。
まずは、複数のユーザーの話を「共感」をもって聞くことから始める。これはマーケティングに限らず、問題解決の出発点ですね。これがあってこそ、「問題発見」ができるわけなのです。
■シーリグ教授へのインタビューより
スタンフォード大学の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)で教えているシーリグ教授ですが、一問一答のインタビューでは、もともと人間の脳に関心があって、神経科学で博士号を取得した研究者であることが語られていました。
スタンフォード大学の教官紹介のウェブサイトをみると、彼女の経歴は以下のようになっています。スタンフォード大学のメディカルスクール(医科大学院)で神経科学(Neuroscience)で博士号を取得後、ブーズ・アレン(Booz, Allen, and Hamilton)ではマネジメント・コンサルタントとして、コンパック(Compaq Computer Corporation)ではマルチメディア・プロデューサーとして働いた経験があるほか、ブックブラウザー(BookBrowser)というマルチメディア会社の創業者でもある。
神経科学のバックグラウンドがあって、ハイテク業界でマネジメント・コンサルタントの経験があって、自分自身も起業というイノベーションの実践者でもある。こういう経歴が、創造性開発の授業を行う原動力になっているわけですね。
また、インタビューで強調されていたのは、サイエンスで強調される「発見」と、起業の場で要求される「発明」は同じではない!ということ。「発見」だけでなく、「発明」も大事だと強調するのは、まさに発明(invention)とは創造(create)そのものだからでしょう。おおざっぱにいえば、サイエンスは発見、テクノロジーは発明となるでしょうか。
シーリグ教授が自分の学生時代のことを回想して、むかしは創造性についてはほとんど重視されていなかったことが語られていました。日本だけではなく、米国でもそうだったのですね。米国だからという創造性が重視されているというわけではないのです。
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第1回からずっと一貫してますが、学生たちに課題をあたえて、創造的にものを考えさせる演習のあと、レクチャーでポイントを解説する授業のすすめかたは、きわめてプラクティカルで、アタマにすっと入ってきます。
なんといっても、自分で考えて試行錯誤する経験を経たあとは、何が重要なのか理解しやすいものですね。
放送予定は以下のとおりです。いよいよ、全8回の授業の後半に入っていきます。
5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「30分で新製品を作る」
6月5日 (日)第6回 「パズルのピースが足りないとき(仮)」
6月12日(日)第7回 「真っ赤なウソを見破る(仮)」
6月19日(日)第8回 「新しいコーヒー体験(仮)」
学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組ですね。毎週日曜日の午後6時が楽しみですね!
<関連サイト>
「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)
自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)
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