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2011年9月30日金曜日

日本のスシは 「ハラール」 である!-増大するムスリム(=イスラーム教徒)人口を考慮にいれる時代が来ている


 マリナーズのイチロー残念でしたね! メジャーリーグでの、11年連続200本安打の「記録」達成はついに実現しませんでした。というわけで、わたしも便乗して 「休肝日7日連続」 は昨夜で打ち止めです(笑)

 「禁酒」といえばイスラームが思い浮かびますが、それ以外にも食事にかんする制限が多々あります。もっとも有名なのは、ブタ肉はダメだとか。これを「ハラール」といいます。イスラーム法コンプライアンスのことです。

 味の素のことをインドネシア語で Masako(マサコ)といいますが、2000年にインドネシアで大問題になったのは、味の素を製造するプロセスで、ブタ肉に由来する触媒が使用されているのではないかという疑惑から風評被害が広がったこと。最終的には、これが単なるウワサで、じっさいに豚肉エキスは使用されていないことが判明しましたが、イスラーム世界では、これほどさようにハラールについては気をつけなければならないのです。

 『岩波イスラーム辞典』(岩波書店、2002)の「ハラール」にかんする説明を引用しておきましょう。

イスラーム法的に合法な食品。とくに肉および肉製品についていう。イスラーム法では天然の食物は原則としてハラール(合法)であるが、豚肉、死肉、偶像に捧げられた動物の肉、血などが禁じられている。牛、羊、鶏等についてはアッラーの名において屠り、血抜きをすることがイスラーム法で決められている。・・(中略)・・現代では非イスラーム圏からの食料品輸入の増加によって、しばしば輸入品についての疑義が呈される事態となっている。・・(後略)・・」(小杉泰)

 とくに問題になるのは、ブタ肉とアルコールです。ですから、醸造に際してアルコールを使用している醤油は、ハラール的にはアウトです。

 「日本のスシは「ハラール」である!」。

 はい、そうなんです。スシは安心してイスラーム教徒も食べることができる「ハラール」認定食品。上記の引用文を読んでいただければ御理解いただけると思います。

 上掲の写真で、スシの入ったガラスケースの右上に張ってあるのが「ハラール認定マーク」です。これは、じつは仏教国タイの首都バンコク市内で撮影した写真です。

 東南アジアでは、世界最大のムスリム人口のインドネシアやマレーシアだけではなく、タイのような仏教国でもムスリム(=イスラーム教徒)人口が一定の割合で存在するので、「ハラール認定食品」のニーズがひじょうにつよくあります。

 東南アジア市場全体を考えると、ムスリム向けと非ムスリム向けをいちいち区分するのは、「規模の経済」 からいって面倒なので、多くの食品会社が「ハラール認定」を取得して、仏教国タイでも、ハラール認定済みの食品を販売しています。合理的な意志決定といえるでしょう。

 というわけで、イスラームという観点にたつと、「日本の常識は世界の非常識」(竹村健一)といっても言い過ぎではありません。

 ところで、「日本国内にはハラール認定の寿司屋があるかどうか?」という質問を読者からいただきましたが、日本国内での認定については、わたしはよくわかりませんので、「NPO日本ハラール協会」にお問い合わせいただくのがよろしいかと思います。  

 先にも書いたように、スシでハラール認定をとれても、醤油でアウトになる可能性もあります。なかなか難しいですね!

 「なんでもあり」の日本人からみれば、面倒といえば面倒ですが、増大傾向にあるムスリム人口のことを考えたら、ビジネス関係者としては、イスラームとハラールを知らないというわけにはいかなくなるでしょう。






<関連サイト>

「NPO日本ハラール協会」

「タリバン幹部と鍋を囲みました」 内藤正典 同志社大学大学院教授に聞く (日経ビジネスオンライン 2013年10月4日)
・・「ハラール認証は必須ではないと考えています。マレーシア政府が「ハラール認証を取らないとお客さんが来ませんよ」といったプレッシャーを日本企業に与えるのはおかしい。そもそも、イスラムは国家を超越して成り立っています。ある国家が、ある食品がハラールであるかないかについて審査するという考え方はイスラムに馴染みません。」 認証を取らなくても対応方法はあるようだ

そのハラル、大丈夫?マーク発行団体が乱立 一歩間違えば国際問題に発展しかねない (東京経済オンライン、2014年7月12日)
・・「ハラルをうたいながらハラムを提供されることは・・(中略)・・日本人の想像以上に、ムスリムにとって大変な凶事に当たる」  ⇒ 深刻に受け止めよ!

日本はイスラム圏の観光客を呼び込めるか 飲食店が直面する「ハラール食」への希望と高い壁 (樋口直哉、ダイヤモンドオンライン、2014年9月25日)

(2014年7月13日、9月25日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

「マレーシア・ハラール・マーケット投資セミナー」(JETRO主催、農水省後援)に参加

タイのあれこれ (18) バンコクのムスリム






(2012年7月3日発売の拙著です)








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end            

2011年9月29日木曜日

「タイビジネスミッション 2011年11月」 (BOI:タイ投資委員会主催)のご案内


 「タイビジネスミッション 2011年11月」 (タイ投資委員会主催)が実施されます。

 今回の現地視察ミッションは、BOI大阪事務所が主催ですが、成田空港からも名古屋空港からも参加可能ですのでご安心ください。

 BOI とは Board Of Investment の略称で、直接投資にかんする許認可を付与するタイ王国の政府機関です。

 タイ王国に進出をご検討の方は、まずはこのミッションに参加されることを強くお奨めします。以下に、概要をそのまま転記しておきます。


◇◇---------------------------◇◇
「タイビジネスミッション 2011年11月」(タイ投資委員会主催)の
ご案内

◇◇---------------------------◇◇

 今年12月5日に国王陛下は84歳のお誕生日をお迎えになります。このおめでたい年をお祝いするためタイ投資委員会(BOI)はBOI FAIR 2011を開催することになりました。
 この博覧会ではタイのトップ企業や国際的な大企業はじめ各産業から多くの企業が出展して最新技術を紹介します。また、環境にやさしい製造技術は産業全体の更なる発展を後押しするためにも特に重点的に取り上げられております。
 つきましては、BOI大阪事務所および東京事務所はBOI FAIR開催時期に合わせてバンコクでビジネスミッション(2011年11月14日-19日)を実施します。
 このミッションは、海外進出あるいは海外取引をご検討中の日本の投資家の皆様に取りましてはタイの産業の実力と可能性をご覧いただけるよい機会です。
 さらに、同会場ではBOIとタイの各業界が連携して皆様のニーズ(合弁先、委託先、部材調達先、市場開拓など)に合わせたローカル企業とのビジネスマッチングやBOI担当官による個別相談の場もご用意しております。
 その他、ミッションプログラムは、外国人による会社設立、労働法規、税務、BOI奨励による恩典、ビザ・就労許可申請に関するセミナーや既進出企業による体験談、ローカル企業工場見学、工業団地視察、Thai METALEX 2011展見学など充実した内容で構成されております。

日時:2011年11月14日-19日
場所:タイ、バンコク
主催:タイ投資委員会(BOI)


詳細は、添付PDFファイルをご覧ください。

お申込みはこちらです。
http://intranet.boi.go.th/osaka/index.php?id=BOI


皆様のご参加を心よりお待ちしております。

◇◇---------------------------◇◇


 わたしがこのミッションへの参加を推奨する理由は、以下のとおりです。

 何といっても第1に、実際に進出するに際して各種の特典を付与する主体である BOI(タイ投資委員会)の主催であること。

 第2に、訪問先には現地進出日系企業が含まれており、自分でアポをとる必要がないこと。また、BOI をはじめとしてタイ王国の関連政府機関への訪問が組み込まれていること。

 第3に、宿泊先が高級ホテルであるにのかかわらず、政府機関の主催であるので、往復の航空運賃を含めた参加費が格安なこと。

 第4に、バンコク市内と郊外の工業団地とのあいだの移動(・・けっこう距離はあります)がすべて大型バスになるので、自分で交通機関を手配する必要がないこと。

 第5に、出発の空港から BOI の日本人スタッフも同行するので、コトバの問題含めて心配いらないこと。


 とくに、海外進出がはじめての方にはうってつけのミッションであるといっていいでしょう。





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注意! 大洪水の影響で「BOI FAIR 2011」が来年1月に延期されたことにともない、ビジネスミッションも延期の見通しのようです。最新情報の入手次第またお知らせいたします(2011年10月20日)


             


          

2011年9月27日火曜日

「個人と組織」の関係-「西欧型個人主義」 ではない 「アジア型個人主義」 をまずは理解することが重要!


 「日経ビジネスオンライン」に「3・11以降「自分の生活は自分で守る」が78%-日経ビジネスオンライン読者2167人が答える-」という記事がアップされています。

 内容は、「日経ビジネスオンライン」の読者へのアンケート調査結果です。


 一部を抜粋して見てみましょう。

- 66.4%が「国や政治は頼りにならない」を選択
- 24.4%、つまり4人に1人が「会社など組織に頼らない生き方について考えるようになった」

 基本的に「日経ビジネスオンライン」の読者は、知的レベルが高く、向上意欲も比較的高い人が多いと思います。

 ですから、「国や政治は頼りにならない」と思う人が増えたのは当然でしょう。これは「日経ビジネスオンライン」の読者とは想定されていない、小さな子どもをもつ母親たちのほうが高い数字がでるかもしれません。

 「会社など組織に頼らない生き方について考えるようになった」。意外に高い数値がでたと記事の筆者は感想をもらしています。そうかもしれません。

 しかし、わたしからみれば、ようやくこれで日本人も目覚めてきたか(!)という感想をもちます。

 というのは、これは、日本以外ではじつはアジアでは当たり前のことなのです。「国や政治は頼りにならない」、「会社など組織に頼らない」のは当たり前なのです。

 とかく日本人は、欧米は個人主義だ!という固定観念に基づく「常識」を振り回しがちですが、中国やインドはもちろんのこと、タイでもベトナムでも基本的に個人主義が当たり前です。

 もちろん、個人主義者の中国人には中国人なりの人間関係の仕組みがありますし、インド人もまた同様です。仏教徒のタイ人すら個人主義です。個人主義と家族主義が両立しているのです。

 重要なのは、個人が中心でそのまわりに家族があるのが基本中の基本ということです。そしてそのまわりに一族がある。つまり、まずは「個人があって、組織がある」という考えが当たり前なのです。図式的にいえば、「個人(≑家族)>組織」という不等式の関係ですね。

 日本人のように、「個人よりも組織」という心情は生まれようもないというのが当たり前なのです。ですから、欧米とは異なる意味の個人主義なのですが、組織との関係でいえば個人主義であることにはかわりありませんん。

 あくまでも自分が主体、そのうえで自己実現を組織で図っていくというのが、「個人と組織」のいい関係なのではないでしょうか? ようやく日本人もこの方向に進みつつあるのかと思うと、わたしとしては感慨深く思うものがあるのです。

 ただし、誤解してほしくないのは、「個人主義=利己主義」ではない(!)ということです。あくまでも「自分」が主体として考え、行動する人間が世界標準だといいたいのです。

 日本的な美質は保持しながらも、日本は世界のなかでは非常識なのだ、ということしかとアタマのなかにたたき込んでおいていただきたいと思います。

 これが、日本以外の国で成功するための最低条件であり、その経験をまた日本にフィードバックして、自らの「個人と組織の関係」を見直してほしいと思うのです。



<ブログ内関連記事>

■中国人の「個人主義」

ひさびさに宋文洲さんの話をライブで聞いてきた!-中国人の「個人主義」について考えてみる
・・さらに加えて、孫文の『三民主義』や『小室直樹の中国論』をてがかりに中国人の個人主義について考えてみる

書評 『中国市場で成功する人材マネジメント-広汽ホンダとカネボウ化粧品中国に学ぶ -』(町田秀樹、ダイヤモンド社、2010)-グローバル・マネジメントにおける人材マネジメントについて

「修身斉家治国平天下」(礼記) と 「知彼知己者百戦不殆」(孫子)-「自分」を軸に据えて思考し行動するということ

■インド人の「個人主義」

書評 『巨象インドの憂鬱-赤の回廊と宗教テロル-』(武藤友治、出帆新社、2010)


モンゴル人の「個人主義」

書評 『朝青龍はなぜ強いのか?-日本人のためのモンゴル学-』(宮脇淳子、WAC、2008)-モンゴルという日本人にとっての「異文化」を知る上で、信頼できる手頃な入門書


■タイ人の個人主義

タイのあれこれ (20) BITECという展示会場-タイ人の行動パターンと仕事ぶりについて
・・タイ人もまた「個人主義」

今年も参加した「ウェーサーカ祭・釈尊祝祭日 2010」-アジアの上座仏教圏で仕事をする人は・・

「3-11」後の個人の価値観の変化に組織は対応できていますか?-個人には「組織からの退出」というオプションもある




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2011年9月23日金曜日

「3-11」以後も「有事」は続いている-政府債務の国際比較から日本財政の現状を直視しよう


 The Economist(エコノミスト誌)最新号の記事に掲載されている「政府債務の国際比較のグラフ」です

 ご覧になっていただけばわかるように、日本がギリシアを抜いてダントツの一番になっています。   

 グロス(=総計)の数字でネット(=正味)の数字ではないとはいえ、GDPの2倍(!)を越えているのは日本だけ

 内訳でみれば、グラフに表示されている先進国13カ国のなかでは、海外債務比率が量的にも比率的も最小とはいえ、債務の規模が大きすぎるのが不安材料であることにかわりないですね。

 だからといって、いますぐに増税するのは賛成ではありません。デフレ状態のなかでは、まずは需要を喚起して景気をよくすることが先決だからです。ムダをなくすための努力を「見える化」してもらわないと、国民が増税にNOと言うのは明らかでしょう。

 しかし政府がまた何も決められずにフラフラしていると、なにか非常事態が発生したときのマーケットの反応が恐ろしい。問われているのは、日本政府自身のガバナンス能力なのです。

 「3-11」の大規模自然災害と原発事故という人災が、財政面ではさらに問題を大きくしていることは言うまでもありません。そのうえ、台風による水害や土砂崩れも続いており、今年2011年はまさに天変地異が連続して発生しています。すでに地震の活動期に入ったとみられており、財政に与える悪影響はとどまるこおてゃないでしょう。

 ところで、チェルノブイリ原発で事故が起こったのは1986年、その5年後の1991年にソ連は崩壊しました。福島第一で事故が起こったのは2011年、その5年後の2016年には...。いや、あまり考えたくないことですね。しかし論者によっては 2015年までには「国債暴落」も可能性としてありうると想定している人もいます。

 歴史をひもとけば、第二次大戦で敗戦した1945年時点の日本の政府債務(=国債発行残高)は、GDPのなんと3倍(!)でした。その後、日本政府が日本国民に対する借金をどのように踏み倒したか、歴史的事実をよく検証してみることが必要でしょう。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というではありませんか。

 1946年(昭和21年)には、預金封鎖(=引き出し制限)と新円切り換えで日本政府は借金を踏み倒しました。財務省(=旧大蔵省)には前例があるのです。同様の手法は、北朝鮮もミャンマーも断行しています。

 すでに「平時」ではないという「有事」という認識をお持ちのことと思いますが、国家財政の危機はマクロ経済要因として、ミクロの経済生活にも跳ね返ってきます

 企業も、個人も「有事対応」への備えが必要になっていると認識すべきでしょう。





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2011年9月21日水曜日

経営計画の策定と実行は、「自力」と「他力」という仏教の考えをあてはめるとスムーズにいく



 いまNHKのEテレで「100分 de 名著: ブッダ『真理のことば』」をやっています。各回25分の番組が全4回で100分。100分で名著のさわりを読んでしまおうという番組です。

 ブッダ『真理のことば』の放送は9月7日から毎週一回。ゲスト講師は、佐々木閑・花園大学国際禅学科教授です。

 昨日(9月21日)は「第3回 執着を捨てる」。番組内容案内を引用させていただきましょう。

人は様々なものに執着して生きている。しかし執着が過度に強くなると、家族や財産といった、本来幸せをもたらすはずのものも、自分の思い通りにならないことにいらだち、苦しみを感じてしまう。ブッダは、自分勝手な執着をいましめるとともに、自分の教えについても、過度に執着してはならないと説いた。そして、自分を救えるのはあくまでも自分自身であり、自分の心を正しく鍛えることによって、心の平安を得ることが出来るとした。第3回では、依存ではなく、心の自立を説いたブッダの思想について考える。

 「執着」を捨てよと説く仏陀の教え、なかなかそのとおりに実行するのは難しいのですが、これが実行できるようになってくると(・・わたしもまだまだですが)、仕事もスムーズに回るようになってくると思います。これは実感です。

 昨日はそのまま TV を消さずにチャンネルも変えずにいたところ、Eテレでは「仕事学のすすめ」という番組をやっていたので見てしまいました。「伊藤真“司法試験流”知的生産術 第3回」。司法試験の受験にかんする第一人者である伊藤真氏の司法試験合格のための受験術、これは見てしまうでしょう。もちろん、わたしは司法試験は受験したことも、これからするつもりもありませんが(笑)

 番組内容を紹介しておきましょう。

司法試験を受ける生徒たちに、まず合格体験記を書かせるという伊藤真は、常にゴールを見定め、計画を立てることが重要だと語る。そのポイントは「必ず何もしない休養日を立てる」「スケジュールを定期的に見直しする日を設ける」など。また、1日のタイムスケジュールを10分単位で見直し、時間をやりくりすることも大切だという。実例を交えつつ、まさに“目からウロコ”の伊藤の時間管理術のノウハウを紹介する。

 「執着」するなというブッダの教えを聞いたすぐあとに、この「時間術」の番組を見ていて思ったのは、スケジューリングと実行の関係も、「執着」しないということを念頭におくとスムーズにいくのではないかと思った次第です。

 司法試験に合格するためには、まず自分が合格しているイメージを具体的に思い描き、それを「合格体験記」という形で書かせるというメソッド。これをブレイクダウンして二年間の学習計画をスケジュールとして作成し、2週間に一回のカウンセリングで見直しを行う。

 これは経営戦略策定において、長期目標としてビジョンを設定し、ビジョンをブレイクダウンして経営計画を作成し、実行させるメソッドと同じですね。しかも、PDCAサイクルが見事なまでに織り込まれています。

 伊藤氏は「ビジョン」というコトバは使っていませんが、私流に翻訳するとそうなります。なぜなら、ビジョン(vision)というコトバのもともとの意味はイメージであり視力のこと。ビジュアルなイメージを想起することはビジョンそのものなわけだからです。ビジョンは数字である必要はありません。

 とはいいながら、スケジュールを立てたものの、なかなかそのとおりには実行できないもの。そのとき最初にたてたスケジュールに絶対にしがみつくという「執着」を捨ててマイナーチェンジをしていけばいい

 あるいは、最初から完全に実行できないことを織り込んで、「遊び」の時間を入れておくこと。これは機械設計の世界においても「公差」(tolerance)として、あらかじめ許容しておくのと似ているかもしれません。tolerance は直訳すれば「寛容」です。

 さらに仏教がらみでいうと、スケジューリングと実行の関係は、「自力」と「他力」の関係に似ているような気もします。

 スケジュールを作成することと、それに従って実行するプロセスは「自力」の要素が強いのは言うまでもありません。
 
 しかし、実際はかならずしもスケジュールどおりに実行できるわけではない。それは、「自分」を取り巻く「外部環境」は、「自分」で完全にコントロールすることなどできないから。いいかえれば、「外部環境」では「他力」が働く要素がひじょうに大きい。自分が意図するのとは違う、コントロール不可能なチカラのことを「他力」といっておきましょう

 現代に生きるわれわれにとっては、「自力」と「他力」のバランスが必要だということでしょう。自分のチカラで「コントロール可能な部分」と「コントロール不可能な部分」のバランスといってもいいでしょう。

 欧米流の思考では、どうしても環境をコントロールするという発想が優先されがちですが、それでは思うようにいかないものです。自然を征服し克服しようとした岩手県田老(たろう)町につくられた世界一に防潮堤も、「3-11」の大津波ではあっという間にあっけなく決壊してしまいました。何ごともコントロールしてしまおうとしう「自力」には限界があるのです。

 意思のチカラはきわめて大事ですが、しかしそれだけで世の中が動いているわけではないということ。無理に通そうとしてもうまくいかないことが、脱力すればひとりでにうまくいってしまうことも多い。不思議といえば不思議ですが、世の中はこういうものであるのは、実感できることでありますね。

 日々の活動においても、経営においても、コントロール可能な部分とコントロール不可能な部分をいかにバランスさせて、初期の目標を達成するかが大事なことであるかを感じます。

 「ブッダ『真理のことば』」と「仕事学のすすめ」という二つの番組を連続して見ながら、そんなことを考えていました。


<関連サイト>

「100分 de 名著: ブッダ『真理のことば』」(NHK・Eテレ) 

「仕事学のすすめ」(NHK・Eテレ) 


<ブログ内関連記事>

PDCA (きょうのコトバ)

「無計画の計画」?

"粘菌" 生活-南方熊楠について読む-





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2011年9月20日火曜日

グンゼ株式会社の創業者・波多野鶴吉について-キリスト教の理念によって創業したソーシャル・ビジネスがその原点にあった!



 グンゼ株式会社は、大阪に本社をおく男性用肌着・インナーを主とする日本の繊維メーカーです。一部上場(東証と大証)のファッションメーカーといってもいいでしょう。

 グンゼ株式会社は、もともと郡是製絲株式会社として1896年(明治29年)に創業された会社です。グンゼ株式会社の社史によれば、創業者・波多野鶴吉(1858~1918)が地域産業振興を目的に京都府何鹿郡(現京都府綾部市)に設立した会社です。余談ですが、わたしの生まれた京都府舞鶴市にも近いので親近感を感じます。

 「群是」(ぐんぜ)とは、国に「国是」があるように、現在の綾部市を含んでいた群にも「群是」があるべきだという考えでつけられた社名のようです。国是が、国民の支持をえた国の長期政策の方向性のことであれば、群是とは、群の住民の支持をえた群の長期政策の方向性ということになりますね。

 明治時代の主要産業であった繊維業の分野で地域産業を振興し、地域を活性化しようというのが、その最大の目的であったのですね。ですから、最初から現在でいうソーシャル・ビジネス的な要素のきわめて強い性格をもっていたといっていいでしょう。

 こういう出発点の考えから、一部を除いて株式は地域の人たちに幅広くもってもらったそうです。その結果、10株以下の株主が95%を占めていたため、株式実務がたいへんだという批判もあったそうですが、波多野鶴吉は、大株主によって経営の方向がゆがめられないように、最初から株式を分散したそうです。

 また、創業当初から量より質を重んじ、顧客に対する親切第一主義を徹底したといいます。

 波多野鶴吉は、キリスト教の理念で会社経営を行った経営者です。この意味において、鐘紡(=現在のカネボウ)の武藤山治や倉敷紡績(=現在のクラボウ)の大原孫三郎ほど有名ではありませんが、もっと知られてしかるべき存在かもしれません。

 会社設立の6年前からすでに京都の同志社の伝道でキリスト教徒となっていた波多野鶴吉は、会社設立時点からキリスト教の理念にもとづいた工場経営を行っており、職工の教育にはひじょうに重点を置いており、その他の紡績工場とはまったく異なるものであったようです。

 明治42年(1909年)には、従業員の増加にともなって教育の強化する必要をつよく感じ、東京で独立伝道をしていた川合信水(かわい・しんすい)牧師を職工教師として招聘しました。川合信水(1867~1962)は、日本型キリスト教の教団である基督心宗教団を立ち上げた牧師です。「肥田式強健術」で知られる肥田春充の実兄でもあります。

 招聘(しょうへい)されてはじめて面談したとき、川合信水は波多野鶴吉にこう言ったそうです。

 「職工を善くしたいと思うなら、先ずあなたご自身がよくならなければなりません」

 まずはトップダウンで、「塊より始めよ」というこいとですね。

 その結果、波多野鶴吉は教育部長として着任した川合信水の教えを受け、自己の修養に努めたのですね。まずは「塊より始めよ」という教えは、企業経営が経営者によって大きく左右されるものを如実に示していえましょう。

 川合信水の教えを忠実に遂行した結果、会社は社長以下すべての従業員の修養団体のようになっていたそうですが、「女子寮」というコトバと実体をつくったのも波多野鶴吉が初めてのようです。

 起業から一年目はたいへんな苦労があったようですが、その後は軌道に乗り、「模範工場」としても知られていた郡是製絲株式会社は、企業成績も良好でありました。

 かの有名な 『女工哀史』(細井和喜蔵、岩波文庫、1954 改版 1980)が、最初に単行本として改造社から出版されたのが 1925年(大正14年)のことですから、波多野鶴吉のキリスト教理念を徹底した工場経営が、いかに時代をはるか先にいくものであったかが理解できるでしょう。

 波多野鶴吉の「模範工場」は、同じく紡績工場を舞台にした『あゝ野麦峠-ある製糸工女哀史-』(山本茂実、角川文庫、1977)が描いた時代よりもあとの時代になります。

 第一次世界大戦が起こった大正3年(1914年)には会社の状況が苦境に陥ったにもかかわらずが、教育部の縮小は絶対に行わなかったそうです。「人間尊重」という理念が絵に描いたものではなく、生きた理念として完全に浸透していたためでありました。

 この苦境を乗り切ったあと、大正4年(1915年)川合信水牧師(=教育部長)が作成した「至誠訓」を社訓としました。だいぶ時代がかったものですが、一部を紹介しておきましょう。

「誠」ヲ一貫シテ
「完全ノ天道」ヲ尊崇シ常ニ謙(へりくだ)リテ
一. 完全ノ信仰ヲ養ヒ
二. 完全ノ人格ヲ修メ
三. 完全ノ勤労ヲ尽シ
四. 完全ノ貢献ヲ為スコトヲ祈願シ実行ス

 この「社訓」に、キリスト教の理念による会社経営と従業員教育が軌道に乗ったと、創業者・波多野鶴吉が実感されていたことがうかがえます。

 その後の歴史については、グンゼ株式会社のウェブサイトに「社史」がアップされているのでご覧いただきたいと思いますが。創業者・波多野鶴吉については書かれているものの、キリスト教の理念によって経営されていたことには触れられていません。現在は、そういったキリスト教色が薄れているためでしょう。

 現在の企業理念は以下のようになっています。

グンゼでは、創業の精神(人間尊重・優良品の提供・共存共栄)を経糸(たていと)に、社是の実践を通じて、社会からの期待に誠意をもって柔軟に応えることを緯糸(よこいと)に、社会に貢献しています。
●創業の精神
人間尊重と優良品の生産を基礎として、会社をめぐるすべての関係者との共存共栄をはかる。
●社呈
1.優良品の提供に徹し社会に貢献する
1.誠意をつくし信頼の輪をひろげる
1.若さと創意をいかし世界の一流をめざす

 現在の社是からはキリスト教色は薄れてますが、創業者の精神が息づいていることがわかります。

  「どんな大企業でも最初はベンチャーだった」と喝破したのは経営学者の米倉誠一郎・一橋大学教授ですが、グンゼもまた当初のベンチャー時代は、かぎりなくソーシャル・ベンチャーに近い存在であったのでした。


<参考文献>

『日本経営理念史(新装復刻版)』(土屋喬雄、麗澤大学出版会、2002 原著 1964・1967)
・・とくに、「第三部 キリスト教倫理を基本とする経営理念」 の 「第二章 波多野鶴吉の経営理念」

●グンゼ株式会社の公式ウェブサイト
・・「沿革・社史」「グンゼの歩み」

*なお、冒頭に掲げた波多野鶴吉の写真は、同社のウェブサイトにアップされているもの





PS 読みやすさの向上につとめるため、字句の一部を修正し、あらたにリンクを張った。多数のアクセスに感謝したい。 (2014年8月27日 記す)


<ブログ内関連記事>

『鉄人を創る肥田式強健術 (ムー・スーパー・ミステリー・ブックス)』(高木一行、学研、1986)-カラダを鍛えればココロもアタマも強くなる!
・・「肥田式強健術」を全面的に取り入れたのが郡是製絲株式会社(=グンゼ)、そのミッシングリンクが郡是製絲株式会社に教育部長として招かれた川合信水牧師だったのでした。川合信水の実弟が肥田春充(ひだ・はるみち)。人脈をたぐりよせると、見えない「つながり」が見えてくるという面白い話でもあります。 

書評 『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』(マーク・マリンズ、高崎恵訳、トランスビュー、2005)-日本への宣教(=キリスト教布教)を「異文化マーケティグ」を考えるヒントに

書評 『新島襄-良心之全身ニ充満シタル丈夫-(ミネルヴァ日本評伝選)』(太田雄三、ミネルヴァ書房、2005) -「教育事業家」としての新島襄
・・波多野鶴吉は、京都の同志社の伝道でキリスト教徒になった

内村鑑三の 『後世への最大遺物』(1894年)は、キリスト教の立場からする「実学」と「実践」の重要性を説いた名講演である
・・内村鑑三は「カネを残せ」と主張した。もちろん、稼いだカネを正しい目的で使えという趣旨であるが、アメリカに学ぶべきは実業家のフィランスロピーであることを主張している

「信仰と商売の両立」の実践-”建築家”ヴォーリズ-
・・伝道という「事業」を軌道にのせるための財政基盤をつくるために、営利事業を立ち上げる。


「人間尊重」という経営理念

「人間尊重」という理念、そして「士魂商才」-"民族系" 石油会社・出光興産の創業者・出光佐三という日本人
・・出光佐三は日本と日本人全体のことをつねに考えていた人であった

ソーシャルビジネス

書評 『チェンジメーカー-社会起業家が世の中を変える-』(渡邊奈々、日本経済新聞社、2005)
・・シャーシャルビジネスの事例

書評 『ブルー・セーター-引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語-』(ジャクリーン・ノヴォグラッツ、北村陽子訳、英治出版、2010)
・・"Patient Capital" というソーシャルファンドについて


自前の思想

「いまこそ高橋亀吉の実践経済学」(東洋経済新報社創立115周年記念シンポジウム第二弾) に参加してきた-「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
・・・・亀吉や鶴吉といった、動物を含む名前は明治時代には少なくなかった

(2014年3月24日、8月14日、27日 情報追加)





(2012年7月3日発売の拙著です)









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禁無断転載!

 

end

2011年9月14日水曜日

書評 『日本でいちばん大切にしたい会社』、『日本でいちばん大切にしたい会社2』(坂本光司、あさ出版、2008、2010)-取り上げられた中小企業はみなすばらいのだが・・・


 2冊の累計で50万部売れてレビューも非常に数多く書かれて絶讃されている本を、あえてここで取り上げるのは、中小企業の世界にどっぷり浸かってきた私としても感想を述べておきたいと思ったからです。

 著者は、法政大学大学院政策創造研究科教授、専門は中小企業経営論、地域経済論、福祉産業論とのこと。この『日本でいちばん大切にしたい会社』で全国的に知名度が向上した経営学者です。

 たしかに、この2冊(・・まだ「3」は出版されていませんが、おそらくシリーズ化されることでしょう)に取り上げられた会社はみなすばらしい。とくに正編は、知らない会社ばかりなので新鮮な印象を受けました。

 とくに印象に残った会社は、「正編」で取り上げられている日本理化学工業株式会社、中村ブレイス株式会社、杉山フルーツの3社です。この3社は文句なしにすばらしい。

 だが、「続編」の「2」は、中小企業の世界にいると、耳にすることは少なからずある会社であり、「正編」ほど印象は強くなかったことは正直に告白しておきます。

 「2」に収録されている会社は、とくに大切にしなくても、十分に自社のチカラで生き抜いていけるだけの実力をもった会社ばかりではないでしょうか?


取り上げられた中小企業はみなすばらいが、著者の見解には必ずしも賛同しない点がある

 知られざるすばらしい会社を取り上げた本書はすばらしい本だと思いますが、著者の見解に必ずしも賛同しない点が一点あります。

 それは企業のステイクホールダーにかんする議論です。著者はこのように書いています。正編第1章「会社は誰のために」です。

1. 社員とその家族を幸せにする
2. 外注先・下請企業の社員を幸せにする
3. 顧客を幸せにする
4. 地域社会を幸せにし、活性化させる
5. 自然に生まれる株主の幸せ

 著者は、「五人に対する使命と責任」として、この順番に重要だとしています。

 私も、「1. 社員とその家族を幸せにする」は重要だと考えていますが、企業存続の基本は「3. 顧客を幸せにする」が筆頭にくるべきだと考えています。

 著者はこの考えには反対のようですが、企業の存在意義というものは企業内部の人間が決めるものではなく、顧客が決めるものだからです。社会に受け入れられてこそ存在意義がある。ドラッカーではあえりませんが、「マーケティングとイノベーションこそ企業存立の要」です。

 「1. 社員とその家族を幸せにする」は、家族を食わせるために働いていると似た印象を受けないではありません。もちろん縁あって入社してくれた仲間を大事にするのは、人間として当然のことです。その仲間の家族を大事にするのも当然です。初発の動機としては問題ありません。

 しかし、この「好循環」が成り立つのは、あくまでも業績が安定しているからこそなのです。いったん「悪循環」にはまると、たとえすばらしい会社であっても、企業そのものの存立があやうくなってしまいます。

 これが企業経営の恐いところですね。顧客からの支持がなくなったら、たとえ、すばらしい理念をもった会社であっても、倒産してしまうこともよくあるのです。

 もちろん、「顧客中心」を全面に打ち出しても、実態は顧客に奉仕して消耗せよという会社も世の中には少なくありません。それではまったくもって本末転倒ですね。そういう会社は、いわゆるブラック企業と見なされても仕方ないでしょう。

 順番なんかどっちでもいいではないかという意見もあるでしょうが、ステークホルダーの議論は、かなり本質論にかかわるものです。

 わたしは、著者のいう「五人に対する使命と責任」については、いずれも大事だと思いながらも、順番付けについては賛成ではないのは以上の理由によります。

 結論をいえば、著者のいう「五人に対する使命と責任」についてはいずれも大事なのです。あえていえば「顧客」だというのが、わたしの立場です。

 著者の「価値観」は理解できますが、あくまでも中小企業を外部から観察している人だなあという印象はぬぐえません。中小企業のなかに入ったことはないだろうな、と。ややキレイごとな面があるのではないでしょうか。



本書で紹介された中小企業はみな「インバウンド・マーケティング」を実現している

 この2冊を読んで私が思ったのは、結局のところ、この2冊に紹介されたすべての会社が、意図したかどうかは別にして「インバウンド・マーケティング」が実現しているという点です。

 売り込むのではなく、買いに来てくれるように仕向けているのが「インバウンド・マーケティング」。プッシュ・セールスではなく、広告宣伝費をかけないマーケティングですね。ただし「2」に収録されているアールエフ社は、女優の高島礼子を起用した派手な広告宣伝を行っているのは知る人は知っているでしょう。

 「インバウンド・マーケティング」が実現しているのは、消費者と直接かかわりをもっっていること、自社の価値観を受け入れてくれる顧客の絶対的な支持を得ている「顧客中心企業」であるということであると要約するのがいいかもしれません。

 B2B企業だとなかなかこうはいきません。法人相手のビジネスだとその会社が最終顧客ではないからです。とくに、下請企業だとますますむずかしい。

 たとえば、著者による「量産志向をやめて下請から脱しろ」という主張には全面的に賛成です。とはいっても、下請で生きてきた会社が下請から脱するのはきわめて難しいのが実際です。下請は利益面では厳しいが、キャッシュフロー面ではある意味では安定が確保されるからです。


これからはソーシャル企業の方向に進んでいく

 私はこれからの企業経営はソーシャル企業の方向に進み、一方では社会問題を解決する志の高い人たちがソーシャル企業を目指す方向に、両者が収斂(しゅうれん)コンバージョンしていくと考えていますが、マネジメントという視点を欠いては、成り立たないことは言うまでもありません。

 本書に紹介された中小企業は、ソーシャル企業を目指してわけではないが、結果としてソーシャル企業になっていた、ということもいえるかもしれません。

 おそらく読者の多くは、この本で紹介されているような、「従業員の楽園のような会社で働けたらなあ、それにくらべて自分が働いている会社ときたら・・・」という「隣の芝生」的な羨望もまじってベストセラーとなったのではないかなと思われます。

 ただし、あくまでも規模の小さな会社でのみ成り立つこと、手の届く範囲、見える範囲に全従業員がいなかえれば成立が難しいことは指摘しておかねばなりません。

 シビアな眼で見つめることも企業経営には必要だと言っておきたいので、あえてこのような内容の記事を書いてみました。


『日本でいちばん大切にしたい会社』

目 次

はじめに
第1部 会社は誰のために?
 -「わかっていない」経営者が増えている!
 -会社経営とは「五人に対する使命と責任」を果たすための活動
 -業績ではなく継続する会社をめざして
 -業績や成長は継続するための手段にすぎない
 -社員は利益だけを求めているわけではない
 -「多くの人を満足させる」こと。それが会社の使命
 -経営がうまくいかない理由は内側にある
 -中小企業にしかできないことがある
 -日本で大切にしたい会社を増やそう
 -続けていくことの大切さ
第2部 日本でいちばん大切にしたい会社たち
 1. 障害者の方々がほめられ、役立ち、必要とされる場をつくりたい
   ・・日本理化学工業株式会社
 Column 重度の障害をもつ彼女だからこそ、わが社が採用しなければ
   ・・株式会社ファンケルスマイル
 2. 「社員の幸せのための経営」「戦わない経営」を貫き、四八年間増収増益
・・伊那食品工業株式会社
 Column 75年間連続増収企業は、「社員がハッピーなら会社もハッピー」
・・ジョンソン・アンド・ジョンソン株式会社
    三年間入院した社員にずっと給料・ボーナスを払い続けた
・・樹研工業株式会社
 3. 「人を支える」会社には、日本中から社員が集まり、世界中からお客様が訪ねてくる
・・中村ブレイス株式会社
 Column  難病になった娘のためにリフト付車椅子を開発
・・キシ・エンジニアリング株式会社
    骨粗しょう症の高齢者のために人工関節を開発
・・株式会社ホリックス
    「子ども」という弱者の視点で「飲むカメラ」を開発
・・株式会社アールエフ
 4. 地域に生き、人と人、心と心を結ぶ経営を貫いていく
・・株式会社柳月
 Column  心のやさしい子どもたちを育てるために、50年間詩集を発行
・・柏屋
 5.「あなたのお客でほんとうによかった」と言われる、光り輝く果物店
・・杉山フルーツ
 Column  「とうてい大切にできない会社」と「心から大切にしたい会社」 

おわりに




『日本でいちばん大切にしたい会社2』

目 次

はじめに
プロローグ 会社がほんとうに大事にしなければならないこと
 -5人に対する使命と責任を果たす-それが企業経営
 -会社にとって「顧客」より大切なもの
   ・社員と社員の家族からの千羽鶴
   ・母国、日本に帰りたくなりました
   ・訪問調査した6,300社から改めて抽出
大切にしたい会社1 株式会社富士メガネ(北海道)
 「困っている人を助けたい」――世界の難民や
  中国残留孤児に「視力」を贈る感動のメガネ店
大切にしたい会社2 医療法人鉄蕉会亀田総合病院(千葉県)
  「もう一度入院したい」と患者が言う病院のモットーは
  「Always say YES!」
大切にしたい会社3 株式会社埼玉種畜牧場「サイボクハム」(埼玉県)
  「日本人の食料不足をなんとかしよう」-使命感に
   燃えて牧場を経営、「農業のディズニーランド」を実現する
大切にしたい会社4 株式会社アールエフ(長野県)
  「小さな命をもっと救いたい」-世界が驚くカプセル
   内視鏡を開発。「人間の幸せ」を追い求める中小企業
大切にしたい会社5 株式会社樹研工業(愛知県)
  社員は先着順で採用。
  給料は「年齢序列」の不思議な会社
大切にしたい会社6 未来工業株式会社(岐阜県)
  「日本でいちばん休みの多い会社」だから、不況知らずの会社になれる
大切にしたい会社7 ネッツトヨタ南国株式会社(高知県)
  全盲の方と行く四国巡礼の旅で、人の本当のやさしさを学んでもらう
大切にしたい会社8 株式会社沖縄教育出版(沖縄県)
  本当に世の中に役立つ事業をしたい。
  一人ひとりの命が輝く会社になりたい
エピローグ みなさんに伝えたい読者の方々からの手紙
おわりに





著者プロフィール

坂本光司(さかもと・こうじ)

福井県立大学教授・静岡文化芸術大学教授等を経て2008年4月より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授及び法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科(MBA)客員教授。他に、国、県、市町や商工会議所等団体の審議会や委員会の委員を多数兼務。専門は中小企業経営論・地域経済論・産業論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<関連サイト>

『日本でいちばん大切にしたい会社』公式ブログ

 


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2011年9月12日月曜日

「3-11」後の個人の価値観の変化に組織は対応できていますか?-個人には「組織からの退出」というオプションもある


 女性誌 『CREA』 の女性向け総合メディアサイト CREA Web に「300人緊急アンケート! 3.11以後の価値観3.11でアナタの人生への価値観はどう変わった?」というアンケートの結果が掲載されています。

 アンケート対象は、この雑誌の読者層である20歳台と30歳台の女性が中心です。
 設問は以下の二つです。

Q1 仕事に対する考え方は変わりましたか?
Q2 震災がきっかけで転職を考えましたか?


 設問の答えは、 「300人緊急アンケート! 3.11以後の価値観3.11でアナタの人生への価値観はどう変わった?」を直接ごらんいただきたいと思いますが、「仕事に対する考え方」の変化が、「転職」を実行したり、じっさいに転職を検討したりしていることにつながっていることが読み取れます。

 「3-11」によって、個人の消費意識と行動が変化していることは、比較的多く指摘されているので目にすることもあるかと思いますが、タイムラグをおいて「働き方の意識」に変化が生じていることにも注意を払わなくてはなりません。

 ひと言でいえば、「3-11」の前後で個人の価値観に大きな変化が生じているのです。男性にくらべて感受性の強い女性の意識の変化は、先行指標として注目する必要があるでしょう。

 個人の価値観(バリュー)の変化は、当然のことながら組織の価値観にも影響を及ぼします。個人が組織に影響を及ぼす選択肢(オプション)は大きく分けて2つあります。経済学者のアルバート・ハーシュマンによる有名な分類です。

 まずは、Voice(=声)。組織内での異議申し立てです。意見をいって組織内改善を志向するものです。つぎに Exit(=退出)組織からの退出です。つまり転職ですね。
 
 上記のアンケート結果からも、この2つのオプションを読み取ることができると思います。

 どんなポジションに就いているのであれ、組織のマネジメントにたずさわる人は、「3-11」後の個人の価値観(バリュー)の変化には敏感であってほしいと思います。

 組織としてゆずれない原理原則がミッションやバリューとしては存在しても、時代の変化を敏感に感じ取り、組織の価値観を微調整していくことも必要なのです。

 そうでないと、貴重な人材を失うことにもつながりかねませんし、顧客からも見放されることにもなりかねません。

 「3-11」によって個人の価値観は大きく変化しているのです。あらためてこの事実を強調しておきたいと思います。





<関連サイト>

「300人緊急アンケート! 3.11以後の価値観3.11でアナタの人生への価値観はどう変わった?」|CREA WEB(クレア ウェブ 多くの人々の価値観を変えた、今回の震災。仕事、恋愛、そして人生。みんなの思いを緊急アンケート!)




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2011年9月9日金曜日

「使命感」をもったチームどうしの戦いは激しい-昨日(2011年9月8日)のオリンピック代表予選をみて思ったこと


 昨日(2011年9月8日)の対北朝鮮戦では、1-1の引き分けと、かなりの苦戦を強いられた「なでしこジャパン」でしたが、その後の試合で、中国がオーストラリアに敗れたことによる得点差で、一番乗りで「予選突破」することができました。

 ほっと胸をなで下ろした方も多いことでしょう。
 いよいよ、2012年のロンドンが楽しみになってきました。

 ワールドカップで世界の頂点に立ちながらモチベーションを保てたのは、「五輪でメダルを獲らなければ」という使命感があったからだ、と。キャプテンの澤穂希選手に強い「使命感」(ミッション)があることがスポーツ紙の記事には書かれています。

 わたしは昨日(9月8日)の試合はリアルタイムでみていましたが、試合の大半で北朝鮮に圧倒されっぱなしだったので歯がゆい思いをしていたのです。日本のスポーツ報道は、きちんとこの事実について語るべきです。日本人としては、なでしこジャパンに勝ってほしい気持ちは山々ですが、チームの実力についてはシビアな観察が必要です。

 けっして日本代表チームが弱いわけでなく、双方がともに技術的にはほぼ互角であるのにかかわず、北朝鮮代表チームが死にもの狂いだったのは理由があったのです。

 じつは、本日9月9日は北朝鮮の63回目の建国記念日。北朝鮮代表チーム側には、絶対に負けるわけにはいかない(!)という「使命感」が強かったのですね。

 TV報道によれば、北朝鮮の女子サッカー代表チームは、サッカーがうまいだけでなく、思想的にも "正しい" 人間でないと入団できないのだとか。

 北朝鮮の選手の一人一人に、キム・ジョンギル総書記に対する強い忠誠心があり、強い内発性の動機が「勝たねばならないという使命感」を生み出して支えているのです。けっして罰が怖いからといった外発性の動機ではないようなのです。サッダーム・フセイン独裁下のイラクのサッカー代表チームとはひじょうに異なると思われます。

 ですから、昨日の 「日本vs.北朝鮮戦」は、内発的動機に支えられた強い「使命感」をもったチームどうしの戦いだったのです! 

 そういう観点からみたら、日本代表チームはかなり善戦をしたといっていいかもしれません。

 サッカーもまた、たんなる技術だけではなく、内発的動機にもとづいた、勝とうという強い信念と強い使命感に支えられてこそ勝利をつかみ取ることができるものなのです。


P.S. 結局、日本が一位、北朝鮮が二位でアジア予選を突破しました。本大会でも北朝鮮は要注意ですね(2011年9月12日 追記)


<ブログ内関連記事>

「NHKスペシャル「なでしこ​ジャパン 世界一への道」 (2011年7月25日) を見ながら考えたこと

女子サッカー・ワールドカップで 「なでしこジャパン」 がついに世界一に!(2011年7月18日) 

書評 『なでしこ力(ぢから)-さあ、一緒に世界一になろう!-』(佐々木則夫、講談社、2011)
・・監督の目からみたなでしこジャパン

「サッカー日本代表チーム」を「プロジェクト・チーム」として考えてみる

『モチベーション3.0』(ダニエル・ピンク、大前研一訳、講談社、2010) は、「やる気=ドライブ」に着目した、「内発的動機付け」に基づく、21世紀の先進国型モチベーションのあり方を探求する本




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2011年9月1日木曜日

「軸」がしっかりしていないと「ゆがみ」が生じる-Tarzan No.587 「特集 軸を整えて、ゆがみを正す」(2011年9月8日号)


 バレエやフィギュアスケートが美しいのは、背筋がピンとして「軸」がしっかりしているから。伸びた手足が美しいのも「軸」がしっかりしてぶれがないから。

 スポーツや武道、そして舞踊など全般にいえることですが、「軸」を中心にした回転運動が基本中の基本。

 今回紹介するのは雑誌「TARZAN」の最新号 No.587。特集は「軸を整え、ゆがみを正す」。フィジカルの観点から「軸」の重要性と、ゆがみの矯正方法について特集されています。

 カラダのアナロジーで語ることはよくありますが、個人でも組織でも、なによりも「軸」が大事ですね。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)も「軸」がしっかりしていなければ、説得力もないし、なによりも長続きしません。

 アタマとココロとカラダの三角関係は、この3つの要素が完全にかみ合っているときにこそ、最高のパフォーマンスを実現するものです

 とかくアタマだけで考えがちなビジネスですが、いかにココロとカラダが重要か、とくにカラダがココロとアタマに働きかける側面にもっと注意を向けたいものですね。

 「軸」がいかに重要か、アタマのなかだけでなく、じっさいにカラダを使って実感しておきたいものです。「軸」をしっかりと保つことによって、はじめてカラダも、そしてココロもコントロールできるということを。

 みなさんも個人として、そして組織として、「軸」はしっかりしていますか?



<関連サイト>

雑誌「TARZAN」の最新号 No.587。特集は「軸を整え、ゆがみを正す」
・・ここから目次と記事の一部を閲覧できます





<ブログ内関連記事>

「ブレない軸」 (きょうのコトバ)





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