NHK・Eテレの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。
いよいよ、本日は最終回。学生たちの「最終課題」のプレゼンテーションです。
まずはいつもどおり、ウォームアップから。今回のウォームアップもまたカラダとアタマをつかったものでした。カラダを動かして肩のチカラを抜いていく。アタマの回転と柔軟性はスタンバイ。
最終回は「コーヒーの新しい飲み方を考える」。公式サイトの説明は以下のとおりです。
「発想の転換を迫り、革新的な アイデアを生み出す手法」を学ぶスタンフォード大学起業家育成講座。その根底にあるのはテイナ・シーリグ先生の「創造性は誰でも学ぶことができる」という考え方です。
最終回、学生たちに与えられた課題は「コーヒーの新しい飲み方」を考えること。
これまでに学んできたブレインストーミング、チームでの作業の仕方、最高のアイデアを考えた後で最低のアイデアも考えてみること、前提を疑い、ルールを破って問題を捉え直すことなど、吸収したすべての思考ツールを駆使して課題に挑みます。
果たしてどんなアイデアが飛び出すでしょうか。
最終課題は、第4回の授業で示されました。NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第4回放送- 「6色ハット」 は個人レベルの思考パターンと仕事スタイルを 「見える化」 する を参照してください。
課題は、まずはコーヒーを飲むという経験は何であるか調べつくすこと。ラディカルで常識破りのアイデアを出し、試作品をつくって実際のユーザーに試飲してもらうこと。新しい飲み方を、2分間のビデオでプレゼンテーションすること。
今回の放送ではじめてわかりましたが、第4回の授業から最終回の第8回の授業まではたった1週間。この授業はいわゆる「集中講座」だったようです。限られた時間のなかでプレッシャーと戦いながら課題を実行することの重要性も同時に体感させることも意図されていたようです。
プレゼンテーションは以下の要領で行われました。
1. 3人から4人で構成された7つのチームが、チームごとに 2分間のビデオを上映
2. ビデオ上映後にデザインのプロセスを口頭で解説
3. ゲスト審査員からのコメント
ゲスト審査員は2人、スタンフォード大学教育デザイン研究所ディレクター モーリン・キャロルとスタンフォード大学デザインスクール学部ディレクター バーニー・ロス。
シーリグ教授は、事前に各グループから試作品については事前に見ているようですが、ビデオについては見ていないという前提になっていました。徹夜までして完成させたグループもあったようです。
ビデオ・プレゼンでチェックされていたのは、「コーヒーの新しい飲み方」と試作品そのものだけではなく、とくに発想のストーリーとプロセスについてでした。第2回の授業ででてきた、「Emphathize」(共感)-「Define」(定義)-「Ideate」(考察)-「Prototype」(試作)-「Test」(検証)のサイクルをどのグループも踏まえたものとなっていました。
各グループは意図したわけではないにせよ、じつにさまざまな切り口から「コーヒーの新しい飲み方」を提案していました。
コーヒーの飲み方そのもの、コーヒーを飲む場所、コーヒーの注文のしかた、コーヒーの味、コーヒーにかわる同機能の製品・・・などなど。同じ課題でも、このようにさまざまな切り口からのアプローチが可能だということですね。たいへん面白いプレゼンでした。
■米国ではこのような授業はシーリグ教授のものだけではない!
このプレゼンテーションをみていて思い出したのは、わたし自身の経験です。
M.B.A.の授業が始まる前に、カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)のサマー・エクステンション(夏期集中講座)に参加して、ビジネス英語の授業をとっていましたが、同じようにグループでの課題発表が最終授業で行われました。1990年のことですから、いまから21年前のことになります。
最終課題は、新しいマウスウォッシュ(口内洗浄剤)を提案してその宣伝まで考えてプレゼンテーションするというもの。なんだか「スタンフォード大学白熱授業」の最終課題と似ていますね(笑)。もしかすると、米国ではとくだん珍しい課題ではないのかもしれません。
一緒のグループになったのは、わたしを含めた日本人2人とイタリア人2にスペイン人2人の合計6人。最終的にわれわれのチームが提案したのは「ミッキー・マウス」という商品名。Mickey Mouth とは Mickey Mouse にかけたもの。これはイタリア人の発案。この彼がプレゼンテーションでも大いに手腕を発揮して、先生からはイタリア人はプレゼンがうまいと誉められていました。イタリアに戻ったらマッキンゼーに入ると言ってましたが、はたして目的は達成したのかどうか?
余談になりますが、同じグループを組んでみてわかったのは、イタリア人とスペイン人はお互いのコトバで意思疎通しあえるのに、国民性はかなり異なること。どちらも、日本人と共通している面とそうでない面がある。とくにイタリア人はふだんは徹底的に遊んでいながら、ここぞというときに集中力がすごいということでした。
アイデアはイタリア人が中心になってつぎからつぎへとだし、日本人がそれを交通整理、スペイン人は冷静に議論の行方をみながら協調するという具合に。見た目と違って面白いグループ編成になったようでした。授業が終わったあと、スペイン人の二人が「日本人はすばらしい!」と絶讃してくれたのは、なんだかこそばゆい感じもしましたが、同時にひじょうにうれしくも思いました。
M.B.A.を取得した、ニューヨーク州のレンセラー工科大学(RPI:Rensselaer Polytechnic Institute)でも、ハイテクベンチャー(Technological Entrepreneurship)の授業で似たような課題をつうじて体験しています。
研究開発の成果を商業化(commercialize)するというプロジェクト。これはセメスター3ヶ月かけてのプロジェクトですが、かなり実践的な内容の授業でした。アメリカ人男性とスペイン人(・・正確にいうとカタロニア人)女性の三人でチームを組みましたが、われわれのチームが選んだのは、大学の工学部教授が開発した「心臓にたまった水を外部から測定する機器」。
これを製品化するための調査とマーケティングプランの作成を行い、最終プレゼンテーションでは優勝!最後のプレゼンは大教室で、外部からの審査員も出席したもので、緊張しながらも充実した思い出が残りました。
このような実践を念頭においた体験型授業、対話授業というものは、レクチャー主体の授業とは違って、受講者にとっては自分が主体的にかかわっただけに印象が強く、長く記憶に残るということですね。
シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」もまた同じですね。米国の教育方法ではけっして例外ではないのです。日本の教育もそろそろ、「勉強」から脱して、体験と対話をつうじての「学び」に移行していくべきでしょう。大人向けも子ども向けも。
■全8回の授業のまとめとおさらい
プレゼンテーションが終わったあと、シーリグ教授から、全体のまとめとおさらいが行われました。
「創造性は誰でも学ぶことができる」
・・これは全体をつうじてのシーリグ教授の一貫した主張です。全8回の集中コースをつうじて、参加者だけでなく視聴者もみな実感したことでしょう。
「観察」(Observation)
・・これは何度強調してもしすぎることはないでしょう。自然科学にかぎらず、ビジネスでもすべての分野で絶対に必要なマインドセットですね。
「前提を疑う」
・・マインドマップをつかったブレーンストーミングを実行しましたよね。また「最高のアイデアと最低のアイデア」の演習も面白かったです。誇張することで問題を「見える化」するわけです。
「メタファー」(Metaphor)
・・「関連性のない問題を組みあわせてみる」。このメタファーというコトバそのものが重要です。
「問題を定義し直す」(Redifine)
・・問題の違う角度からみて捉え直すことですね。シーリグ教授が引き合いにだしていた「無重力空間でも書けるペンの話」は興味深い例ですね。機能が明確になればエンピツでいいじゃないかというロシア人の発想が紹介されていました。
「空間の重要性」
・・創造性に適した空間が重要であることは、日本でも幼稚園と小学校以上を比べてみるとよくわかりますよね。米国の先端企業がこれにいかにチカラをかけているか、グーグルやフェイスブックを引き合いにだすまでもありません。この「起業家育成コースの集中講座」じたいが、かなり意識した空間設計がなされていました。
「チームの重要性」
・・第4回の授業でやった「6色ハット」など、創造性を発揮させるための最適の組み合わせについても重要ですね。一人ではなくチームで、しかも最適の組み合わせを考えて。
「時間の重要性」
・・時間的制約のもとでかかるプレッシャー。これが創造性には意外と重要であるということ。ビジネスパーソンであれば実感できることでしょう。
「実験する姿勢をもつ」
・・試作品は最初から完璧をもとめず、その都度ためして早い段階から失敗することを繰り返す。
最後にシーリグ教授が強調していたのは、Creativity Tools だけでなく、Attitude と Creative Culture の重要性。
創造性を開発するさまざまな「技法」(ツール)にばかり注目が集まりがちなのは、日本だけでなく米国でも同じようですね。
技法はもちろん重要ですが、創造性を発揮するための「姿勢」と「カルチャー」。この3つが合わさって、創造性が大いに発揮されること、これはぜひアタマのなかにいれておきたいものです。
学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組でした。
<関連サイト>
「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)
自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)
<全8回の授業内容>
5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「30分で新製品を作る」
6月4日(日)第6回 「トランプで創造性を学ぶ」
6月12日(日)第7回 「あこがれの起業家に学ぶ」
6月19日(日)第8回 「コーヒーの「新しい飲み方」を考える」
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