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2011年8月9日火曜日

『グローバル仕事術-ニッポン式ビジネスを変える-』 (山本 昇、明治書院、2008) で知る、グローバル企業においての「ボス」とのつきあい方


グローバル企業で働くということは「ボス」との一対一の契約関係に入って組織のなかで生き抜くことだ

 本書は、典型的な日本の大企業で働いた後、英国でグローバル企業を体験、その後は現地でコンサルティング会社を立ち上げて、通算20年以上英国で働いている著者による、「グローバル企業での働き方」のキモを紹介した本です。

 タイトルには「グローバル」企業とタイトルにありますが、正確にいえば著者が体験してきた「欧米系グローバル」企業のことでしょう。ですが、あえて「欧米系」と冠をつけることもないと思います。

 というのは、デファクトで世界ルールとなっているのは欧米流だからです。これはアジアでも同様。中国人もインド人も、みなこの「グローバル」の作法にしたがって仕事をしています。

 欧米の植民地になった経験をもたなかったのは日本とタイだけですが、そのタイでも企業経営は欧米流のルールに基づいて行われていることは、わたし自身が体験したことです。

 日本企業だといっても、日本の外で事業展開する際には、「グローバル企業」として行動することが求められるわけです。かつて評論家の竹村健一がよく言っていた表現ですが「日本の常識は世界の非常識」というものがあります。その意味では、日本企業とグローバル企業を対比させて語るのは、あながち間違いではありません。

 「グローバル企業で働くということは「ボス」との一対一の契約関係に入って、組織のなかで生き抜くことだ」。本書の内容を、このようにひと言で要約してしまって問題ないと思います。これが本書のキモです。

 ただし、「ボス」(boss)の意味が、日本と欧米モデルでは大きく異なります。日本だとボスとの関係は伝統的には親分子分関係で、中小のオーナー企業ではその傾向も多々ありますが、近代組織のなかにおいては、「ボス」は、社内の人事異動でやってきた上司以外の何者でもありません。「組織が個人に優先する」という組織原則が、タテマエのうえでは「あるべき論」として強調されるのが、日本の組織ですね。

 ところが、グローバル企業においては、ボスと部下との関係は、文字通りの契約関係です。人事権を含めて絶大な責任権限をもつボスが、最終的に誰を採用するかどうかを決定するのであり、ボスの側が求めるものと、その下で働くことになるものの要求が合致したときに契約が成立するのです。もちろん棹の際には仕事ができるだけでなく、いわゆるケミストリー(化学)という相性も重要な要素となります。

 ボスと部下との関係は、明文化された契約であり、語の本来の意味における労働契約なのです。

 その意味では、ドライな関係であるというのは確かでしょう。日本でも労働法においては「労働契約」という概念そのものは存在しますが、期限を定めた短期の契約社員以外には、労働契約は通常はあってなきがごとしでしょう。

 日本では、明確な契約関係で労働を提供するのは、取締役か個人事業主の外部コンサルタントなど、労働法の適用を受けない商法上の関係に限定されます。日本でも取締役はその意味では、グローバル企業の社員に近い存在といってよいでしょう。

 もちろん、グローバル企業の社員は労働契約ですから、労働法によって守られた存在です。本書にもあるように解雇には二種類あります。余剰人員削減が目的にリダンダンシー(redundancy)と狭い意味の解雇であるディスミッサル(dismissal)です。前者の場合は、会社都合ですから金銭的にもそれなりの支払義務が生じます。

 グローバル企業の場合は、すべてがこの契約関係にあるので、この前提があってはじめて成果主義が成立することになるのです。これはきわめて重要なことです。契約関係にあるということは、契約上の甲も乙も対等な関係にあるということになります。

 ボスの側が提示するのが「ジョブ・ディスクリプション」(職務内容記述書:Job description)、そしてそのボスの下で働く契約後に部下が提出するのが「ワーク・プラン」(Work plan)。年度のはじめに詳細なすりあわせを行い、それをもとに一年間のパフォーマンスが評価されることになります。

 日産自動車の立て直しを行ったカルロス・ゴーンが、当時しきりに強調していたコミットメント(commitment)ということはそのことなのです。

 本書で強調されているのは、わたしなりに抜粋すれば、「あくまでも自分が中心」、「グローバル企業での組織と個人の関係はサッカーのようなもの」、「ホンネとタテマエの使い分け、柔術は欧米系グローバル企業でも役に立つ」、「コトバの訓練、とくに英語の訓練はきわめて重要」、「原則を尊重して、基本的に何が目的かというファンクションを基本にモノを考え、クリエイティな解決策を見いだすことの重要性」などになりうでしょうか。

 いずれも、著者自身が体験した具体的な事例をもとに語られています。

 日本の企業経営が簡単に変化するとは思えませんが、国内市場が収縮傾向にある一方、円高基調が続く見込みの日本では、今後は海外に活路を見いだすことは必至の情勢といっていいでしょう。

 先にも触れたように、日本企業とて、日本から一歩外にでたらローカルの社員を雇用することになるのです。日本的なやり方が通じないことは、すぐに体験することになります。

 部下の立場よりも、「ボス」の立場でローカル社員と接することになろうかと思いますが、当然のことながら日本流は通用しません

 グローバル企業の運営ルールは、好き嫌いにかかわらず欧米流が基本なのである以上、そのルールをまずはアタマで理解しておくことが重要であることはいうまでもないでしょう。

 ぜひ一読しておきたい基本のビジネス書として、お薦めします。






目 次

はじめに
第1部 グローバル企業に入る
 第1章 グローバルな組織を知る
  採用から着任まで
  グローバルな組織のなりたち
  ジョブ・ディスクリプション(職務内容記述書)
 第2章 グローバル企業の暗黙のルール
  グローバル企業の人間関係
  グローバル企業での「約束」と「契約」
  グローバル企業の行動様式
第2部 グローバル企業で生きる
 第3章 グローバル企業での仕事の基本
  自分自身で考え、行動するために
  専門分野を磨くために
  時間を有効に使うために
 第4章 競争の中で生き残るには
  職場の厳しい現実
  戦いにおけるボスの役割
  サバイバルのための戦略  
第3部 グローバル企業で活躍する
 第5章 グローバル企業でのキャリアの積み方
  キャリアアップの目的と方法
  ポジションを移るときの心得
  自己開発と情報収集
 第6章 国際ビジネスの舞台裏
  国際ビジネスと国際交渉
  国際ビジネスの最前線
付録 グローバル企業のルール vs. 日本企業のルール対照表
おわりに


著者プロフィール

山本 昇(やまもと・のぼる)

株式会社オリエンス・コンサルティング代表取締役社長。1948年生まれ。東京大学法学部卒業。マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院修士課程修了。KDD(現KDDI)で、営業、経営調査、需要予測、インドネシアの国営通信企業の長期計画などを担当の後、国際機関インマルサットに入社のため家族とともに渡英。予算、財務計画、衛星調達のグループ・リーダーを務めた後、新設の航空衛星部に移り、世界最初の航空機用の衛星電話とインターネット通信およびTV放送の企画・国際市場開拓に従事。同機関の民営化作業に関わった後に退社。その後、英国において、衛星通信・放送・ナビゲーションのビジネス・コンサルティングのほか、国際企業での経験をもとに国際交渉などについても助言している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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