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2011年11月21日月曜日

松下幸之助の 「理念経営」 の原点- 「使命」を知った日のこと


 日本経済新聞に連載された "経営の神様" 松下幸之助の 『私の履歴書』 「私の履歴書 復刻版 松下幸之助」 として読むことができることを最近知りました。「日経 Biz アカデミー」というサイトに小出しでアップが続いています。

 「第7回 発展時代」に 「理念経営」 の原点となった出来事が記されていますので、ちょっと長くなりますが、ご紹介します。なお、太字ゴチックは引用者(=わたし)によるものです。

 このころの私には商売に対し反省がわいていた。いままでは世間の通念どおりの商売をやってなんとかうまくいっていたが、次第にこれでは物足りないという気持ちが出てきた。一体生産者の使命はなんだろう、こんなことを連日夜おそくまで考えた結果、私なりに一つの信念が生まれた。

 それは簡単にいうと、この世の貧しさを克服することである。社会主義者みたいなことをいうようだが、たとえば水道の水はもとより価のあるものだ。しかし道端の水道を人が飲んでもだれもとがめない。これは水が豊富だからだ。結局生産者はこの世に物資を満たし、不自由を無くするのが務めではないか。

 こう気付いた私は昭和7年の5月5日を会社の創業記念日とした。開業した大正7年から14年も経ってから新しい創業記念日を設けるとは不思議に思われるかもしれないが、私が使命を知ったときとしてこの日を選んだのだ。そしてこの使命達成を250年目と決め、25年を一節、十節で完成することにした。つまりわれわれの活動は第一節でこの基礎を固めることだ。

 これが、かの有名な 「水道哲学」 です。日本ではすでにモノがあふれかえっていますが、全世界を見渡せば、この「水道哲学」がまだ貫徹していないことは一目瞭然でしょう。

 「使命」を知った日を創業記念日としたという松下幸之助。そして、「使命達成を250年」と設定したことにも、自分一代ではミッション・コンプリートとならないと感じていたということでもあるわけですね。自分の「使命」であり、企業という運動体の 「使命」 でもある、と。

 実際の企業経営は、仏教用語でいう「無常」(=常ならず)の世界で行われるものですから、山あり谷あり、照る日もあれば曇る日もあるわけで、紆余曲折はつきものです。

 しかし、「使命」を自覚したことによって、経営活動に一本筋が通ったものになったわけです。

 これは、松下幸之助にとって、じつに大きな意味があったというだけでなく、後に「経営の神様」と尊敬されるようになった松下幸之助の言動を通じて、同時代の日本人だけでなく、後生に生きる日本人にとっても、きわめて大きな「気づき」となったわけでもありました。

 ところで、松下幸之助は「事業部制」を昭和10年(1935年)に導入しています。これは同時代の米国企業GM(ゼネラル・モーターズ)で採用さfれた経営組織でした。

 現在のパナソニックでは、事業部制のデメリットがメリットを上回ったため、中村氏のもとで大なたを振るう改革が行われましたが、昭和10年(西暦 1935年)というきわめて早い時期に「事業部制」を導入したのは、松下幸之助が病弱だったので、部下に権限委譲するための施策だったとも言われています。

 いわゆる「中村改革」で大胆な企業変革を実行できたのも、中村氏が松下幸之助の理念を完全に身につけており、「理念以外、聖域なし」というマインドセットで改革に取り組めたからだと言われています。

 これはすでにこのブログでも「経営理念以外、聖域なし」-松下電器(当時)の「中村改革」 と題して書きました。

 なお、松下幸之助の『私の履歴書』は、『松下幸之助 夢を育てる-私の履歴書ー』(日経ビジネス人文庫、2001)として文庫化されてロングセラーになっています。ぜひこの機会に一度とおして目をとすことをお奨めします。





<関連サイト>

「私の履歴書 復刻版 松下幸之助」
・・「日経 Biz アカデミー」サイト

"経営の神様" 松下幸之助氏が説いた「経営の要諦」- 「人が代われば組織も変えろ」 (日経ビジネス編集部、2014年9月1日)
・・1973年8月20日号よに掲載されたインタビュー記事の再掲する (注)記事中の役職、略歴は掲載当時のもの。

「なにごとも、使命感がないと、あかんな」 悩み抜いた末に得た、生涯における悟り (江口克彦、東洋経済オンライン、2014年11月6日)
・・松下幸之助の側近であった江口克彦氏が幸之助から直接聴き取った「知命」の詳細が再現されている。天理教の本部での経験から得た悟りである。

ところが、こっちはチャンと値段をつけている、こっちのほうが、もっと大きくなってええのに、そうではない。あっち(=信者が無償で奉仕している天理教)の方が隆々としている。なんでやろうか、帰りの電車の中で考え続けて、ハッと気がついたんや。それは、こっちに使命感がないからや。向こうは、人間を救うという大きなもんがある。こっちにはない。それでは、商売する者の使命はなにか。そや、貧をなくすことや。この世から貧をなくすことが、わしらの使命なんや。そこで、悟ったんやな。それが、使命を知ったということで、昭和7年を命知元年ということにしたんや。(*太字ゴチックは引用者=さとう、カッコ内の注釈も)

松下幸之助は「宗教」をみて「経営」を悟った どうして宗教は盛大で力強いのか (江口克彦 故・松下幸之助側近、東洋経済オンライン、2016年6月10日)

(2014年9月1日、11月6日、2016年6月10日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

「経営理念以外、聖域なし」-松下電器(当時)の「中村改革」





(2012年7月3日発売の拙著です)









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