現代日本の年間3万人を超える自殺者。その多くを占めるのが、うつ病に代表される精神疾患です。
うつ病は、会社で心を病んだ結果であることが多いのです。職場の人間関係に起因することが多い、といわれています。
本書は、読者自らが自分の精神的健康状態を保つための実践的アドバイスであり、また、とくに職場のマネジメントの立場にある中間管理職が読んで、率先してうつ病発生の予防と早期発見の環境づくりをすべきことを説いた本でもああります。
派遣切りなどでクローズアップされることの多い非正規労働だけでなく、残された正社員の肩にかかる過重労働にはもっと目を向けるべきでしょう。
「成果主義」が導入されたものの、成果主義の本来の意図とは異なり、たんなる労働強化の口実にしかなっていない現状を座視すべきではありません。
業績を上げるために従業員にかかる過剰な負荷が、かえって従業員の精神的な健康を阻害し、ひいては会社全体の生産性を下げることにつながっているという現実にこそ目を向けるべきなのです。
著者は、CSR(=企業の社会的責任)の観点に立つならば、ステークホルーダのなかでももっとも重要な従業員の健康こそ重視すべきだと説いています。
短期的な業績向上策は長続きしません。疲弊感だけが残るからです。持続性のあるサステイナブルな企業成長を期待したいのなら、従業員のメンタルヘルス状態を改善すべきなのです。いいかえれば、「やらされ感」のない、働きやすい職場づくりです。「急がば回れ」なのです。
本書は基本的に産業医を置くことが義務づけられている大企業の産業医の立場から書かれたものですが、大企業、中堅中小企業、事務所の違いなく、メンタルヘルスにかんする意識変革が必要であることを痛感します。
中小企業は、人間阻害的な要素は大企業に比べるとはるかに小さいが、それでも問題がないわけではないのです。
とくに経営者や管理者が読むべき本として、ビジネス書として位置づけてほしい一冊です。
<初出情報>
■bk1書評「社員のメンタルヘルス状態が改善すれば生産性も向上する。「急がば回れ」のCSR実践論」投稿掲載(2011年2月13日)
■amazon書評「社員のメンタルヘルス状態が改善すれば生産性も向上する。「急がば回れ」のCSR実践論」投稿掲載(2011年2月13日)
目 次
序章 会社で心を病む人たち
第1章 心のメカニズム
第2章 なぜ会社で心を病むのか
第3章 現実とのミスマッチ
第4章 精神科産業医の処方箋
第5章 心のホットライン
第6章 もう会社で心を病ませない
著者プロフィール
松崎一葉(まつざき・いちよう)
1960年生まれ。1985年筑波大学医学専門学群卒業。1989年筑波大学大学院博士課程修了。医学博士。筑波大学社会医学系准教授。また、日本産業衛生学会評議員、宇宙航空研究開発機構主任研究員、茨城労働局局医、東京都庁知事部局健康管理医、各企業の精神科産業医として、メンタルヘルス不全の治療および予防活動に取り組んでいる。専門は産業精神保健学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<書評への付記>
うつ病には2つのタイプがあるといわれています。従来型の抑鬱型と現代型のうつ病です。この本では、自殺を誘発する可能性も高い抑鬱型についてくわしく書かれています。
誤った成果主義による「やらされ感」が原因になっていることは、大いに傾聴すべきでしょう。
大企業のように常駐の産業医がいても、なかなか相談しにくいのが精神科や心療内科ですが、たとえ産業医がいなくても、自律的に対応できる体制と人材育成が必要です。
とくに、そうでなくても精神的な疾患を生みやすい海外展開している企業では不可欠な課題です。これは大企業でも同じことですね。
中小企業や事務所では大企業以上に人が財産。であればこそ、です。
短期的にはコストアップ要因になりますが、長い目でみたら社員の精神的な健康状態が改善すれば、自ずから生産性もあがるようになるのは自明の理です。発想の転換が必要なのです。
職場全体に、カウンセリングマインドを養成して、受容、傾聴、共感といったマインドセットを定着させたいものです。
また、仕事をつうじて達成感をもってもらうために、できるだけ自己裁量権を増やすような仕事の任せ方も必要でしょう。
「ビッグピクチャー・スモールサクセス」というコトバが本書には紹介されていますが、まさにそのおり。「大きな全体像を描いて、小さな成功体験」をひとつづつ積み上げていくこと。
こういう取り組みが、個々の従業員にも、マネージャーにも経営者にも求められるのです。
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