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2012年6月20日水曜日

書評 『ココ・シャネルの「ネットワーク戦略」』(西口敏宏、祥伝社黄金文庫、2011)-人脈の戦略的活用法をシャネルの生涯に学ぶ



人脈の戦略的活用法-「ネットワーク理論」で読むココ・シャネルの生涯

ファッション・ブランドの変革者ココ・シャネルの生涯をケーススタディの材料とし、豊富な図解をもちいながら「ネットワーク理論」をつかってやさしく一般向けに解説した文庫版書き下ろしです。

そのエッセンスは、以下のように要約できるでしょう。シャネル伝としては異色の一冊といえるでしょう。

人生で成功したければ、「近所づきあい」と「遠距離交際」のバランスをとれ、そして人間関係の「リワイヤリング」を意識的にやること。「大切なのは、知人、友人と戦略的につながることであり、お互いの信頼関係(ソーシャル・キャピタル)を深めること」(P.242)なのだ、と。

これだけだと、やや生硬な印象を受けますが、わかりやすく言い換えると以下のようになるでしょうか。

「人間関係のネットワーク」とは、一言で言ってしまえば「人脈」のことですが、著者はこれを「近所づきあい」と「遠距離交際」のふたつに分解しています。

「近所づきあい」とは文字通りの意味で、親兄弟や友人、隣近所や勤務先の組織などで日頃から顔を合わせている存在とのつきあい。会社でいえば職場の人間関係もそのなかに入ってくるでしょう。

「遠距離交際」とは、ひんぱんに顔をあわせるわけではないが、ときに重要な情報をもたらしてくれる外部世界とのつながりのことです。この重要性はSNSをつかっている人なら納得のいく話ではないかと思います。

もうひとつのキーワードは「リワイヤリング」(re-wiring)人間関係の「つなぎ直し」のこと。これは転職や転勤など、その他人生のステージが変わったときに意識的に行わないと、次のステージで飛躍できない原因になってしまうこともありますから要注意です。

これまでの人生を振り返って具体的なエピソードを思い出してみれば、「近所づきあい」、「遠距離交際」、「人間関係のつなぎ直し(リワイヤリング)」の意味がわかっててくるのではないかと思います。

二つの世界大戦をはさんで87歳まで生きたシャネルの生涯は、まさに波瀾万丈そのものでした。

貧しい家庭に生まれ、孤児として修道院付属の孤児院で過ごしたシャネルは26歳までに「過酷な環境から抜け出し」、27歳から36歳にかけての10年間で「ビジネスを飛躍的に成長させ」、37歳から56歳までの20年間では「人生を爆発的に充実させ」、57歳以降の死去までの30年間は「動乱の時代を生き抜き、復活」しています。まさに起き上がりこぼしですね。

その人生の節々で成功を納めてきたのは、人脈を戦略的につかっているからだという著者の指摘は、本書を読むと十分に納得できることです。

それにくわえて、孤児院時代に身についた早寝早起きという規則正しい生活習慣と勤勉さも、シャネルの成功において大きな意味をもっていたようです。これは意外な印象を受けますが、売り手や作り手と買い手とは違うカテゴリーの人種なのだということでしょう。

シャネルの生涯をずっと追っていくと、まさに「ネットワーク理論」のセオリーどおりに動いているように思われるから不思議です。読書家であったシャネルですが、もちろん理論そのものを知っていたはずはないでしょう。天性の勘ゆえだろうか、ほとんど無意識のうちに戦略的とさえ思えるような行動をとっているのです。

日本の居酒屋文化にはない、欧州のサロン文化やパーティ文化もまた、人脈を戦略的つかいこなす意味で果たしている意味が大きいことが、著者によって指摘されています。ぜひ耳を傾けたいアドバイスですね。

もちろん、読者がシャネルの生涯をそのまま真似ても、同じように大成功するわけではありませんが、「ネットワーク理論」からみた人脈つくりのエッセンスはぜひ学び取りたいものですね。

本書は、ココ・シャネルの生涯とネットワーク理論のふたつを同時に知ることのできる、一石二鳥(=ツー・イン・ワン)のお得な一冊になっています。面白くて読んでためになる文庫本として、ぜひおすすめします。



<初出情報>

■amazon書評「人脈の戦略的活用法-「ネットワーク理論」で読むココ・シャネルの生涯」投稿掲載(2012年1月25日)

*再録にあたって加筆修正を行った




目 次

はしがき
序章 ココ・シャネルに学ぶ「ネットワーク」戦略
1章 「過酷な環境から抜け出す」技術-1883年(生誕)から1909年(26歳)
2章 「ビジネスを飛躍的に成長させる」技術-1910年(27歳)から1919年(36歳)
3章 「人生を爆発的に充実させる」技術-1920年(37歳)から1939年(56歳)
4章 「動乱の時代を生き抜き、復活する」技術-1940年(57歳)から1971年(87歳)
5章 2つの図でシャネルのネットワーク戦略を理解する
あとがき


著者プロフィール
西口敏宏(にしぐち・としひろ)

一橋大学イノベーション研究センター教授。1952年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。ロンドン大学社会学修士、オックスフォード大学社会学博士、マサチューセッツ工科大学研究員、ペンシルベニア大学ウォートン・スクール助教授などを経て現職。専門は組織間関係論、ネットワーク論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<ブログ内関連記事>

修道院から始まった「近代化」-ココ・シャネルの「ファッション革命」の原点はシトー会修道院にあった

「マイナスをプラスに変える方法」-『なぜか、人とお金がついてくる 50の習慣』(たかの友梨、フォレスト出版、2011) 「出版記念講演会」 に行ってきた

NHKの連続テレビ小説 『カーネーション』が面白い-商売のなんたるかを終えてくれる番組だ

(2013年12月27日 情報追加)





(2012年7月3日発売の拙著です)






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