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2013年11月15日金曜日

書評 『道なき道を行け』(藤田浩之、小学館、2013)-アメリカで「仁義と理念」で研究開発型製造業を経営する骨太の経営者からの熱いメッセージ


こんな「骨太の日本人」がいたとはまったく知りませんでした。なんと、大統領の「一般教書演説」に日本人では初めて招待され、2013年春には商務省評議員に選出ている日本人。

その人の名は藤田浩之氏。アメリカのクリーブランドでハイテク製造業を起業し、現地で雇用をつくりだし、輸出企業としてアメリカの製造業復活に貢献している47歳の物理学者で企業経営者です。

その会社の名は QED(クオリティ・エレクトロダイナミクス)、物理学で博士号を取得した藤田氏は量子電磁力学の QED(クオンタム・エレクトロダイナミクス)から取ったそうです。事業内容は、電磁気を利用して身体の画像診断を行うMRI(核磁気共鳴画像法)のキーデバイスを製造販売する研究開発型企業

著者とこの本のことは、JBプレスのインタビュー記事ではじめて知りました。「オバマ大統領に米国の未来を託された日本人 東大に2度落ち早稲田をやめたことでチャンスをつかむ」はぜひ読んでみてください。

藤田氏もまた京セラの創業者・稲盛和夫氏の「稲盛哲学」の実践者です。アメリカでもアメリカ流のMBA経営ではなく、稲盛哲学に基づいた理念経営を実践しています。

多民族国家のアメリカでも、日本発の稲盛流の理念経営が十分に通用することを自ら実践して示しているわけです。

藤田氏は、経営は「仁義と理念」でするものだと本書のなかで語っています。古臭く感じる「仁義」ですが、このキーワードは渡米して20年以上たつ藤田氏にとっては、ゆるぎない信念を生み出す源泉のようです。人の道を外してはならない、ということですね。

カネ儲けのための起業ではなく、人のために役に立ちたいという思いからの起業だということは、本書で何度も強調しています。アメリカでは当たり前のカネ儲けが目的の起業には大いに違和感を感じるのだ、と。

藤田氏は、博士号取得後に勤務した研究開発型企業が世界的大企業の GE に買収された結果、GEで働いたという経験をもっています。

極限までビジネスパーソンとしての「スケールアップ」を求められるGEで働いた経験は、みずからの成長のうえできわめて貴重なものがあったと語る一方で、重要な技術が一企業内に囲い込まれてしまうのは産業全体のためによくないという思いが起業の動機であったと語っています。

価値観重視の経営によって世界中でモデルとされることの多い GE ですが、すばらしい価値観であても、かならずしも内部の人間がすべて愚直に実践しているわけではないことを藤田氏は見抜いています。

「コミュニケーション重視!」とクチにしながら、個室にこもってしまう言行不一致のマネージャーが登場しますが、GEですら実際は大企業病の症状を示しているわけですね。このことが「他山の石」として著者の胸に刻み込まれて箇所は、ひじょうにつよい印象を受けます。

「価値観重視の経営」としてアメリカの GE流 と日本の稲盛流の二つを熟知する藤田氏の発言には耳を傾ける価値があります。日米の共通点、相違点について考える材料を与えてくれるからです。

その「稲盛哲学」もそのまま鵜呑みにするのではなく、藤田氏は自分なりに咀嚼したものを実践しているとのことです。基本原理という「軸」がブレていなければ、現実に合わせて応用するのは当然といえば当然です。

「自分のアタマで考え、自分で行動する」という「自律人」そのものですね。稲盛氏自身も材料工学のバックグラウンドをもったエンジニアですから、アメリカの大学で物理学で博士号を取得した科学者でもある藤田氏には共通するものも多いのでしょう。

アメリカ人のメンターとの交流から学んだ地域貢献、社会貢献の話も、読者として大いに学ぶべきものがあると感じます。人はなんのために生かされているのか、なんのための事業経営なのか、経営者はつねに考えていなければならないからです。

本書は、基本的に若い日本人に向けて書かれた熱いメッセージですが、アメリカにおける企業経営、とくにハイテク製造業の経営について知ることのできる本として読むこともできます。そこから学ぶことのできるヒントも多くあります。

カバーには Pathfinder という英語が記されてますが、パスファインダーとは直訳すれば「道を探す人」。まさに「道を切り拓く人」としての使命感に満ち満ちた藤田氏の生きざまは、若い人ではなくとも大いにインスパイアされるものがあると思います。

経営者のみならず、一人でも多くのビジネスパーソンに読んでいただきたい本です。




目 次

序章 一般教書演説への招待状
第1章 ずれたドット
第2章 アメリカ生活
第3章 QED誕生
第4章 社員の意識改革
第5章 二人のメンター
第6章 私のアメリカ、私のクリーブランド
第7章 日本よ、日本人よ
終章 生まれてきた証

著者プロフィール

藤田浩之(ふじた・ひろゆき)
1966年、奈良県生まれ。1998年、米国ケース・ウエスタン・リザーブ大学(CWRU)物理学博士課程修了。物理学博士。GEを退社後、2006年、医療機器開発製造会社クオリティー・エレクトロダイナミクス(QED)を設立、社長兼最高経営責任者。現在、非常勤でCWRU物理学部教授、医学部放射線学科教授、オーストラリアのクイーンズランド大学情報技術電気工学部教授を兼任。主な受賞に、2009年、フォーブス「米国で最も有望な新興企業20社」(11位にランクイン)、2010年、アーネスト・ヤング起業家大賞、2011年、米国政府から研究技術助成金を受け事業を大きく成長させた企業に贈られるチベット国家賞などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)。

<関連サイト>

「オバマ大統領に米国の未来を託された日本人 東大に2度落ち早稲田をやめたことでチャンスをつかむ」 (JBプレス 2013年11月17日)


<ブログ内関連記事>

Where there's a Will, there's a Way. 意思あるところ道あり

書評 『俺のイタリアン、俺のフレンチ-ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方-』(坂本孝、商業界、2013)-ビジネスモデル×哲学(理念)を参入障壁にブルーオーシャンをつくりだす
・・「稲盛哲学」の実践者による新ビジネス成功までの軌跡

書評 『全員で稼ぐ組織-JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書-』(森田直行、日経BP、2014)-世界に広がり始めた「日本発の経営管理システム」を仕組みを確立した本人が解説
・・稲盛哲学と経営管理の仕組みが合体した「アメーバ経営」とは?

『週刊ダイヤモンド』の「特集 稲盛経営解剖」(2013年6月22日号)-これは要保存版の濃い内容の特集

書評 『稲盛和夫流・意識改革 心は変えられる-自分、人、会社-全員で成し遂げた「JAL再生」40のフィロソフィー』(原 英次郎、ダイヤモンド社、2013)-メンバーの一人ひとりが「当事者意識」を持つことができれば組織は変わる

グンゼ株式会社の創業者・波多野鶴吉について-キリスト教の理念によって創業したソーシャル・ビジネスがその原点にあった!

原点としての 「HPウェイ」 -創業者の理念は度重なる経営者の交代でも生き続けているのだろうか?

TIME誌の特集記事 「メイド・イン・USA」(2013年4月11日)-アメリカでは製造業が復活してきた

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2013年5月15日水曜日

書評 『俺のイタリアン、俺のフレンチ-ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方-』(坂本孝、商業界、2013)-ビジネスモデル×哲学(理念)を参入障壁にブルーオーシャンをつくりだす



『俺のイタリアン、俺のフレンチ-ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方-』(坂本孝、商業界、2013)は、ブックオフ創業者のあらたな挑戦についてみずから語った本です。

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」。雑誌やテレビ番組でも取り上げられている、いまもっとも注目を集めている「行列の絶えない飲食店」ですね。東京・銀座に集中出店している立食形式の店舗ですが、行列に並ぶのがキライなわたしは、残念ながらまだ行ったことはありませんが。

どうやったら「ぶっちぎりの競争優位性」を築くことができるか、ビジネスにかかわっていれば、誰もが関心あると思います。そのテーマについて具体的に語っている本です。

ビジネスモデルは、三ツ星クラスの店で腕を振るってきたプロの料理人をスカウトし、「原価率」を極限まで上げ、低価格だが回転数で勝負するというもの。「安くてうまい」が客を喜ばせリピート客とし、好循環をつくりあげる。

原価率を上げれば利幅が下がりますが、回転数を上げれば上げるほど利益はでる。経営のセオリーにきわめて忠実であります。スーパーマーケットのビジネスモデルを異業種である飲食業に導入した点に坂本氏の事業の天才ぶりがあらわれています。

じつに大胆な策です。シミュレーション結果をみればアタマでは理解できても、なかなか実行に踏み切れるものではないでしょう。

そしてその中核にあるのは、プロにはプロとしての仕事に専念してもらう環境をつくりだし、料理人が報われる仕組みをつくりたいというもの。

まさに、「仕組みで勝って人で圧勝する」(P.164)という坂本社長のコトバにあるように、人を中心にすえた経営ですね! 「ビジネスモデル × 哲学(理念)」で、ブルーオーシャンで参入障壁をつくりだすということになるでしょうか。

坂本孝氏の話は、ずいぶん以前になりますが、ブックオフが成長期に入って注目されていた頃に、プライベートな勉強会で話を聞いたことがあります。

中古ピアノ販売で成功されたことを話されていたことを覚えていますが、ギラギラしたところのまったくない、どちらかといって謙虚な印象を受けました。その秘密が稲盛フィロソフィーの体現者であったからだということが、この初の著者を読んではじめてわかりました。

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」の仕組みはなかなか真似できるものではありませんが(・・だからこそ「参入障壁」となっているわけですね!)、いろいろ学ぶことの多い本だと思います。マネジメントチームのあり方や、新規出店と人材育成の関係なども含めて、読む人によってさまざまでしょう。

間違いなく読んで損はない一冊です。





目 次

はじめに
第1章 希代の繁盛店「俺のイタリアン」誕生
第2章 2勝10敗の事業家人生
第3章 ブックオフがNo.1企業になれた理由
第4章 稲盛和夫氏の教えと、私の学び
第5章 「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」は進化する
第6章 「物心両面の幸福を追求する」決意表明
第7章 業界トップとなり、革新し続ける
おわりに

著者プロフィール

坂本孝(さかもと・たかし)
1940年5月生まれ、山梨県甲府市出身。オーディオ販売や中古ピアノ販売などいくつかの事業を経て、1990年5月、「ブックオフ」を創業(1991年8月、ブックオフコーポレーション株式会社を設立)。16年間で1000店舗まで拡大し、書籍業界の流通に革命をもたらした。2009年11月、VALUE CREATE株式会社を設立し、飲食業に参入。2011年9月、東京・新橋に「俺のイタリアン」をオープン。大繁盛店となり、その後、同様のコンセプトで「俺のフレンチ」や、和食バージョンを展開(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>
 
VALUE CREATE株式会社 公式サイト (俺のイタリアン、俺のフレンチその他)

商業界 書籍販売サイト


<ブログ内関連記事>

書評 『社長は少しバカがいい。-乱世を生き抜くリーダー鉄則-』(鈴木喬、WAVE出版、2013)-「名物社長」が語る経営論

書評 『経営の教科書-社長が押さえておくべき30の基礎科目-』(新 将命、ダイヤモンド社、2009)

書評 『全員で稼ぐ組織-JALを再生させた「アメーバ経営」の教科書-』(森田直行、日経BP、2014)-世界に広がり始めた「日本発の経営管理システム」を仕組みを確立した本人が解説
・・稲盛哲学と経営管理の仕組みが合体した「アメーバ経営」とは?

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2012年5月29日火曜日

『また、あの人と働きたい-辞めた社員が戻ってくる! 人気レストランの奇跡の人材育成術-』(黒岩功、ナナ・コーポレート・コミュニケーション、2012)-ヒトを中心に据えた経営こそ中小企業のあるべき姿

ヒトを中心に据えた経営こそ中小企業のあるべき姿

採用するのにひじょうに苦労しながら、なかなか人材が定着しない。多くの中小企業が、同じような悩みを抱えているものと思います。

わたしも前職では中小企業の経営に「ナンバー2」として直接かかわっていましたので、この問題は痛いほどわかります。

そうでなくても人材の流動性の高い飲食業界で驚異的な人材定着率を示しているのが、この本の著者であるフランス料理店「ル・クロ」のオーナーシェフ黒岩功氏。常識を超える定着率を実現しています。

なんせ、「12年間で採用活動は2回だけ」、「辞めた社員が半年で戻ってくる」という会社だそうです。

飲食業、とくにフランス料理屋イタリア料理のシェフを目指す人は、独立を前提にキャリアを設計していますから、修行のためにお店を転々とするのは当たり前、また料理人ではなくても労働環境も給料もけっしていいとはいえない飲食業界では、人材が定着しないのは常識といっていいでしょう。

なぜ、「ル・クロ」では人材が定着しているのか、その秘密を知りたくて、さっそく読んでみました。


顧客を中心にすえた「顧客目線」が徹底されているか?

「ル・クロ」が、並の飲食業と違うのは、顧客を中心にすえて顧客目線を徹底しているところでしょう。

自らをフランス料理店というよりも、サービス業と位置づけているところも重要なポイントだと思います。

料理店においては、どうしても料理をつくる職人という意識が前面にでてしまいますが、料理店はあくまでもサービス業であるという認識、これはきわめて重要ですね。

この考えのもとに、ウェディングや料理活動といった関連サービスが派生してくるわけです。


「観察」の重要性-見て、見られること

キーワードとして強調されているわけではありませんが、じつはもっとも重要なのは「観察」です。

オーナーシェフである著者は、料理人として一人前になるために徹底的に「観察力」を鍛え上げたことが想像されますが、オーナーとして社員一人一人を日頃からよく見ていることが大切であることも語られています。

従業員の立場からすると、いつも経営陣から見てもらっていることは励みになりますし、またマネージャー層からすれば、適切なタイミングで適切なアドバイスや指示もできるということを意味しています。

そのためには、経営陣が率先して、考えをオープンにしてコミュニケーションの壁を低くすることが重要です。採用では、正直に話してリアリティ・ショックをなくすこともまた定着率を上げている理由の一つでしょう。


ヒトを中心に据えた経営こそ中小企業のあるべき姿

この本で説かれていることはきわめてまっとうです。いや、まっとうすぎるといてもいい。愚直までに基本に忠実です。

つまりは、ヒトを中心に据えたマネジメントを行っているということですね。中小企業というものは、あくまでも人で成り立っているのです。大企業のように組織が人に優先するのではなく、あくまでも人が集まって組織となるわけです。

すべての業種がサービス業化している現在人の上に立つということの意味を知る上でマネージャーにはぜひ読んでほしい本です。

できれば、まず経営者が読んで、マネージャーに「これを読んだらいいよ」と薦めてあげるのがいいでしょう。

中小企業の経営は、経営者の器量によって方向性も内容も決まるというのもまた、否定できない事実ですから。

ぜひ、「また、あの人と働きたい」と言われるような人になりたいものですね。ぜひ一読をおすすめします。





目 次


はじめに
1. 「誰と働くか」が問われる時代
2. 出戻り社員が主役になる仕組み
3. 正社員の底力を活用する
4. 朝まで語り合える関係性の作り方
5. 主体性を引き出すモチベーション管理術
あとがき

著者プロフィール   
黒岩功(くろいわ・いさお)
レストラン「ル・クロ」オーナーシェフ。19歳で調理師免許を取得、21歳で全国司厨士協会の調理師派遣メンバーとしてスイスに渡る。ヨーロッパで3年間、三ツ星レストラン「タイユヴァン」「ラ・コート・サンジャック」、二ツ星レストラン「ジラール・ベッソン」のシェフらに師事し、本場のフランス料理を学ぶ。帰国後、いくつかの有名料理店でスーシェフ、料理長を勤めたのち、2000年にフレンチレストラン「ル・クロ」をオープン。一号店は裏路地の和食店を改装したことから「靴を脱いで、掘りゴタツで箸を使って楽しめるフレンチ」として評判を呼ぶ。現在は3店のフレンチレストランを経営する傍らウェディング事業、人材派遣業、ケータリング事業、プロデュース事業、食育活動での講演会も積極的に行う。1967年、鹿児島県生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

大阪 フレンチレストラン「ル・クロ」(公式サイト)



<ブログ内関連記事>

中小企業経営・オーナー経営

書評 『日本でいちばん大切にしたい会社』、『日本でいちばん大切にしたい会社2』(坂本光司、あさ出版、2008、2010)

クレド(Credo)とは

書評 『跡取り娘の経営学 (NB online books)』(白河桃子、日経BP社、2008)

書評 『ホッピーで HAPPY ! -ヤンチャ娘が跡取り社長になるまで-』(石渡美奈、文春文庫、2010 単行本初版 2007)

飲食業

書評 『CoCo壱番屋 答えはすべてお客様の声にあり』(宗次徳二、日経ビジネス人文庫、2010 単行本初版1995に改題加筆)

書評 『言葉にして伝える技術-ソムリエの表現力-』(田崎真也、祥伝社新書、2010)

書評 『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』(岡田芳郎、講談社文庫、2010 単行本 2008)

「観察」の重要性

書評 『ユダヤ人が語った親バカ教育のレシピ』(アンドリュー&ユキコ・サター、インデックス・コミュニケーションズ、2006 改題して 講談社+α文庫 2010)

「人間の本質は学びにある」-モンテッソーリ教育について考えてみる






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2011年9月20日火曜日

グンゼ株式会社の創業者・波多野鶴吉について-キリスト教の理念によって創業したソーシャル・ビジネスがその原点にあった!



 グンゼ株式会社は、大阪に本社をおく男性用肌着・インナーを主とする日本の繊維メーカーです。一部上場(東証と大証)のファッションメーカーといってもいいでしょう。

 グンゼ株式会社は、もともと郡是製絲株式会社として1896年(明治29年)に創業された会社です。グンゼ株式会社の社史によれば、創業者・波多野鶴吉(1858~1918)が地域産業振興を目的に京都府何鹿郡(現京都府綾部市)に設立した会社です。余談ですが、わたしの生まれた京都府舞鶴市にも近いので親近感を感じます。

 「群是」(ぐんぜ)とは、国に「国是」があるように、現在の綾部市を含んでいた群にも「群是」があるべきだという考えでつけられた社名のようです。国是が、国民の支持をえた国の長期政策の方向性のことであれば、群是とは、群の住民の支持をえた群の長期政策の方向性ということになりますね。

 明治時代の主要産業であった繊維業の分野で地域産業を振興し、地域を活性化しようというのが、その最大の目的であったのですね。ですから、最初から現在でいうソーシャル・ビジネス的な要素のきわめて強い性格をもっていたといっていいでしょう。

 こういう出発点の考えから、一部を除いて株式は地域の人たちに幅広くもってもらったそうです。その結果、10株以下の株主が95%を占めていたため、株式実務がたいへんだという批判もあったそうですが、波多野鶴吉は、大株主によって経営の方向がゆがめられないように、最初から株式を分散したそうです。

 また、創業当初から量より質を重んじ、顧客に対する親切第一主義を徹底したといいます。

 波多野鶴吉は、キリスト教の理念で会社経営を行った経営者です。この意味において、鐘紡(=現在のカネボウ)の武藤山治や倉敷紡績(=現在のクラボウ)の大原孫三郎ほど有名ではありませんが、もっと知られてしかるべき存在かもしれません。

 会社設立の6年前からすでに京都の同志社の伝道でキリスト教徒となっていた波多野鶴吉は、会社設立時点からキリスト教の理念にもとづいた工場経営を行っており、職工の教育にはひじょうに重点を置いており、その他の紡績工場とはまったく異なるものであったようです。

 明治42年(1909年)には、従業員の増加にともなって教育の強化する必要をつよく感じ、東京で独立伝道をしていた川合信水(かわい・しんすい)牧師を職工教師として招聘しました。川合信水(1867~1962)は、日本型キリスト教の教団である基督心宗教団を立ち上げた牧師です。「肥田式強健術」で知られる肥田春充の実兄でもあります。

 招聘(しょうへい)されてはじめて面談したとき、川合信水は波多野鶴吉にこう言ったそうです。

 「職工を善くしたいと思うなら、先ずあなたご自身がよくならなければなりません」

 まずはトップダウンで、「塊より始めよ」というこいとですね。

 その結果、波多野鶴吉は教育部長として着任した川合信水の教えを受け、自己の修養に努めたのですね。まずは「塊より始めよ」という教えは、企業経営が経営者によって大きく左右されるものを如実に示していえましょう。

 川合信水の教えを忠実に遂行した結果、会社は社長以下すべての従業員の修養団体のようになっていたそうですが、「女子寮」というコトバと実体をつくったのも波多野鶴吉が初めてのようです。

 起業から一年目はたいへんな苦労があったようですが、その後は軌道に乗り、「模範工場」としても知られていた郡是製絲株式会社は、企業成績も良好でありました。

 かの有名な 『女工哀史』(細井和喜蔵、岩波文庫、1954 改版 1980)が、最初に単行本として改造社から出版されたのが 1925年(大正14年)のことですから、波多野鶴吉のキリスト教理念を徹底した工場経営が、いかに時代をはるか先にいくものであったかが理解できるでしょう。

 波多野鶴吉の「模範工場」は、同じく紡績工場を舞台にした『あゝ野麦峠-ある製糸工女哀史-』(山本茂実、角川文庫、1977)が描いた時代よりもあとの時代になります。

 第一次世界大戦が起こった大正3年(1914年)には会社の状況が苦境に陥ったにもかかわらずが、教育部の縮小は絶対に行わなかったそうです。「人間尊重」という理念が絵に描いたものではなく、生きた理念として完全に浸透していたためでありました。

 この苦境を乗り切ったあと、大正4年(1915年)川合信水牧師(=教育部長)が作成した「至誠訓」を社訓としました。だいぶ時代がかったものですが、一部を紹介しておきましょう。

「誠」ヲ一貫シテ
「完全ノ天道」ヲ尊崇シ常ニ謙(へりくだ)リテ
一. 完全ノ信仰ヲ養ヒ
二. 完全ノ人格ヲ修メ
三. 完全ノ勤労ヲ尽シ
四. 完全ノ貢献ヲ為スコトヲ祈願シ実行ス

 この「社訓」に、キリスト教の理念による会社経営と従業員教育が軌道に乗ったと、創業者・波多野鶴吉が実感されていたことがうかがえます。

 その後の歴史については、グンゼ株式会社のウェブサイトに「社史」がアップされているのでご覧いただきたいと思いますが。創業者・波多野鶴吉については書かれているものの、キリスト教の理念によって経営されていたことには触れられていません。現在は、そういったキリスト教色が薄れているためでしょう。

 現在の企業理念は以下のようになっています。

グンゼでは、創業の精神(人間尊重・優良品の提供・共存共栄)を経糸(たていと)に、社是の実践を通じて、社会からの期待に誠意をもって柔軟に応えることを緯糸(よこいと)に、社会に貢献しています。
●創業の精神
人間尊重と優良品の生産を基礎として、会社をめぐるすべての関係者との共存共栄をはかる。
●社呈
1.優良品の提供に徹し社会に貢献する
1.誠意をつくし信頼の輪をひろげる
1.若さと創意をいかし世界の一流をめざす

 現在の社是からはキリスト教色は薄れてますが、創業者の精神が息づいていることがわかります。

  「どんな大企業でも最初はベンチャーだった」と喝破したのは経営学者の米倉誠一郎・一橋大学教授ですが、グンゼもまた当初のベンチャー時代は、かぎりなくソーシャル・ベンチャーに近い存在であったのでした。


<参考文献>

『日本経営理念史(新装復刻版)』(土屋喬雄、麗澤大学出版会、2002 原著 1964・1967)
・・とくに、「第三部 キリスト教倫理を基本とする経営理念」 の 「第二章 波多野鶴吉の経営理念」

●グンゼ株式会社の公式ウェブサイト
・・「沿革・社史」「グンゼの歩み」

*なお、冒頭に掲げた波多野鶴吉の写真は、同社のウェブサイトにアップされているもの





PS 読みやすさの向上につとめるため、字句の一部を修正し、あらたにリンクを張った。多数のアクセスに感謝したい。 (2014年8月27日 記す)


<ブログ内関連記事>

『鉄人を創る肥田式強健術 (ムー・スーパー・ミステリー・ブックス)』(高木一行、学研、1986)-カラダを鍛えればココロもアタマも強くなる!
・・「肥田式強健術」を全面的に取り入れたのが郡是製絲株式会社(=グンゼ)、そのミッシングリンクが郡是製絲株式会社に教育部長として招かれた川合信水牧師だったのでした。川合信水の実弟が肥田春充(ひだ・はるみち)。人脈をたぐりよせると、見えない「つながり」が見えてくるという面白い話でもあります。 

書評 『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』(マーク・マリンズ、高崎恵訳、トランスビュー、2005)-日本への宣教(=キリスト教布教)を「異文化マーケティグ」を考えるヒントに

書評 『新島襄-良心之全身ニ充満シタル丈夫-(ミネルヴァ日本評伝選)』(太田雄三、ミネルヴァ書房、2005) -「教育事業家」としての新島襄
・・波多野鶴吉は、京都の同志社の伝道でキリスト教徒になった

内村鑑三の 『後世への最大遺物』(1894年)は、キリスト教の立場からする「実学」と「実践」の重要性を説いた名講演である
・・内村鑑三は「カネを残せ」と主張した。もちろん、稼いだカネを正しい目的で使えという趣旨であるが、アメリカに学ぶべきは実業家のフィランスロピーであることを主張している

「信仰と商売の両立」の実践-”建築家”ヴォーリズ-
・・伝道という「事業」を軌道にのせるための財政基盤をつくるために、営利事業を立ち上げる。


「人間尊重」という経営理念

「人間尊重」という理念、そして「士魂商才」-"民族系" 石油会社・出光興産の創業者・出光佐三という日本人
・・出光佐三は日本と日本人全体のことをつねに考えていた人であった

ソーシャルビジネス

書評 『チェンジメーカー-社会起業家が世の中を変える-』(渡邊奈々、日本経済新聞社、2005)
・・シャーシャルビジネスの事例

書評 『ブルー・セーター-引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語-』(ジャクリーン・ノヴォグラッツ、北村陽子訳、英治出版、2010)
・・"Patient Capital" というソーシャルファンドについて


自前の思想

「いまこそ高橋亀吉の実践経済学」(東洋経済新報社創立115周年記念シンポジウム第二弾) に参加してきた-「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
・・・・亀吉や鶴吉といった、動物を含む名前は明治時代には少なくなかった

(2014年3月24日、8月14日、27日 情報追加)





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