いよいよ NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』も今年が三年目で完結編。昨日の放送で、ついに旅順の 二〇三高地を陥落させることに成功しました。ドラマはいよいよ佳境に入っていくことになります。
二〇三高地は、英語でいえば Commanding Heights(コマンディング・ハイツ)です。あえて日本語に訳せば「戦略的要衝」ということになるでしょう。ひらたくいえば、周囲をすべて見渡すことのできる高台のことです。その高台から指揮をとることによって、敵の制圧を容易にする場所のことです。
コマンディング・ハイツ(戦略的要衝)で実現するのは、文字通りの「上から目線」。これは実際に高い所に登ってみるに限ります。この写真のネコも人間の目線より上に位置しようとしています。上から目線で見下ろすためですね。
いまから 10年以上前のことになりますが、1999年に旧満州の大連を訪れた際、ついでに足を伸ばして「二〇三高地」のある旅順まで行ってみました。旧大和ホテルでタクシーをチャーターし、旅順まで往復してもらいました。
大連といえば南満州鉄道株式会社(=満鉄)の本社があった都市。大連はもともともと帝政ロシアが建設した都市で、ロシア語で極東を意味するダーリニー・ヴォストークが縮まって大連(ダーリヤン)となったものです。
旅順はロシア時代から軍港ですので、現在でも一般人は入ることができません。ただし、二〇三高地は観光地になっているので一般人も入ることができます。
昨日のドラマ『坂の上の雲』にも出てきましたが、二〇三高地の戦闘で息子二人を戦死させた乃木大将は、有名な漢詩作家でもあり、二〇三高地の爾霊山(に・れい・さん)の名を与えています。爾(なんじ)の霊の山という語呂合わせで、ここで倒れた日本人・ロシア人の霊を慰めるのが目的でした。乃木大将の筆になる爾霊山と記された塔はいまでも山頂に立っています。
二〇三高地に自らの足で立ってみて思ったのは、ここがまさに戦略的要衝であるということ。360度見渡せるのです。ここを奪取した者が戦争の帰趨を決するのだ、という厳然たる事実を実感したことです。
先にも書いたように、英語ではこういった戦略的な高地のことを commanding height(コマンディング・ハイツ)といいます。コマンドとは指揮することですから、まさに大将が指揮をとるべき戦略的要衝なのです。
それ以来、わたしは「戦略」というものを実感したかったら、二〇三高地に立ってみるといいと薦めてきました。
もちろん、中国の旅順までいかなくても、日本国内にもそういった山はあります。
日本最古の歌集『万葉集』には、巨大な前方後円墳で有名な仁徳天皇の御製が収録されています。
たかきやに のぼりて見れば
煙たつ 民のかまどは
にぎはひにけり
これは仁徳天皇御製です。世界最大の前方後円墳で有名な仁徳天皇が、高い丘に登って人里を見下ろしたら民衆のかまどから火が見えないほど困窮しているのを心配され、配下に命じて民衆生活の向上策をとるように命令されたのち、ふたたび同じ丘にのぼって人里を見下ろしたら、民衆のかまどからは火がのぼり、豊かな生活が実現していることに安心されたという伝説に基づくものです。
これは戦略家のみならず、組織のトップに立つ人にはじっくり味わっていただきたい歌ですね。いわゆる「大所高所に立つ」とは、文字通り高い場所に自ら移動することで得ることのできる「上から目線」のことを指しているのです。
上に立つと下まで360度に見ることができます。遠くまで見渡すことができます。つまり広い視野をもつことができるわけで、これをバーズアイともいいます。英語で言えば bird's eyes、つまり日本語で言う鳥瞰(ちょうかん)のことです。
しかしながら、「灯台もと暗し」という格言もあるように、すべてを視野に入れることの立場であるにもかかかわらず、いやであるからこそ、足元が見えない(!)という弊害も存在することを忘れてはいけません
別の表現を使えば、ズームインとズームアウトという言い方も可能でしょう。ズームイン(=寄り)することでディテールにこだわることはもちろん大事ですが、ときにはズームアウト(=引き)して全体を見ることも大事なのです。大将や参謀にとっては絶対不可欠な視点です。
とはいえ、下にいる人間は、上に立つ人間の一挙手一投足まで見ている、ということもまた忘れてはなりません。「上から目線」でも「下から目線」でもなく、「横から目線」が必要であるというべきでしょう。
ですが、人に上に立つリーダーや戦略家は「上から目線」に立つ必要もあり、そのためには物理的に高い場所に移動してみることも大事なのです。ズームアウトは物理的に実行することが可能なのです。
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