NHK・Eテレの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。
すでに授業は第7回目、いよいよ最終回の全8回の授業までのこり1回となってしまいました。
まずはいつもどおり、ウォームアップから。今回のウォームアップはメンバーを 2つのチームをわけて、2分間でチーム名をきめてダンスの振り付けまで考えるというもの。このチームがそのまま、今回の授業ではそのまま対抗戦のチームとなります。
カラダを動かして肩のチカラを抜いていく。しかも今回はダンスですから、カラダのほぐれかたも違いますね。アタマの回転と柔軟性はスタンバイ。
今回(6月12日)のテーマは「あこがれの起業家に学ぶ」。公式サイトの説明は以下のとおりです。
実際の企業の中で、創造性はどう発揮されているのか。今回は、フェイスブックの若手リーダーやスマートフォンの原型を提案した起業家などビジネスの第一線で活躍している 4人のゲストを招き、クイズ形式でそれぞれの企業の創造性の秘密を探り出していきます。
採用面接で創造性をどう見抜くのか、創造性を高めるためのチームの編成方法、空間の使い方の工夫、アイデアを出すための時間は仕事の何パーセントか、アイデアを実行する決定権は誰にあるのかなどさまざまな設問を通して、学生たちはクリエイテイブな企業文化を創るには多様なアプローチがあることを学びます。
今回の授業は、パネル形式で4人のゲストに、シーリグ教授がモデレーターとして質問し、その解答がホントかウソかを学生のチームに判定させて勝敗を競わせるというゲーム形式。
ゲストスピーカーを読んでスピーチをしてもらい、その後の質疑応答をつうじてディスカッションするという形式は、米国だけでなく日本でも行われますが、質疑応答のセッションそのものをゲームにしてしまうというのは、じつにクリエイティブな授業になっていますね。
今回招かれたゲストは以下の4人です。
ジェフ・ジョーキンス
スマートフォンの原型を開発
1992年パーム社(Palm)を設立
情報携帯端末(PDA)を開発
脳神経科学に基づくソフトウェア開発も
ドナ・ノビツキー
会社立ち上げのスペシャリスト
ウェブ制作会社の CEO などを歴任
ベンチャーキャピタル(VC)の経験から16社以上の起業にたずさわる
ジュリー・ズー
「いいね!」ボタンをつくった人
2006年スタンフォード大学卒業(シーリグ教授の授業を受講)、フェイスブック入社
現在はプロダクトデザイン・マネージャー
ブレンダン・ボイル
150以上のオモチャを発明
世界に支社をもつデザイン会社 IDEO社オモチャ部門リーダー
起業家が二人(うちひとりはベンチャー・キャピタリスト)、デザイン関係者が二人と、面白い組み合わせになってます。こういう人たちを授業に呼べるのも、スタンフォード大学が立地するシリコンバレーならではですね。
起業クイズのルールは以下のとおりです。
●ゲストはほんとうのことを答えるかどうかわからない
●ウソかホントかを見抜けたら1ポイント、間違えたら相手チームに1ポイント
学生チームに質問を考えさせてでてきた質問とあわせて、シーリグ教授がモデレーターとなって7つの質問をし、質問のそれぞれにゲストの4人がひとりづつ解答をするという形です。ゲストは赤いソファに腰掛けてリラックスした状態で質問に答えます。
ゲストに対する質問を列挙しておきましょう。
(Q1)面接で創造性をどう見抜く
(Q2)創造性を高めるチームの変成方法は?
(Q3)創造性を高めるためのオフィス空間の工夫は?
(Q4)アイデア出しに使う時間は仕事の何%?
(Q5)アイデアを実行する決定権は誰に?
(Q6)アイデアを出すための道具やシステムは?
(Q7)クリエイティブな空間は誰がつくっている?
ゲストはそれぞれ、ウソかホントかわからないが、いかにもありそうなもっともらしい話をしていましたね。学生たちは真剣に考えてましたが、そのそも世の中のすべてはウソかホントか完全に班別できないもの。当事者以外は知らないのは当然といえば当然ですね。
詳細は省略しますが、最後にシーリグ教授によって、本日のゲストからの「学び」がまとめられていたので、ゲストごとに列挙しておきましょう。今度の順番はソファに座った、こちらからみて左側から。
ジェリー・ズー(フェイスブック)
●大きな組織は「クリエイティブ」という尺度だけで人は管理できない
●膨大な数のユーザーに向けて製品の品質を検証する人たちの比重が大きい
●創造性のある会社の雰囲気づくりは採用から始まる
ジェフ・ホーキンス(2社のIPOを実現後、現在は3社目を立ち上げ中)
●自分のつかっているものの不満点を徹底的に洗い出す
●どんなに悪い製品でも必ず一つは学ぶべき点がある
ドナ・ノビツキー(ベンチャー・キャピタリスト)
●メンバーが刺激を受けるようなユニークな会議のあり方を提案する
●チーム編成のときにはなるべくセクションのちがう人を組み合わせる
ブレンダン・ボイル(IDEO社おもちゃ部門リーダー)
●チーム編成は「熱意」だけではできない
●100%クリエイティブはありえない。売ることも重要
●クリエイティブなアイデアの選択には多数決は効果的でない場合もある
ジェリー・ズー(フェイスブック)の発言については、フェイスブックも映画『ソーシャルネットワーク』の立ち上げ期ははるか昔の話、現在ではインド、中国の人口についで多い5億人のユーザーにむけて、3,000人超の社員が働いている大組織となっているわけですね。
ジェフ・ホーキンス(2社のIPOを実現後、現在は3社目を立ち上げ中)の発言については、エンジニアとして製品開発にかかわってきただけに、説得力がありますね。
ドナ・ノビツキー(ベンチャー・キャピタリスト)は、自らも起業体験をもっているベンチャー・キャピタリストならではの発言。
ブレンダン・ボイル(IDEO社おもちゃ部門リーダー)の発言については、デザインの重要性は日本企業ももっと意識すべきしょう。企業活動におけるクリエイティブはアートではないとはいえ、ある種の直観も必要ということですね。
ゲストの発言のまとめとそれに対するあたさいの感想を書いてみましたが、まあそんなものかという感想もあるかもしれませんね。ただ、教訓というものは、あくまでも実際に取り組んでいるプロセスのなかではじめて納得できることですし、実際に試行錯誤してみないと体感できないことでも多々あることでしょう。
学生のあいだにこういう話を聞いておくと、実際に働き出してから、かならず思い出すものですね。そのときにはじめて、ゲストの言っていたことはこうだたのか、教授の言っていたことはそういうことだったのかとわかったりするものです。
何ごとも実際にやってみないと、ほんとうのことはわかりません。
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いよいよ、次回の全8回の授業は最終回。学生たちの「最終課題」のプレゼンテーションが楽しみですね!
5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「30分で新製品を作る」
6月4日(日)第6回 「トランプで創造性を学ぶ」
6月12日(日)第7回 「あこがれの起業家に学ぶ」
6月19日(日)第8回 「コーヒーの「新しい飲み方」を考える」
学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組です。最終回もお見逃しなく!
<関連サイト>
「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)
自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)
<関連情報>
ゲストの一人が在籍している IDEO社はシリコンバレーのどまんなか、スタンフォード大学が立地するパロアルト市を本拠地とするデザイン会社です。トム・ピーターズも惚れ込んでいるイノベーティブな会社。
『発想する会社!-世界最高のデザイン・ファーム IDEO に学ぶイノベーションの技法』(トム・ケリー / ジョナサン・リットマン、鈴木主税/秀岡尚子訳、早川書房、2002)は、創業経営者がみずから書いたプロダクト・デザインに重点をおいたイノベーションの教科書。日本でもロングセラーです。
目 次
はじめに-トム・ピーターズ
第1章 イノベーションの頂点
第2章 草創期の翼で飛びつづける
第3章 イノベーションは見ることから始まる
第4章 究極のブレインストーミング
第5章 クールな企業にはホットなグループが必要だ
第6章 プロトタイプ製作はイノベーションへの近道
第7章 温室をつくろう
第8章 予想外のことを予想する
第9章 バリアを飛び越える
第10章 楽しい経験をつくりだす
第11章 時速100キロのイノベーション
第12章 枠をはみだして色を塗る
第13章 「ウェットナップ」インタフェースを探して
第14章 未来を生きる
第15章 完璧なスイングを身につける
謝辞
IDEO社は、シーリグ教授が「スタンフォード白熱授業」で強調してきた、ブレーンストーミングや試作品(プロトタイプ)つくりをすべて実現している会社です。
カラー写真が満載の、見て読んで楽しい本です。デザイン思考とイノベーションを学ぶためにぜひお薦めします。
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