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2015年2月24日火曜日

書評 『沈みゆく帝国-スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか-』(ケイン岩谷ゆかり、外村仁解説、井口耕二訳、日経BP社、2014)-カリスマ経営者の死後に経営を引き継ぐことの難しさ


2011年にジョブズが死んですでに4年近くたち、アップルの神通力にも陰りが見えてきている。画期的な製品であったスマートフォンの iPhone だが、新規参入者によってスマホはすでに普及段階を終えてコモディティ化しつつあり、PCと同様に市場はすでに飽和状態にある。

「ジョブズ亡き後のアップル」については誰もが関心のあることだろう。そのテーマに正面からがっぷりと取り組んだのが、日本生まれのジャーナリストのケイン岩谷ゆかり氏である。「著者前書き」によれば、岩谷氏はかつて日本国内で産業記者としてソニーを担当していたという。

創業者がいなくなったソニーが衰退していくのを目の当たりにしている。それだけに、今回会社トップが創業者から別の人に変わる、しかも、事業環境がどんどん複雑になっていくなかでトップが交代するという難しい事態にアップルがどう対処するのか、強く興味を牽かれた。

原題は Haunted Empire: Apple After Steve Jobs, by Yukari Iwatani Kane, 2014、直訳すれば『悩まされる帝国-スティーブ・ジョブズ後のアップル-』となる。あるいは『取り付かれた帝国』。Haunted House とはお化け屋敷のこと。死せるジョブズの影を払拭できないという意味だろうか? 英語の意味は多義的なので、なかなか適切な訳は探しにくい。

56歳という早すぎるカリスマの死のすこし前から始まる記述は、ガンをわずらって衰弱していくジョブズ自身について書かれており、「帝国」の絶頂期がまさにジョブズの末期(まつご)と重なることが手に取るようにわかる。


「ナンバー2」を後継者に選出することの是非

著者自身のテーマであり、読者もまた多大な関心をもつであろう、事業継承のプロセスそのものは興味深い。だが正直いって、スティーブ・ジョブズ死後の記述を読んでもまったくワクワクしないのだ。すでにさまざまなIT関連の記事で読んで知っている事項だからということもあるが、ジョブズの後継者となったティム・クック氏のキャラクターにもその原因があるのだろう。

サプライチェーンの構築と運用を主たる業務としてきた後継者のクックは、厳密に数字で物事を捉え、理路整然と完璧な仕事をこなす能吏タイプで、ビジョナリータイプのジョブズとは真逆のタイプの人である。だが、そうだからこそ、ジョブズを支える「ナンバー2」の副官としては理想的な組み合わせであったわけだ。

ジョブズみずからが後継者として指名したことの意味は大きい。事業継承にかかわる混乱を未然に防ぐためであったが、なによりも事業に精通し、しかもジョブズという突出したキャラクターの持ち主であるカリスマ経営者を支えてきた人材であったためだ。

本書は、この後継者選出の是非について考える恰好の素材を提供してくれている。



後継者への「移行期」の課題

本書には、経営者交代時の課題と試練が綿密な取材にもとづいて描かれている。移行期というものはもっとも難しい時期である。この時期の対応に失敗すると、企業経営に限らず組織というものはうまくいかなくなる可能性が高い。

移行期の課題とは、連続性と変化にかかわるものだ。経営の連続性を維持しつつ、かつ経営者交代にともない独自色を打ち出さなくてはならないという相互に矛盾する二律背反的な状況にあることだ。「変わらないためには、変わらなくてはならない」という表現をつかってもいいだろう。何世代にもわたってつづいてきた老舗(しにせ)には可能でも、一代で築き上げた企業には難しい課題である。

クックの場合は、一癖も二癖もある幹部連中をどうまとめていくかがまず大きな課題であった。ジョブズのような際だったカリスマ的なリーダーなら可能だったことも、能吏タイプの後継者には難しい課題だ。「神格化」の進行する死せるカリスマ創業者の存在を意識の外においやることはできないからだ。

目を外に向ければ、ライバル企業はいまだ創業経営者が最前線で君臨している。アマゾンしかり、グーグルしかり、フェイスブックしかり。これらに対し、かつてPC時代のライバルであったマイクロソフトも、スマホ時代のサムスンもまた、カリスマ創業者が去ったあとは迷走をつづけている。


「破壊的イノベーション」は企業規模が拡大して「追われる立場」になると難しい

イノベーションを原動力としてきたアップルにとって、なによりも困難なことは、画期的なイノベーションを継続していくことだ。規模が拡大して「帝国」となった現在は、きわめて難しい

独特の美学にもとづき、完璧な製品を市場に投入してきたアップルだが、試作品をつくって使用者からのフィードバックをもとに試行錯誤を経ながら完成品をつくりあげていくグーグルやフェイスブックのようなソフトウェア系企業との違いは大きい。後者のやり方が、イノベーション創出の主流となりつつあるだけに、なおさらのことだろう。

ジョブズ亡き後のアップルにとって、後継者のクック自身が全面的に関与していたサプライチェーンから綻びが始まってきたのは痛いところだろう。ファブレスメーカーとして自前の製造機能をもたないアップルは、委託生産先で発生しつづける問題への対処に追われている。

すでにベンチャーの規模ではない、企業価値ではエクソン・モービルを抜いて世界最大になったアップルである。株式を上場している以上、市場関係者は数字でしかものをみないし、それに応えるために企業自身も数字として成果を出し続けて行かなくてはならない。そのような状況で、失敗がつきものの画期的なイノベーションを生み出すことがいかに困難な課題であることか。

ジョブズ自身も愛読して実践してきたクリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』の教訓は、ジョブズ死後のアップルもまた「イノベーションのジレンマ」に陥ったケースとして記録されることになるのだろう。「追う立場」から「追われる立場」に変化しているのだ。「破壊的イノベーション」は企業規模が拡大して「追われる立場」になるときわめて難しい。これはソニーについても同様だ。

グーグルのアンドロイトが「オープンソース型」であるのに対し、アップルは「囲い込み型」のビジネスモデルで収益を上げてきたが。「破壊的イノーベション」による製品では大きな収益をもたらすこのビジネスモデルも、コモディティ化した製品ではかえって足かせになることも著者は示唆している。わたしはこの見解に同感だ。かつて松下電器(・・現在のパナソニック)に高収益をもたらした系列家電販売店チェーンによる販売モデルが、量販店時代に足かせになったことを想起させる。

守りに入った「帝国」はすぐに沈没することも崩壊することはないが、徐々に衰退していくものだ。日本語には盛者必衰という四文字熟語がある。アップルもまたその例外ではないということだろうか。

それにつけても、スティーブ・ジョブズという人が、いかに突出した例外的な存在であったことかが逆説的にあぶり出されるのである。カリスマ経営者に依存した企業は、急成長をとげても、つねに「カリスマリスク」がつきまとう。このことが「ジョブズ後のアップル」の推移を見ていくと、あらためて実感されるのである。

永続的な存在としてサステイナブルな企業とするためには、いたづらに規模を拡大するべきではないという教訓も引き出すことができるかもしれない。だが、いまだ進行中の事象であるだけに、時間がたってから振り返って検証してみるべきケ-ススタディといった内容である。本書の「その後」をぜひ読んでみたい。


PS この書評は R+(=レビュープラス)さまからの献本をいただいて執筆したものです。

PS2 この書評をブログにアップした2015年2月24日がジョブズの誕生日だったとはまったく知らなかった。56歳で亡くなったジョブズは生きていれば、今年はなんと60歳の還暦。なんという偶然の一致というべきか、それとも・・・。あらためてご冥福を祈ります。合掌 (2015年2月25日 記す)。





目 次 

著者まえがき
序章 かつて私は世界を統べていた
第1章 去りゆくビジョナリー
第2章 ジョブズの現実歪曲
第3章 CEOは僕だ
第4章 在庫のアッティラ王
第5章 皇帝の死
第6章 ジョブズの影と黒子のクック
第7章 中国の将軍と労働者
第8章 アップルの猛獣使い
第9章 Siriの失敗
第10章 アンドロイドに水素爆弾を
第11章 イノベーションのジレンマ
第12章 工員の幻想と現実
第13章 ファイト・クラブ
第14章 きしむ社内、生まれないイノベーション
第15章 サプライヤーの反乱
第16章 果てしなく続く法廷闘争
第17章 臨界に達する
第18章 米国内で高まる批判
第19章 アップルストーリーのほころび
第20章 すりきれていくマニフェスト
終章2013年11月
謝辞
訳者あとがき
解説
原注

著者プロフィール

ケイン岩谷ゆかり(Yukari Iwatani Kane)
ジャーナリスト。1974年、東京生まれ。ジョージタウン大学外交学部(School of Foreign Service)卒業。父の仕事の関係で3歳の時に渡米、シカゴ、ニュージャージー州で子ども時代を過ごす。10歳で東京に戻ったものの、15歳で再び家族とメリーランド州へ。大学3年の時に1年間上智大学へ逆留学したが、その後アメリカへ再び戻る。アメリカのニュースマガジン、U.S. News and World Reportを経て、ロイターのワシントン支局、サンフランシスコ支局、シカゴ支局で勤務後、2003年末に特派員として東京支局に配属。通信業界、ゲーム業界などを担当。2006年にウォール・ストリート・ジャーナルへ転職。東京特派員としてテクノロジー業界を担当。2008年にサンフランシスコに配属、アップル社担当として活躍。スティーブ・ジョブズの肝臓移植など数々のスクープを出したのち、本書執筆のために退職。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


訳者プロフィール

井口耕二(いぐち・こうじ)
1959年生まれ。東京大学工学部卒、米国オハイオ州立大学大学院修士課程修了。大手石油会社勤務を経て、1998年に技術・実務翻訳者として独立。翻訳活動のかたわら、プロ翻訳者の情報交換サイト、翻訳フォーラムを友人と共同で主宰するなど多方面で活躍している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


解説者プロフィール

外村仁(ほかむら・ひとし)
戦略コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーを経て、アップル社でマーケティングを担当。ジョン・スカリーからスティーブ・ジョブズまで5年間で4人のCEOに仕える。スイスIMDでMBAを取得後、シリコンバレーで起業、ストリーミング技術の会社を立ち上げ、売却。ファーストコンパスグループ共同代表、スタートアップ数社のアドバイザーやOpen Network Labの起業家アドバイザーなどのほか、エバーノート日本法人の会長も務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

Appleのティム・クックCEO、ケイン・岩谷ゆかり氏の著書を「ナンセンス」と酷評 (2014年3月9日)

Yukari Iwatani Kane (元ウォールストリート・ジャーナルのアップル担当記者ケイン・岩谷ゆかり氏のサイト)


アップルは「沈みゆく帝国」なのか(ケイン岩谷ゆかり)

第1回 皇帝亡きあとの帝国 ジョブズの亡霊と比べられるティム・クックCEO (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年6月18日)

第2回 ジョブズの遺産、アップル・ユニバーシティ 幹部を鍛える研修プログラム (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年6月25日)

第3回 広告から透けるアップルに欠けているもの シンク・ディファレント誕生と今の違い (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年7月2日)

第4回 ジョブズが後継に選んだ男、ティム・クックは何者か? 故郷、アラバマ州ロバーツデールを訪ねる (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年7月9日)

第5回 ジョブズが認めたデザイナー、ジョナサン・アイブ 天才は日立、ゼブラ製品もデザインしていた (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年7月17日)


ジョブズ存命でも、アップルの進化難しかった 『沈みゆく帝国』著者、ケイン岩谷氏に聞く(前編) (東洋経済オンライン、2014年8月9日)

クック体制でアップルの均衡崩れつつある 『沈みゆく帝国』著者、ケイン岩谷氏に聞く(後編) (東洋経済オンライン、2014年8月11日)




アップル社(米国本社)の公式サイト

Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005 (スタンフォード大学での卒業祝辞スピーチ動画 英語・字幕なし)。
 スピーチの英語原文はスタンフォード大学オフィシャルサイトに掲載。
・・ジョブズ氏の死生観も語られている


<ブログ内関連記事>

アップル社

書評 『アップル帝国の正体』(五島直義・森川潤、文藝春秋社、2013)-アップルがつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を「末端」である日本から解明
・・まさにこのサプライチェーンのかかわる側面こそ、CEO職をジョブズから引き継いだかつてのナンバー2ティム・クックの業務であった


スティーブ・ジョブズ関連

巨星墜つ-アップル社のスティーブ・ジョブズ会長が死去 享年56歳 (1955 - 2011)

スティーブ・ジョブズはすでに「偉人伝」の人になっていた!-日本の「学習まんが」の世界はじつに奥が深い

スティーブ・ジョブズの「読書リスト」-ジョブズの「引き出し」の中身をのぞいてみよう!


カリスマ経営者退任後の経営

カリスマが去ったあとの後継者はイノベーティブな組織風土を維持できるか?-アップル社のスティーブ・ジョブズが経営の第一線から引退

「世襲」という 「事業承継」 はけっして容易ではない-それは「権力」をめぐる「覚悟」と「納得」と「信頼」の問題だ!


ナンバー2という副官のあり方

書評 『No.2理論-最も大切な成功法則-』(西田文郎、現代書林、2012)-「ナンバー2」がなぜ発展期の企業には必要か?
・・ナンバー1とは根本的に異なる機能を果たすナンバー2の難しさ

最高の「ナンバー2」とは?-もう一人のホンダ創業者・藤沢武夫に学ぶ
・・創業経営者の藤沢武夫は本田宗一郎とともに退任した

「長靴をはいた猫」 は 「ナンバー2」なのだった!-シャルル・ペローの 「大人の童話」 の一つの読み方
・・優秀なナンバー2がいかに重要であるか!




(2012年7月3日発売の拙著です)








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2013年10月15日火曜日

技術やサービスは地方から上京することもある-「ボタン式半自動」が導入されたJR青梅線



昨日、ひさびさにJR中央線(JR東日本管内)に乗車して気づいたこと。青梅行き特別快速だから正確にいうとJR青梅線でしょうか。

電車のドアが自動開閉だけでなく、ボタンを手動で押して乗客がスイッチ開閉できるようになっていました。いわゆる「ボタン式半自動」です。

そういえば、TVのニュースで報道していたなと思い出しつつ。この手動開閉は地方、とくに北国では当たり前ですよね。

東京でもドアが開きっぱなしだと、利用客にとっては夏は暑いし冬は寒い。しかも、事業者にとっても、夏の冷房費、冬の暖房費のムダ使いになってしまう。さらには世の中全体ではエネルギーの無駄づかいは環境にもよろしくない。

こういう「三方よし」の精神が東京にも導入されたのは、たいへん喜ばしいことであります。「三方よし」とは近江商人のCSR(=企業の社会的責任)のことです。

「ボタン式半自動」そのものはハイテクではなくローテクでもなく、ミドルテクといったところでしょうが、単なる機能追加としてだけではなく顧客サービスとして考えればありがたいものといえるでしょう。

いずれ首都圏でも都心部以外では当たり前に装備されることになるのかもしれません。

技術やサービスは、地方から上京することもあるわけですね。首都圏にはなかったものですから、「ヨコ展開」によるイノベーションといえるかもしれません。

ビジネスのヒントにもなりそうです。


<ブログ内関連記事>

書評 『「できません」と云うな-オムロン創業者 立石一真-』(湯谷昇羊、新潮文庫、2011 単行本初版 2008)-技術によって社会を変革するといういうことはどういうことか?

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第8回放送(最終回)-最終課題のプレゼンテーションと全体のまとめ





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2012年8月14日火曜日

書評 『「できません」と云うな-オムロン創業者 立石一真-』(湯谷昇羊、新潮文庫、2011 単行本初版 2008)-技術によって社会を変革するということはどういうことか?



「できませんと云うな」、これが口癖であったという立石一真。研究開発系企業として有名なオムロンの創業経営者です。

そしてオムロンは京都の会社。京都の研究開発系企業としては京セラが有名ですが、京セラの創業者・稲盛和夫が鹿児島出身であることは意外と知られていないようです。

オムロン(旧 立石電機製造所)の立石一真もまた、本書によれば熊本出身の九州男児でした。1900年(明治33)年に熊本に生まれ、1991年(平成3年)に没するまで、一貫して技術者として不可能へ挑戦し続けた熱い人だったのです。

縁あって京都で起業して、世界企業になった京セラとオムロン。稲盛さんにくらべて知名度では落ちるが、研究開発系企業としてのオムロンとその創業者・立石一真は、もっと知られていいのではないでしょうか? 

立石一真自身が目立つことを嫌ったこともあって、すばらしい業績を残しているの対して立石一真その人については広く知られているわけではないようです。本書を読むまで、わたし自身、オムロンという会社については知っていても、立石一真についてはよく知らなかったわたしは、その感をつよくしました。

1960年に世界に先駆けて開発に成功した「無接点近接スイッチ」は、自販機、電話交換機、新幹線や自動車のメーター、工作機械などさまざまな分野で現在では当たり前のように使われています。

技術によって社会を変革するという創業者のつよい思いが反映した企業姿勢、これが端的に実現されたのが、世界初のオンラインCD(=現金自動支払機)やATMの開発でしょう。これによって、窓口業務が機械化されて金融機関の週休2日制が実現したことは、わたし自身が金融機関の関連企業にいたこともあり、たいへんありがたく思っています。

また、NHK『プロジェクトX』で紹介された自動改札機の開発ストーリーは、創業者・立石一真自身が主人公ではなく、開発にあたったエンジニアが主人公でしたが、技術によって社会を変革するという姿勢がすみずみまで浸透していることが、よく感じられるものでした。

イノベーションを軸にしたあるべき経営とは何か?
技術によって社会を変革するといういうことはどういうことか?

いち早く障害者の雇用をする企業を利益のでる営利企業として軌道にのせるなど、さまざまな領域でイノベーションを実現し、社会を変革していったオムロンと創業者・立石一真。ドラッカーとは公私にわたって親交がありました。

もっと知られるべき理想の経営者として、ぜひみなさまにも知っていただきたいと思い、紹介させていただいた次第です。





目 次

まえがき-ドラッカーが絶賛した日本人経営者
第1章 青雲の志
第2章 立石電機創業
第3章 倒産の危機、オートメーションとの出会い
第4章 プロデューサー・システム
第5章 夢のスイッチ
第6章 生い立ちと社憲
第7章 自動券売機、再婚
第8章 交通管制システム
第9章 CDと無人駅システム
第10章 健康工学、オムロン太陽電機
第11章 電卓の誤算
第12章 大企業病退治
最終章 人を幸せにする人が幸せになる
文庫版あとがき
立石一真 年譜
参考文献


湯谷昇羊(ゆたに・しょうよう)  

1952(昭和27)年、鳥取県生れ。法政大学経済学部卒。1986年ダイヤモンド社へ入社し、以後、銀行を中心とした金融界を主な取材対象として活動。「週刊ダイヤモンド」編集長、同社取締役を経て、2008(平成20)年に退社し、フリーの経済ジャーナリストになる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

<関連サイト>

「私の履歴書 立石一真 復刻版」 (日経Bizアカデミー 2013年10月3日)
・・日本経済新聞の名物連載「私の履歴書」がネットで読める


<ブログ内関連記事>

書評 『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』(堀場 厚、講談社、2011)-堀場製作所の社長が語る「京都企業」の秘密

『週刊ダイヤモンド』の「特集 稲盛経営解剖」(2013年6月22日号)-これは要保存版の濃い内容の特集






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2012年8月4日土曜日

京都で 「出版記念食事会」を開催していただきました(2012年8月1日)


今週の8月1日(水)、京都の四条烏丸の からすまホテルで、 「ランチ会&ミニ講演会&サイン会」開催しました。

題して、「佐藤けんいちを囲んでの出版記念食事会」。先月の7月3日に刊行された『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(佐藤けんいち、こう書房)の出版記念イベントです。

月初の多忙な時期であるのにもかかわらず、京都の企業経営者や老舗の当主、また自営業者の方々を中心に15名集まっていただきました。

当日行ったミニ講演のタイトルは、『イノベーティブな人材は「引き出し」が豊富』。わたしの「専門」である人材分野にひきつけのテーマでした。

ミニ講演のあとは、みなさんにも参加していただいて、「引き出し」の増やし方を中心にした質疑応答のセッション。和気藹々とした雰囲気のなかで二時間があっという間に過ぎてしまいました。

また、その場で本もお買い上げいただき、サインもさせていただきました。感謝!

出版関連イベントは、京都以外でも、東京をふくめ、各地で開催する予定です。開催ご希望があれば、ぜひご連絡いただけると幸いです。 ⇒ ken@kensatoken.com  

開催前には、さまざまな媒体で告知したしますので、ぜひご参加いただけると幸いです。






<ブログ内関連記事>


書評 『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』(堀場 厚、講談社、2011)-堀場製作所の社長が語る「京都企業」の秘密

書評 『インドネシア駐在3000日 (新版)』(坂井禧夫、連合出版、2012)-インドネシアといえばこの一冊。付録のインドネシア語のことわざ200も面白い ・・出版記念イベントの企画から司会まで坂井さんにはたいへんお世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。





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2012年5月22日火曜日

書評『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』(ダン・セノール & シャウル・シンゲル、宮本喜一訳、ダイヤモンド社、2012)-イノベーションが生み出される風土とは?

イノベーションが生み出される風土とは?

『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』(ダン・セノール /シャウル・シンゲル、宮本喜一訳、ダイヤモンド社、2012)が、この5月に出版されました。

この本はじつに面白い!

わたしは2009年に出版された英語版で読んだので日本語版は見ていませんが、イノベーションのゆりかごシリコンバレーのアメリカ人(・・その多くはユダヤ系)ですら圧倒されるという、イスラエルのイノベーション風土を活写した内容です。

なぜ、中近東の小国イスラエルでは、つぎからつぎへとイノベーティーブなハイテク・ベンチャーがでてくるのか? 
その秘密は・・・・。ぜひ本を読んでみて確認してみてください。

日本人からすると、議論が何よりも好きで、アクの強さではインド人以上に辟易するであろうイスラエル人ですが、「自分で考え、自分で行動する」究極のイノベーターの姿がそこにあるといってよいでしょう。

こと議論するという点になると、たとえ軍隊内であろうと上下は関係ないという組織風土こそ、究極の「水平社会イスラエル」を象徴するもの。翻訳書ですが、読めば何かのヒントがあると思います。

なお、原書タイトルは 『Start-Up Nation』(スタート・アップ国家)、イスラエルという国家じたいがベンチャー体質であることを示しているわけですね。

アメリカ企業ですら驚くようなフラットな社会を基盤にしたイスラエル企業ですから、日本企業がそのまま真似るのは、きわめて難しいでしょうが、日本企業とは対極にあるイスラエルのハイテクベンチャーの実態を知ることは、大いに意義のあることだと思います。

読んで損のない一冊として、つよくおすすめします。





目 次

はじめに
著者はしがき
序章

Part1 〝なせばなる〟の小さな国
第1章 粘り腰
第2章 戦場の起業家

Part2 イノベーションの文化の種をまく
第3章 〝情報源〟を自らつくる人たち
第4章 ビジネススクールより強い絆-予備役
第5章 秩序が混乱に出会うところ

Part3 奇跡の経済成長のはじまり
第6章 うまくいった産業政策
第7章 移民-グーグルの人々の挑戦
第8章 ディアスポラ-航空機を盗む
第9章 バフェットのテスト-投資リスクをどう考えるか
第10章 ヨズマ-投資家と起業家の仲介役

Part4 〝動機こそが武器〟の国
第11章 ロケットの先端部から湯沸器まで
第12章 シャイフのジレンマ-アラブ世界の起業家精神
第13章 経済的奇跡に対する脅威
終章 ハイテクを育てる農民

あとがき
謝辞
イノベーションを産業として育成していく必要十分条件とは-日本語版出版にあたって


◆原著の専門サイトは http://www.startupnationbook.com/ (ただし英語)

著者プロフィール

ダン・セノール(Dan Senor)
外交問題評議会(CFR)中東研究グループの訪問上席研究員。アメリカ政府の上級外交政策顧問として、中東の政治・産業を分析、研究。イラクで最も長期間勤務した民間人のひとりであり、この功績に対して国防総省から民間人として最高の栄誉賞を受賞。また、カタールにおける中央軍の国防総省顧問、アメリカ上院の外交通信顧問も歴任。イスラエルとハーバード・ビジネススクールで学び、アラブ世界をすみずみまで旅してきた。ビジネスの世界では、イスラエルとアメリカの多数のスタートアップ企業に投資し、現在はニューヨークを拠点とする世界的投資ファンドで仕事をしている。セノールの分析的な議論はウォールストリート・ジャーナル紙にしばしば掲載されている。ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、『タイム』誌にも執筆。妻とふたりの息子とニューヨーク市に住む。

シャウル・シンゲル(Saul Singer)
エルサレム・ポスト紙のコラムニスト、元編集者。歴史家のマイケル・オーレンはシンゲルの著書Confronting Jihad: Isra el's Struggle and the World After 9/11を「中東に関心のある人なら、素人玄人誰にとっても必読の書」と評価している。寄稿先は『コメンタリー』誌、『モーメント』誌、『ニューリーダー』誌、『ビターレモンズ』誌(イスラエル・パレスチナの電子雑誌)、ワシントン・ポスト紙の国際ブログ「ポスト・グローバル」など。1994年にイスラエルに移住する前は、アメリカ連邦議会で下院外交問題委員会と上院銀行委員会の顧問を務めた。妻と三人の娘とエルサレムに住んでいる。

翻訳者プロフィール

宮本喜一(みやもと・よしかず)
1948年奈良市生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。ソニー、マイクロソフトを経て独立。翻訳・執筆活動に入る。訳書に『ジャック・ウェルチ わが経営』(日本経済新聞出版社)、『トム・ピーターズのマニフェスト』シリーズ(ランダムハウス講談社)、『ビジョナリー・ピープル』(英治出版)、『ヴァージン流』(エクスナレッジ)、『ドラッカーの講義』全2巻(アチーブメント出版)、『決断力の構造』(ダイヤモンド社)など、著書に『井深大がめざしたソニーの社会貢献』(ワック)、『マツダはなぜ、よみがえったのか?』(日経BP社)などがある。


<関連サイト>

ダイヤモンド社の書籍紹介サイト

今、生まれ変わろうとしないなら、日本は廃墟となったデトロイトのようになっていく。『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』書評(神谷秀樹)

イスラエルという "スタートアップ国家"  セキュリティー大手チェック・ポイントCEOが語る強さの理由 (日経ビジネスオンライン、2014年8月29日)
・・「チェック・ポイントでは、大学2年生など、在学中の学生も採用するようになった。他の多くのハイテク企業でも、在学中にパートタイムで学生を雇い、卒業後もそのまま採用する例が増えている。これは、企業にとって有能な人材が獲得できるというだけでなく、学生にとっても、自分の興味ある仕事で学費を稼げるというメリットがある。イスラエルでは、ハイテク関連を専攻した卒業生が得る給料は、他分野の卒業生の2倍近い。エンジニアになるのは、非常に魅力的な選択肢なのだ」。

イスラエルのエコシステム、“破壊的”ベンチャー生み出す (日経コンピュータ、2014年10月6日)


<ブログ内関連記事>

書評『タルピオット-イスラエル式エリート養成プログラム』(石倉洋子/ナアマ・ルベンチック、トメル・シュスマン監修、日本経済新聞出版社、2020)-「スタートアップ・ネーション」の秘密

イスラエル

Pen (ペン) 2012年 3/1号(阪急コミュニケーションズ)の「特集:エルサレム」は、日本人のための最新のイスラエル入門ガイドになっている

『イスラエル』(臼杵 陽、岩波新書、2009)を中心に、現代イスラエルを解読するための三部作を紹介

映画 『戦場でワルツを』(2008年、イスラエル)をみた

イスラエル産スウィーティーの季節

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)


イノベーション

NHKのアニメ 『もしドラ』 の第4回放送(4月28日)のおさらい-イノベーションとはあたらしい価値をもたらす変化のこと

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第8回放送(最終回)-最終課題のプレゼンテーションと全体のまとめ

書評 『人材は「不良社員」からさがせ-奇跡を生む「燃える集団」の秘密-』(天外伺朗、講談社+α文庫、2011、初版 1988)
・・ソニーの上席常務を務めた工学博士の土井利忠氏による「画期的プロジェクト成功の奥義」。天外伺朗(てんげ・しろう)はペンネーム。『般若心経』関連の著書もある

書評 『「無分別」のすすめ-創出をみちびく知恵-』(久米是志、岩波アクティブ新書、2002)-「自他未分離」状態の意識から仏教の「悟り」も技術開発の「創出」も生み出される
・・イスラエルと同様に、激しい議論があたりまえの「ワイガヤ」を行うンホンダの風土

映画 『加藤隼戦闘隊』(1944年)にみる現場リーダーとチームワーク、そして糸川英夫博士
・・糸川英夫博士と厳しい風土と制約条件の多いイスラエルについても触れている

(2014年8月27日、2023年10月29日 情報追加)



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(2022年6月24日発売の拙著です)

(2021年11月19日発売の拙著です)


(2021年10月22日発売の拙著です)

 
 (2020年12月18日発売の拙著です)


(2020年5月28日発売の拙著です)


 
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2011年8月26日金曜日

カリスマが去ったあとの後継者はイノベーティブな組織風土を維持できるか?-アップル社のスティーブ・ジョブズが経営の第一線から引退


 昨日(2011年8月25日)、アップル社のスティーブ・ジョブズCEOが、経営の第一線から引退することが突然発表されました。

 後継者に指名されたクック新CEOによる社内向けメールが公開されています。

 アップル 新CEO ティム・クックの社内向けメッセージ:アップルは今後も変わらない。 という記事に、クック新CEOのメール内容が、英語の原文と日本語訳で掲載されています。このうち価値観(バリュー)と原則(プリンシプル)にかんする文言を引用しておきましょう。

I want you to be confident that Apple is not going to change. I cherish and celebrate Apple's unique principles and values. Steve built a company and culture that is unlike any other in the world and we are going to stay true to that-it is in our DNA. We are going to continue to make the best products in the world that delight our customers and make our employees incredibly proud of what they do.

アップルが今後も変わらないことに自信をもってほしい。わたしはアップルのユニークな価値観と原則を心から大切に思っています。スティーブが育てた、世界 のどんな企業とも似ていないこの会社と文化に、われわれは今後も忠実であり続けます。それがわれわれのDNAです。われわれは今後も世界最高の製品を作り、顧客を喜ばせ、従業員が仕事を心から誇りに思えるようにし続けます。

 「カリスマ・リスク」という表現もあるように、成功企業がカリスマ経営者の存在に大きく依存してる会社では、とうに上場している大企業の場合、後継者の選出は大きな課題です。

 すぐれた経営者を組織の内外から捜し出してくることが求められますが、組織外から落下傘的に着任するケースでは、企業再建のケースはいざしらず、成功している企業の組織風土を維持しつづけるのはきわめて困難

 今回のアップル社のケースのように、内部に10数年在籍して、組織風土を肌身をつうじて熟知している場合ですら、抱えることになる課題は同様に重いものがあります。何をどう努力しても、どうしても前任者であるカリスマと比較されがちだからです。これは同族企業であっても同じです。

 カリスマ的創業者の志が生き続けているイノベーティブな日本企業としては、ホンダを例に取り上げることができると思います。ですが、後継者にはカリスマ以上の存在にはなり得ない以上、きわめて困難な課題であることはどの会社であっても否定できません。ジョブズが去るのは今回 2度目ですが、健康状態が良くないこともあり 3度目の前線復帰は、おそらくないでしょう。 

 「変わらずにいるためには、変わらなければならない」 というのは、ヴィスコンティ監督の 『山猫』 にでてくる有名なセリフですが、カリスマが去ったあと、ミッションとバリューが明確な組織風土をどう維持させるか、アップル社はきわめてむずかしい課題に乗り出すことになります。

 日本の中継中小企業においても、「他山の石」として、見守っていく必要があるでしょう。



<関連サイト>

Appleのティム・クックCEO、ケイン・岩谷ゆかり氏の著書を「ナンセンス」と酷評 (2014年3月9日)

Haunted Empire by Yukari Iwatani Kane (元ウォールストリート・ジャーナルのアップル担当記者ケイン・岩谷ゆかり氏のサイト)

なお、当該書は、『沈みゆく帝国-スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか-』(ケイン岩谷ゆかり、外村仁解説、井口耕二訳、日経BP社、2014)というタイトルで2014年6月18日発売予定。





アップルは「沈みゆく帝国」なのか(ケイン岩谷ゆかり)

第1回 皇帝亡きあとの帝国 ジョブズの亡霊と比べられるティム・クックCEO (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年6月18日)

第2回 ジョブズの遺産、アップル・ユニバーシティ 幹部を鍛える研修プログラム (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年6月25日)

第3回 広告から透けるアップルに欠けているもの シンク・ディファレント誕生と今の違い (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年7月2日)

第4回 ジョブズが後継に選んだ男、ティム・クックは何者か? 故郷、アラバマ州ロバーツデールを訪ねる (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年7月9日)

第5回 ジョブズが認めたデザイナー、ジョナサン・アイブ 天才は日立、ゼブラ製品もデザインしていた (ケイン岩谷ゆかり、日経ビジネスオンライン、2014年7月17日)


ジョブズ存命でも、アップルの進化難しかった 『沈みゆく帝国』著者、ケイン岩谷氏に聞く(前編) (東洋経済オンライン、2014年8月9日)

クック体制でアップルの均衡崩れつつある 『沈みゆく帝国』著者、ケイン岩谷氏に聞く(後編) (東洋経済オンライン、2014年8月11日)


(2014年6月2日、25日、7月17日、8月11日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』(マーク・マリンズ、高崎恵訳、トランスビュー、2005)
・・カリスマの継承が難しいのは宗教組織も同じ

書評 『跡取り娘の経営学 (NB online books)』(白河桃子、日経BP社、2008)







(2012年7月3日発売の拙著です 電子書籍版も発売中!)






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2011年6月20日月曜日

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第8回放送(最終回)-最終課題のプレゼンテーションと全体のまとめ


NHK・Eテレの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。

いよいよ、本日は最終回学生たちの「最終課題」のプレゼンテーションです。

まずはいつもどおり、ウォームアップから。今回のウォームアップもまたカラダとアタマをつかったものでした。カラダを動かして肩のチカラを抜いていく。アタマの回転と柔軟性はスタンバイ。

最終回は「コーヒーの新しい飲み方を考える」。公式サイトの説明は以下のとおりです。

「発想の転換を迫り、革新的な アイデアを生み出す手法」を学ぶスタンフォード大学起業家育成講座。その根底にあるのはテイナ・シーリグ先生の「創造性は誰でも学ぶことができる」という考え方です。
最終回、学生たちに与えられた課題は「コーヒーの新しい飲み方」を考えること。
これまでに学んできたブレインストーミング、チームでの作業の仕方、最高のアイデアを考えた後で最低のアイデアも考えてみること、前提を疑い、ルールを破って問題を捉え直すことなど、吸収したすべての思考ツールを駆使して課題に挑みます。
果たしてどんなアイデアが飛び出すでしょうか。


最終課題は、第4回の授業で示されました。NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第4回放送- 「6色ハット」 は個人レベルの思考パターンと仕事スタイルを 「見える化」 する を参照してください。

課題は、まずはコーヒーを飲むという経験は何であるか調べつくすこと。ラディカルで常識破りのアイデアを出し、試作品をつくって実際のユーザーに試飲してもらうこと。新しい飲み方を、2分間のビデオでプレゼンテーションすること。

今回の放送ではじめてわかりましたが、第4回の授業から最終回の第8回の授業まではたった1週間。この授業はいわゆる「集中講座」だったようです。限られた時間のなかでプレッシャーと戦いながら課題を実行することの重要性も同時に体感させることも意図されていたようです。

プレゼンテーションは以下の要領で行われました。

1. 3人から4人で構成された7つのチームが、チームごとに 2分間のビデオを上映
2. ビデオ上映後にデザインのプロセスを口頭で解説
3. ゲスト審査員からのコメント

ゲスト審査員は2人、スタンフォード大学教育デザイン研究所ディレクター モーリン・キャロルとスタンフォード大学デザインスクール学部ディレクター バーニー・ロス。

シーリグ教授は、事前に各グループから試作品については事前に見ているようですが、ビデオについては見ていないという前提になっていました。徹夜までして完成させたグループもあったようです。

ビデオ・プレゼンでチェックされていたのは、「コーヒーの新しい飲み方」と試作品そのものだけではなく、とくに発想のストーリーとプロセスについてでした。第2回の授業ででてきた、「Emphathize」(共感)-「Define」(定義)-「Ideate」(考察)-「Prototype」(試作)-「Test」(検証)のサイクルをどのグループも踏まえたものとなっていました。

各グループは意図したわけではないにせよ、じつにさまざまな切り口から「コーヒーの新しい飲み方」を提案していました。

コーヒーの飲み方そのもの、コーヒーを飲む場所、コーヒーの注文のしかた、コーヒーの味、コーヒーにかわる同機能の製品・・・などなど。同じ課題でも、このようにさまざまな切り口からのアプローチが可能だということですね。たいへん面白いプレゼンでした。


米国ではこのような授業はシーリグ教授のものだけではない!

このプレゼンテーションをみていて思い出したのは、わたし自身の経験です。

M.B.A.の授業が始まる前に、カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)のサマー・エクステンション(夏期集中講座)に参加して、ビジネス英語の授業をとっていましたが、同じようにグループでの課題発表が最終授業で行われました。1990年のことですから、いまから21年前のことになります。

最終課題は、新しいマウスウォッシュ(口内洗浄剤)を提案してその宣伝まで考えてプレゼンテーションするというもの。なんだか「スタンフォード大学白熱授業」の最終課題と似ていますね(笑)。もしかすると、米国ではとくだん珍しい課題ではないのかもしれません。

一緒のグループになったのは、わたしを含めた日本人2人とイタリア人2にスペイン人2人の合計6人。最終的にわれわれのチームが提案したのは「ミッキー・マウス」という商品名。Mickey Mouth とは Mickey Mouse にかけたもの。これはイタリア人の発案。この彼がプレゼンテーションでも大いに手腕を発揮して、先生からはイタリア人はプレゼンがうまいと誉められていました。イタリアに戻ったらマッキンゼーに入ると言ってましたが、はたして目的は達成したのかどうか?

余談になりますが、同じグループを組んでみてわかったのは、イタリア人とスペイン人はお互いのコトバで意思疎通しあえるのに、国民性はかなり異なること。どちらも、日本人と共通している面とそうでない面がある。とくにイタリア人はふだんは徹底的に遊んでいながら、ここぞというときに集中力がすごいということでした。

アイデアはイタリア人が中心になってつぎからつぎへとだし、日本人がそれを交通整理、スペイン人は冷静に議論の行方をみながら協調するという具合に。見た目と違って面白いグループ編成になったようでした。授業が終わったあと、スペイン人の二人が「日本人はすばらしい!」と絶讃してくれたのは、なんだかこそばゆい感じもしましたが、同時にひじょうにうれしくも思いました。

M.B.A.を取得した、ニューヨーク州のレンセラー工科大学(RPI:Rensselaer Polytechnic Institute)でも、ハイテクベンチャー(Technological Entrepreneurship)の授業で似たような課題をつうじて体験しています。

研究開発の成果を商業化(commercialize)するというプロジェクト。これはセメスター3ヶ月かけてのプロジェクトですが、かなり実践的な内容の授業でした。アメリカ人男性とスペイン人(・・正確にいうとカタロニア人)女性の三人でチームを組みましたが、われわれのチームが選んだのは、大学の工学部教授が開発した「心臓にたまった水を外部から測定する機器」。

これを製品化するための調査とマーケティングプランの作成を行い、最終プレゼンテーションでは優勝!最後のプレゼンは大教室で、外部からの審査員も出席したもので、緊張しながらも充実した思い出が残りました。

このような実践を念頭においた体験型授業、対話授業というものは、レクチャー主体の授業とは違って、受講者にとっては自分が主体的にかかわっただけに印象が強く、長く記憶に残るということですね。

シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」もまた同じですね。米国の教育方法ではけっして例外ではないのです。日本の教育もそろそろ、「勉強」から脱して、体験と対話をつうじての「学び」に移行していくべきでしょう。大人向けも子ども向けも。


全8回の授業のまとめとおさらい

プレゼンテーションが終わったあと、シーリグ教授から、全体のまとめとおさらいが行われました。

「創造性は誰でも学ぶことができる」
・・これは全体をつうじてのシーリグ教授の一貫した主張です。全8回の集中コースをつうじて、参加者だけでなく視聴者もみな実感したことでしょう。

「観察」(Observation)
・・これは何度強調してもしすぎることはないでしょう。自然科学にかぎらず、ビジネスでもすべての分野で絶対に必要なマインドセットですね。

「前提を疑う」
・・マインドマップをつかったブレーンストーミングを実行しましたよね。また「最高のアイデアと最低のアイデア」の演習も面白かったです。誇張することで問題を「見える化」するわけです。

「メタファー」(Metaphor)
・・「関連性のない問題を組みあわせてみる」。このメタファーというコトバそのものが重要です。

「問題を定義し直す」(Redifine)
・・問題の違う角度からみて捉え直すことですね。シーリグ教授が引き合いにだしていた「無重力空間でも書けるペンの話」は興味深い例ですね。機能が明確になればエンピツでいいじゃないかというロシア人の発想が紹介されていました。

「空間の重要性」
・・創造性に適した空間が重要であることは、日本でも幼稚園と小学校以上を比べてみるとよくわかりますよね。米国の先端企業がこれにいかにチカラをかけているか、グーグルやフェイスブックを引き合いにだすまでもありません。この「起業家育成コースの集中講座」じたいが、かなり意識した空間設計がなされていました。

「チームの重要性」
・・第4回の授業でやった「6色ハット」など、創造性を発揮させるための最適の組み合わせについても重要ですね。一人ではなくチームで、しかも最適の組み合わせを考えて。

「時間の重要性」
・・時間的制約のもとでかかるプレッシャー。これが創造性には意外と重要であるということ。ビジネスパーソンであれば実感できることでしょう。

「実験する姿勢をもつ」
・・試作品は最初から完璧をもとめず、その都度ためして早い段階から失敗することを繰り返す。


最後にシーリグ教授が強調していたのは、Creativity Tools だけでなく、Attitude と Creative Culture の重要性。

創造性を開発するさまざまな「技法」(ツール)にばかり注目が集まりがちなのは、日本だけでなく米国でも同じようですね。

技法はもちろん重要ですが、創造性を発揮するための「姿勢」と「カルチャー」。この3つが合わさって、創造性が大いに発揮されること、これはぜひアタマのなかにいれておきたいものです。


学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組でした。







<関連サイト>


「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)

自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)


<全8回の授業内容>

5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「30分で新製品を作る」
6月4日(日)第6回 「トランプで創造性を学ぶ」
6月12日(日)第7回 「あこがれの起業家に学ぶ」
6月19日(日)第8回 「コーヒーの「新しい飲み方」を考える」


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NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第2回放送-「問題解決」の前に「問題発見」! 急がば回れ!

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第3回放送-「ブレインストーミングには悪いアイデアはない!」

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第4回放送- 「6色ハット」 は個人レベルの思考パターンと仕事スタイルを 「見える化」 する

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第5回放送-プレゼンは「つかみ」と「ストーリー」、そして限られた時間でアイデアをカタチにする

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第6回放送-創造性はだれでも、どんな環境でも、発揮することができる!

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第7回放送-シリコンバレーで働く 4人のゲストに聞く、創造性にまつわる 7つの質問




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2011年6月13日月曜日

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第7回放送-シリコンバレーで働く 4人のゲストに聞く、創造性にまつわる 7つの質問


 NHK・Eテレの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。

 すでに授業は第7回目、いよいよ最終回の全8回の授業までのこり1回となってしまいました。

 まずはいつもどおり、ウォームアップから。今回のウォームアップはメンバーを 2つのチームをわけて、2分間でチーム名をきめてダンスの振り付けまで考えるというもの。このチームがそのまま、今回の授業ではそのまま対抗戦のチームとなります。

 カラダを動かして肩のチカラを抜いていく。しかも今回はダンスですから、カラダのほぐれかたも違いますね。アタマの回転と柔軟性はスタンバイ。

 今回(6月12日)のテーマは「あこがれの起業家に学ぶ」。公式サイトの説明は以下のとおりです。

 実際の企業の中で、創造性はどう発揮されているのか。今回は、フェイスブックの若手リーダーやスマートフォンの原型を提案した起業家などビジネスの第一線で活躍している 4人のゲストを招き、クイズ形式でそれぞれの企業の創造性の秘密を探り出していきます。
採用面接で創造性をどう見抜くのか、創造性を高めるためのチームの編成方法、空間の使い方の工夫、アイデアを出すための時間は仕事の何パーセントか、アイデアを実行する決定権は誰にあるのかなどさまざまな設問を通して、学生たちはクリエイテイブな企業文化を創るには多様なアプローチがあることを学びます。 


 今回の授業は、パネル形式で4人のゲストに、シーリグ教授がモデレーターとして質問し、その解答がホントかウソかを学生のチームに判定させて勝敗を競わせるというゲーム形式

 ゲストスピーカーを読んでスピーチをしてもらい、その後の質疑応答をつうじてディスカッションするという形式は、米国だけでなく日本でも行われますが、質疑応答のセッションそのものをゲームにしてしまうというのは、じつにクリエイティブな授業になっていますね。

 今回招かれたゲストは以下の4人です。

ジェフ・ジョーキンス
 スマートフォンの原型を開発
 1992年パーム社(Palm)を設立
 情報携帯端末(PDA)を開発
 脳神経科学に基づくソフトウェア開発も

ドナ・ノビツキー
 会社立ち上げのスペシャリスト
 ウェブ制作会社の CEO などを歴任
 ベンチャーキャピタル(VC)の経験から16社以上の起業にたずさわる

ジュリー・ズー
 「いいね!」ボタンをつくった人
 2006年スタンフォード大学卒業(シーリグ教授の授業を受講)、フェイスブック入社
 現在はプロダクトデザイン・マネージャー

ブレンダン・ボイル
 150以上のオモチャを発明
 世界に支社をもつデザイン会社 IDEO社オモチャ部門リーダー

 起業家が二人(うちひとりはベンチャー・キャピタリスト)、デザイン関係者が二人と、面白い組み合わせになってます。こういう人たちを授業に呼べるのも、スタンフォード大学が立地するシリコンバレーならではですね。

 起業クイズのルールは以下のとおりです。

●ゲストはほんとうのことを答えるかどうかわからない
●ウソかホントかを見抜けたら1ポイント、間違えたら相手チームに1ポイント

 学生チームに質問を考えさせてでてきた質問とあわせて、シーリグ教授がモデレーターとなって7つの質問をし、質問のそれぞれにゲストの4人がひとりづつ解答をするという形です。ゲストは赤いソファに腰掛けてリラックスした状態で質問に答えます。

 ゲストに対する質問を列挙しておきましょう。

(Q1)面接で創造性をどう見抜く
(Q2)創造性を高めるチームの変成方法は?
(Q3)創造性を高めるためのオフィス空間の工夫は?
(Q4)アイデア出しに使う時間は仕事の何%?
(Q5)アイデアを実行する決定権は誰に?
(Q6)アイデアを出すための道具やシステムは?
(Q7)クリエイティブな空間は誰がつくっている?

 ゲストはそれぞれ、ウソかホントかわからないが、いかにもありそうなもっともらしい話をしていましたね。学生たちは真剣に考えてましたが、そのそも世の中のすべてはウソかホントか完全に班別できないもの。当事者以外は知らないのは当然といえば当然ですね。

 詳細は省略しますが、最後にシーリグ教授によって、本日のゲストからの「学び」がまとめられていたので、ゲストごとに列挙しておきましょう。今度の順番はソファに座った、こちらからみて左側から。

ジェリー・ズー(フェイスブック)

●大きな組織は「クリエイティブ」という尺度だけで人は管理できない
●膨大な数のユーザーに向けて製品の品質を検証する人たちの比重が大きい
●創造性のある会社の雰囲気づくりは採用から始まる


ジェフ・ホーキンス(2社のIPOを実現後、現在は3社目を立ち上げ中)

●自分のつかっているものの不満点を徹底的に洗い出す
●どんなに悪い製品でも必ず一つは学ぶべき点がある


ドナ・ノビツキー(ベンチャー・キャピタリスト)

●メンバーが刺激を受けるようなユニークな会議のあり方を提案する
●チーム編成のときにはなるべくセクションのちがう人を組み合わせる


ブレンダン・ボイル(IDEO社おもちゃ部門リーダー)

●チーム編成は「熱意」だけではできない
●100%クリエイティブはありえない。売ることも重要
●クリエイティブなアイデアの選択には多数決は効果的でない場合もある

 ジェリー・ズー(フェイスブック)の発言については、フェイスブックも映画『ソーシャルネットワーク』の立ち上げ期ははるか昔の話、現在ではインド、中国の人口についで多い5億人のユーザーにむけて、3,000人超の社員が働いている大組織となっているわけですね。

 ジェフ・ホーキンス(2社のIPOを実現後、現在は3社目を立ち上げ中)の発言については、エンジニアとして製品開発にかかわってきただけに、説得力がありますね。

 ドナ・ノビツキー(ベンチャー・キャピタリスト)は、自らも起業体験をもっているベンチャー・キャピタリストならではの発言。

 ブレンダン・ボイル(IDEO社おもちゃ部門リーダー)の発言については、デザインの重要性は日本企業ももっと意識すべきしょう。企業活動におけるクリエイティブはアートではないとはいえ、ある種の直観も必要ということですね。

 ゲストの発言のまとめとそれに対するあたさいの感想を書いてみましたが、まあそんなものかという感想もあるかもしれませんね。ただ、教訓というものは、あくまでも実際に取り組んでいるプロセスのなかではじめて納得できることですし、実際に試行錯誤してみないと体感できないことでも多々あることでしょう。

 学生のあいだにこういう話を聞いておくと、実際に働き出してから、かならず思い出すものですね。そのときにはじめて、ゲストの言っていたことはこうだたのか、教授の言っていたことはそういうことだったのかとわかったりするものです。

 何ごとも実際にやってみないと、ほんとうのことはわかりません。

  ............................................................
 
 いよいよ、次回の全8回の授業は最終回。学生たちの「最終課題」のプレゼンテーションが楽しみですね!

5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「30分で新製品を作る」
6月4日(日)第6回 「トランプで創造性を学ぶ」
6月12日(日)第7回 「あこがれの起業家に学ぶ」
6月19日(日)第8回 「コーヒーの「新しい飲み方」を考える」

 学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組です。最終回もお見逃しなく!



<関連サイト>

「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)

自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)


<関連情報>

 ゲストの一人が在籍している IDEO社はシリコンバレーのどまんなか、スタンフォード大学が立地するパロアルト市を本拠地とするデザイン会社です。トム・ピーターズも惚れ込んでいるイノベーティブな会社。

 『発想する会社!-世界最高のデザイン・ファーム IDEO に学ぶイノベーションの技法』(トム・ケリー / ジョナサン・リットマン、鈴木主税/秀岡尚子訳、早川書房、2002)は、創業経営者がみずから書いたプロダクト・デザインに重点をおいたイノベーションの教科書。日本でもロングセラーです。

目 次

はじめに-トム・ピーターズ
第1章 イノベーションの頂点
第2章 草創期の翼で飛びつづける
第3章 イノベーションは見ることから始まる
第4章 究極のブレインストーミング
第5章 クールな企業にはホットなグループが必要だ
第6章 プロトタイプ製作はイノベーションへの近道
第7章 温室をつくろう
第8章 予想外のことを予想する
第9章 バリアを飛び越える
第10章 楽しい経験をつくりだす
第11章 時速100キロのイノベーション
第12章 枠をはみだして色を塗る
第13章 「ウェットナップ」インタフェースを探して
第14章 未来を生きる
第15章 完璧なスイングを身につける
謝辞

 IDEO社は、シーリグ教授が「スタンフォード白熱授業」で強調してきた、ブレーンストーミングや試作品(プロトタイプ)つくりをすべて実現している会社です。
 カラー写真が満載の、見て読んで楽しい本です。デザイン思考とイノベーションを学ぶためにぜひお薦めします。





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NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 全8回 が始まりました

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第2回放送-「問題解決」の前に「問題発見」! 急がば回れ!

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第3回放送-「ブレインストーミングには悪いアイデアはない!」

NHK・ETV 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第4回放送- 「6色ハット」 は個人レベルの思考パターンと仕事スタイルを 「見える化」 する

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第5回放送-プレゼンは「つかみ」と「ストーリー」、そして限られた時間でアイデアをカタチにする

NHK・Eテレ 「スタンフォード白熱教室」(ティナ・シーリグ教授) 第6回放送-創造性はだれでも、どんな環境でも、発揮することができる!

Facebook Principle (フェイスブックの原則) を MVV (ミッション・ビジョン・バリュー) の観点からみてみよう




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2011年4月30日土曜日

NHKのアニメ 『もしドラ』 の第5回放送(4月29日)のおさらい-イノベーションという仮説はデータで検証する


 昨夜、NHKのアニメ「もしドラ」の第5回放送みましたか?

 さて、昨日(4月29日)の放送は、「みなみは過去の高校野球を捨てた」というタイトル。

 第2回と第3回の「おさらい」に書きましたが、ドラッカー経営学のエッセンスは顧客創造、そのための二本柱がマーケティングとイノベーションです。

 今回は、その 2本目の柱であるイノベーションを実地に応用するして実験してみるドラマが開始されたわけですね。

 監督が導入した「新機軸」は 「ノーバント、ノーボール作戦」。攻撃に際しては点を取るための常識であったバントはいっさいしない。守備に際してはピッチャーはストライクしか投げないという、常識やぶりの「戦略」です。

 野球についてある程度知っていればわかると思いますが、つまるところ「打たせて取る」戦術ということですね。

 そのココロは、ピッチャーの投球数をミニマム(最小)にするということ。夏の炎天下でもっとも疲弊するのがピッチャー。そのピッチャーの疲労からくる肉体的、精神的な負担をミニマムにするために、一試合の投球数を100球以内に抑える。

 これは、日本の野球よりも、アメリカのベースボールでは常識となっている考えです。大リーグでは、ピッッチャーには一試合を最後まで投げさせずに、かならず交代させますが、これはきわめて理にかなったことなのです。

 しかし、この戦術を実行するには条件があります。

 守備がしっかりしていないといけない。これは経済学でいう「トレードオフ」の関係でもありますね。あっち立てれば、こっち立たず。打たれたら取らなくてはならない。

 ピッチャー一人に依存せず、全員がそれぞれのポジションで積極的に責任を果たす。これは、日本の政治家もよく使う表現でいえば、「全員野球」ということになるでしょう。ピッチャーとキャッチャー以外の野手も、控えの選手もすべてがチームの一員として、果たすべき役割を果たすのがチームメンバーが全員参加する「全員野球」

 さて、大学生との練習試合で実験することにした監督は、いったん打ち出した戦術を最初から最後まで変更しませんが、それはなぜでしょう?

 ブレない姿勢で臨んだのは、選手を動揺させないという精神的意味もあったでしょうが、監督の目的があたらしい戦術という「仮説」を、実地で「検証」することにあったからですね。そのプロセスのなかで、実験結果は、スコアブックに記入されたデータのなかに如実にあらわれてくる。

 試合には負けても、「仮説検証」という目的は十分に実現できたわけですね。仮説検証はかならずデータと実際をつき合わせて行う。数字で考えることの重要性。


 また、主人公みなみの役割についても重要なシーンがありました。

 それは、プレイイング・マネージャーという立ち位置ではないみなみが果たしている役割について。

 変化をもたらしたが変化の主体ではない。しかし、変化を起こす触媒(カタリスト)として機能しているという「気づき」です。

 これはまさに「社内コンサルタント」の重要な機能です。この機能をもつ存在は、きわめて重要な存在です。命令系統のなかにいなくても、組織に変化を起こすことはできる。

 「触媒」というコトバは使ってませんが、このことに気がついたことは、本人にとっても、チーム全体にとっても、大きな収穫であったといえるでしょう。

 この物語の最初からあった「ネジレ」が、ようやく意味のあるものであることがわかってきました。


 さて、次回(5月2日)の放送では、「みなみは戦略と現状について考えた」というタイトルでストーリーが進行していきます。

 来週月曜日もまた楽しみですね。






<関連サイト>

『もしドラ』(NHKアニメワールド)


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NHKのアニメ 『もしドラ』 の第4回放送(4月28日)のおさらい-イノベーションとはあたらしい価値をもたらす変化のこと


レビュー 『これを見ればドラッカーが60分で分かるDVD』(アップリンク、2010)

書評 『知の巨人ドラッカー自伝』(ピーター・F.ドラッカー、牧野 洋訳・解説、日経ビジネス人文庫、2009 単行本初版 2005)




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2011年4月29日金曜日

NHKのアニメ 『もしドラ』 の第4回放送(4月28日)のおさらい-イノベーションとはあたらしい価値をもたらす変化のこと


 昨夜、NHKのアニメ「もしドラ」の第4回放送みましたか?

 さて、昨日(4月28日)の放送は、「みなみはイノベーションに取り組んだ」というタイトル。

 第2回と第3回の「おさらい」に書きましたが、ドラッカー経営学のエッセンスは顧客創造、そのための二本柱がマーケティングとイノベーションです。

 今回は、その 2本目の柱であるイノベーションについてドラマが展開し始めたわけですね。

 イノベーションというと、経済学者シュンペーターを思い出しますが、ドラッカーはマネジメントの観点からイノベーションについて一冊の本にまとめています。

 『イノベーションと起業家精神 上下-その原理と方法-』(上田惇生訳、ダイヤモンド社、1997)という本です。日本のビジネス界では、イノベーションとは「技術開発」を指していることが多いのですが、ドラッカーはこのように言っています。

イノベーションは技術に限ったものではない。モノである必要さえない。それどころか、社会に与える影響力において、新聞や保険をはじめとする社会的イノベーションに匹敵するイノベーションはない。(上巻 P.46)

 このように述べたあと、ドラッカーは明治以降の近代日本を社会的イノベーションの格好の事例だとして2ページ以上を費やして説明しています。興味のある人は直接読んでみるといいでしょう。



 イノベーションは、より大きな価値、新たな価値や行動を生み出し、市場や社会に変化を与えるものである。このように捉えると、とくにビジネスの世界に限定して考える必要がないことがわかります。

 さて、昨日の放送では、野球部の練習方法に導入されたイノベーションから、高校野球界全体を変革するようなイノベーションの話までふくれあがりました。ビジネスでいえば業界全体に該当しますね。

 練習方法にかんしては、みなみがかかわることになった、陸上部や柔道部など、野球部以外の部活にとって「価値を提供」することをつうじて「巻き込み」、お互いにとって相乗効果(シナジー)をもたらすということがなされることになりました。

 高校野球界全体をにイノベーションをもたらすとは、具体的な例でいえば、かつて徳島県立池田高校と取手二高があげられていましたが、いずれも従来の、スパルタ野球の常識を打ち破る考えを導入したことで、弱小チームを甲子園に出場させただけでなく優勝までもたらしました。

 この2つの高校が導入した「新機軸」は、その後の高校野球の世界を一大変化させたのですね。その「新機軸」こそがイノベーションです。

 ここでまた、『イノベーションと起業家精神』から引用を行っておきましょう。

イノベーションとは、意識的かつ組織的に変化を探すことである。それらの変化が提供する経済的、社会的イノベーションの機会を体系的に分析することである。(上巻 P.51)


 本日(4月28日)の放送では、「みなみは過去の高校野球を捨てた」というタイトルでストーリーが進行していきます。

 さて、どのようなイノベーションが野球部に導入されることになるのでしょうか? 楽しみですね。







<関連サイト>

『もしドラ』(NHKアニメワールド)


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