2012年の尖閣暴動に端を発した「脱・中国」といったややネガティブな理由だけでなく、2015年のASEAN経済統合(AEC)の波に乗るというポジティブな理由から、中国以外のアジア、すなわち東南アジアと南アジアへのシフトが本格的に始まっています。
そんななかで出版されたこのガイドブックは、基礎知識を得るためにはたいへんよくできたものになっているといってよいでしょう。
編集方針は以下のとおりです。
「東南アジア進出というと、これまでは安い人件費を目当てにした製造業が中心だった。しかし本書は、今後消費市場を形成する新中間層を狙って進出する小売・サービス業に編集上の力点を置き」(はじめに)
目次を紹介しておきましょう。
はじめに ネクスト・チャイナ
図解 一大市場を徹底比較-ネクスト・チャイナ11カ国の経済力と市場の可能性
Chapter 1 ミャンマー
Chapter 2 インドネシア
Chapter 3 ベトナム
Chapter 4 タイ
Chapter 5 カンボジア
Chapter 6 インド
Chapter 7 シンガポール
Chapter 8 バングラデシュ
Chapter 9 ラオス・フィリピン・マレーシア
それぞれの Chapter では、「~の現在と市場の特徴」、「~への進出方法」、「~進出のメリット&デメリット」をまとめています。
全般的に、メリットだけでなくデメリットについても書かれていますので、内容的にも良心的だといっていいでしょう。
わたしの個人的な考えでは、フィリピンは独立した一章として取り上げるべきだと思いますが、それは編集方針の違いというものでしょう。フィリピンのメリットは、なんといっても英語がつうじるということだからです。とはいえ、日本と同様に中国との国境紛争を抱えている点はマイナス要因です。
バングラデシュが入っていながら、スリランカが入っていないのも残念なところです。
もちろん、業種業態や企業規模、海外経験の有無によって、進出先として検討すべき国は異なってきます。
たとえば、タイであれば製造業においては、人件費高騰傾向にありますが、まだまだ進出余地はあります。タイには産業集積と「地の利」というロジスティクス上のアドバンテージがあるためです。これは今後もさらに強化されるでしょう。
ところが、タイの在留日本人は10万人強と推定されているようにマーケットサイズは大きいのですが、飲食サービス業は競争が厳しく、すでに「レッドオーシャン状態」であると言っても過言ではありません。「新中間層を狙って進出する小売・サービス業」という点では、タイはやや難易度が高いかもしれません。
こういったデメリットまで指摘されている点は、この本が評価できることです。
ただし、タイにおいては、製造業とは違って、日本も含めた外国資本が 51%以上のマジョリティをとることができないことも知っておく必要があるでしょう。また、原則として外国人の土地所有も禁止されています。これは大きなデメリットであることは否定できません。タイ以外を検討国としたほうがいいかもしれません。
こういったよくできたガイドブックで基礎知識を得たうえで、自分なりのイメージをつかんだうえで、さらに深堀して調査していくのが海外進出の基本といっていいでしょう。
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「2015年のASEAN経済統合」の意味をアタマのなかに入れておこう
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書評 『中国ビジネスの崩壊-未曾有のチャイナリスクに襲われる日本企業-』(青木直人、宝島社、2012)-はじめて海外進出する中堅中小企業は東南アジアを目指せ!
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『東南アジアを学ぼう-「メコン圏」入門-』(柿崎一郎、ちくまプリマー新書、2011)で、メコン川流域5カ国のいまを陸路と水路を使って「虫の眼」でたどってみよう!
(2012年7月3日発売の拙著です)
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