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2013年12月16日月曜日

書評 『代官山 オトナ TSUTAYA 計画』(増田宗昭、復刊ドットコム、2011)-「リアル店舗」における「レコメンド」の意味について考える


2011年に誕生した代官山蔦谷書店。書籍・CD・DVDという商材を売るのではなくライフスタイルを売るのがそのコンセプト。現時点でのカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の総集編といった位置づけのようです。

わたしも一度いってみましたが、緑豊かな敷地に低層階の建物が並ぶ4000坪の新型商業施設は、これまでのTSUTAYAのイメージが完全に崩されます。

代官山蔦谷書店は、CCCが「プレミアエイジ」と呼ぶ50歳以上の大人たちがメインターゲット。

世代的には「プレミア世代」ではありませんが、書籍・CD・DVDというこの3つパッケージ化されたコンテンツがなければ生きていけないわたしのような人間にとっては大いに関心のある存在でです。代官山の近くに住んでいないのが残念です。

CCC会長で本書の著者・増田宗昭氏は、「TSUTAYAは企画会社」であると述べています。そして、「企画とは情報の組み合わせ」である、と。

こう聞かされると、企画の本質とイノベーションの本質は同じであることがわかりますね。

イノベーションは既存の情報の並べ替えによる組み合わせ。そのキッカケとなるのは、既知の情報ではない未知の情報が触媒となるときです。

インターネット時代にはすでに情報編集がフラット化し、専門家の占有ではなくなっています。既知の情報はいくらでも検索によってネット空間から引っ張りだせるわけです。その結果、顧客の側は当然のことながら、フリーかどうかにはかかわりなく顧客はすぐに見破ってしまう。

顧客にとっての未知の情報とは、情報そのものよりも、情報の組み合わせの仕方や見せ方といったものになるでしょう。

(代官山蔦屋書店 筆者撮影)

「企画は店舗として、建築物として可視化する」というのが増田氏のポリシーですが、店頭における情報の組み合わせの仕方や見せ方は「レコメンド」(推奨)となります。

あるいはネット的な表現をつかえば「キュレーション」となるでしょう。アナログに近い発想なら「コンシエルジュ」に近いかもしれませんが、まずは店舗の側が「見せる」ということが前提になりますね。

販売する側にとって必要なのは、商品であるコンテンツに対するリスペクトだという増田氏の指摘はきわめて重要です。

商品に対する愛情あるいはリスペクトがあることによって、情報をもっている顧客とのあいだに共通の基盤が成立し、コミュニケーションも成立するのです。そのコミュニケーションの一部として金銭を媒介とした売り買いも発生すると考えるべきなのでしょう。

アマゾンなどのネット書店における機械による「レコメンド」機能との差別化をいかに図るか、アナロぐのリアル店舗の可能性について考えるヒントにもなる内容の本です。

ただ、2013年時点で読むとすれば、フェイスブックなど友人関係を媒介とした人力(じんりき)による「レコメンド」とどう差別化を図るかという課題も生まれています。

もちろん、ネットとリアルのインタラクション(相互作用)について仮説検証を繰り返していくことは当然ですね。

抽象的な思考や哲学をベースにした企画を具体的な店舗として可視化するという姿勢。本書から得ることのできる発想がいろいろあると思います。





目 次

はじめに 企画の羅針盤
第1部 "プレミアエイジ" という可能性
 第1章 "世界初" を目指してはならない!
 第2章 顧客の皮膚感覚との距離
 第3章 "顧客価値" の鏡像関係
 第4章 "大人を変える大人" の誕生
 第5章 人がポジティブになれる場所
 第6章 "モノ" と "コト" のベクトル
 対談 糸井重里×増田宗昭 「プレミアエイジの楽園」
第2部 コミュニケーションの力学
 第7章 オンとオフの溶解がもたらすもの
 第8章 代官山と軽井沢という森の磁場
 第9章 "編集権" が移行する時代 
  第10章 リコメンド進化論
 第11章 コンテンツは有料か無料か?
 第12章 オンラインは体温を持てるか?
 対談 飯野賢治×増田宗昭 「コミュニケーションの価値と質」
第3部 "森の中の図書館" を抱く街
 第13章 建築とはすなわちメディアである
 第14章 代官「山」と渋「谷」の位相
 第15章 旧山手通りのテロワール
 第16章 TV局所在地と視聴率の意外な相関
 第17章 "森の中の図書館" を流れる時間
 第18章 「観られない映画はない」へのロードマップ
 第19章 4000坪のカフェで起きるドラマ
 第20章 出発点と到達点をつなぐもの
 対談 クライン ダイサム アーキテクツ×増田宗昭 「シンプルで強いメッセージ」
おわりに 螺旋の行程


著者プロフィール

増田宗昭(ますだ・むねあき)
1951年1月20日生まれ。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社代表取締役CEO・最高経営責任者。




<関連サイト>

代官山T-SITE (代官山蔦谷書店)

僕がいっさい図面を見ないから、代官山 蔦屋書店ができた カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役社長・増田宗昭さん(1) (川島 蓉子 日経ビジネスオナイン、2013年9月6日)



<ブログ内関連記事>

キュレーション (きょうのコトバ)

書評 『わたしはコンシェルジュ-けっして NO とは言えない職業-』(阿部 佳、講談社文庫、2010 単行本初版 2001)-「コンシェルジュ」という「ホスピタリティ」の仕事と「サービス」の違いとは?

書評 『知的唯仏論-マンガから知の最前線まで ブッダの思想を現代に問う-』(宮崎哲弥・呉智英 、サンガ、2012)-内側と外側から「仏教」のあり方を論じる中身の濃い対談
・・代官山蔦谷書店で行われた出版記念トークショーに参加(2012年11月23日)

書評 『アースダイバー』(中沢新一、講談社、2005)-東京という土地の歴史を縄文時代からの堆積として重層的に読み解く試み
・・「第14章 代官「山」と渋「谷」の位相」で、『アースダイバー』にインスパイアされたことが語られている




(2012年7月3日発売の拙著です 電子書籍版も発売中!)





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