オリンパスで、半年前に就任したばかりの外国人社長を解任したというニュースが昨日(10月14日)話題になりました。
解任した側の取締役会と、解任された英国人の元社長との見解が大きくかけ離れており、どちらが正しいのか、部外者にはよくわかりません。
したがって、解任劇については立ち入りませんが、「経営と文化」という観点からこの事例を考えてみたいと思います。
解任についてはいろんな記事がありますが、ここでは産経新聞の記事を見てみましょう。「オリンパス社長解任劇 「文化の違い」株価急落」というタイトルの記事です。
企業が外国人幹部登用に消極的な理由の一つは、オリンパスでみられたような商習慣や文化の違いで、菊川剛会長も「企業風土や経営スタイル、日本の文化を理解してもらえなかった」と語る。
・・(中略)・・
瀕死の日産を復活させたゴーン氏はかつて、「抽象的な考え方から戦略を生み出すフランス流と、綿密な実行力や品質管理に優れた日本流を融合させる」と語った。文化の違いを、むしろ強みとしてとらえる「したたかさ」が求められる。
すごく重要な指摘です。オリンパスで解任された英国人社長は、他の記事によれば、オリンパス英国法人を成功させ、オリンパス全体の 4割を稼ぎ出した手腕が評価された結果、グループ全体の社長に抜擢されたそうです。
社長に就任にしてからは、英語でコミュニケーションを行っていたものと思われますが、日本サイドとの意思疎通がうまくいかず、また組織運営のやり方が英国流と日本流とでは大きく異なるために、組織内でさまざまな軋轢(あつれき)を産んだようです。
とくに、ダイレクトに現場にピンポイントで指示を出すやり方には、中抜きにされるポジションにある人たちから大きな反発があったようです。意志決定のスピードが重視されることがアタマでは理解できても、カラダが受け入れないという反発ですね。
わたしが気になっているのは、それだけではなく、解任された英国人社長がどこまで企業グループ全体の MVV を理解し、みずからのうちに体現していたかということです。
■「たとえすばらしいパフォーマンスを出しても、価値観の合わない人間には会社から去ってもらう」(ジャック・ウェルチ)
米国の巨大企業 GE(ゼネラル・エレクトリック)社の "中興の祖" ジャック・ウェルチは、日本では「選択と集中」という側面ばかりが強調されてましたが、じつはこういうことも言っているのです。
「たとえすばらしいパフォーマンスであっても、価値観の合わない人間には会社から去ってもらう」。だいたいこのような趣旨の発言だったと思います。
ビジネススクールの教科書的存在である GE元CEOのコトバはよくかみしめる必要があるでしょう。
MVVに表現された価値観を浸透させるためには、仕事のやり方や組織運営の仕方まで、突っ込んで考えなかればならない。経営者だけでなく、組織に属する個々人に共通認識ができあがっていなければ、うまくいかないのです。
オリンパスの外国人社長解任劇には、そういう側面もあるのではないかと、わたしは捉えています。前社長は、どこまで会社の MVV を理解して体現していたのだろか、と。
■コトバの壁を越えて MVV は共有できているか?
解任された前社長に問題があると言いたいわけではありません。公平を期すために、日本の「経営理念」と英語の Corporate Philosophy に解釈のズレはなかったかどうか、あるいは英語人にも理解のできるものとなっているかどうかを見ておきましょう。
オリンパスの「経営理念」のページには、英語のものも日本語のものも掲載されていますが、内容的にはそれほど大きなズレはなさそうです。
●オリンパス:「経営理念」(日本語)
「Value」:社会とともに未来を育む
「経営理念」:企業と社会との関係を3つの「IN」で確立することを目指します-INvolvement, INsight, INspiration
「コーポレートスローガン」:"Your Vision, Our Future" 人々の思い、願いをかなえるために。
●Olympus Global: Corporate Philosophy
「Value」:Working with Society to Develop a Better Future
「Corporate Philosophy」:Realization of Social IN
We aim towards establishing firm ties with the society through the three IN's
-INvolvement, INsight, INspiration
「Corporate Slogan」:"Your Vision, Our Future"
Turning People's Ideas and Dreams into Reality
内容的にはすばらしいものがありますが、ちょっと漠然としすぎているような気がしないでもありません。
細かくみていくと、「経営理念」(コーポレート・フィロソフィー:Corporate Philosophy)には、「企業と社会との関係を3つの「IN」で確立することを目指します」として、日本語版でも英語版でも、In を接頭語にもつ3つの英単語が並んでいます。すなわち、INvolvement(巻き込み)、 INsight(洞察力)、INspiration(インスピレーション)ですね。
どうやら、解任された前社長は、このINvolvement(巻き込み)ができなかったようですね。顧客についてはさておき、肝心要の自分の会社の社員を involve(巻き込む)ことができなかったわけです。
フィロソフィー(哲学・思想)やスローガンがすばらしいものであっても、社員一人一人の言動にまで規定する行動指針にまでブレイクダウンし、具体的な指針にまで落とし込んだもののようには思われません。
まずは経営トップが、身をもって示さねばならないものではないでしょうか。
■経営理念や社是は MVV に分解すべし
日本語の「社是」あるいは「経営理念」をかみくだいて英語に直す。しかし、日本語のニュアンスは英語では表現できない、英語になっていても英語人にはピンとこない、こういうことはけっこう多いのです。
だから、わたしは、「経営理念」や「社是」は MVV に分解して、誰でも理解できるような形で表現することを提唱しています。
MVV とは、ミッション(使命・使命感)、ビジョン(将来像)、バリュー(価値観)のこと。まずはこの3つに分解し、それぞれについて3項目ないしは多くても5項目に箇条書きにまとめることです。
日本語人であっても英語人であっても理解を共通し、日本語と英語とのあいだの意味のズレをミニマムにするような文言を、徹底的に磨き上げることが必要となるのです。外国語にすることを前提に、最初から日本語を考え抜くのです。
あたりさわりのない表現では、たとえ英語訳が日本語訳の忠実な翻訳であっても、英語人のアタマにもココロにも響いてきません。ましてや一挙手一投足で実行することなどまっったく期待できません。
逆に考えれば、もとになっている日本語があいまいで、あたりさわりのない表現になっているのではないか、わかったつもりになりやすい表現ではないか、きびしく検証してみることが必要でしょう。
みなさんの会社の「経営理念」や「社是」は、ただしく社員のあいだに共有されていますか? いま一度、問い直してみましょう。
<関連サイト>
オリンパス(日本法人サイト)
オリンパス(グローバルサイト 英語その他)
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P.S. 一ヶ月のあいだに社長が二人交代するなどオリンパスが揺れているが、第三者委員会を設置して調査を行うことになった。真相については第三者委員会の調査結果にまちたいが、この記事の趣旨はオリンパスの外国人社長「解任劇」そのものとは直接の関係はないことを、あらためて強調しておきたい。(2011年10月28日 追記)
P.S.2 2011年11月8日、オリンパスの問題は粉飾決算問題であることがあきらかになった。この点にかんしてはコーポレート・ガバナンス(企業統治)にかんする問題として、考える必要がある。コーポレート・ガバナンスが強調されるようになったのは、ちょうど1990年代であったことを考えると、なんともいえない気持ちになってくるのだが...(2011年11月9日 追記)
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