タイを襲っている大洪水の影響で「BOI FAIR 2011」が来年1月に延期されました。会場であるインパクト・アリーナはまさにバンコク近郊、洪水被害にさらされています。
これにともない、「タイビジネスミッション 2011年11月」 (BOI:タイ投資委員会主催)も延期となることが正式決定となりました。まずは、お知らせとさせていただきます。
タイの大洪水ですが、報道によれば、水が引くのに最低4~6週間かかるとタイ政府が表明しているようですが、実際にはさらに長引く可能性もあります。
日本の国土交通省の水災害・リスクマネジメント国際センターによるシミュレーションでは、11月末まで水が引かないとの結果もでています。タイ・チャオプラヤ川の洪水についてを参照。
日本の外務省は、10月24日に「タイに対する渡航情報(危険情報)の発出」を出しました。
●首都バンコク
「渡航の是非を検討してください。」(不要不急の目的で滞在されている方は、事情が許せば、早めに国外への出国を含め安全な場所の確保を検討してください。)(引き上げ)
(追記)10月27日に「渡航情報(危険情報)」が引き上げられた
●首都バンコク
「渡航の延期をお勧めします。」(業務等の必要性があってやむをえず渡航される方は、洪水被害に巻き込まれることのないよう適切な安全対策を講じてください。また、既に滞在中の方は、事情が許す限り、早めに国外への出国を含め安全な場所の確保若しくは安全な場所への移動を検討してください。)(引き上げ)
首都バンコクにかんしても、「危険情報」が4段階の上から3番目となる「渡航の是非を検討してください」に引き上げられました。すでに駐在員の家族の日本一時帰国が本格化しています。バンコクへの不要不急の渡航は「自粛」してください! 汚染された水によって、衛生状態も悪化する可能性もあります。
タイ政府は、10月27日から31日までの5日間を「特別休日」にして、タイ国民に対して、首都バンコクからの避難を促しています。
■今回の大洪水でバンコクという都市の脆弱性がモロに露呈
上記の地図は、『新詳高等地図』(帝国書院)からコピーしたものです。
チャオプラヤ川(・・日本人がメナム川と呼ぶ川の正式名称)の蛇行する下流域で、砂州のデルタ地帯に形成されたバンコクはそもそも地盤が弱いのいです。
バンコク周辺で、チャオプラヤ川がひじょうに蛇行していることに注目してください。こういうときに役に立つのが、中学や高校で学習しているはずの地学の知識です。大規模河川の蛇行状況からみると、自ずから水害被害がひろがることがわかると思います。
チャオプラヤ川上流の古都アユタヤに立地する工業団地が、次から次へと水没した今回の大水害は、これまでの「バンコク内乱」(2010年)や「クーデター」(2008年)とは性格がまったく異なります。バンコクで争乱があっても、郊外や地方の工業団地では business as usual(ビジネスはいつもどおり順調)だったからです。
ところが、今回の大水害、おそらく地球温暖化の影響だと考えられますが、例年であれば雨期の末期の大雨による洪水被害も、アユタヤで水は食い止められて危うく難を逃れるということが続いていました。今回の大洪水は、まさに50年に一回という規模のものです。
バンコクは、かつて中国の蘇州とならんで「東洋のベニス」と呼ばれたように、イタリアのヴェネツィア(=ベニス)とよく似た都市です。
チャオプラヤ川のデルタ地帯の砂州にできたバンコクは、比較的に歴史のあたらしい都市で、運河が縦横に張り巡らされた水運都市でした。現在では、東京と同様に運河の大半は埋め立てられてますが、この点からいっても地盤がきわめて弱く、日本人が多く住むスクンヴィット地区は毎年のように水がでる状態です。
都市インフラの面でも、東京など日本の都市よりも、はるかに劣っていることに注意する必要があります。上流から流れてくる肥沃な土地が稲作に好都合だった農業国ではなく、すでに工業立国となっているのですから。
■大洪水後のタイについてどう考えるか
完全な復旧には時間がかかりそうです。機械類が水没しているだけでなく、工場再開に際してワーカーの確保が難しくなる可能性があるためです。避難のため田舎に疎開したワーカーたちのすべてが戻ってこないかもしれません。
すでに、世界第2位の生産高となている HDD(ハードディスクドライブ)にかんしては、米国メーカーが中国に製造機能を戻したり、日本企業でも、タイ国内やタイ以外の国や地域で生産代替する動きも加速してくるでしょう。
「3-11」でサプライチェーンが麻痺し、ようやく復旧してきた矢先にタイの大洪水。まさに「踏んだり蹴ったり」の状況、「泣きっ面に蜂」とはこのことですね。
とはいえ、すでに日本の製造業の製造拠点であるタイにとってかわる国や地域が、すぐにでてくるとは考えにくい。ひきつづき、タイが日本企業の製造拠点であり続けることでしょう。
ありとあらゆる産業が集積し、ロジスティクスの観点からいって、なによりも交通の要衝であるという点が大いに評価されるところです。現時点では、あたらしい国際空港であるスワンナプーム空港は閉鎖されていません。ドンムアン空港は浸水のため閉鎖されていますが。
今後はタイ国内だけではなく、周辺諸国も含めたリスク分散が不可欠になってきますが、悩ましいのは洪水はタイだけではなく、日本であまり報道されていないだけで、カンボジアもミャンマーもベトナムも同様に洪水被害が発生していることです。たとえば、ベトナムのハノイは漢字で書くと「河内」となるように、もともと水害の多い地域なのです。
自然災害のリスクは世界中どこにいってもつきまとってくるもの。リスクを最小限にし、何かあった場合はすぐに復旧できるための BCP を織り込んだ事業計画が中堅中小企業レベルでも不可欠のものになると考えます。
とかく目先のコスト削減に目を奪われがちですが、この点についても考慮に入れるべきだと、口を酸っぱくしても強調したいことであります。
<関連記事>
【タイ政治社会の潮流】大洪水:工業化の落とし穴(大阪外国語大学名誉教授・赤木攻)
・・「今、やっと「洪水は日照りより悪い」に変わりつつある。それは、タイ社会が農業立国から工業立国に変わったことを意味している」
2011年タイ洪水関連情報(東京大学生産技術研究所 沖研究室ウェブサイト)
・・幅広い観点から水循環、水資源について研究している。2011年11月4日から10日にかけてタイで現地調査を行い、調査結果は随時アップするとのこと。有用な情報です。
NHKクローズアップ現代 「タイ大洪水 苦悩する日系企業」(2011年10月24日放送)・・動画あり(約9分)
WorldTopics◆タイ 洪水で企業活動に影響(2011年11月5日)(ジェトロ 世界はいま)
<ブログ内関連記事>
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「バンコク騒乱」について-アジアビジネスにおける「クライシス・マネジメント」(危機管理)の重要性
製造業ネットワークにおける 「システミック・リスク」 について
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