NHK・ETVの「スタンフォード白熱教室」。ティナ・シーリグ教授の「起業家育成コースの集中講座」(Stanford Technology Ventures Program)。まさに、シリコンバレーのテクノロジー・ベンチャーのゆりかごであるスタンフォードらしい授業ですね。
ウォームアップによるチームビルディングそのものが米国流。肩のチカラを抜いてカラダをほぐし、アタマの回転と柔軟性を確保することから始まります。
5月8日(日)の第2回放送は「名札をめぐる冒険」。公式サイトの説明は以下のとおりです。
思考の枠組みを再設定する訓練を行います。まず、身の回りのあらゆるもので、ここが不便だ、ここがこうなったらいいのにという改善の余地があるものを挙げ、それをどうすれば実現出来るかを考えてみます。
その演習として、「名札」の改善を行います。「名札」をもっと良く出来ないか? 学生たちが、新しい形の名札を考えてみます。一歩進んで、名札はそもそも何のためにあるか。要するに自己紹介ツールです。となると、別に名札は札とクリップである必要はなくて、全く別のデバイスで置き換えられるのでは? 斬新なアイデアが飛び出します。
第2回放送で、「起業家育成コース」らしさが一気に高まってきました。さすが、工学系が中心の総合大学、アメリカ流の「実学」に学ぶものは多い!
課題を5つ行う演習も方法論として興味深いものがあります。
二人一組になって、「開発者」と「顧客」の役割をお互い演じる。第1回放送で習った問題整理の手法をつかって、紙のうえで「一人ブレーンストーミング」を行ったうえで、アイデアを具体的なカタチにするために、教室に用意された材料をつかって「試作品」をつくってみる。その際に、技術的な制約はいっさい考慮に入れない。
見ていると、「マインドマップ」も日本に紹介されているものとは違って、お絵かきにはなっていませんね。非常にシンプルな思考整理の技法として使われていることがわかります。これは映像ならではの発見。
このプロセスで重要なのは、「問題の定義」。そもそも何が問題なのか、表面上の問題にとらわれずに、この段階を深掘りしておかないと、ピントはずれの解決策がでてしまうわけです。非常に重要なポイント!
わたしなら、「問題発見」と「問題特定化」という表現を使いたいところです。
とかく「問題解決」ばかりが重視されがちなのは日本だけではないようです。「問題解決」の前に「問題発見」ということ。「急がば回れ!」ということでしょうか。
学生たちに課題をあたえて、カラダを使ってモノをつくらせるという演習のあと、レクチャーでポイントを解説する授業のすすめかたは、きわめてプラクティカルで、アタマにすっと入ってきます。
なんといっても、自分で考えて試行錯誤する経験を経たあとは、何が重要なのか理解しやすいものですね。
「設計のプロセス」として、「Emphathize」(共感)-「Define」(定義)-「Ideate」(考察)-「Prototype」(試作)-「Test」(検証)のサイクルが重要であることが説明されました。
「Prototype」(試作)-「Test」(検証)あたりは、PDCA の Do ⇒ Check ⇒ Action と基本的に」同じ流れですね。「Prototype」(試作)⇔「Test」(検証)は、フィードバックのプロセスと捉えるべきですね。
シーリグ教授が面白いことを指摘していました。「試作品」に時間とカネをかけすぎないこと! 試作段階で完成品を求めないこと! 思い入れを入れすぎないこと! 企業でよくみられる問題だというのは、耳の痛い指摘かもしれません。
要は試作段階では、顧客の対話をつうじてフィードバックを働かせるということが重要。顧客との対話をつうじて問題を発見し、問題を定義することからすべてがはじまるわけです。
問題発見(=問題の定義)からはじまる、アイデアを形にするための授業、きわめて実践的でしす。
学びも多いが、集中力も要求される中身のきわめて濃い授業。これほど濃い 1時間もないのでは? そんな感想をもつ番組ですね。
放送予定は以下のとおりです。
5月1日(日) 第1回 「ブレーンストーミングで可能性を探れ!」
5月8日(日)第2回 「名札をめぐる冒険」
5月15日(日)第3回 「最悪の家族旅行を考える」
5月22日(日)第4回 「6つの考える帽子」
5月29日(日)第5回 「プレゼンはアートだ」
6月5日 (日)第6回 「パズルのピースが足りないとき」
6月12日(日)第7回 「真っ赤なウソを見破る」
6月19日(日)第8回 「新しいコーヒー体験」
毎週日曜日の午後6時が楽しみですね!
<関連サイト>
「スタンフォード白熱教室」番組概要(NHK)
自分で自分を社長にする(Tina Seelig:ティナ・シーリグ)(YouTube 映像)
PDCA (きょうのコトバ)
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