『人材は「不良社員」からさがせ-奇跡を生む「燃える集団」の秘密-』(天外伺朗、講談社+α文庫、2011)が再刊されました。
初版が刊行されたのは 1988年ですから、いまからなんと 23年前になります。
メインタイトルは同じですが、2011年版のサブタイトルは「奇跡を生む「燃える集団」の秘密」。23年前の初版では「画期的プロジェクト成功の奥義」。
正式には、初版のタイトルは、『人材は「不良(ハミダシ)社員」からさがせ-画期的プロジェクト成功の奥義-』(ブルーバックス、1988)です。
天外伺朗(てんげ・しろう)は、じつはソニーの上席常務までつとめた土井利忠氏のペンネームです。天外伺朗というペンネームでは、「気」や、オカルトめいた内容の本が出版されてますが、今回の再刊では、天外伺朗名義となっています。
本書に登場する D博士とは誰か(?)というのは出版当時話題になりましたが、言うまでもなく土井博士のことですね。
かつて、勤務先の金融系コンサルティングファームの会員向け情報誌に書いた「書評」がありますので採録しておきたいと思います。
本の内容は「画期的」なものでしたが、中身は 23年前と「劇的に」変化しているわけではありません。
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『人材は「不良(ハミダシ)社員」から探せ』
何とも過激なタイトルである。中身はタイトルにもまして過激だ。ただ、これぐらいでないと本書のメインテーマである「画期的プロジェクトの成功」など考えないほうがよいのかもしれない。そういう意味では非常に厳しい内容の本である。
本書は、画期的プロジェクト(本書では基本的にメーカーの技術開発を念頭に置いている)成功の条件を様々な側面から浮かび上がらせようとした試みであり、D博士(知る人ぞ知る)の聞き書きという形をとっている。D博士の語り口は実に熱っぽい。
D博士は数々の画期的プロジェクト(CDプレーヤー、ワークステーションその他)を成功させてきた歴戦のツワモノである。組織内での研究開発のあり方、特にプロジェクーを失敗させる要因についての発言は、数々の体験に基づいたものであるだけに、きわめて手厳しいものがある。
まず「失敗要件」を要約してみよう。
① 協調精神、② 「良い子」の存在、③ サロン化、④ 不明瞭な雰囲気、⑤ 船頭が多すぎる、⑥ マネジャーが邪魔をする、⑦ 上を向いて仕事をしている。
組織風土としては良く見えるものも、実はプロジェクー遂行の上で阻害要因となっている場合があることが分かる。
次に「成功要件」を見てみよう。ただし、これらはあくまでプロジェクト成功の必要条件であって、これをやればうまくいくという意味での十分条件ではない。
まず、個人的な条件として必要なのは、① プロのセンス、② 戦略眼、③ 強力な推進力・達成意欲、④ 感激する心、⑤ 頭の柔らかさ、⑥ 好奇心、⑦ 茶目っけ、⑧ 行動力、⑨ 問題提示能力、⑩ 問題(とくにトラブル)解決能力、⑪ その分野の専門知識、⑫ 向上意欲・積極性である。
そして、プロジェクーを遂行するチームにとっての必要条件は、次のとおりだ。
① 目標は単純明快、センスが良く画期的で、ユニークであり、短期間で達成可能なこと。
② 人材たちの魂の底からほとばしる目標であり(高い志)、成功の直感がすること。
③ 一定レベル以上の人間集団(感受性、心の広さ、頭の柔らかさ、感激する心、好奇心、積極性、戦略の理解力)であること。
④ リーダーとフォロワーがはっきりしており感情的な抗争がない。また、専門が適度に分散している。
⑤ チームとして自律的に動ける。
⑥ 全体のムードは、ほどよく楽観的、ほどよく過激。力んでおらず、目がつりあがっていない。
⑦ 大問題が発生しても、ビックりしたりあわてたりしない。着実に解決策を出す。
このように列挙してみると、すぐにでもできるような気もしてくるが、これがなかなか難しいことはプロジェクー経験(技術開発に限らない)のある方ならお分かりのことと思う。また、たとえ成功条件をクリアしたとしてもあらゆる方向(特に内部)から邪魔が入ってくる。第14章で D博士自身がいうように、「‥‥だから(画期的プロジェクトは)あまり人には勧められないのですヨ。だいたいはうまくいかないケースが多いですからナ。徒労が多く、消耗するのがオチです。もし、うまくいきそうになったとしても確実に背後から鉄砲で撃たれる」 のである。
結局、次のような人間がリーダーとして存在することが不可欠なのだ。「・・画期的なプロジェクーを遂行するということは大変な闘いなんです。これを闘いと認識して闘いを楽しめる人には、すぼらしい喜びを提供するでしょう・・」
自ら「不良社員」であることをもって任ずる社具のみならず(たんなる不良社員なら内容の厳しさにへキエキするだろう)、経営者・管理者のいずれもが読むべき本であると評者は確信する。
新書版で200ページのボリュームだから、通勤電車の中で読める。だが、あくまでも「成功の奥義」の解説書であって、ハウツー物ではない。読み捨てにできない本である。
(K・サトウ)
(出典)『長銀総研エル』1988年12月号
23年前(!)に、わたしが書いた文章ですが、とくに付け加えることはありません。この時点では、まだイヌ型ロボットの AIBO はまだ市場には登場していませんでした。
このたびの文庫版では、活字も大きくなって 240ページになっていますが、この本は面白いのでぜひ読むことをお奨めしたいと思います。
新版のまえがきで、著者は本書の内容がチクセントミハーイのフロー概念や、内発的動機理論にも合致したものであることを語っています。
本書は、著者が40歳代の、まさに油に乗っているときに、現役の開発責任者として書かれたものだけに説得力があるのです。
そうじゃなくても就活事情が悪化して萎縮してしまいがちな日本と日本人ですが、型破りのブレークスルーの製品開発には、いまな亡きスティーブ・ジョブズとまではいかなくても「不良社員」が不可欠。
道をはずれることを恐れず、回り道することを恐れず、「不良社員」を大いに活用したいものですね。かつてのソニーのように、大きな度量をもって。
目 次
D博士は酩酊して…(舞台は1987年、東京)
人材が「不良社員」になる理由
良い子シンドローム
人材は修羅場で育つ
人材のセンス
技術開発を支えた人材たち
燃える集団
チームづくり
マネージャーは鳥になれ!
人材の魂の底からほとばしり出る目標
20年前のソニーではみなこうやっていた!
上を向いて仕事をするな!
戦略は行動のスピードから生まれる
著者プロフィール
天外伺朗(てんげ・しろう 本名:土井利忠)
1942年、兵庫県生まれ。元ソニー上席常務。工学博士。1964年、東京工業大学電子工学科卒。ソニーに42年間勤務。その間、CD、ワークステーションNEWS、犬型ロボットAIBOなどの開発を主導した。現在は病院に代わる「ホロトロピック・センター」の設立推進などの医療改革や、企業経営者のための「天外塾」なども開いて経営改革に取り組むほか、教育改革へも手を拡げている。著書には『マネジメント革命』(講談社+α文庫)、『経営者の運力』『非常識経営の夜明け』( 以上、講談社)、『GNHへ』(ビジネス社)、『心の時代を読み解く』(飛鳥新社)、『般若心経の科学』(祥伝社黄金文庫)、『宇宙の根っこにつながる生き方』(サンマーク文庫)など多数(amazonより転載)
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(2014年8月27日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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