『ヤバい経営学-世界のビジネスで行われている不都合な真実-』(フリーク・ヴァーミューレン、東洋経済新報社、2013)は、ビジネスやマネジメント世界の住人、あるいはその世界に関心がなければ面白くもなんともない本でしょうが、その世界にいると 「これはじつに面白い!」 といった内容の本です。
英語タイトルは Business Exposed : The Naked Truth about What Really Goes on in the World of Business (2010)、つまり真相解明の暴露もの、といった感じでしょうか。著者はオランダ出身でロンドン・ビジネススクールのMBAコースで組織論とアントレナーシップを教えている準教授。
いろんな経営理論がつぎからつぎへと生まれ、ウイルスのように伝染したのち、あっという間に消えていくのがビジネス世界ですが、そういった流行りものの理論に対して胡散臭いと感じたり、ほんとうは違うんじゃないの?とうすうすと感じている人は、読み進めるうちに納得の連続になることでしょう。
みずからの直観を豊富な学術論文のエッセンスで跡付けているのが本書の特色。事例はどうしても英国と米国を中心にした英語圏のものが多いですが、著者がオランダ人であることもあってオランダ企業も多数取り上げられています。
この本で展開される議論のキモは、ビジネスやマネジメントの世界における「因果関係」についての注意を喚起している点でしょうか。
原因と結果の関係というものは、かならずしも一対一の関係ではないし、時間的なスパンをどうとるかでまったく異なる結論がでてくるもの。原因と結果が逆転して語られていることもじつに多い。
たんなる相関関係にすぎないものを因果関係だと思い込んでいる人がじつに多いという嘆かわしい現実は、ビジネス世界においても同じということですね。
短期的にはすぐ効果のでる経営施策であっても、副作用というものは時間がたってから顕在化するもの。たとえば、リストラという名の人員削減は長い目でみて効果ないだけでなく有害であることが経営学の学術研究で明らかになっていることが紹介されていますが、日本人なら十分に納得のいくことでしょう。
企業経営をサステイナブル(=持続的)に行っていくためには、流行りの経営理論に飛びつくのは考えものだということですね。
ビジネスの世界に長くいると、本書に書かれている内容はまったくそのとおりだと思います。はっきりいってしまえば、「常識」といってもいいような話ばかりです。とはいえ、アタマでっかちの人たちには納得がいかないかもしれませんが・・・
結局のところ、ヒトによって成り立っているのがビジネス。根本のところでは、英語圏であれ日本であれ、本質的には変わらないことを実感させてくれる内容でもあります。
ただし、当然のことながら「これをやればかならず効果がでる!」なんて処方箋はこの本には書かれていません。
翻訳もよくこなれているので、それほどムリなく読めると思います。
目 次
日本の読者の皆さんへ
Introduction モンキーストーリー
Chaper 1 今、経営で起きていること
Chaper 2 成功の罠(とそこからの脱出方法)
Chaper 3 登りつめたい衝動
Chaper 4 英雄と悪党
Chaper 5 仲間意識と影響力
Chaper 6 経営にまつわる神話
Chaper 7 暗闇の中での歩き方
Chaper 8 目に見えるものと目に見えないもの
Epilogue 裸の王様
訳者あとがき
参考文献
著者プロフィール
フリーク・ヴァーミューレン(Freek Vermeulen)
ロンドン・ビジネススクール准教授。オランダ・ユトレヒト大学で組織論、ティルブルフ大学で経営管理の博士号を取得。専門は戦略論とアントレプレナーシップで、主にMBAとエグゼクティブMBAプログラムで教鞭をとっている。東芝、BP、フィアット、IBM、KPMG、ノバルティス、ボーダフォンなど、大企業の経営層のアドバイザーを務めるとともに、一般紙・専門誌への寄稿多数。Academy of Management Journalの最優秀論文賞を受賞、現在は同誌を含めた経営ジャーナル4誌の編集委員を務める。ロンドン・ビジネススクールでは、ベストティーチャー賞と最優秀授業賞を受賞。『フィナンシャル・タイムズ』紙上で「ライジングスター」と称される。本書は英語・日本語の他に中・韓・露・蘭の4カ国語でも出版されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
訳者プロフィール
本木隆一郎(もとき・りゅういちろう)
神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。大日本印刷の経営企画部にて子会社の再建や競合企業のM&Aに携わる。その後、IBMビジネスコンサルティングサービスにて、主に銀行、証券、海運のコンサルティングに従事。ロンドン・ビジネススクール修了(MBA)。現在、外資系ヘルスケア企業に勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
訳者プロフィール
山形佳史(やまがた・よしふみ)
東京都生まれ。一橋大学商学部卒業。日本IBMで大企業向けシステム構築・運用プロジェクトに携わる。その後、IBMビジネスコンサルティングサービスで、幅広い業界におけるオペレーション、IT戦略にかかわるコンサルティングプロジェクトに従事。ロンドン・ビジネススクール修了(MBA)。現在、コンサルティング会社に勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<ブログ内関連情報>
■経営学関連
書評 『経営管理』(野中郁次郎、日経文庫、1985)-日本の経営学を世界レベルにした経営学者・野中郁次郎の知られざるロングセラーの名著
書評 『経営の教科書-社長が押さえておくべき30の基礎科目-』(新 将命、ダイヤモンド社、2009)-経営者が書いた「経営の教科書」
書評 『仕事ができる人の心得』(小山昇、阪急コミュニケーションズ、2001)-空理空論がいっさいない、著者の実践から生まれた「実践経営語録」
M.B.A.(経営学修士)は「打ち出の小槌」でも「魔法の杖」でもない。そのココロは?
アジアでは MBA がモノを言う!-これもまた「日本の常識は世界の非常識」
レンセラー工科大学(RPI : Rensselaer Polytechnic Institute)を卒業して20年 ・・わたしはこの大学のMBAコース(MOT)を卒業
■オランダ関連
書評 『植物工場ビジネス-低コスト型なら個人でもできる-』(池田英男、日本経済新聞出版社、2010)
・・・オランダの先進植物工場モデル
書評 『チューリップ・バブル-人間を狂わせた花の物語』(マイク・ダッシュ、明石三世訳、文春文庫、2000)-バブルは過ぎ去った過去の物語ではない!
・・17世紀オランダの「バブル経済」
書評 『ニシンが築いた国オランダ-海の技術史を読む-』(田口一夫、成山堂書店、2002)-風土と技術の観点から「海洋国家オランダ」成立のメカニズムを探求
「フェルメールからのラブレター展」にいってみた(東京・渋谷 Bunkamuraミュージアム)-17世紀オランダは世界経済の一つの中心となり文字を書くのが流行だった
・・フェルメールとスピノザをつなぐものは光学レンズであった
(2012年7月3日発売の拙著です)
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