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2012年4月24日火曜日

書評 『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書-感動をつくる7つのプロセス-』(佐々木繁範、ダイヤモンド社、2012)-よいスピーチは事前の準備がカギ!


実践的なスピーチの教科書。よいスピーチは事前の準備がカギである!

『スピーチの教科書』、ずばり直球勝負のタイトル。

内容はまさに「スピーチの教科書」、定本として長く使われるでしょう。

オーソドックスな構成でありながら、取り上げられたスピーチの事例も、スティーブ・ジョブズの卒業スピーチと『ハリー・ポッター』の作者ローリングの卒業スピーチ、そしてブータン国王が日本の国会で行ったスピーチなど興味深い。たいへん読みやすく、すぐ実践につかえる内容のビジネス書になっています。

福澤諭吉が『学問のすゝめ』のなかで「スピイチ」あるいは「演説」としてスピーチを日本に紹介して以来、すでに百数十年がたっていますが、スピーチは日本人にとってはまだまだ難しい課題であるようです。

ビジネスの世界ではプレゼンの重要性について語られることは多いのですが、リーダーとして行わねばならないのはスピーチのほうがはるかに多いのではないでしょうか?

スピーチといっても組織のなかで行うものもあれば、組織の外で行うものもあります。3分程度のごく短いものもあれば、90分近くの長いものもあります。著者はソニーの創業者盛田昭夫氏や出井前会長の下でスピーチライターをしていたプロフェッショナルです。

なによりも、本書じたいがスピーチの構造に基づいて作製されています。それは、オープニング(導入)、ボディ(本体)、クロージング(締め)の三段階構造のこと。

これまでもスピーチのオープニングについては「つかみ」の重要性として語られることも多かったのですが、重要なのは、なんといても本体としてのボディ。このボディをいかに構築し、聴衆に共感をもって聞いてもらうかがスピーチのカギであり、そのボディを構成し、原稿として書き上げるための方法論がくわしく解説されています。

クロージングが重要なのは営業活動でも同じですが、聞いたあとも余韻として残るスピーチは「締め」が重要ですね。本書でも徹底分析されていますが、ジョブズのスタンフォード大学の卒業式スピーチで有名になった「Stay hungry, stay foolish !」(ハングリーであれ、バカであれ!)という締めのフレーズ。これは、ジョブズ自身が考えたオリジナルではないのにかかわらず、すでにジョブズの遺訓として長く語り伝えられていくことでしょう。

オープニング・ボディ・クロージングというスピーチの三段階構造は、スピーチにかぎらず、まとまった内容の話をしたり書いたりする際にも重要です。ちょっとした文章を書いたり、ブログの文章を書く際にも応用できるものです。日本の国語教育で強調されてきた起承転結はこのい際、アタマのなかから完全に消し去ってしまいましょう。ビジネスのスピーチには起承転結は不要です。「転」抜きの起承結でよいのです。

情報収集や知識を獲得するインプットはもちろん大事ですが、ビジネスパーソンには、なによりも書いたりしゃべったりするアウトプットが重要です。そして、しゃべるためには論理的に書くことが大事だという、きわめてオーソドックスでかつ真っ当な主張に基づいた「教科書」になっています。

ビジネスパーソンに限らず、ぜひテキストとしてつかってほしい一冊として推奨します。


<初出情報>

■bk1書評「実践的なスピーチの教科書。よいスピーチは事前の準備がカギである!」投稿掲載(2012年4月23日)
■amazon書評「実践的なスピーチの教科書。よいスピーチは事前の準備がカギである!」投稿掲載(2012年4月23日)





目 次

プロローグ スティーブ・ジョブズのスピーチは、なぜ人々の心を打つのか
Part 1.  スピーチの核をつくる
-1章 相手を知る-どんな場で、聴衆は何を期待しているか
-2章 メッセージを絞る-最も伝えたいことを明確にする
Part 2. 話を効果的に組み立てる
-3章 全体構成とボディ-伝わりやすい構造、順番を考える
-4章 オープニング-導入部で聴衆の注意を引きつける
-5章 クロージング-記憶に残る終わりかた
Part 3.  原稿づくり、リハーサル、そして本番!
-1章 リハーサル-原稿づくりから前日の準備まで
デリバリー-壇上での立ち振る舞いから質疑応答まで)
エピローグ スピーチライターの仕事

著者プロフィール

佐々木繁範(ささき・しげのり)

1963年福岡県北九州市生まれ。1987年に同志社大学経済学部を卒業後、日本興業銀行に入行。1990年にソニー株式会社に入社。盛田昭夫会長の直属スタッフとして企業外交を補佐、その間にスピーチ・ライティングを学ぶ。1995年から97年までハーバード・ケネディ・スクールに留学、公共経営学修士号を取得。帰国後、2001年まで出井伸之社長の戦略スタッフ兼スピーチ・ライターを務める。ソニーでは計100本以上のスピーチ・サポートを手がけるとともに、IT戦略会議の議長補佐として、IT国家戦略の策定にも携わる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

スピーチが難しいのは、聞く側からみれば耳から入る話はシークエンシャルであることだ。シークエンシャルとは、時間的に連続しており、テープのように巻き戻しができない不可逆的な構造をもっているということである。

もちろん、スピーチの最中で、聴衆(オーディエンス)の反応をみながら軌道修正することはあるので、まったくインタラクティブではないとは言い切れない。しかし、基本はボディの構成と内容がしっかりと構築されていないと、軌道修正やアドリブは難しいということである。テレビのお笑い番組も、じつは放送台本が作製されて、綿密に構成されているのと同じである。

本書でとくに強調されているのが、スピーチは入念に準備せよという点である。スピーチ原稿をフルテキストまで書くことが望ましいとある。自分で苦しみながら考えて書いた原稿があれば、おのずとアタマのなかに入っているので本番では原稿に頼らずにしゃべることができるし、準備した原稿はいざというときに頼りになるだけでなく、精神的にもお守りにもなるというのは大いに納得だ。

そういう意味で、本書はスピーチだけでなく、文章を書く際にも役にたつ本だと思う次第。

お笑いのたとえではないが、「つかみ」と「落ち」は不可欠。そしてもちろん話の中身(ボディ)は言うまでもなく重要!

なお、本書の著者・佐々木繁範さんとは、出版後に一度お会いして、わたしとは同じ世代で、同じような経歴と価値観の持ち主であることを確認させていただきました。


<関連サイト>

【書籍拝見】スティーブ・ジョブズのスピーチは、なぜ人々の心を打つのか 『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』第1回 (ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー 2013年12月25日)
『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』第2回 (2013年12月26日)
『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』第3回 (2013年12月27日)


 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号
http://courrier.jp/contents/courrier108.html

佐々木繁範氏が、2020年のオリンピック招致における高円宮妃久子さまのスピーチについて専門家の立場から解説しているので、目を通していただければ幸いだ。書評 『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書-感動をつくる7つのプロセス-』(佐々木繁範、ダイヤモンド社、2012)-よいスピーチは事前の準備がカギ! も参照。



<ブログ内関連記事>

書評 『私が「白熱教室」で学んだこと-ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで-』(石角友愛、阪急コミュニケーションズ、2012)-「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそ重要だ!

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書評 『小泉進次郎の話す力』(佐藤綾子、幻冬舎、2010)




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