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2012年3月1日木曜日

プラクティカルな観点から日本語に敏感になる-藤田田(ふじた・でん)の「マクド」・「ナルド」を見よ!

■「日本語に注意を払わなあかんで!」

海外で成功しているビジネスを日本にもってきて成功させるモデルの原点は、なんといっても日本マクドナルドの創業経営者であった藤田田(ふじた・でん)にあるといっていいでしょう。

日本から海外へ製品やサービス、あるいはビジネスフォーマットをもっていくのはアウトバウンドですが、海外から日本にもってくるのはインバウンドといいます。

アウトバウンドとインバウンドは、旅行業界ではむかしからつかわれているコトバを転用したものです。

アウトバウンド戦略であれ、インバウンド戦略であれ、成功のカギはローカリゼーション(現地化)にあります。

そしてローカリゼーションでもっとも重要なカギは現地語である! ということを実践したのが1970年代の藤田田だったのです。

藤田田のライフワークが日本語研究であったことは知る人ぞ知る事実です。まさに趣味と実益を兼ねた研究でした。

天下取りの商法』(ワニの新書、1999)のなかで、以下のエピソードをマクドナルド成功の理由の一つとして披露しているので、ここに紹介しておきましょう。温故知新のエピソードとして受け取ってみてください。

藤田田は、米マクドナルド社と合弁を組んで日本市場での立ち上げを行った際、「マクド」・「ナルド」と「3音+3音」で切れるように日本語の社名をきめ、米国側の意見に対して最後まで自説を譲らなかったのです。

藤田田が説明するところによれば、アメリカ英語の発音では McDonaldsは、マクダーナルズ(・・より原音に近くすればマクダーノーズ)となるので、それでは日本人の言語感覚にはあわないから、「マクド」・「ナルド」と3音ずつに区切ることをつよく主張して、米側に認めさせたのだそうです。

現に、関西では「マクド」というし、関東では「マック」で定着しています。藤田田の先見性の高さと、日本語と日本人の関係についての洞察力がいかに深かったかを示しています。

マクドナルド以外でも、ケンタッキーフライドチキンが「ケンタ」と省略されていますし、その結果、KFCはCMでも「ケンタ」を使用しています。
ドラッグストアチェーンのマツモトキヨシを「マツキヨ」と省略しますし、ドンキホーテは「ドンキ」、吉野家の牛丼を省略して「ヨシギュー」と言うのは当たり前になっています。

長たらしい名称は、若者だけでなく、ほぼすべての「日本語人」には発音しにくいのです。だから日本語人にとって切りのいい音に省略されるのです。

ほぼすべての音が、子音+母音で1つの「拍(はく)」を構成する日本語においては(たとえば、「さ」は子音s+母音a)、基本的に3音と4音(=2音+2音)の単語がもっとも落ち着きがあります。拍にかんしては、金田一春彦の『日本語 上下』(岩波新書、1988)を参照してください。

日本語のリズムとして五七五がもっとも安定している理由は、5=2+3、7=4(2+2)+3で構成されていることにあります。五七五の「拍」が作り出すリズムは、ある意味では日本人の言語感覚を呪縛しているとさえいえます。五七五については、坂野信彦の『七五調の謎をとく-日本語リズム原論-』(大修館書店、1996)を参照してください。

アウトバウンドやインバウンドそのものではありませんが、アウトバウンドとして進出先の企業からの異議申し立てで、企業ブランド名が変更を余儀なくされたケースもあります。

たとえば、スタンダードオイルが1972年に米国独禁法による分割命令がでた際、当初はENCOというブランドにする予定であったが、結局は中止してEXXON(エクソン)に落ち着いたという事例があります。

日本語のエンコでは、とくにガソリン販売にかんしては最悪のネーミングであるという異議申し立てが日本法人から出たためだという説があります。もちろん、現在ではエンジン故障を略したエンコはすでに死語となっており、一般にエンストといいます。なんだか、時代を感じさせるエピソードですね。

ブランド関連書では、マクドナルドにかんしてはブランドマークのゴールデンアーチが取り上げられることが多いのですが、インバウンドの場合は、藤田田が基本原則としていた日本語の音韻法則についても注意を払うべきでしょう。

もちろん、アウトバウンドにかんしては、現地語の言語感覚はその現地語を母語とする人にはかないません。企業ブランドの原理原則は死守しながらも、現地の意見を最大限にとりいれてローカライズすることは絶対に必要なことなのです。

ちなみに、『Den Fujitaの商法』と題して4部作が復刊されている。それぞれのタイトルは以下のとおり。やや偽悪派的な匂いのプンプンするタイトルばかりがついていますが、藤田田らしくでいいですね。金持ち=悪という日本の一般感覚を逆手にとった大阪人のセンスを感じさせます。

(1) 頭の悪い奴は損をする
(2) 天下取りの商法
(3) 金持ちラッパの吹き方
(4) 超常識のマネー戦略

残念ながら主著というべき『ユダヤの商法』は絶版になったままで、古書価はそうとう高騰してい、ます。なぜ再版されないのかわかりません? 内容的には問題ないと思うのですが・・・

藤田田は「情報収集は雑学を増やすこと」として貪欲に雑学を吸収していたことは、世の中には「雑学」なんて存在しない!-「雑学」の重要性について逆説的に考えてみる に書きましたので、ご参照いただけると幸いです。

ビジネスにおいても、あたらしいものを探すだけでなく、たまには温故知新によって先人の知恵を振り返って学ぶことは大切でしょう。










<関連サイト>

私の履歴書 復刻版  竹鶴政孝 第24回 ニッカ売り出し 苦心の“道産子”に感激 価格統制で1級の指定に 竹鶴政孝(ニッカウヰスキー創業者)に、「ニッカ」というネーミングの理由が創業者自身によって語られている。

昭和15年(1940年)の秋、ぎざぎざの線のはいった角びん、ニッカウ井スキーの第1号を発売した。ニッカという商品名は、当時の社名の大日本果汁の略、日果からとったものである。
ニッカの3文字を採用したのは、横書きにしても片方からしか読めないことと、3文字は語呂(ごろ)もいいしネオンの場合でもスペースが少なくてもすむし、一定スペースの場合は大きく書けるという利点があるということで決めた。

(2015年2月28日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか-世界で売れる商品の異文化対応力-』(安西洋之、中林鉄太郎、日経BP社、2011)-日本製品とサービスを海外市場で売るために必要な考え方とは?
・・ローカリゼーションにかんする必読書

世の中には「雑学」なんて存在しない!-「雑学」の重要性について逆説的に考えてみる
・・藤田田の代表作『ユダヤの商法』に書かれている「雑学」の重要性から話を展開

由紀さおり世界デビューをどう捉えるか?-「偶然」を活かしきった「意図せざる海外進出」の事例として・・日本語と音楽の関係について






(2012年7月3日発売の拙著です)








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