2011年1月17日月曜日
書評 『言葉にして伝える技術-ソムリエの表現力-』(田崎真也、祥伝社新書、2010)
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■ソムリエの説く「記憶術」と「言語技術」の本は、万人に役に立つ、思想をもった実用書だ■
レストランでお客様の要望に応じて、もっとも適したワインを選ぶ手助けをする専門職ソムリエ。
ソムリエは、なぜあれほど多くのワインの銘柄の味を香りを知っているのか、なぜ料理と予算にあわせて最適のワインを推奨することができるのか。
その秘密を世界最優秀ソムリエコンクールで優勝した本人が明らかにした本だ。
「調べたら分かります」とは絶対にクチにできない職業の一つがソムリエだ。お客様との一期一会の場で瞬時に、かつ的確に状況を判断し、趣味や予算や料理という条件のもと、シチュエーションにおいてもっとも的確な答えを、その場で導き出すことが求められる。
そのためには、数万種類に及ぶワインの銘柄と味を、自分で試飲したうえで、自分のアタマになかにたたき込み、お客様の要望を聞いた瞬間に、アタマのなかで高速回転でシミュレーションを行うことが必要になる。
ワインの味と香りという、感覚的な性質の強い分野では、ワインの特性を、自分の主観を大事にして、それをコトバにして記憶し、脳内にデータベースを構築しておくことが必要なのだ、そうすれば記憶も再生しやすいのだと著者は説く。ただし、お客様にも通じるコトバであることが重要だ。
著者はそのためには、なによりも五感を鍛えること、とくに嗅覚を研ぎ澄まして、匂いと香りに敏感になることの重要性を説いている。とかく視覚に頼りがちな現代日本人も、日常生活において嗅覚に敏感になるような生活習慣をみにつければ、コトバで表現するための基盤ができあがるのだという。
情緒的なコトバや、陳腐な決まり文句で料理の味を表現したと思い込んでいるTVのグルメリポーターたちへの違和感、こんな感想を一度でも抱いたことのある人はこの本を読んでみるといい。この本を読むと、自らの表現技術について反省する機会にもなる。
本書は、仕事と人生における「表現力」の本であり、また「記憶術」の本でもある。そしてなによりも「言語技術」の鍛錬について語っている本である。これらはみな、コミュニケーションの重要性がまずます増大している日本では必須のスキルであり、ソムリエの説く「言語技術」の本は、万人に役に立つ、思想をもった実用書になっている。
ロジックの国フランスでソムリエ修行した著者の説得力は強い。ぜひ一読を薦めたい。
(つづきは http://e-satoken.blogspot.com/2011/01/2010_17.html にて)