米国社会、特にビジネス社会でコミュニケーションがいかに必須のスキルであることか!
このことについては、わたしが拙いコトバを書きつらねるよりも、作家・片岡義男のエッセイ「人生に成功したければ、言葉を勉強したまえ」 からの引用に語らせた方がいいでしょう。
「人生に成功をおさめるためにぜったいに欠かせない最大の条件は言葉に習熟することだ、という伝統的な考え方が、アメリカにはある。この考え方は、いまでもつづいている。
たとえば、ハーバード大学のビジネス・スクール(経営大学院)を出た人というと、アメリカではエリートになる可能性がもっとも高い人たちのうちに入るのだが、ハーバード・ビジネス・スクールで学んだことがあなたにあたえたさまざまな影響のなかで、最大のそしてもっとも大切なものはなにだと思うかと、友人たちにきいてみると、ほぼ全員が、『自分の考えていることを他人にむかって明晰に表現する能力の基礎をしっかりと身につけたことだ』とこたえてくれる。
ハーバード・ビジネススクールにかぎらず、東部の名門でしっかりと猛勉強をしてきたアメリカ人の友人たちも、大学の勉強ぜんたいをとおして自分が得た最大のものは、言葉を使う能力を高度に身につけ、大学を出てからもずっと勉強をつづけていくための強固な土台をそれによって自分のものにしたことだ、とこたえてくれる。
出世したり成功をおさめたり、トップにたつエリートになったりしたければ、アメリカで生きる場合まず最初にやらなくてはいけないのは、言葉の勉強なのだ。
いろんな分野でトップの位置にある人たち、あるいはトップにむけて確実にのぼっていきつつある人たちと知り合ってまず最初にぼくが関心するのは、自分の考えていることを外にむけて表現するときの言語使用能力の次元がきわめて高くて深く、しかもそのことの基礎が非常にちゃんとしているということだ。
アメリカはたいへんな階層社会だが、トップに近ければ近いほど言語使用能力が高度な次元のものになっていく。そして、主として街角で知り合う低い階層の人たちは、気の毒になってしまうほどに幼稚な、次元の低い言語能力しか持ってないことが、すぐに、そして、はっきりと、わかる。
中間的な階層の人たち、あるいは中の下くらいの階層の人たちのなかには、もっと上へのぼっていきたいのになかなかのぼっていけず、鬱屈した思いを自分の内部にじっと閉じこめているような人たちが多いが、彼らも、これでは上昇はまず無理だなと思えるような言葉の使い方をしている。
アメリカ社会はいろんな文化からの移民で構成されている。ことなった歴史や文化の背景をもった人たちを自分の国のなかに受け入れることに関して、一般的に言ってアメリカは非常に寛容的だが、言葉の使い方の習熟度を高めないことには、アメリカのほんとうの内部には絶対に入っていけない。英語が話せなくてもアメリカ市民として一生食っていくことはできるけれども、それはただ単にそれだけのことであり、アメリカの核心に接近することはできない。・・以下略・・
(出典)「人生に成功したければ、言葉を勉強したまえ」(片岡義男)in 『ブックストアで待ち合わせ』(新潮文庫、1987 単行本初版 1983)
「自分の考えていることを他人にむかって明晰に表現する能力」、まさにこれだといってよいでしょう!
アメリカのビジネス社会でコミュニケーション能力が特に重視されるのは、上記の理由によるのです。コミュニケーション能力には、話す能力と書く能力の双方が含まれる。前者はプレゼンテーション、後者は論文だけでなく社内メモ、レターなどが含まれます。
なお、この文章の初出は雑誌『ポパイ』に連載されたものだと「文庫本のためのあとがき」にあります。アメリカの本について語ったエッセイです。
現在からみれば、まだまだアメリカ文明が輝いていた頃の文章だが、ここに書かれていることは、40年ちかくたった現在でもまったく色あせていないといってよいでしょう。
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