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2011年12月14日水曜日

アムンセンが南極に到達してから100年-西堀榮三郎博士が説くアムンセンとスコットの運命を分けたチームワークとリーダーシップの違い


 本日(2011年12月14日は)、ノルウェーの探検家アムンセンが人類史上はじめて南極点に到達した日から100年にあたります。 
    
 そのアムンセンといえば必ず引き合いに出されるのが英国人のスコット海軍大佐。先陣争いを演じた宿命のライバルでしたが、スコットはアムンセンに一ヶ月遅れをとっただけでなく、南極点に到達した帰途に全員が凍死するという悲劇の主人公にもなりました。

 アムンセンとスコットの二人を比較したらチームワークの点でもリーダーシップの点でも、アムンセンは成功するべく成功し、スコットは失敗するべく失敗したと断じているのが、日本初の南極越冬隊長を務めた西堀榮三郎博士です。

 1957年に実行された、初代の南極越冬隊の隊長をつとめあげた西堀博士だけに、おなじく南極点の探検を行った先行者であるアムンセンとスコットのリーダーシップについての見方はきわめて的確であるというべきでしょう。

 しかも、西堀博士は統計的品質管理の専門家でもあっただけに、QCサークルという小集団活動にも通じており、チームワークについて述べているところにはきわめて説得力があるといってよいでしょう。

 西堀榮三郎の解説する「未知の世界を手探りで進むプロジェクトを成功させるチームのリーダーシップの極意」といった文章の要点をかいつまんで述べると以下のようになります。

運と不運を分けるのは、ほんのちょっとした分岐点の決断である
●アムンセン隊とスコット隊の運命を分けることになった隊長の決断の背景には、隊長自身の性格と過去の経験の差がある
●まず最初に「情熱の差」。アムンセンが少年の頃から極地探検家になることを夢見て必要となる準備を進めてきたのに対し、スコットの極地探検は、いわばマーカム卿によりお膳立てされていたものであった。このことから、南極行きを志した時点で既に両者の間に「心構え」の差ができていた
●「よく人はリーダーの素質は生まれながらのものであるというが、けっしてそれだけではなく、目的に向かっての日常のたゆまない努力がリーダーとしての性格をつくりあげる
●両隊長の性格の違いがもっともよく表れているのは隊の「運営の仕方」である
●両隊の運命を分けた運営の差が「隊長のリーダーシップ」にあり、それが「隊全体の士気」につながった
●隊の運命は隊長だけで決まるものではなく、隊長を含めた全隊員の一挙手一投足が小さな分岐点で運命を左右して決まる
●そのため、隊長は運営のうえで、つねに隊員をして打てば響くような、そして「細心の注意」を払って事に当たれるような教育を普段からしておかなければならない。その点で、スコット隊の敗北はスコット隊長に全責任があった
アムンセンは隊員の自主性を尊重するチームワークで運営したことに対し、スコットの場合は、自分が海軍軍人であったこともあり、階級制度による上意下達的な隊の運営が隊員の士気にも影響し、細心の注意を払うことができなかった
●アムンセンの場合は、たとえば雪めがねといった装備品の改良に際して、隊員の提案を募集するなどし、隊員全員が参画意識を持って自主的に一つの目的に向かえるよう配慮した
「すべての隊員が自主的に仕事をやるようになれば、隊長がいちいち指示しなくても隊は動く。全員が参画精神をもってひとつの目的に向かったとき、すばらしい力を発揮することができる」
●アムンセンはチームリーダーとして、こうした人間の心理をよくつかみ、それを隊の運営に活かしていた
●スコットは「あわて者の誤り」を計画段階で犯しており、万事が中途半端であった
●アムンセンは、リーダー自らがつねに「平常心」をもって決断し行動できるよう「行ってみて、無理ならば引き返せばいい」というような「楽観的態度」を心がけていた
●スコットの場合は、極点到達がアムンセンに先を越されたときに「極点、・・・神よ、ここは恐ろしい土地だ」と日記に書き記し、帰途の不安をのぞかせている。リーダーが少しでも顔に不安をのぞかせたことが影響し、全員の不安と恐れが行動の判断を狂わせ、全員死亡という最悪の結果を招いた
アムンセン隊の行動を見ていると、全員が「平常心」をもって一丸となり、極点到達という目的のもとに嬉々として行動していた様子がうかがわれる

 詳しくは、西堀博士の文章や言行録をまとめた『技士道一五ヵ条-ものづくりを極める-』(西堀榮三郎、清澤達夫=構成、朝日文庫、2008、初版単行本タイトル『想像力』1990)の「第5章 組織を考える」の「アムンセンとスコットのリーダーシップ」(P.269~280)をご覧いただきたいと思います。

 もともとは、『アムンセンとスコット-南極点への到達に賭ける-』(本多勝一、教育社、1986)の解説として執筆されたものです。ジャーナリストの本多勝一氏もまた、京大山岳部のOBで、西堀博士の後輩にあたる人でした。

 アムンセンの南極点到達をビジネスの世界にあてはめて考えれば、未知の領域を切り開いたプロジェクトであったと言うこともできるでしょう。

未来に何が起こるかは誰も分からない。ましてや神でもない人間のリーダーに分かるわけがない。けれども未来がわからないといって、リーダーが少しでも不安顔をすれば隊員の不安をますますつのらせることになる。(P.277)

 また西堀博士は、別の箇所ではこのようにも言っています。

未来というものは論理的背景がないものだとしかいいようがない。直感的な、主観的な、独断的な判断でしか考えられないのではないだろうかと思われてくる。(P.287)

 まさに実践の裏付けをもって語られたコトバですね。アムンセンの南極点到達の成功は、未知の領域を開発するプロジェクトを率いるリーダーやメンバーがよく知っておきたい重要な事例であると言うべきでしょう。




<参考文献>


『技士道一五ヵ条-ものづくりを極める-』(西堀榮三郎、清澤達夫=構成、朝日文庫、2008、初版単行本タイトル『想像力』1990)

目 次

まえがき
技士道一五ヵ条 
第1章 自然を考える
 自然に学ぶ
 私の自然観
 未知の大陸
 体験から学ぶ
第2章 技術を考える
 科学と技術
 技術の功罪
 技術のあるべき姿
 技術を志す
第3章 品質を考える
 事実からの出発
 品質管理とは何か
 統計的品質管理の方法
 日本的品質管理
第4章 創造性を考える
 創造の現場
 創造の芽を伸ばす
 研究開発の進め方
 創造性が未来をつくる
第5章 組織を考える
 個人を活かして組織が生きる
 組織を運営する
 真のチームワークとは
 優れたリーダーシップとは

第6章 技術を極める
 日本の進むべき道
 企業のあり方、技術者のあり方
 未来に向けて


著者プロフィール

西堀榮三郎(にしぼり・えいざぶろう)

1903年京都市生まれ。理学博士。京都大学理学部卒業。京都大学講師・助教授を経て、1936年東京電気(現・東芝)入社。1949年退社し、統計的品質管理の普及に努める。1954年デミング賞受賞。1957年第一次南極観測越冬隊長として越冬。以後、日本原子力研究所理事、日本原子力船開発事業団理事、日本生産本部理事など歴任。1973年ヤルン・カン遠征隊隊長、1980年チョモランマ登山隊総隊長を務めるなど、登山家、探検家としても知られる。1989年死去、享年86歳(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。






<関連サイト>

Ben Saunders: To the South Pole and back — the hardest 105 days of my life (TED TALK Filmed March 2014 at TED 2014)
・・二人でみずからソリをひいて南極点まで到達した1977年生まれの英国人冒険家の語り(This year, explorer Ben Saunders attempted his most ambitious trek yet. He set out to complete Captain Robert Falcon Scott’s failed 1912 polar expedition — a four-month, 1,800-mile round trip journey from the edge of Antarctica to the South Pole and back. In the first talk given after his adventure, just five weeks after his return, Saunders offers a raw, honest look at this “hubris”-tinged mission that brought him to the most difficult decision of his life.)

(2015年7月8日 項目新設)



<ブログ内関連記事>

映画 『加藤隼戦闘隊』(1944年)にみる現場リーダーとチームワーク、そして糸川英夫博士
・・「必ず勝つの信念と 死なば共にと団結の 心で握る操縦桿」!

南極観測船しらせ(現在は SHIRASE 5002 船橋港)に乗船-社会貢献としてのただしいカネの使い方とは?

コロンビア大学ビジネススクールの心理学者シーナ・アイエンガー教授の「白熱教室」(NHK・Eテレ)が始まりました

映画 『コン・ティキ』(2012年 ノルウェー他)をみてきた-ヴァイキングの末裔たちの海洋学術探検から得ることのできる教訓はじつに多い

(2014年2月24日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)










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