■「人は、手痛い失敗経験を通じて初めて学ぶ」
「人は、手痛い失敗経験をつうじて初めて学ぶ」、ということは誰でも経験があることだと思います。
自分で腕をつねれば痛いし、足指を机の角にぶつけたりすると耐えがたい痛みを感じる。指を切ったりすると、痛みだけでなく、血が出るのでビジュアル的にも痛みが増幅されるものです。
物理的に怪我をしたときだけでなく、比喩的な意味でも怪我をすると、人間は同じ失敗をしないように学ぶものです。なぜなら、痛い思いは何度もしたくないからですね。
このことは、Παθηματα, Μαθηματα (パテマータ・マテマータ)-人は手痛い失敗経験をつうじて初めて学ぶ という記事に書きましたので、そちらも参照いただけると幸いです。
■組織のメンバー全体で「痛み」を共有する組織学習
「人は、手痛い失敗経験をつうじて初めて学ぶ」ものですが、痛い思いを何度も繰り返したくないのは、それは個人だけでなく、企業や社会もまた同じでしょう。
ちょっと古い話ですが、いまから12年前、ブランド論がさかんだった2000年のことですが、雪印乳業で発生した食中毒事件が発生し、消費者の信頼を失った結果、雪印(スノーブランド)が毀損(きそん)してしまうということがありました。
ブランドの根幹は顧客からの信頼ですが、いったん信頼を失ったブランドは、あっという間に崩壊してしまうものです。
雪印はその手痛い経験から大いに学び、現在では、まだまだ完全ではありませんがブランドも回復過程にあるといえましょう。2009年には、雪印メグミルク株式会社として統合されています。
「人の噂も七十五日」とうコトワザがありますが、おそらく顧客である消費者よりも、現在でも企業内部のおられる方々のほうが真剣に受け止め、誠実に取り組んでおられるのではないかと思います。
ここまで企業を主語にしいて語ってきましたが、重要なことは、企業はあくまでも「法人」であって「自然人」ではありません。法人というのは、あくまでもバーチャルな存在ですから、企業そのものが痛みを感じるわけでも、反省するわけでもありません。
企業であれ、社会であれ組織体です。組織というものは基本的に人間の集合体ですから、痛い思いをするのは、あくまでもその組織に所属する個々の人間なのです。
痛い思いをした本人は当然のこと、当事者ではなくても、その痛みを多くの人で共有することができれば、手痛い失敗経験からの学びは、かならずつぎのアクションにつながるものです。
売り上げが減少してボーナスがカットされる、顧客からクレームの嵐になる、自分の子どもが学校でいじめられるといったことをつうじて、組織に所属する個々人が痛みを直接的あるいは間接的に感じるのですが、多くの人にとては、あくまでもイマジネーションによるしかないのです。
組織に所属するメンバーがどれだけ真剣に受け止め、組織としてその痛みをずっと感じ続けることができるかが「組織学習」のカギなのです。
■しかし、人間は忘却する生き物である。組織もまた・・・
とはいえ、痛い思いをした事件が発生してから時間がたつと、人間というものはその痛みを忘れてしまいがちです。
昨年2011年の3月11日に発生した大津波で亡くなった方のなかには、津波慣れしているのでかえって高をくくってしまい逃げおくれた人も少なくないと聞いています。人間は、過去に痛い経験をしていても、時間がたつとその痛みを忘却し、不感症になってしまうものです。
22歳前後で入社した従業員が60歳定年まで在籍していたとしても、在籍している期間は38年に過ぎません。一人の人間においても時間による忘却から逃れることはできないのに、どんな組織でもメンバーの入れ替わりがある以上、痛い思いを感じ続けるのは、かなり困難であるといっても言い過ぎではないでしょう。
JAL(日本航空)も1985年の御巣鷹山(おすたかやま)の事故当時からすでに26年以上たっています。組織のメンバーもだいぶ入れ替わってしまっているので、「痛み」がいまでも全社員に共有されているのかどうか。
JALは再建に成功し、今年中に、再上場する予定だと報道されていますが、くれぐれも事故のことは組織全体で繰り返し想起し、安全第一の姿勢は絶対に崩さないでいることを願いたいと思います。
「痛み ⇒ 学び ⇒ イマジネーションによって組織で共有 ⇒ アクション ⇒繰り返し想起」の流れも、時間の経過とともに忘却されてしまいがちであす。べつの表現をつかえば風化されがちです。
ひとりの人間のなかでも、痛みの経験は時間の経過とともに忘却されがちです。ときに、フラッシュバック現象のように、あるキッカケで突然思い出すこともありますが、それはあくまでも個人の内部でのできごとです。
直接に「痛み」を体験していない従業員が増えるにつれて、組織全体の痛みに対する不感症の度合いが高まっていきます。
ぜひ、みなさんの組織でも、過去に経験した痛みがあれば、組織全体で定期的に想起してその痛みを共有する機会を制度として定着させてほしいものだと思う次第です。
「痛み」の記憶とそれにまつわるストーリーが、その「学び」の成果を組織として次世代にまで継承していくための重要なのです。
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