2011年11月4日金曜日
「ゆでガエル症候群」-組織内部にどっぷりと浸かっていると外が見えなくなるだけでなく、そのこと自体にすら気が付かなくなる(!)というホラーストーリー
人間というものは、悲しいかな、ずっと内部にいると外部の常識がわからなくなってきます。恐ろしいことは、内部にいるとそのこと自体が、わからなくなっていることに気が付かないのですね。
これはかつて「ゆでガエル症候群」とよばれたものです。
「ぬるま湯」に浸かっているカエルは、徐々に温度を上げていっても気が付かず、ついには茹で上がってしまうという笑い話です。ほんとうにそんなことがあるのかどうか、実験してみたことがないのでわかりませんが(笑)
いま問題になっているマスコミ不信も、高給取りの大新聞社やその系列テレビ局の組織は「ぬるま湯」に浸かっていて、世間の常識とはかけ離れていることもその原因の一つかもしれません。
「ぬるま湯」がすでに沸騰していることに気が付かないまま、茹で上がってしまっているのでしょうか? 世間がマスコミを見る視線がきわめて厳しくなっているのに。
たとえ個人的には志(こころざし)の高い記者であっても、最前線の現場を離れて管理職になると、組織の論理にからめとられてしまうようですね。
これは新聞社やテレビ局だけでなく、官僚組織も同じでしょう。民間でも大企業組織は官僚組織そのものですね。銀行組織もまた同じであることは、銀行の関係会社であった金融系コンサルティング会社に身を置いていて、ごく身近で観察してきたわたしにはよくわかります。
いま立て続けに発生している一部上場企業のガバナンス不全状況もまた、おなじ現象であるような気もします。外部の風が冷たいことに、ようやく気がつき始めたのではないでしょうか。タイミングとしては遅きに失したということでありますが。
■「ゆでガエル症候群」は、組織の問題であり、また個人の問題である
たとえ個人的には志(こころざし)の高い人であっても、知らないうちに組織の論理に囚われてしまっていることとは、それだけ組織のもつチカラというものは大きいことを意味しています。
もちろん、個人のチカラには限界があります。だからこそ、少しでも大きな仕事をするためには、個人の集団である組織の存在意義があるわけです。
どんな組織でも、最初はベンチャーだったのです。一人あるいは少数の人間の強い意志ではじめた事業が発展するにしたがって組織として体制を整えていく。しかし、組織が整備されていくと、組織の意思が個人の意思を上回って働くようになってくる。
組織にしたがって、流されて生きていくのは、ある意味では気楽なことです。余計なことを考えなくても済むからです。平時なら、まことにもってすばらしいことですね。
しかし、いったん有事になった際、いままでのルールがすべて変わってしまうとき、組織はみずからの生き残りのためになりふり構わぬ本性をあらわすものです。そのとき、果たして個人はそのまま「ぬるま湯」に浸かっていられるかどうか? そして組織自体も外部環境の大変化のなか、「ぬるま湯」に浸かっていあられるのかどうか?
すでに「有事」になっている日本ですが、日本以外の世界もまさに「有事」のまっただ中にあります。タイの大洪水、ヨーロッパの金融問題 etc.etc.
このような「有事」においては、「平時」以上に、個人のミッションを組織のミッションをいかにすりあわせていくことが、組織力をフルに発揮していくうえでが、ひじょうに重要な課題となってきます。
これができれば百人力ですが、個人の価値観の変化に組織が追いつけなくなってくると、歯車がかみ合わなくなってきて、当然のことながら生産性も落ちてきます。
もちろん、個人と組織は別物ですから、完全に一致することがそもそもありえません。「対話」は絶対に不可欠ですが、お互いイヤなのに我慢し続けには限度というものがあるでしょう。組織からみれば、価値観のあわない個人には辞めてもらうこともできますし、反対に価値観があわなければ組織を去るという選択肢も個人の側にはあります。
「ゆでがえる」状態の上司が、世間の厳しい風を現場で感じている部下の価値観の変化に気がついていないことが、あなたの身の回りにもありませんか? 「3-11」後に、じわじわと目に見えない形で個人の価値観が変化しつつあることに気がついていますか?
あなたがいる組織では「ゆでがえる症候群」が発生していませんか? いや、あなた自身が「ゆでがえる」になっていませんか?
ときには外気に身をさらし、外部の空気を胸一杯に吸い込んで寒い思いを味わってみることも必要でしょう。それは、個人にとっても組織にとっても、お互いにとっていい関係であるためには必要なことですから。
個人だけでなく、組織も「ゆでがえる」にならないようにしなければなりませんね。完全にゆであがってしまってからでは遅すぎるのです。
P.S. 上掲画像は、wikipedia 英語版の項目 boiling frog(ゆでがえる)からとりました。
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(2014年8月29日 情報追加)
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