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2010年7月12日月曜日

起業家が政治家になる、ということ


 みなさんお元気ですか。

 こんにちは、ケン・マネジメントの佐藤賢一(さとう・けんいち) です。

 本日も時事ネタを扱いながら、B&M(ビジネスとマネジメント)の観点からコメントを加えていきたいと思います。

 では、本日のテーマは、「起業家が政治家になる、ということ」についてです。成功した起業家に誘いがかかる政治家への道、その是非について、考えてみたいと思います。



参議院選挙で松田公太氏が当選
             
 昨日(2010年7月11日)に行われた参議院選挙で、みんなの党から東京選挙区から立候補した松田公太氏が当選した。激戦区の東京での当選であるからたいしたものである。めでたいことだ。
 松田公太氏は1964年生まれ、三和銀行の銀行員を経て、タリーズコーヒー・ジャパンを創業し成功させたストーリーは、自ら執筆した『一杯のコーヒーから』(新潮文庫)に失敗も包み隠さず、赤裸々に語られている。

 私は、昨年12月に行われた講演会でお会いして、その場で購入した文庫本にサインしてもらって、ちょっと会話したことがあるが、この件については以前にブログに書いたとおりである。講演会「原点回帰と変革の経営」で、松田公太氏とゾマホン氏の話を聞いてきた を参照。
 日本での起業を成功に導いた松田氏は、次の目標としてアジアで日本のサービス業を海外展開させるミッションを遂行しているとの話だった。
 シンガポールか香港か迷った末にシンガポールをベースキャンプに選んだ着眼点の鋭さを私は口頭で賞賛したのだった。
 シンガポールでは、山野ビューティそのほかの海外現地法人のマネジメントに関与しているという講演内容でったので、成功した起業家でしかも海外でも起業している松田氏のような人に政治を変えて貰いたいのは私だけではないと思う。
 著書にサインしてもらった彼の座右の銘 No Fun No Gain は、子供時代から長く海外で過ごしてきた彼の人生観そのものだろう。

 ただ、彼は本拠地をシンガポールに移していたから、日本での代議士活動とビジネスは両立可能なのか疑問もないわけではない。詳しくは知らないので、あくまでも憶測に過ぎないが。
 起業家で成功した人はそれなりに財産もあり、また部下の人材もいるだろうから、ビジネスは彼ら腹心にまかせて、自分は政治活動に専念するのも一つの手だろう。
 成功した起業家としての能力を政治に活用する、トヨタ流にいえば「ヨコ展開」することは、大いに期待されることである。



成功した起業家が政治家になった例

 もちろん、成功した起業家が政治家になるというケースは日本でも少なくはない。政治にカネがかかる以上、資金調達を自らの企業をつうじて行うのは、けっして不思議なことではない。
 たとえば、自民党の代議士・田中角栄は成功した土建業者だったし、河本敏夫は三光汽船のオーナー社長でもあった。

 問題は、政治活動を自分のビジネスに利用しているのではないか、という疑念を抱かれることだ。一般人は持ち上げても、なにか問題がおこると、あっというまに平気で祭り捨てるものである。
 田中角栄は、ロッキード事件という汚職事件を仕掛けられて失脚し、河本敏夫は、自らの企業の破綻で政治生命も絶たれることとなった。いまだに当選していないが、羽柴秀吉という青森の起業家もまた政治家になりたい起業家の一人である。

 日本以外でも、タイ王国のタクシン前首相は、IT関連で巨大な財をなした起業家であるが、彼がクーデタによって政治的に失脚して亡命を余儀なくされたのは、自社の持ち株をシンガポール市場で売り抜け、法律を自分の都合のいいよういねじ曲げて租税回避を図った疑いをかけられたからである。
 イタリアの首相でメディア王ベルルスコーニもまた、自分に対する訴訟を葬り去るために、政治家としてのチカラを行使して法律の改正を行っている。彼もまた、いつまでも安泰であるとはいえないだろう。



何事もメリットとデメリットがある

 このように書いていると、起業家出身の政治家は問題だといいたいのかと問われそうだが、私がいいたいのは何事もアドバンテージとディスアドバンテージがあるということだ。プラスとマイナス、あるいはメリットとデメリットといってもいいだろうか。
 起業家として成功したノウハウや識見を政治に活かすのは、大いにウェルカムである。
 しかし、ビジネスを続けながら政治家をやっていると、どうしても中途半端になることもあるし、また金銭がらみのスキャンダルを仕掛けられやすいことも否定できない。

 ほんとうは、起業家を卒業してから政治家になるのが、後腐れのなくてベストなのだが、いろいろな事情もあろうから、なかなかそうもいくまい。
 身辺をできるだけキレイにしておくことが、危機管理(クライシス・マネジメント)の観点から絶対不可欠であろう。どんなことでスキャンダルをでっちあげられて、政治生命を失ったり、ましてや本業のビジネスに大影響がでないとも限らないからだ。


経営者としての起業家と選挙で選ばれる政治家は根本的に異なる存在だ

 とくに政治家というのは、一般人が投票という行為をつうじて選出する性格をもっており、自ら起業して経営者となった起業家とは、根本的に異なる存在なのである。経営者は選挙で選ばれたわけでなく、自らの意思で起業し、経営者になるのである。
 開発途上国では、軍人が政治家になることも多いが、軍服を脱がずに政治家になるとどうしても独裁者になりやすい。シビリアン・コントロールの観点から、軍服を脱いでから、すなわち退役してから政治家になることが成功の秘訣である。

 同様に、起業家ももてる能力を大いに発揮して欲しいと願うのだが、ケジメをどのような形でつけるのか、ケースバイケースでもあるのできわめて難しい。
 30歳台の起業家には政治家を志している人も少なくないようだが、このことだけは肝に銘じておいていただきたいと思う。


 まあ辛口のコメントを書いたが、松田氏には大いに手腕を発揮してもらいたいし、成功を祈る次第である。





PS 松田公太氏の当選後については、いろいろと紆余曲折があるようだが、政治家になった初心を忘れずに初志貫徹していただきたいと思う。(2015年10月25日 記す)

PS2 参議院選挙に出馬せず1期6年の任期をもって政界引退を決意した松田公太氏。ビジネスで培った手法が通じない政治の世界にうんざりしたようだ。実験は、最終的に失敗であったということか。政治家経験を有効に活かして、つぎの活動に進んで欲しいものだ。 (2016年7月22日 記す)


<関連サイト>

政治家・松田公太に達成感なし “愚か者”と言われても、「第三極」を貫く (日経ビジネスオンライン、2016年3月15日)
・・「国会議員としての6年間を「大きな達成感は得られなかった」と振り返る。」現状報告と抱負

静かに政界を去るタリーズ創業者・松田公太氏 「PDCAがない世界、私のいるべき場所ではない」(日経ビジネスオンライン、2016年7月22日)
・・参議院選挙に出馬せず1期6年の任期をもって政界引退を決意した松田公太氏のインタビュー記事。「1つ目は事業管理手法のPDCAサイクルの発想がないこと、2つ目は契約を順守する考えが欠如していることだと指摘する」

(2016年3月15日 項目新設)
(2016年7月22日 情報追加)





<ブログ内関連記事>

来日中のタクシン元首相の講演会(2011年8月23日)に参加してきた
・・在職中は「CEO型首相」と呼ばれていたタクシン元タイ首相は、通信事業を核に一台企業グループを作り上げた人。政権を終われてからは国外逃亡生活を続けている

書評 『田中角栄 封じられた資源戦略-石油、ウラン、そしてアメリカとの闘い-』(山岡淳一郎、草思社、2009)-「エネルギー自主独立路線」を貫こうとして敗れた田中角栄の闘い
・・土建業から起業し、ビジネスを成功させたのち政治家になった田中角栄




(2012年7月3日発売の拙著です)










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