「個」と「組織」それぞれの能力を向上し、「個」と「組織」のよりよい関係を築くために
                                    

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2014年7月1日火曜日

書評 『日本サッカーはなぜシュートを撃たないのか?』(熊崎敬、文春文庫、2014)-日本サッカーの病理を「反面教師」にして企業経営に即して考えてみることをすすめたい


FIFAワールドカップ2014ブラジル大会、すでに決勝トーナメントのステージに入っていますが、そこには日本の姿はまったくありません。一次リーグを最下位で敗退したためです。

日本代表チームの問題の「惨敗」については、いろいろ思うことのある人も少なくないのでないでしょうか。

過ぎたことは仕方ない、負けにこだわっていては敗北主義に支配されてしまう、また4年後があるからがんばってもらえばそれでいいじゃないか。そんな感想もあるでしょう。ある意味では楽観論でありますが、しかしながら健忘症になってしまう恐れがないとはいえません。


日本サッカーの「病理」について考える

わたしは、今回の「惨敗」はいままでのサッカー日本代表の悪い面が集中的に顕在化したのではないかという印象をぬぐいさることができません。

今回のワールドカップではアジア勢はすべて敗退し、中南米とヨーロッパのチームだけが勝ち残りました。こういう風に言うと、日本ではまだまだサッカーが「文化」として定着していないからという指摘がかならずでてきますが、「文化論」の話はあまりしたくありません。

問題点は、端的にいって「個」と「組織」の問題ではないでしょうか。

ここでいう組織とは目的をもって結成された人間集団のこと。サッカーでいえば「チーム」のことをさしています。とりあえずフロントのことは脇においておきます。

個々の選手をとってみれば、「個」としてヨーロッパのプロリーグでも活躍している日本人選手も少なくないのに、なぜかれらが日本代表チームという「組織」になると、その強みを発揮することができないのか?

日本人選手もヨーロッパのチームではそのポジションとしての「役割期待」を果たしているからこそ評価されているわけですが、日本代表チームになると、「試合で勝つ」というチームのレゾンデートル(=存在意義)が徹底していないのではないか、という疑問を感じてしまいます。

「勝つ」ということには二つの意味があります。文字どおり点差をつけて勝つということと、たとえ引き分けであっても負けない、ということです。このことについては、Winning is NOT everything, but Losing is Nothing ! という記事で過去に書いたことがあります。

どんな手段をとっても、負けなければいつかは勝つことができる勝つための一瞬のチャンスを見逃さず、カウンターで突破してシュートする。これはデフェンス重視のヨーロッパサッカーに見られる思想でもあります。


日本サッカーの病理を「反面教師」にして考えてみる

日本代表チームの「惨敗」のあと、『日本サッカーはなぜシュートを撃たないのか?』(熊崎敬、文春文庫、2014)という本が出版されていることを知りました。文庫オリジナルだそうです。

この本を読むと、問題は「個」と「組織」だけではなく、もっと根が深いものであることがわかってきます。

帯には「2014年ブラジルワールドカップ直前 サッカーの見方が劇的に変わる本!」とあります。わたしはこの本は、「惨敗」後のいまこそ読むべき本だと思います。

帯のウラにはこうあります。

●テレビに向かって「なぜ撃たないか?!」と叫んだことのある人
●過去のワールドカップにおける日本代表の戦いぶりに不満な人
「自分たちのサッカー」という言葉が嫌いな人
サッカーは結果がすべて、と考えている人
●日本における育成年代のコーチングに疑問を感じている人
●サッカーというスポーツの本質を知りたい
→ 本書はそんな人たちのために書いた本です


わたしはすべてについて同意するわけではありませんが、すくなくともこの箇条書きの上から3つにかんしては全面的に同感です。

サッカーに限らず、シュートを撃たなければ、つまり点を取らなければ試合には勝てないという当たり前の事実がなぜなおざりにされているのか? こんなこと小学生でもわかることですね。

試合に勝つという「目標」があって、そのために戦略があり、こまかい戦術がある。目的と手段の関係は企業業経営でも同じです。

どうやら日本サッカーは、戦術を重視しすぎて、肝心要の目標や戦略がどこかへ行ってしまい、本来は「手段」であるはずの戦術が自己目的化してしまっているようです。著者の熊崎氏は「手段の目的化」と表現してますが、これもまた日本企業においてよく観察されるものです。

「型」として戦術を徹底させることは初期段階としては必要なことですが、実際の試合というものは戦術どおりの試合展開などそう簡単には実現しないもの。対戦相手という敵とのからみで、瞬間瞬間に局面が複雑に展開する状況のなかで、いかに臨機応変に判断し動くかが、中級以上にもとめられるものです。

「自分たちのサッカー」という表現は、相撲とりがよくクチにする「自分の相撲を取る」という表現を想起させるので不快に思ってきました。「自分たちのサッカー」では何を意味しているのか第三者に説明することはできません。ある種の思考停止状態です。

「自分たちのサッカー」をさせてもらえなかったという釈明ほどふざけたものはないのではないでしょうか? 会社でこんなセリフを吐いたら、間違いなくイエローカードです。「なぜ勝てなかったのか自分で考えろ!」という叱責されるのが当たり前です。

著者は、サッカージャーナリストとして、20年以上にわたって世界中で観察してきた体験から、サッカーというスポーツの本質から考えると、日本人はあまりにもマニュアル思考になりすぎていること、リアル世界の物事をコンピュータゲーム的に捉えすぎていること、自分のコトバや発想にとらわれてしまう傾向など指摘しています。

「個」と「組織」にかんしても、ブラジルサッカーのチーム設計が「一対一」の二人組ペアから組み立てていることも指摘しています。これは組織力で個の弱さをカバーするという発想(・・思い込み?)の強すぎる日本サッカーとは真逆の思想というべきでしょう。

「型」志向や「コトダマ」思考の負の側面がもろにでていると言い換えてもいいかもしれません。「型」や「コトダマ」はうまくポジティブに使えば大きな効果を発揮するのですが、とらわれて思考停止状態に陥ってしまう危険と隣り合わせです。

わたしはこの本を読みながら、著者が日本サッカーの病理として指摘していることは、そっくりそのまま日本企業にも当てはまるのではないかという気持ちにさせられました。

その意味では、日本サッカーを「反面教師」として、企業経営を振り返るためのビジネス書として読む価値があるといっていいかもしれません。あえてこのブログで取り上げたのはそのためです。

サッカーが好きでもそうではなくても、いろんなことを考えさせられる「本質論」に迫った本だと言えるでしょう。おすすめです。





目 次 

第1章 日本サッカーはなぜシュートを撃たないのか?
第2章 日本のスタジアムで考えたこと
第3章 世界のスタジアムで考えたこと
第4章 サッカーの本質を知っている男たち
あとがきにかえて なんのためにシュートを撃つのか?

著者プロフィール

熊崎敬(くまざき・たかし)
昭和46(1971)年、岐阜県出身。明治大学卒業後、「サッカーダイジェスト」「Sports Graphic Number」編集部を経て、フリーランスに(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


PS 2014FIFAワールドカップ ブラジル大会の決勝戦にみるドイツの強さ

決勝戦のドイツ対アルゼンチンは延長戦の後半でドイツが1点先取して優勝。ドイツにはアルゼンチンのメッシのようなスーパー選手はいなくても、組織力の高さで今回の代表チームのなあkではピカイチであったことが証明された。だが、「組織力」とはいっても日本とは段違いである。ドイツは個々の選手の技量も士気も高く、あくまでも「個を基盤とした組織力」である点が強く印象に残った。現在ドイツのプロリーグででプレイする日本人選手も多いこともあり、日本に求められているのは、ふたたびドイツを模範にすべきではないかとも思うのだが・・ (2014年7月14日 記す)



<ブログ内関連記事>

「FIFAワールドカップ2014」における日本の「惨敗」-「個」の力がまだまだ弱く「組織力」に統合されていないのが日本の現実

Winning is NOT everything, but losing is NOTHING ! (勝てばいいいというものではない、だけど負けたらおしまいだ)

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合気道・道歌-『合気神髄』より抜粋
・・「すきもなく たたきつめたる敵の太刀(たち) みなうち捨てて 踏み込みて斬れ」、「敵多勢(たぜい) 我を囲みて攻むるとも  一人の敵と思い戦え」、「敵の太刀(たち) 弱くなさむと思いなば まづ踏み込みて 敵を斬るべし」 ⇒まずは「一対一」がすべての基本。この組み合わせがすべての基盤となることは、サッカーという西欧由来の近代スポーツ導入以前に日本人の「常識」であったはずだ!




(2012年7月3日発売の拙著です)








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