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2011年6月29日水曜日

なぜ「経営現地化」が必要か?-欧米の多国籍企業の歴史に学ぶ


「最近の若者は海外に行きたがらない」。よく耳にするセリフですね。

たしかにそのとおりです。しかし、これはバブル崩壊の頃から言われていた話。理由は、少子高齢化の影響がストレートにでているためだと思われます。

なんといっても一人っ子が増えているので、親が手元からてばなしたくないというケースが多いことは、新人採用にかかわってたときに何度も経験しました。本人は入社したいと思っても、親の都合で断念する。子どもの側からみても、年老いてゆく親をほっておいて上京するのは、しのびないものがあると思う。

これは海外勤務の話ではありません。国内ですらそうなのです。地方から上京するという話ですらまとまらないことが多い。これは中小企業ではあたりまえの傾向です。

若者じしんも考え方が大きく変化しています。地元で就職して、地元の友人たちとずっとつきあい続けたいという意向は、すでに定着したといっていいでしょう。

何ごともメリットとデメリットは裏腹の関係です。逆もまたしかり。デメリットと思われることも、視点をかえればそれはメリットでもある。

今回の大震災と大津波で東北の太平洋岸は大規模に破壊されましたが、テレビでみていると、老人だけでなく、若者たちもまた「地元に残りたい」と口々にのべています。一言でいえば「地元愛」。これが悪いとは誰に言えましょうか?

海外に出る、出ないも同じことです。あくまでも「個人の選択」の問題ですから、一概に、いい悪いはいえないと思います。

いままでのように、有無をいわせず海外にいかせる、国内移動させるという、日本企業ではあたりまえだった考えと慣習が、あまりにも個人を軽視したものだったというべきでしょう。

わたしは、こういう状況だからこそ、さらなる「現地化」を進めるべきだというのが持論です。日本で事業展開する米国の外資系企業も、そういう考えで海外事業展開しています。


植民地における「二重支配体制」が多国籍企業の経営モデルとなった

米国系企業や欧州系企業では、日本企業とはまったく異なるアプローチをしています。

米国や欧州のグローバル企業の現地法人では、ローカル経営は現地代表(マネージング・ディレクター)に権限委譲して完全にまかせていることがフツーです。

たとえば私がいたタイでも、欧米系のグローバル企業の現地代表はみな30歳台から40歳台ににかけての華人系タイ人で、米国でM.B.A.を取得した者が大半でした。従業員はいうまでもなくローカルのタイ人です。

ただし、現地法人トップの人事権とカネにかんしては、親会社がガッチリ握って離さないというのは、進出先の全世界に共通した経営手法ですね。

英語で経理部のことをコントローラー(Control)というのはそういう意味なのです。現地代表は、本社でいえば課長程度といってもいいでしょう。

じっさいに、日本にある外資系企業でも、本社の都合にほんろうされるケースが非常に多いのは、マイクロソフトやグーグルなどの動きを見ていればあきらかでしょう。

なぜこのような経営形態になったかというと、やはり「植民地」における企業経営の経験が非常に大きいと思われます。

英領インドにおける英国の東インド会社(East India Company)、蘭領東インド(=現在のインドネシア)におけるオランダの東インド会社が典型的な事例です。英国とオランダの双方に本社のある、エネルギーのロイヤル・ダッチ・シェル(Royal Dutch Shell)や、食品のユニリバー(Unilever)のような英蘭系グローバル企業は、その最右翼というべきでしょう。

要は、限られた駐在員ですべてをこなすのは不可能なので、「二重支配体制」を創り上げたのです。

「二重支配体制」とは、日本の近現代史の例でいえば、敗戦後進駐してきたアメリカ占領軍が、日本の官僚制を温存して現地の行政を行わせ、肝心かなめのところはガッチリ軍政当局が押さえていた、という「二重支配体制」を考えてみればいいでしょう。

マッカーサーはこの支配体制を、すでに当時は米国の植民地であったフィリピンで実験済みだったのです。マッカーサーは父親の代からフィリピンには深い利害関係をもっていました。


欧米の多国籍企業で「経営現地化」が進んだもう一つの理由

第二次大戦後は、とくに中南米では現地駐在員が、誘拐やテロの被害に遭遇することが激増し、この対策として現地経営は現地人にまかせていった、という歴史的背景もあります。これは、米国でもドイツなどの欧州企業でも同じことです。

日本人のビジネスマンが、フィリピンや中南米で身代金目的で誘拐される事件が相次いでいた頃、米国や欧州の多国籍企業はすでに、「経営現地化」を完了していたわけなのです。

中南米の事例は、M.B.A.の授業で「国際ビジネス」を受講したとき、元米国海軍士官のエンジニアで、ブラジル駐在体験もある国際ビジネスマン経験をもつ教授が教えてくれましたが、なるほどと思ったものです。

ちなみに、その教授は、朝鮮戦争には海軍士官として出征し、佐世保基地に駐在したという経験もあり、日本人の私には親しく接していただいた。東部出身の、アナポリスの米海軍兵学校(US Naval Academy)出身のエリートでした。

進出先の現地での企業経営は、できるだけ現地出身の人間にまかせていくというのがスジとしてとおるだけでなく、合理的でもあるというべきでしょう。このような形をとれば、やる気で能力ある現地社員のモチベーションをうまく活用することも可能になります。

これは個々の企業によって対応は異なるでしょうが、必ず進めていかねばならない課題といっていいでしょう。

現地に骨を埋めろ、というのはたやすいですが、それを強いることは韓国企業ならいざしらず、現在の日本では難しい。現地滞在はとりあえず数年、というのが限界ではないでしょうか?

それなら、いっそのこと現地出身の人間を採用して日本国内で教育訓練し、現地に送り返しほうが現実的でだといえるかもしれません。

もちろん、経営者自身が現地に骨を埋めるつもりであれば、それはそれでかまいません。


とはいえ、「ビジネスに唯一の正解はない」!

とはいえ、「経営現地化」が最終解決ではないことは、「現地化」に潜む落とし穴-「ついに誕生!中国人総経理」で暗転した現地法人の顛末 という記事にも書かれています。「総経理を中国人にすること」が現地化の目的ではない。責任権限の明確化が不可欠なわけですね。

「ビジネスに唯一の正解はない」、というのはこのケースもふくめて、すべてのケースにあてはまるといってよいでしょう。

どこの国でも似たような事例があります。モデルが正しくても、運用する仕方と運用する主体である人間次第で、結果は異なってくるものなのです。

日本企業はまだまだ海外事業の経験を十分につんだ状態とはいえないでしょう。多国籍展開をすすめる大企業ですらそういう状況ですから、中堅中小企業は、まだまだ試行錯誤を続けていかねばならないのは仕方ありません。

ですが、日本の大企業をそのままなぞるのは、経営資源のすくない中堅中小企業では難しいものもあります。参考にしつつ、独自の取り組みを行うことも必要かもしれません。

場合によっては、官僚的な大企業組織よりも、柔軟かつスピーディに「経営現地化」を進めることができるかもしれません。ただし、優秀なブレインが必要でしょう。



<ブログ内関連記事>

書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)

イエズス会士ヴァリリャーノの布教戦略-異文化への「創造的適応」
・・キリスト教を布教する立場からみた異文化の土地における「経営現地化」の方法論について。そのエッセンスは、現地語に習熟、現地の文化と風習を学んで適応することから始める。現地に大幅な権限委譲を行い、かつ現地人の担当者を育成する。将来、現地の統轄をまかせることのできる現地人責任者を育成する教育を現地で行う。

書評 『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』(マーク・マリンズ、高崎恵訳、トランスビュー、2005)
・・同じく、インバウンドの立場からの「経営現地化」を考えるには示唆の多い本

書評 『村から工場へ-東南アジア女性の近代化経験-』(平井京之介、NTT出版、2011)-タイ北部の工業団地でのフィールドワークの記録が面白い ・・経営する側ではなく、経営される側のローカル従業員たちはどう考えているかがわかる内容

書評 『グローバル・ジハード』(松本光弘、講談社、2008)-対テロリズム実務参考書であり、「ネットワーク組織論」としても読み応えあり

書評 『誰も語らなかったアジアの見えないリスク-痛い目に遭う前に読む本-』(越 純一郎=編著、日刊工業新聞、2012)-「アウェイ」でのビジネスはチャンスも大きいがリスクも高い!

(2014年5月22日 情報追加)





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(2012年7月3日発売の拙著です)





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