2012年9月、かつてないほど大規模な反日デモが、暴動と略奪に至ったことは、TV報道の映像をつうじて、みなさまの脳裏に刻まれたことでしょう。
しかし、反日デモと暴動は、けっして今回が初めてではありません。いわゆる「尖閣事件」が発生した2008年、その3年前の2005年にも反日デモの嵐が吹き荒れています。
冒頭に写真を掲載したのは、『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!』(三橋貴明、ワック、2010)という本。ネット出身の経済評論家が書いたものです。2年前の「尖閣事件」のすぐあとに出版されたもので、わたしはすぐに読みました。
マクロ経済的なことは、この本に書かれているとおりです。日本経済が中国に依存しているという説には根拠はありません。日本はもともと「内需中心型経済」なのです。
もちろん、個別企業や個人のレベルでは、たいへん困難な状況に立たされている方も少なくないと思いますが、そういったミクロの状況はべつにして、大勢としては対中輸出は日本のGDPの3%程度に過ぎません。
しかも、2010年で大騒ぎしたレアメタル問題ですが、経済アナリストが分析しているように、この2年間で大幅に状況は変化しており、大きな心配をする必要はなさそうです。
中国が、経済問題でカードを切ってくる恐れはないので、「尖閣問題」にかんしては、日本政府は堂々と、しかも粛々と原理原則に基づく主張を粘り強く繰り返していけばいいわけです。
本書の「長いエピローグ」で紹介されている「中国民事訴訟法231条の異常性」は、かならず目をとおしておきたいものです。出国停止されて財産を巻き上げられた日本人経営者の体験談が語られています。
中国に多額な投資をした企業や個人は、なかなか中国からの足抜けは難しいでしょうが、いまや「脱中国」の方向に舵を切るべきではないかと、わたしはは考えております。中国市場そのものを捨てる必要はありませんが、かかわり方にはいろんな方法があることは言うまでもありません。わたしは以前から一貫してこう考えてきました。
もちろん、個人や企業のリスクにおいて中国でビジネスを行うことには、なんら反対いたしません。そもそもリスクがあるからリターンがあるのであり、投資というものは、あくまでも自己責任で行うものですから。
しかし、中国の方向性がますます不透明になってきたことは否定できません。中国においては、政治と経済が日本以上に密接にからみあっているからです。リスクと不確実性は完全に別個のものとして取り扱うというのは、投資におけるもっとも重要な考えです。
ビジネスパーソンは、合理的にリスクを計算したうえで、あくまでもビジネスライクに行動を!
目 次
プロローグ レア・アースの神話
第1章 中国との貿易がゼロになると、どれくらい困るのか?
第2章 国民を置き去りにした経済成長の欠陥
第3章 輸出に頼らざるを得ないゆえの限界
第4章 不動産バブルのジレンマ
第5章 中国は先進国になれない
長いエピローグ 体験者が語るチャイナリスク
著者プロフィール
三橋貴明(みつはし・たかあき)
株式会社三橋貴明事務所・代表取締役社長、経済評論家、中小企業診断士。1969年熊本県生まれ。東京都立大学(現・首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業、NEC、日本IBMなどに勤務ののち、2008年、中小企業診断士として独立。2007年、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」で、韓国経済の脆弱さを暴き大きな反響を呼ぶ。ネットから論壇デビューをはたした異色の経済評論家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
撤退ができない… 中国進出・日系企業の苦悩(「NHK クローズアップ現代」 2012年10月2日放送)
・・「脱・中国」とはいっても、思い立ったらすぐにできるものではない。「いざ撤退となると、労働者からは多額の退職金を要求され、税務当局からは優遇されてきた税金を過去に遡って追徴課税されかねない。最悪の場合、多額の借金のために日本の本社も倒産するケースさえ出始めている」。動画あり(9分10秒)。
中华人民共和国民事诉讼法(2007年10月28日)
第二百三十一条 被执行人不履行法律文书确定的义务的,人民法院可以对其采取或者通知有关单位协助采取限制出境,在征信系统记录、通过媒体公布不履行义务信息以及法律规定的其他措施。
以下は、『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!』に収録された日本語の訳文とその解釈。
「中国民事訴訟法231条」
被執行人は法律文書に定めた義務を履行しない場合、人民法院は出国制限をし、或いは関係部門に通達をして出国制限を協力要請をすることができる。
司法解釈規定
出国制限される者の具体的範囲としては、被執行人が法人或いはその他の組織であった場合、法定代表人、主要な責任者のみならず、財務担当者等債務の履行に直接責任を負う者も含む。
日本政府は、アメリカ政府とは違って、とくに中小企業の訴えには耳をかさない。残念ながらこれが現実だ。アメリカのローファーム(法律事務所)は、たとえば以下のようなアドバイスを顧客企業に与えている。How Not To Get Kidnapped In China, Part 2. Resolve Your Debt Problems Before You Go.(中国で誘拐されない方法 パート2:まずは債務問題の解決を行うこと)
<ブログ内関連記事>
書評 『ジパング再来-大恐慌に一人勝ちする日本-』(三橋貴明、講談社、2009)
書評 『日本のグランドデザイン-世界一の潜在経済力を富に変える4つのステップ-』(三橋貴明、講談社、2010)
シンポジウム「これからの日中関係」(GRIPS主催 2012年9月27日)に参加してきた-対話のチャネルはいくらでもあったほうがいいのは日中関係もまた同じ
書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)・・ただし、この本が出版されてから以降の中国は大きく変化している
書評 『未曾有と想定外-東日本大震災に学ぶ-』 (畑村洋太郎、講談社現代新書、2011)
(amazon で 2012年7月3日発売の拙著です)
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