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2013年10月29日火曜日

「ブルータス、お前もか!」-立派な「クレド」もきちんと実践されなければ「ブランド毀損」(きそん)につながる


先週木曜日(2013年10月25日)、大阪リッツカールトンで発覚したのが「メニュー誤標示」問題

行動規範としての「クレド」(=信条)を従業員に徹底させることで、すぐれたサービスを実践する会社として著名なアメリカ系の高級ホテルがリッツ・カールトンですが、まことにもって悲しいかな、「ブルータス、お前もか!」と言いたくなってしまう出来事です。

日本経済新聞に掲載された記事「リッツ大阪でも誤表示 公表なしにメニュー訂正」(2013年10月25日)から一部引用しておきます。

報道各社の取材に応じたオリオル・モンタル総支配人によると、ホテル内のレストランでブラックタイガーを車エビ、バナメイエビを芝エビとしてそれぞれ提供していたほか、レストランやラウンジで容器詰めのストレートジュースを「フレッシュジュース」とメニューに表記していた。・・(中略)・・「あってはならないことで深刻に受けとめている。誤表示が起きた詳しい経緯について今後調査する」とした。


接客にかんしては定評のあるリッツカールトンですが(・・わたしも大阪リッツカールトンには一回だけですが宿泊したことがあります)、お客様とはダイレクトに接触する接客ポジション以外では、「クレド」が徹底していなかったということでしょうか・・・?

まことにもって残念としかいいようがありません。


短期的なコスト削減がブランド毀損(きそん)を招く

企業経営にとっての最大の難問の一つは、短期利益と長期利益の折り合いをどうつけるかにあります。これは企業業績にかかわるものであると同時に企業倫理にもかかわる問題です。

おそらくホテルのレストランの現場においては、コストダウン要請プレッシャーがそうとう強かったのではないかと推測されます。

大阪リッツ・カールトンは米本社の直営ではなく、阪急阪神グループがオーナーです。阪急ホテルでも「誤表示」問題が表沙汰になっています。リッツ大阪のオーナーである阪急グループとしての経営姿勢が問われますが、リッツ・カールトンのブランドイメージに傷を付けた責任も問われることでしょう。

短期利益にたいして、ブランドはまさに長期利益の源泉企業がサステイナブル(=持続可能)な存在として利益を指し続けていくために大事なのがブランドです。

ブランドに体現された信用を築き上げるのには長い時間がかかるのに対し、信用が失われるのは一瞬の出来事です。なぜなら、ブランドは法的には企業の所有物であっても、あくまでも顧客のアタマのなかにあるものだからです。顧客の信用があってこそブランドは意味をもつのです。

つまり、短期利益追求姿勢と長期利益実現のコンフリクト(葛藤)が不祥事として表面化したということなのです。

さらなるブランド毀損(きそん)がリッツ・カールトン全体に波及するのを防ぐため、リッツの米本社サイドがどう判断し動くか要注視でありましょう。


リッツ・カールトンといえば「クレド」

「クレド」とは、米国の高級ホテルチェーンのリッツ・カールトン・ホテルが、全従業員に配布し、徹底させている「理念や使命、サービス哲学を凝縮した不変の価値観」のことです。

しかし今回明らかになったのは、たとえ「クレド」そのものは立派な内容でも、それを実践するのはあくまでもヒトであるということ、しかも全従業員が確実に実践できいていないのであれば、いくら立派な「クレド」であっても額縁に入って飾られた「経営理念」となんら変わらないということです。

顧客を中心にしたステークホールダーとのコミュニケーションにおいて、「ブランドの約束」が守れなかったということなのです。

コスト削減要請が無言のプレッシャーとして存在したのではないかと推測されますが、だからといってけっして許されることではありません。故意だったかどうかは外部からはわかりませんが、結果としてお客様をあざむいていたわけですから。

裏切られた思いをしているのはリッツ・カールトンのファンであるリーピーターの皆さんだと思いますが、それと同じくらい残念で悔しい思いをしているのは従業員のみなさんではないかと想像されます。

徹底的な調査を行ったうえで、「クレド」をふたたび徹底させるべく、一から出直してていただきたいものです。


行動規範を組織全体に徹底させるには組織内コミュニケーションがいかに重要か

それにしても、行動規範を組織全体に徹底させるのは、いかに難しいことか・・・。あのリッツ・カールトンですら、こうなのですから。

「クレド」にかんしては経営学のテキストでよく引き合いに出されるアメリカの医薬品メーカーのジョンソン・アンド・ジョンソン(J&J)があります。経営理念の浸透によって危機管理において初期動作を成功させた事例です。

1982年、ジョンソン・アンド・ジョンソンが販売する解熱剤「タイレノール」に何者かがシアン化合物を混入。服用した7人が死亡する事件が起きたのですが事件発生後1時間ほどで対応を開始、「シアン化合物混入の疑いがある」とすぐに情報を公開し、製品を回収。異物混入を防ぐ対策を取ったのがその内容です。徹底した情報公開と迅速な対応により問題を収束させたわけです。

そのジョンソン・アンド・ジョンソンですら、2010年には米国内で医薬品のリコール問題を引き起こしています。ヒューマン・エラーは完全に根絶できないのはいたしかたありません。

大阪リッツ・カールトンの件ですが、組織内コミュニケーションにも問題があったのではないかと推測されます。トップと現場との距離感が、どうも予想に反して存在していたのでないかという印象を受けています。

「誤(あやま)つは人のさが」という表現があるように、誰にでも安直な道を選択してしまうという誘惑にかられることも間違いを起こしてしまうこともあります。コスト削減要請を安い食材で代替してしまうという誘惑に負けてしまったかもしれません。

しかしながら、包み隠さずなんでも話し合うことができうようなコミュニケーション環境ができあがっていれば、こうした問題に直面したときに上司に相談ができたはずです。詳しい事情がわからないので何とも言えませんが。

組織内コミュニケーションの重要性をさらに真剣に捉えていただきたいものです。それがなければ、行動規範の徹底は不可能です。

世の中の経営者の皆さんは、大阪リッツ・カールトンのケースを「他山の石」として教訓を学び取るべきでしょう。


<関連サイト>

リッツ・カールトン大阪が食材を"偽装" 東京と異なる経営(ハフィントンポスト 2013年10月25日)

ホテル、百貨店で偽装を続発させた「レストラン」という世界の特殊性(財部誠一、ダイヤモンドオンライン 2013年11月8日)

阪急阪神ホテルズだけでない!メニュー表示偽装の構造問題(ダイヤモンドオンライン 2013年11月11日)

偽装メニュー対応で分かったホテル信用度 ワーストは近鉄系「奈良 万葉若草の宿 三笠」 主要30社調査(My News Japan 2013年11月5日)

食材偽装問題の根っこは「ブランド乱立」にあり!数百ページの再発防止策より大切な“シンプルルール”――水村典弘・埼玉大学経済学部准教授に聞く (ダイヤモンド・オンライン 2013年12月18日)
・・ブランドの根幹には顧客からの「信頼」という目に見えないものがあるという原点を見つめることだ。看板に書かれた表示を「信頼」している顧客を裏切るとブランド崩壊につながる!



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2013年9月4日水曜日

コトダマ(きょうのコトバ)-言霊には良い面もあれば悪い面もある



コトダマという日本語があります。漢字で書くと言霊となります。

コトダマとは、コトバには魂が宿るという古代からの日本人の信仰の一つです。英語だと word spirit となります。発想は日本語と同じですね。

ネガティブなことを考えたりクチにすると、ほぼかならずネガティブな結果がもたらされる。ポジティブなことを考えてクチにすると、ポジティブな結果がもたらされることが多い。

「予言の自己成就」(self-fulfilling prophecy)という概念がありますが、ひらたく言えばコトダマの効果そのものを指しているわけです。「発言したとおりのことがが現実になる」、「余計なことをしゃべったら藪蛇になった」などなど。

これは日常的によく経験していることですね。けっして呪術的な世界に生きていた古代人だけの話ではないのです。

冒頭に掲載した写真は、そのものずばり 『言霊』というタイトルのバレエ・マンガの表紙です。べつにわたしは少女マンガのファンでも、山岸涼子のファンというわけでもないのですが、「言霊」(ことだま)というタイトルが気になって読んでみました。ネット書店のアマゾンでレコメンド(推薦)されたからです。

マンガの内容は、とあるバレエ・スクールを舞台にした高校2年生(=16歳)の女の子たちが主人公の物語。怪我しないで最後まで踊り切るためには、いかにポジティブな心構えというメンタルの側面が大事であるか、そのテーマをマンガにした作品です。なかなかリアリティある内容です。

バレエ・ダンサーもまたアスリートと同じで、メンタルに大きな影響を与えるのがコトバ。それがポジティブであればポジティブな結果をもたらし、そうではなくネガティブな場合はネガティブな結果をもたらす。

「人を呪わば穴二つ」という格言もありますし、「笑う門には福来る」ともいいます。言霊を自分に対してではなく他者に対して行使する場合は、「引き寄せ」の法則が働くといっていいかもしれません。

自分が自分の内面で、あるいはクチにだして語りかけることは自己暗示といっていいかもしれません。

ココロに思ったことをクチに出してみる。思っただけでは効果はないが、クチにだしてみると自分が言ったコトバを自分自身の耳で聞くことになる。一般に、コトダマというとこのように理解されているのではないかと思います。

コトダマにはメリットもあればデメリットもあります。企業経営の場に則して整理してみましょう。

経営においては、リスク管理、危機管理(=クライシス・マネジメント)の観点から、最悪の事態について想定、つねに日ごろからシミュレーションし、それに備えて訓練しておくことは欠かせません。

最悪の事態について考えたり発言すると、その通り実現してしまうかもしれない不安が生じることは理解できなくありませんが、それはしなければならないことなのです。最悪の事態を考えたりクチに出すことがはばかられるというマインドセットを払拭するように心がけたいものです。

しかし一方、組織内コミュニケーションにおいては、できるだけポジティブな表現を心がけるようにしたいものです。ネガティブな表現で会話すると、間違いなくネガティブな結果が生まれます。ですから、最悪の事態についても、その対応はポジティブな前向きな表現で行うことが必要なのです。クチにすることで後戻りのできない決意表明になるのです。

コインの裏表と同じように、なにごともポジティブとネガティブの両面があるものです。メンタルに与える影響という観点からコトダマについてはキチンと考えを整理しておくことが必要です。

『言霊』というタイトルのバレエ・マンガ、もしご興味があればいちど読んでいただくのがいいかもしれません。ビジネス書以外にも、ビジネスやマネジメントに役立つヒントはいくらでもあふれていますから。





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書評 『爆速経営-新生ヤフーの500日-』(蛯谷 敏、日経BP社、2013)-現在進行中の「組織変革」ドキュメント第1章とその前夜の舞台裏
・・組織変革における「ワンフレーズ」というコトダマのポジティブな活用

「希望的観測」-「希望」 より 「勇気」 が重要な理由

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「バンコク騒乱」について-アジアビジネスにおける「クライシス・マネジメント」(危機管理)の重要性

書評 『誰も語らなかったアジアの見えないリスク-痛い目に遭う前に読む本-』(越 純一郎=編著、日刊工業新聞、2012)-「アウェイ」でのビジネスはチャンスも大きいがリスクも高い

【セミナー告知】 「異分野のプロフェッショナルから引き出す「気づき」と「学び」 第1回-プロのバレエダンサーから学ぶもの-」(2012年11月29日開催)




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2011年10月26日水曜日

バンコクへの渡航は自粛を!-タイの大洪水と今後の製造業立地の方向性について


 タイを襲っている大洪水の影響で「BOI FAIR 2011」が来年1月に延期されました。会場であるインパクト・アリーナはまさにバンコク近郊、洪水被害にさらされています。

 これにともない、「タイビジネスミッション 2011年11月」 (BOI:タイ投資委員会主催)も延期となることが正式決定となりました。まずは、お知らせとさせていただきます。

 タイの大洪水ですが、報道によれば、水が引くのに最低4~6週間かかるとタイ政府が表明しているようですが、実際にはさらに長引く可能性もあります。

 日本の国土交通省の水災害・リスクマネジメント国際センターによるシミュレーションでは、11月末まで水が引かないとの結果もでています。タイ・チャオプラヤ川の洪水についてを参照。

 日本の外務省は、10月24日に「タイに対する渡航情報(危険情報)の発出」を出しました。

●首都バンコク
「渡航の是非を検討してください。」(不要不急の目的で滞在されている方は、事情が許せば、早めに国外への出国を含め安全な場所の確保を検討してください。)(引き上げ)


(追記)10月27日に「渡航情報(危険情報)」が引き上げられた
●首都バンコク
「渡航の延期をお勧めします。」(業務等の必要性があってやむをえず渡航される方は、洪水被害に巻き込まれることのないよう適切な安全対策を講じてください。また、既に滞在中の方は、事情が許す限り、早めに国外への出国を含め安全な場所の確保若しくは安全な場所への移動を検討してください。)(引き上げ)

 首都バンコクにかんしても、「危険情報」が4段階の上から3番目となる「渡航の是非を検討してください」に引き上げられました。すでに駐在員の家族の日本一時帰国が本格化しています。バンコクへの不要不急の渡航は「自粛」してください! 汚染された水によって、衛生状態も悪化する可能性もあります。

 タイ政府は、10月27日から31日までの5日間を「特別休日」にして、タイ国民に対して、首都バンコクからの避難を促しています。



今回の大洪水でバンコクという都市の脆弱性がモロに露呈



 上記の地図は、『新詳高等地図』(帝国書院)からコピーしたものです。

 チャオプラヤ川(・・日本人がメナム川と呼ぶ川の正式名称)の蛇行する下流域で、砂州のデルタ地帯に形成されたバンコクはそもそも地盤が弱いのいです。

 バンコク周辺で、チャオプラヤ川がひじょうに蛇行していることに注目してください。こういうときに役に立つのが、中学や高校で学習しているはずの地学の知識です。大規模河川の蛇行状況からみると、自ずから水害被害がひろがることがわかると思います。

 チャオプラヤ川上流の古都アユタヤに立地する工業団地が、次から次へと水没した今回の大水害は、これまでの「バンコク内乱」(2010年)や「クーデター」(2008年)とは性格がまったく異なります。バンコクで争乱があっても、郊外や地方の工業団地では business as usual(ビジネスはいつもどおり順調)だったからです。

 ところが、今回の大水害、おそらく地球温暖化の影響だと考えられますが、例年であれば雨期の末期の大雨による洪水被害も、アユタヤで水は食い止められて危うく難を逃れるということが続いていました。今回の大洪水は、まさに50年に一回という規模のものです。

 バンコクは、かつて中国の蘇州とならんで「東洋のベニス」と呼ばれたように、イタリアのヴェネツィア(=ベニス)とよく似た都市です。

 チャオプラヤ川のデルタ地帯の砂州にできたバンコクは、比較的に歴史のあたらしい都市で、運河が縦横に張り巡らされた水運都市でした。現在では、東京と同様に運河の大半は埋め立てられてますが、この点からいっても地盤がきわめて弱く、日本人が多く住むスクンヴィット地区は毎年のように水がでる状態です。
 
 都市インフラの面でも、東京など日本の都市よりも、はるかに劣っていることに注意する必要があります。上流から流れてくる肥沃な土地が稲作に好都合だった農業国ではなく、すでに工業立国となっているのですから。


大洪水後のタイについてどう考えるか

 完全な復旧には時間がかかりそうです。機械類が水没しているだけでなく、工場再開に際してワーカーの確保が難しくなる可能性があるためです。避難のため田舎に疎開したワーカーたちのすべてが戻ってこないかもしれません。

 すでに、世界第2位の生産高となている HDD(ハードディスクドライブ)にかんしては、米国メーカーが中国に製造機能を戻したり、日本企業でも、タイ国内やタイ以外の国や地域で生産代替する動きも加速してくるでしょう。

 「3-11」でサプライチェーンが麻痺し、ようやく復旧してきた矢先にタイの大洪水。まさに「踏んだり蹴ったり」の状況、「泣きっ面に蜂」とはこのことですね。

 とはいえ、すでに日本の製造業の製造拠点であるタイにとってかわる国や地域が、すぐにでてくるとは考えにくいひきつづき、タイが日本企業の製造拠点であり続けることでしょう。

 ありとあらゆる産業が集積し、ロジスティクスの観点からいって、なによりも交通の要衝であるという点が大いに評価されるところです。現時点では、あたらしい国際空港であるスワンナプーム空港は閉鎖されていません。ドンムアン空港は浸水のため閉鎖されていますが。

 今後はタイ国内だけではなく、周辺諸国も含めたリスク分散が不可欠になってきますが、悩ましいのは洪水はタイだけではなく、日本であまり報道されていないだけで、カンボジアもミャンマーもベトナムも同様に洪水被害が発生していることです。たとえば、ベトナムのハノイは漢字で書くと「河内」となるように、もともと水害の多い地域なのです。

 自然災害のリスクは世界中どこにいってもつきまとってくるもの。リスクを最小限にし、何かあった場合はすぐに復旧できるための BCP を織り込んだ事業計画が中堅中小企業レベルでも不可欠のものになると考えます。

 とかく目先のコスト削減に目を奪われがちですが、この点についても考慮に入れるべきだと、口を酸っぱくしても強調したいことであります。



<関連記事>

【タイ政治社会の潮流】大洪水:工業化の落とし穴(大阪外国語大学名誉教授・赤木攻)
・・「今、やっと「洪水は日照りより悪い」に変わりつつある。それは、タイ社会が農業立国から工業立国に変わったことを意味している」

2011年タイ洪水関連情報(東京大学生産技術研究所 沖研究室ウェブサイト)
・・幅広い観点から水循環、水資源について研究している。2011年11月4日から10日にかけてタイで現地調査を行い、調査結果は随時アップするとのこと。有用な情報です。

NHKクローズアップ現代 「タイ大洪水 苦悩する日系企業」(2011年10月24日放送)・・動画あり(約9分)

WorldTopics◆タイ 洪水で企業活動に影響(2011年11月5日)(ジェトロ 世界はいま)


<ブログ内関連記事>

タイのあれこれ (21) バンコク以外からタイに入国する方法-危機対応時のロジスティクスについての体験と考察-

「バンコク騒乱」について-アジアビジネスにおける「クライシス・マネジメント」(危機管理)の重要性

製造業ネットワークにおける 「システミック・リスク」 について

「不可抗力」について-アイスランドの火山噴火にともなう欧州各国の空港閉鎖について考える

「タイビジネスミッション 2011年11月」 (BOI:タイ投資委員会主催)のご案内




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2011年6月29日水曜日

なぜ「経営現地化」が必要か?-欧米の多国籍企業の歴史に学ぶ


「最近の若者は海外に行きたがらない」。よく耳にするセリフですね。

たしかにそのとおりです。しかし、これはバブル崩壊の頃から言われていた話。理由は、少子高齢化の影響がストレートにでているためだと思われます。

なんといっても一人っ子が増えているので、親が手元からてばなしたくないというケースが多いことは、新人採用にかかわってたときに何度も経験しました。本人は入社したいと思っても、親の都合で断念する。子どもの側からみても、年老いてゆく親をほっておいて上京するのは、しのびないものがあると思う。

これは海外勤務の話ではありません。国内ですらそうなのです。地方から上京するという話ですらまとまらないことが多い。これは中小企業ではあたりまえの傾向です。

若者じしんも考え方が大きく変化しています。地元で就職して、地元の友人たちとずっとつきあい続けたいという意向は、すでに定着したといっていいでしょう。

何ごともメリットとデメリットは裏腹の関係です。逆もまたしかり。デメリットと思われることも、視点をかえればそれはメリットでもある。

今回の大震災と大津波で東北の太平洋岸は大規模に破壊されましたが、テレビでみていると、老人だけでなく、若者たちもまた「地元に残りたい」と口々にのべています。一言でいえば「地元愛」。これが悪いとは誰に言えましょうか?

海外に出る、出ないも同じことです。あくまでも「個人の選択」の問題ですから、一概に、いい悪いはいえないと思います。

いままでのように、有無をいわせず海外にいかせる、国内移動させるという、日本企業ではあたりまえだった考えと慣習が、あまりにも個人を軽視したものだったというべきでしょう。

わたしは、こういう状況だからこそ、さらなる「現地化」を進めるべきだというのが持論です。日本で事業展開する米国の外資系企業も、そういう考えで海外事業展開しています。


植民地における「二重支配体制」が多国籍企業の経営モデルとなった

米国系企業や欧州系企業では、日本企業とはまったく異なるアプローチをしています。

米国や欧州のグローバル企業の現地法人では、ローカル経営は現地代表(マネージング・ディレクター)に権限委譲して完全にまかせていることがフツーです。

たとえば私がいたタイでも、欧米系のグローバル企業の現地代表はみな30歳台から40歳台ににかけての華人系タイ人で、米国でM.B.A.を取得した者が大半でした。従業員はいうまでもなくローカルのタイ人です。

ただし、現地法人トップの人事権とカネにかんしては、親会社がガッチリ握って離さないというのは、進出先の全世界に共通した経営手法ですね。

英語で経理部のことをコントローラー(Control)というのはそういう意味なのです。現地代表は、本社でいえば課長程度といってもいいでしょう。

じっさいに、日本にある外資系企業でも、本社の都合にほんろうされるケースが非常に多いのは、マイクロソフトやグーグルなどの動きを見ていればあきらかでしょう。

なぜこのような経営形態になったかというと、やはり「植民地」における企業経営の経験が非常に大きいと思われます。

英領インドにおける英国の東インド会社(East India Company)、蘭領東インド(=現在のインドネシア)におけるオランダの東インド会社が典型的な事例です。英国とオランダの双方に本社のある、エネルギーのロイヤル・ダッチ・シェル(Royal Dutch Shell)や、食品のユニリバー(Unilever)のような英蘭系グローバル企業は、その最右翼というべきでしょう。

要は、限られた駐在員ですべてをこなすのは不可能なので、「二重支配体制」を創り上げたのです。

「二重支配体制」とは、日本の近現代史の例でいえば、敗戦後進駐してきたアメリカ占領軍が、日本の官僚制を温存して現地の行政を行わせ、肝心かなめのところはガッチリ軍政当局が押さえていた、という「二重支配体制」を考えてみればいいでしょう。

マッカーサーはこの支配体制を、すでに当時は米国の植民地であったフィリピンで実験済みだったのです。マッカーサーは父親の代からフィリピンには深い利害関係をもっていました。


欧米の多国籍企業で「経営現地化」が進んだもう一つの理由

第二次大戦後は、とくに中南米では現地駐在員が、誘拐やテロの被害に遭遇することが激増し、この対策として現地経営は現地人にまかせていった、という歴史的背景もあります。これは、米国でもドイツなどの欧州企業でも同じことです。

日本人のビジネスマンが、フィリピンや中南米で身代金目的で誘拐される事件が相次いでいた頃、米国や欧州の多国籍企業はすでに、「経営現地化」を完了していたわけなのです。

中南米の事例は、M.B.A.の授業で「国際ビジネス」を受講したとき、元米国海軍士官のエンジニアで、ブラジル駐在体験もある国際ビジネスマン経験をもつ教授が教えてくれましたが、なるほどと思ったものです。

ちなみに、その教授は、朝鮮戦争には海軍士官として出征し、佐世保基地に駐在したという経験もあり、日本人の私には親しく接していただいた。東部出身の、アナポリスの米海軍兵学校(US Naval Academy)出身のエリートでした。

進出先の現地での企業経営は、できるだけ現地出身の人間にまかせていくというのがスジとしてとおるだけでなく、合理的でもあるというべきでしょう。このような形をとれば、やる気で能力ある現地社員のモチベーションをうまく活用することも可能になります。

これは個々の企業によって対応は異なるでしょうが、必ず進めていかねばならない課題といっていいでしょう。

現地に骨を埋めろ、というのはたやすいですが、それを強いることは韓国企業ならいざしらず、現在の日本では難しい。現地滞在はとりあえず数年、というのが限界ではないでしょうか?

それなら、いっそのこと現地出身の人間を採用して日本国内で教育訓練し、現地に送り返しほうが現実的でだといえるかもしれません。

もちろん、経営者自身が現地に骨を埋めるつもりであれば、それはそれでかまいません。


とはいえ、「ビジネスに唯一の正解はない」!

とはいえ、「経営現地化」が最終解決ではないことは、「現地化」に潜む落とし穴-「ついに誕生!中国人総経理」で暗転した現地法人の顛末 という記事にも書かれています。「総経理を中国人にすること」が現地化の目的ではない。責任権限の明確化が不可欠なわけですね。

「ビジネスに唯一の正解はない」、というのはこのケースもふくめて、すべてのケースにあてはまるといってよいでしょう。

どこの国でも似たような事例があります。モデルが正しくても、運用する仕方と運用する主体である人間次第で、結果は異なってくるものなのです。

日本企業はまだまだ海外事業の経験を十分につんだ状態とはいえないでしょう。多国籍展開をすすめる大企業ですらそういう状況ですから、中堅中小企業は、まだまだ試行錯誤を続けていかねばならないのは仕方ありません。

ですが、日本の大企業をそのままなぞるのは、経営資源のすくない中堅中小企業では難しいものもあります。参考にしつつ、独自の取り組みを行うことも必要かもしれません。

場合によっては、官僚的な大企業組織よりも、柔軟かつスピーディに「経営現地化」を進めることができるかもしれません。ただし、優秀なブレインが必要でしょう。



<ブログ内関連記事>

書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)

イエズス会士ヴァリリャーノの布教戦略-異文化への「創造的適応」
・・キリスト教を布教する立場からみた異文化の土地における「経営現地化」の方法論について。そのエッセンスは、現地語に習熟、現地の文化と風習を学んで適応することから始める。現地に大幅な権限委譲を行い、かつ現地人の担当者を育成する。将来、現地の統轄をまかせることのできる現地人責任者を育成する教育を現地で行う。

書評 『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』(マーク・マリンズ、高崎恵訳、トランスビュー、2005)
・・同じく、インバウンドの立場からの「経営現地化」を考えるには示唆の多い本

書評 『村から工場へ-東南アジア女性の近代化経験-』(平井京之介、NTT出版、2011)-タイ北部の工業団地でのフィールドワークの記録が面白い ・・経営する側ではなく、経営される側のローカル従業員たちはどう考えているかがわかる内容

書評 『グローバル・ジハード』(松本光弘、講談社、2008)-対テロリズム実務参考書であり、「ネットワーク組織論」としても読み応えあり

書評 『誰も語らなかったアジアの見えないリスク-痛い目に遭う前に読む本-』(越 純一郎=編著、日刊工業新聞、2012)-「アウェイ」でのビジネスはチャンスも大きいがリスクも高い!

(2014年5月22日 情報追加)





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2011年4月13日水曜日

「生兵法は怪我のもと」-トップリーダーにあるまじき「愚行」とは?


        
 東工大出身で弁理士の菅直人首相は、自分は原子力の専門家だといって、「原発事故」発生当初から、自らの見解ですべてを押し切ろうとしていたとが報道されています。

 たとえば、「危機管理失格がばれた福島原発「レベル7」、今こそ明るいリーダーを!」-最大の対策は首相の交代」(2011年04月13日、現代ビジネス)。みんなの党の党首である渡辺喜美氏が、3月12日に党首会談の内容について語っています。

 それを解く鍵は、菅総理の原発事故に対する初動における致命的な過小評価にあるという見方が浮上する。

 日付は、遡ること3月12日。震災翌日の午後2時、経済産業省原子力・安全保安院の中村幸一郎審議官は、記者会見で、「炉心溶融が進んでいる可能性がある」旨、説明した。

 午後3時からの与野党党首会談。私は、「メルトダウンが起きているのではないか」と問い質した。

 すると、菅総理は、「これはメルトダウンではない」と述べ、放射線が大量に漏れる状況ではない旨、滔々と自説を語った。「圧力抜きの作業が行われ、冷却水の水位が回復しており、原子炉は大丈夫」と自信をもって語っていたのだ。この話ぶりから、到底レベル7の深刻度に至るという危機意識を有していないことは明らかだった。

 菅総理がそう語っている党首会談の真っ最中の午後3時36分、1号機が水素爆発。その後、間もなく菅総理とは真逆の真実を語っていたと思われる中村審議官は、記者会見から姿を消した。

 その後、炉心溶融が進んでいる可能性を認めないまま、政府の原発事故対応が行われた。

・・(中略)・・

 初動段階において原子炉の実態を過小評価したという事実は重大だ。

 ひとたび過小評価をしたものは、自分の誤りを容易に認めたくないため、より深刻な評価を対外的に発表したくないという誘引が働く。

 あるいは、より深刻な評価に基づく対策をとると自分の誤りを認めることになるため、容易に適切な対策を講じられなくなる誘引が働く。昔の金融危機における不良債権問題においても、まさしくそういうベクトルが働き、危機対応が後手後手になった。保身癖の強いと思われる菅氏であればなおさらだろう。


 ちょっと長い引用になってしまいました。記事内容の真偽については、当事者ではないのでわかりませんが、この記事に書かれたことが事実であるならば、この点においてだけでも、菅首相は「リーダー失格」と言わねばなりません。

 仕事柄、私は多くの経営者に接してきましたが、どんな経営トップであっても、自分のバックグラウンドに大きく規定されているものです。

 営業出身者は管理に弱く、技術出身者は営業に弱く、法人営業出身者は小売には弱く・・・。人間の能力には限界がありますので、それじたい批判するべきことではありません。

 ただ、重要なのは経営トップに限らず、組織のリーダーに求められるのは、個別分野の専門性よりも、むしろ「全体を見る目」と「優先順位をつける」ことだと思います。これは英語でいうと General Management と呼ばれているものです。それじたいが専門性を要求されるものです。

 つまり、トップの仕事はそれ自体が専門職、個別の専門分野は、適切に部下にまかせなければなりません。そのために重要なのが「全体を見る目」と「優先順位をつける」ことであるわけです。そして、部下にまかせた仕事を、適切にモニタリングすること。 

 とくに一国の首相であれば、国民の生命と財産を守ることがミッション(使命)の中心にこなければいけません。これは、組織全体を預かる経営トップにとっても同様でしょう。

 このミッションに行動規範としてのバリュー(価値観)がともなうとき、危機的な状況に際しても迷いはないはずです。即座に行動に移せるはずです。いいかえれば、「軸」がしっかりとしていれば行動に迷いはないのです。

 菅首相は、トップとして、もっともやっってはいけないことをやって、自ら窮地に追いこんでいるだけでなく、国民の生命と安全を危険にさらし、しかも国際的な評判を下げる最大の元凶になっていると言わねばなりません。

 自分の専門ではないのにかかわらず、自分ができると主観的に思い込んでいる分野で指揮をとろうとする視野狭窄(しやきょうさく)ぶりとその後の迷走ぶり。そして怒鳴り散らせば命令に従って人は動くと思い込んでいる無知と傲慢。自分の保身が価値観の中心というのでは聞いてあきれます。

 危機管理をするうえで、最もやってはいけないことをやっているのです。

 まさに「生兵法は怪我のもと」と言わざるを得ません。中途半端な知識が問題を余計大きなものにして、取り返しのつかない致命的な誤りを誘発したことは間違いありません。

 リーダーの真価は危機対応に際してすべて判明してしまう。こういう人ですから、コトバにも魂が入っていないのでしょう。しゃべるコトバがすべて空虚に響きます。

 この危機をつうじて、真のリーダーが生まれてくることを願ってやみません。

 そのための「反面教師」であるならば、それこそ「歴史的に意味もあった」という評価が下されるかもしれません。あるいは「他山の石」とすべき存在か。

 「歴史の審判」については、あえて私がクチにするまでもないでしょう。
 

<関連記事>

「非常時」には「現場」に権限委譲を!-「日本復興」のカギは「現場」にある(2011年3月18日)
・・姉妹編の「「アタマの引き出し」は生きるチカラだ!」に書いたものです




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2010年5月20日木曜日

「バンコク騒乱」について-アジアビジネスにおける「クライシス・マネジメント」(危機管理)の重要性

        
 みなさんお元気ですか。

 こんにちは、ケン・マネジメントの佐藤賢一(さとう・けんいち) です。

 本日も時事ネタを扱いながら、B&M(ビジネスとマネジメント)の観点からコメントを加えていきたいと思います。

 では、本日のテーマは、今回の「バンコクの騒乱」についてです。
 アジアビジネスにおける「クライシス・マネジメント」(危機管理)の重要性について、あらためて考えたいと思います。


「バンコク騒乱」の終結とその余波
               
 昨日(2010年5月19日)バンコク市内の騒乱状況は、最後通牒のあと行われたタイ陸軍治安部隊による強制排除作戦によって、「赤組」幹部は投降し、市内の占拠状態は終了した。

 しかしながらその後も「暴徒化したデモ隊」が ISETAN の入っている Central World が焼き討ちされ黒煙を吐きながら炎上した。暴徒が乱入し、略奪を行っているという情報もある。

このほかにも証券取引所(SET)や金融機関も放火され、地方都市でも焼き討ちが飛び火している。政府寄りとされる財閥CPグループ傘下の「セブンイレブン」(合弁企業)は、破壊と放火の対象になっている。商業銀行ではバンコク銀行(BBL)が標的とされているようである。
 このため「夜間外出禁止令」(curfew)がだされ、金融機関も活動停止状態になっている。
 タイ政府が発表しているように、「赤組」内部に「テロリスト」あるいは「外国人傭兵」が紛れ込んでおり、こうした者たちが「暴徒」を扇動したことの蓋然性は高いと思われる。

 私は、「タイ・フェスティバル2010」 が開催された東京 と「封鎖エリア」で市街戦がつづく騒乱のバンコク(2010年5月17日付け)と題したブログ記事において、地方の農民層を主体とした「赤組」にやや同情しないでもないような内容の文章を書いているが、タイ国内に激しい格差が存在し、低い「身分」に置かれている農民層が目覚めたことは間違いないことだ。彼らの多くが、出稼ぎ先の首都バンコクで貧困層として差別されてきた。
 しかし、こうした農民層の怒りにつけ込み、暴力によって「国家転覆」(?)を目的とした外部勢力が紛れ込んでいる可能性が否定できないように思われる。タクシン以外に背後にいかなる勢力がいるのか、さまざまな憶測が飛んでいるが、私には検証のしようがないので、断定的なことは書くことができない。

 混乱が拡大すると、必然的に外部勢力の浸透を誘発しやすいのは、古今東西変わることはない。とくに比較的「ゆるい」タイのことである。かつてベトナム戦争当時、「国際スパイ都市」といわれたバンコクのことでもある。アルカーイダの海外ネットワークの重要な拠点ともいわれるバンコクのことである。なおさら、さまざまな勢力が跋扈しやすい素地があるといえる。

 今回の騒乱によって、対処療法には明らかに限界があることが示された。根本的な問題に対応するために、タイは国家として、抜本的に社会政策を見直さなければならないであろう。間違いなく多くのタイ国民が問題のありかに目覚めたはずである。


日本企業と日本人ビジネスパーソンにとっての教訓

 以上はタイの内政問題であるが、ビジネスパーソンとしては、クライシス・マネジメント(危機管理)の立場からこの問題を捉えなくてはならない
 日本語で「危機管理」と表現することが多いので、リスクマネジメントと誤解している人が多いのだが、クライシス・マネジメントは、自然災害、誘拐事件そして脅迫、テロなどの「不測の事態」が発生したときに、混乱する状況のなかでいかに対応するかという問題にかかわるものである。

 今回の「バンコク騒乱」はまさに、海外ビジネスの難しさ、負の側面を痛感させられる事件となっている。
 「閉鎖エリア」内にオフィスを構えていた日系企業は、臨時オフィスでの業務を余儀なくされている。市内交通の混乱、金融機関の活動縮小停止など、ビジネスに与える影響はきわめて大きい。
 また焼き討ちにあった商業ビルの損害など、果たして保険でどこまでカバーされるのか、これもまた暴動、内乱などの「不可抗力」(force majeure)であるだけに、きわめて疑問である。政府による損害補償も限界はあろう。

 2010年のタイ経済は、第一四半期のパフォーマンスが景気回復の兆候を示していただけに、今回の騒乱のダメージは計り知れない。
 クライシス・マネジメント体制が出来上がっている大企業とは異なり、中堅中小企業の対応は万全といえるだろうか、という問題意識である。

 そもそも日本人のマインドセットは、「マイペンライ精神」のタイ人ほどではないが、「まあ、なんとかなるさ」という「お気楽意識」が強すぎる。
 「いまそこにある危機」に鈍感すぎるのではないか。
 日本にある本部は、現地感覚をどこまで理解できているだろうか。イマジネーションに欠けるところはないか?

 どうも事業のコスト削減に意識が集中しすぎて、安全面でのコストを軽視しがちな傾向がありはしないだろうか?
 何事もバランスが不可欠である。リスクマネジメントの観点から保険さえかけておけばそれで終わりという話ではない。
 アジアでは過去にも、1997年のアジア金融危機後の「ジャカルタ暴動」(インドネシア)などが発生したことは記憶に新しい。
 自社ビジネスを展開する進出国の現地状況を、どこまで理解して事業経営に取り組んでいるのだろうか。一度じっくりと考えてみてほしい。


 あらためて、このクライシス・マネジメント問題についての注意喚起を行いたい。




<ブログ内関連記事>

書評 『誰も語らなかったアジアの見えないリスク-痛い目に遭う前に読む本-』(越 純一郎=編著、日刊工業新聞、2012)-「アウェイ」でのビジネスはチャンスも大きいがリスクも高い!

タイのあれこれ (21) バンコク以外からタイに入国する方法-危機対応時のロジスティクスについての体験と考察-

「タイ・フェスティバル2010」 が開催された東京 と「封鎖エリア」で市街戦がつづく騒乱のバンコク

「不可抗力」について-アイスランドの火山噴火にともなう欧州各国の空港閉鎖について考える

(2016年7月3日 情報追加)





(2012年7月3日発売の拙著です)






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