人事管理の世界に「ダイバーシティ」というコトバがあります。
ダイバーシティ(diversity)とは、文字通りの意味は「多様性」ということですが、マネジメント用語では、異なるバックグラウンドをもった多様な人材をマネジメントするという意味になります。
日本においては、これはなによりも女性ビジネスパーソンの活用となります。
なぜなら、人口減少傾向にある日本では、女性といういまだ十分に活用されていない人材を活用することは、外国人の活用よりも重要性がはるかに高いからです。
思ったように人が採用できない中堅中小企業では、まさに喫緊(きっきん)の課題だといえましょう。
著者は外資系でキャリアをつみ、最後はマイクロソフトの日本法人で営業部長をつとめた人です。
本書は、著者が部下として、また上司として女性を育成してきた経験をもとに書かれた、きわめて実践的な内容の一冊です。
外資系企業は、かつては日本では思ったように採用活動ができなかったことから、かなり以前から積極的に女性を採用し実績を出してきたことは比較的よく知られていることだと思います。
そんな外資系企業でも、まだまだ男性中心社会で苦労も多かったのだとか。しかも、自分が女性であっても、女性の部下を育成することはチャレンジであったとのこと。そんな著者が書いた「教科書」ですから、ひじょうに説得力があります。
わたし自身も、前職の中小企業時代は全社員の2/3が女性という職場を、ナンバー2の取締役として女性の戦力化につとめてきた経験があるので、ひじょうに興味深く、いちいちうなづいて「共感」しながら読み進めることができました。
ここでカッコ書きにした「共感」。これこそまさにキーワードです。女性が男性よりもすぐれているのは、まさにこの点なのです。そして「観察」。女性の観察力が、一般に男性よりも高いことは、みなさんも実感されていることだと思います。職場でマイノリティ(少数派)であることが、さらに観察力を強化していることもあります。
タイトルも内容も、基本的に「女性ビジネスパーソンの育成」という観点から書かれたものですが、一貫している大きなテーマは「価値観の異なる人材をいかに戦力化するか」というものです。
ですから「草食系」と揶揄されることの多い若い世代の男子はもちろん、価値観の異なる外国人社員のマネジメントまで視野に入れることが可能になってきます。
かつての高度成長期のモーレツ社員によく似た中国人やインド人とはまったく異なり、東南アジアの現地法人で働く従業員も、ある意味では「草食系の日本人」とは似たような存在であると、わたしは自分の体験からそう考えています。
キーワードは、ダイバーシティとインクルージョン。ダイバーシティは先にも説明したように「多様性」。インクルージョン(inclusion)とは、巻き込むこと。多様性のある人材をチームとして巻き込んで結果を出していくことこそ、これからのマネジメントに求められている課題なのです。
制度をいじる前にマネージャーが取り組むべき課題があると指摘して、具体的な方法まで書かれたこの「教科書」は、マネージャーのみなさんや経営者のみなさんにはぜひおすすめいたします。
目 次
はじめに 今いるメンバーで成果を最大化するために
Step 1 上司の「5大お悩み」と部下たちの本音
Step 2 自立したビジネスパーソンに変わる5つの意識改革
Step 3 これだけは言ってはいけない8つの言葉&伝えるべき8つの言葉
Step 4 やる気を育てる上司になるための5か条と具体策
Step 5 戦力最大化のネクストステップマネジャーとして育てるために
おわりに きたるべきダイバーシティ&インクルージョン時代に向けて
著者プロフィール
田島弓子(たじま・ゆみこ)
ブラマンテ株式会社代表取締役。成蹊大学文学部卒。日本人材マネジメント協会会員。IT業界専門の展示会主催会社などにてマーケティングマネジャーを務めた後、1999年にマイクロソフト日本法人に転職。約8年間の在籍中、Windows2000、Windows XP、Windows Vista など Windows の営業およびマーケティングに一貫して従事。当時、営業・マーケティング部門では数少ない女性の営業部長を務める。在籍中、個人および自身が部長を務めた営業グループでプレジデント・アワードを2回受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
女子社員マネジメントの教科書 第1回何を考えているかわからない!?女子社員という「謎」の生き物 http://diamond.jp/articles/-/23540
女性が得意なのが「共感」力と「観察」力であることが本書で指摘されていますが、後者の「観察」力の鍛え方については、拙著 『人生を変えるアタマの引き出し』の第2章をご参照いただきたい。
<ブログ内関連記事>
書評 『ビジネススキル・イノベーション-時間×思考×直感 67のパワフルな技術-』(横田尚哉、プレジデント社、2012)-ビジネススキルは流行を追っかけるのではなく、本質をおさえてイノベートせよ!
・・個人スキルのなかには、チームをマネジメントするスキルも含まれる
「インテグリティ」(integrity)について考える-「ダブルスタンダード」の反対語として
・・上に立つひとは首尾一貫した言動は絶対に行わなければなりません
(2012年7月3日発売の拙著です)
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